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小さな旅の始まり

 城の外にある庭園を走り物陰に隠れて兵たちをやり過ごしていく二人は、薔薇が巻きついたゲートの影に隠れつつ、剣を持ち周囲を警戒する二人の兵を見つめる。


「このまま行くとあの人たちに見つかってしまいますね」


「すまない……俺が動ければ」


「出来ないことを悲観しても仕方ありません。それなら出来ることを考える方が気持ちが前向きになれます」


 そう言ってフローラは自分の掌を見つめる。


「上手くいくといいんですけど」


 フローラは地面に手を付けると、慎重に魔力を地面に込め最後に人差し指を地面に僅かに沈めて離す。

 フローラの人差し指には赤く光る糸がついており、引っ張ると糸は伸びていく。


「ここまでは上手くいきました。離れましょう」


 フローラが何をしているのか理解できていないブリューゼは促されるままその場を離れる。


 先ほどの場所から離れた場所に身を潜めるフローラが引っ張ってきた赤い糸を人差し指に絡めてピンっと張った糸を親指で弾く。

 赤い糸は小さな赤い光を灯しながら、まるで導火線を伝うように糸の上を伝っていくとやがて最初にいた場所へとたどり着く。


 次の瞬間凄まじい爆発音と共に火柱が上がり薔薇のゲートはもちろんその周辺が吹き飛んでしまう。


「あぁ……やり過ぎてしまいました。気を引くだけでよかったんですけど」


 威力はもちろんだが、魔法を離れた場所から自分の意志で起爆させる技術に目を丸くして驚くブリューゼの横では、自身が使った魔法の威力が強すぎたことに驚くフローラの姿があった。


 意図せず大規模な爆発を起こしてしまったが、フローラの目的通り兵たちが集まり周囲の警備が薄くなる。その隙を逃さずにフローラたちは物陰に隠れながら進むと蓋がされているもう使われていない様子の古い井戸へとたどり着く。


「ここは?」


 周囲を見渡して警戒するフローラにブリューゼが声をかけると、古井戸の周囲を探り僅かに凹んだ部分を手で押す。

 更に凹んだ石を押したまま右に回すとカチッと何かが外れる音が古井戸から聞こえてくる。


「王族が城の外へ逃げるための隠し通路です」


 そう言って古井戸を覆う蓋を開けると、壁に埋め込まれ下へと伸びる鉄の梯子を指さす。


「フラムはこんなところまで遊びに行っていたみたいです。狭い部屋に閉じ込めて申し訳ないって思っていましたけどすごく楽しんでたみたいで……」


 話しながら涙でぼやけてきた視界に気付いたフローラが涙を拭う。


「ある日突然現れたフラムは俺の話し相手に、そしてヴィーゼの命を届けてくれ俺の命を長らえさせてくれた。あの子がいなければ俺はこうしてここに立ていない」


「そうですか。いたずらばっかりする子だったんですけど、私の知らないところで役に立っていたんですね」


 涙を拭いながら笑ってみせたフローラは古井戸を見る。


「私の方こそフラムのこと詳しく聞かせて下さい。だから今は逃げましょう。えっと、降りれますか?」


「大丈夫だ。問題ない」


 フローラが傷だらけのブリューゼを心配するとブリューゼは微笑みながら応える。微笑みを向けられたフローラもまた微笑みを返し、二人は古井戸の底へと降りていく。


 明かりもなく真っ暗でジメジメとした暗闇の中を歩く二人は歩みこそ遅いが、凹凸に捕らわれることなく歩く。


 僅かにある光を反射し青く光る瞳で隣を歩くフローラを見たブリューゼは、フローラの瞳がほんのりと赤く光っていることに気付く。


「もう少しで出口に着くはずです」


 ほんのりと赤い光を宿した瞳を向けて言ったフローラが指さす方に、小さな光があるのを見て目元を緩めたブリューゼは小さく頷く。


 光に向かって歩きやがて現れた岩肌をフローラが探り仕掛けを解くと、横にスライドしてできた隙間を通って洞窟へと出る。


 入り組んだ洞窟を歩き最後に蔦のカーテンをかき分け外へと出る。夜けども洞窟よりも明るい場所に出た二人は、月をしかめっ面で見上げて全身に月明かりを浴びる。


「ひとまず追手はいなそうですね」


「ああ」


 短い言葉を交わして二人は、しばらく沈黙のまま視線も合わせずに別の方を見つめる。


「これからどうしよう……」


 フローラの小さな呟きに反応したブリューゼの狼の耳がピクっと動く。


「俺は自分の村へ帰ってみようと思う。随分と時は経ってしまったがどうなったか気になる。良ければ君も……」


「今の私は追われる身ですから家族が心配です。だからまずは実家へ帰ってみたいと思います。ブリューゼさんはこのまま帰ってください」


「あっ、いや……」


 行く宛がないのなら一緒に自分の故郷に行かないかと誘ったつもりが、聞こえていなかったフローラに一人で帰るように提案されたブリューゼの尻尾はしおれて力なく垂れてしまう。


「それなら俺も君の村へ行こう」


「私の村の周囲は伝染病が流行っているそうですから近づかない方がいいです」


 今度はフローラの村へついて行くと提案したがやんわりと断られてしまい、そのまま歩きだしたフローラの背をブリューゼは見送るが、歯ぎしりをしてすぐに追いかける。


 横に並んだブリューゼをフローラは横目で見る。


「どうしたんですか?」


「ここがどこか分からない。故郷に帰るためにも今どこにいるかを把握したい。それに」


「それに?」


「まだ城から逃がしてくれた礼もしていないし、妹の話もフラムの話も聞いてないからもう少し付き合う」


 ブリューゼの言葉をじっと見つめ黙って聞いていたフローラが口元を指で押えて何やら思考する。


「なるほど、話を聞くって約束でしたものね。一緒に来てくれるのは嬉しいですけど魔族の姿は目立ちますよね……」


 そう言ってフローラはブリューゼをじっくりと観察する。


 ***


「これでバレないのか?」


「普通にバレると思いますけど」


 森を抜けた先にあった小さな村でフローラが交渉し、手に入れた大きな布を頭から被ったブリューゼが向き合い言葉を交わす。


「それじゃ意味がないのでは?」


「どのみちお尋ね者ですから町の中に堂々と入っていけませんし、森を歩いているときぱっと見が魔族だと分からなければ大丈夫ですよ」


「う、うむぅ確かにそうだが。まあ人間界の方に関しては俺が詳しくないし任せる」


「人間だからと言って、人間界に詳しいわけではないんですけど任されました」


 笑顔で応えるフローラを直視できなかったブリューゼが顔を逸らして頷く。


「それとですね、ブリューゼさん。まずは体を洗いましょう」


 突然話が変わってブリューゼは思わずフローラを見る。


「正直臭いますよ」


 人差し指を立てて真剣な表情のフローラに言われて思わず、自分の腕を嗅いで確かめるブリューゼを見てフローラがふっと笑う。


「長い間牢にいたんですから臭うのは仕方ないです。ですからまずは体を洗ってサッパリするのもいいんじゃないかなって思います」


「あ、ああそうだな」


「さっきの村で川がある場所を聞いたので行きましょう」


 そう言って歩き出すフローラの後を追うブリューゼはもう一度自分の腕を嗅いで臭いを確かめる。

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