表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/40

合成のスキル

 サマトリアがランタンを手に取り牢の中を照らし目を凝らす。睨みつけるブリューゼなど気にせず観察する目はチラッと映った尻尾のようなものを探す。


「衛兵を呼んできましょうか?」


 マリアージュの提案にあごをさすったサマトリアが頷く。


「お願いできるかい? 久しぶりにブリューゼくんの近くに行ってみたいし、いい機会だからね」


「あ、私もブリューゼくんを久しぶりに撫でたりしてじゃれたいです。それじゃあ呼んできますね。あ、ドアは開けておくんで万が一のときは避難をお願いしますね」


 まるで犬猫と遊ぶかのようにテンション高く言ったマリアージュが、ドアを開けたままにして地下の部屋から出て行く。

 マリアージュを見送ったサマトリアが牢の奥で睨むブリューゼを見て鼻で笑うとそのまま壁にかけてある拷問具から大きなノコギリを手に取る。


「覚えているかい? 僕とブリューゼくんが初めて出会ったときに使ったノコギリ。全然切れなくてお互い苦労したよね」


 ニタァ~っと張り付いた笑みを浮かべたサマトリアがノコギリで鉄格子を撫でる。カン、カン、カンと金属音を一定のリズムで刻むとノコギリの刃を鉄格子に当て前後に押し引き始める。


 本来なら鉄格子を切ることのできないノコギリだが、刃は鉄格子の中心まで進みサマトリアの足下には鉄くずが落ちている。


「これが僕の持っているスキル『切断強化』って言って刃物をより鋭利にするんだ」


 自身の持つスキルを説明したサマトリアがニタリと笑みを浮かべる。


「なんで前に君を切ろうとしたとき使わなかったかって顔をしてるね。いいよ教えてあげよう。前の僕はスキルなんて持ってなかった、でもね手に入れたんだよ。くっくっくっくっく」


 サマトリアが愉快そうに笑い始める。


「どうやって手に入れたと思う? もし当てれたら今日のお仕置きは手加減してあげよう。おお〜っとこの年でスキルが発現したとかじゃないからね」


 自身が出したクイズに答えないブリューゼを見てサマトリアはニヤニヤと笑みを浮かべる。


「ブッブー時間切れ。今日は機嫌がいいから特別に教えてあげよう」


 愉快そうに笑いながら自身の右手の袖をまくり上げて腕を露わにする。


「この僕の手には別の人が持っていたスキルが宿っている」


 口が裂けんばかりにニタアァっと笑みを浮かべたサマトリアが睨むブリューゼを愉快そうに見つめる。


「君の頭じゃ分かんないかな。つまりは別人からスキルをもらったんだよ」


「そんなことができるわけないだろう」


「あははっ喋ったね。興味ない態度のフリして気になるんだね。いいよいよ教えてあげよう」


 膝を叩いて喜ぶサマトリアをブリューゼは汚らわしいものを見る目で見るが、当の本人はどこ吹く風でひとしきり笑った後、再び右手を見せて叩く。


「『切断強化』を持っていた人間を僕の右手に『合成』したんだよ」


 サマトリアの言葉に驚いたのはブリューゼよりもフローラである。サマトリアの言う『合成』が自分のスキルと同じ名前であること、そしてなにより自分はそんなことをした記憶がないことが驚きを超えて混乱をもたらす。


 ガンッ‼


 同じ姿勢で隠れていたことに加え驚いたフローラが体を動かしてしまい、机の脚にぶつかり音を鳴らしてしまう。


「ん? 何かいるのかい?」


 サマトリアが振り返ってフローラが隠れている机の方へと向かって歩き始める。ノコギリと手で拍手しながらリズムを刻む音が近づく状況に、青ざめた顔で口を押えて息を殺すが時すでに遅し手を伸ばせば触れられるくらいの距離にサマトリアの足がきてしまう。


 フローラはどうしていいか分からず涙が溜まる目で、机の下を今にも覗き込もうとするサマトリアの動向を見つめることしかできない。


 サマトリアの顔が見えるかと思ったそのとき突然サマトリアのわき腹に赤い物体が突っ込んでくる。

 衝撃によろめいたサマトリアが開いていたドアのドアノブに手をかけなんとかバランスを取る。


「きゅぅーっ!!」


 宙に浮かび小さな翼を必死に羽ばたかせて睨みを利かせるフラムが歯をガチッと鳴らすと小さな炎が歯の隙間から漏れる。


「ドラゴンだと⁉ なぜここにっ」


 驚くサマトリア目がけフラムが小さなドラゴンブレスを吐く。小さく殺傷能力は低いが炎であることは間違いなく、服を燃やすくらいは可能である。

 炎がついた服に慌てるサマトリアに二度目の突進を決めてドアの向こう側へと追いやる。


「きゅーーっ!!」


 フラムがフローラの方を見て声を上げる。それが何を意味するかは完全に理解できていなかったが、気づけばフローラは机の下から飛び出しドアを閉めて自身の体重をかけて押える。


「誰だ!! ここを開けろ!」


 ドアを叩きながら叫ぶサマトリアの声を背にしてどうしていいかは分からないが、開けて自分が見つかることは避けないといけないと叩かれるたびに跳ねるドアを必死に押える。


「きゅ!」


 一緒になってドアを押えてくれるフラムを見たフローラはそのまま下に落ちているノコギリを見つめる。


 大工道具で使うノコギリとは違い本体は武骨で重量感のありそうなそれを見たフローラは足でノコギリを引き寄せる。


「フラム、手伝って」


 フローラが震える足で必死に引き寄せたノコギリを見たフラムが口でくわえると翼をばたつかせて持ち上げる。


 片手で受け取ったフローラがドアを押えたまま反転して、ドアに向き合うと同時にノコギリでドアを押える姿勢を取る。


「一か八か……」


 フローラはノコギリを持ったままドアを押さえた手に集中する。青い光が包む両手をそれぞれノコギリとドアと壁の間に叩きつける。


「合成!」


 今日まで幾度となく繰り返してきた合成のスキルはノコギリとドア、壁を一体化させることに成功する。


 ノコギリが強力な閂となって押えなくても開かなくなったドアを見てほっと安堵のため息をつくフローラだが、すぐに自分の置かれている状況を思い出して両頬を押えて青ざめる。


「おい! 誰だそこにいるのは! 開けろ!」


 変わらず叩かれるドアとサマトリアの声、そして牢の奥でじっと自分を見るブリューゼと目があったフローラは誰に向けるわけでなく小さく頷くと牢の方へと向かって歩き始める。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ