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レアスキルから始まる私の創生記〜私は私のために生きるので好きなものに囲まれて国を創ります〜  作者: 功野 涼し
人間だった私が魔王となるまでのお話

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逃走

 壁を壊したときの混乱に乗じて逃げるフローラは、足を引きずるブリューゼを気にかけながら進む。


「……こっちです」


 壁の向こう側にあった通路をときどき止まっては確認はするものの、フローラは迷うことなく進む。


「ブリューゼさん」


 目を合わせることなく話しかけてきたフローラに、話しかけられるとは思ってなかったブリューゼは驚いた表情を浮かべる。


「フラムと遊んでくれてありがとうございました。キラキラ光る石をもらってくれてありがとう……」


 言葉に詰まったフローラが下を向いてしまう。それが涙を流しているからだと察したブリューゼは黙ったままフローラの誘導に従い歩く。そのあとに訪れたしばしの沈黙のあと、涙を拭ったフローラが口を開く。


「フラムが集めた石は魔族の慣れ果て。命を散らし残った魔力が結晶化したものなんですね……。弱っていたブリューゼさんに届けて欲しいって」


 そう言いながら牢が左右に並ぶ道を歩いていたフローラがある場所で足を止める。


 フローラが見つめる先にならいブリューゼも視線を移すとそこには洋服とは呼ぶには心許ない布切れを中心にキラキラした石が散らばっていた。


「魔族の慣れ果て……⁉」


 何かに気が付いたブリューゼが鉄格子にすがりつき中を覗き込み、視線を一点に集中し目を大きく見開く。


 布切れの右側、おおよそ右手があったであろう部分に落ちていた小さな石がついたブレスレットを見たブリューゼが鉄格子を握ったまま膝を地面につけて鋭い歯を剥き出しにして込み上げてくるものを堪える。


「ヴィーゼさんは兄であるブリューゼさんが生きていると信じて、もしも自分が果てて結晶になったら届けてほしいとフラムにお願いしていました」


 その様子を見てきたかのように語るフローラをブリューゼが見上げる。


「フラムの記憶が……そう教えてくれました」


 胸元の服を握って辛そうな表情をするフローラを見たブリューゼは、牢の床に落ちているブレスレットを見つめ目を静かにつぶる。


 ブリューゼは鉄格子にすがりながら立つと、もう一度だけ布切れとブレスレットを見つめゆっくりと口を開く。


「妹のこと、フラムのことを詳しく聞きたい。そのためにもここを出ないか?」


 ブリューゼの言葉に黙って頷いたフローラは先頭に立ち歩き始める。

 中にはキラキラと光る石が散っているだけで、声も聞こえない静かな牢獄に挟まれた道を進みやがて行き止まりとなる。


 フローラは焦ることなく壁に手を当てる。


「そこまでよ!」


 鋭い声に顔を向けたフローラとマリアージュの視線がぶつかる。


「自らにドラゴンを合成させる素敵なフローラをみすみす逃がすわけはないじゃない。ちょーっと私の実験に付き合ってよ。いつもみたいにさ!」


「マリアージュさんは何を目指しているんですか?」


「何って好きなことして、私の知識欲を満たすため。それだけよ」


 言葉を交わしながらもマリアージュは自身の掌をフローラたちに向ける。


「初めに教えたよね? 魔法はスキルに依存するって。でも私はさ、色んな魔法が使えるわけ」


 そう言ってマリアージュがウインクすると掌に炎が集まり始める。


「これの意味すること、今のフローラなら分かるよね?」


 マリアージュから炎の球が放たれると同時にフローラ反射的に炎の球を放ち二つの炎が激しくぶつかる。


 薄暗い廊下の中をまばゆい光がはじけ明るく照らす。炎がはじけ火の粉が舞い散るその中を風の刃が走りフローラの足を目掛け飛んでくる。


 何が起きているか理解出来ていないフローラを庇うように前に出たブリューゼが右腕で受け止める。


「あはっ、やっぱり戦い慣れてない。こんな単純な仕掛けも見抜けないなんて弱すぎでしょ」


 腕から血を流し膝をつくブリューゼを青ざめた顔で見るフローラに対してマリアージュは、手を叩いて嬉しそうに笑う。


「研究職も体力が必要なわけ。ついでに戦い慣れしとくと材料集めに有利だし、最低でも逃げる手段は持っておくべきだった教えなかったっけ?」


 城からの脱出を図る者たちとそれを止める者との会話とは思えない、まるで仕事を教えるように話しかけるマリアージュをフローラは信じられないと言った表情で見る。


「逃げてどこへ行くつもり? ましてその手負いの魔族なんかと一緒にさ」


 マリアージュの言葉に腕を押えて苦しそうな表情をするブリューゼを見たフローラは静かに口を開く。


「分かりません。分かりませんけど、ここに私の居場所はもうないのは分かります」


「ふふ~ん、居場所はない? それって負け犬がよく口にする言葉なわけ。居場所は作るもの。勝ち取って得るものよ」


 笑うマリアージュに唇を噛んだフローラの顔には戸惑いの色が濃く浮かんでいる。


「大事な局面で選択もできない。そんなんでどうやって生きていくつもり?」


 答えを出せないフローラを鼻で笑ったマリアージュが、わざとらしく両手を挙げて呆れた素振りを見せるとフローラを指さす。


「自分の居場所とやらを見つけてみなさいよ」


 マリアージュがニヤリと笑うと右手を振り上げ襲いかかてきたブリューゼの手を払い、バランスを崩したブリューゼのわき腹に回し蹴りを決め壁に叩きつける。


「躾の悪い犬とここから逃げてみたら? 出来たらだけど」


 そう言ってフローラの後ろの壁を指さしたマリアージュの意図を読んだフローラは、手に魔力を集めると背後にあった壁を爆破し大きな穴を開ける。


「ブリューゼさん、立てますか?」


「問題ない……」


 よろけながら立ち上がったブリューゼがおぼつかない足でフローラの元へ歩みを進める。

 横に並んだ二人は何もしないマリアージュを見て警戒をするが、当の本人は薄っすらと笑みを浮かべ見つめ返すだけである。


 互いに言葉を交わすことなくフローラとブリューゼは背を向けて穴の中に身を投じる。

 穴の闇に消えていく二人を見たマリアージュが親指を噛んでニヤリと笑う。


「さてさて、私の可愛いフローラちゃんはどんな結果を見せてくれるのかな。城の兵にやられてジ・エンドなんてつまらない結末はやめてよ」


 そう言って踵を返すと自分の来た方から走ってきた兵たちを見る。


「おそ~い! 脱走者は壁に穴を開けて逃げたんだけど~」


「申しわけありません! 追うぞ‼」


「「「はっ!」」」


 マリアージュに怒られ慌てて数人の兵はフローラの開けた穴へと飛び込んで後を追う。

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