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ダイ4時代 校長先生のお話と担任の先生が倒れるお話

先日投稿したダイ4時代の内容をダイ3時代に移し、削除しました。

こちらは新しいダイ4時代になります。

時刻は午前9時53分。ここはズーケン達の通う、憩川小学校の大体育館。全学年の児童がそれぞれ列を成し、この学校の主が来るのを今か今かと待っていた。これから校長講和があるのだ。だが、児童達からしてみれば、一人の老人が毒にも薬にもならない話を長々とするだけのただただ退屈な時間であった。そんな校長講和がある今日は終業式。そして、明日からは全児童待望の長期休みだ。皆そのこともあってか、館内はいつもより児童達の話し声で溢れていた。

「…今日もいい天気だな」

「うん…」

この会話は3回目だ。五十音順で並んだ列の中で、ペティとヘスペローは丁度前後に座っていた。彼らから離れた位置に座るズーケンは他の児童と話し、レーガリンはただ黙って座っていた。普段二人だけで話すことがあまりない両者にとって、少々気まずい状況だった。ヘスペローは普段自分から話しかけることが少ない為、ペティも何を話したら良いか分から良いか分からずじまいだった。友達なのに会話もせずにずっと黙っているなんて気まずい。そんな考えがあったペティは、校長が来るまでどうにか会話をしようと、ペティは声をかけた。が、結局話題がそれしか思いつかなかった。どうも上手くいかない。グライダーのような皮膚がついた両腕を頭に持っていき、次は何を話したら良いか考えあぐねていると、体育館の入口からキリンのように首が長い竜脚類の老人が姿を現した。

「こらぁ…お前らぁ…静かにしろぉ…」

その姿を目にするなや否や、ワイシャツとズボンといったいかにも真面目そうな服装の、ステノニコサウルスのモトロオが、体育館の隅からすかさず声を上げる。だが、その声はかなり弱々しく誰にも届かない。いつもなら体育館全体に響き渡る程声量があるのだが、今回はそのことに加え、足元も妙におぼつかない。そんなオレンジ色の彼の種ステノニコサウルスは、恐竜の中では映画等で馴染みのあるヴェロキラプトルに似た姿をした恐竜で、かつではトロオドンと呼ばれていた。

「静かにしろったら…静かにしろぉ…」

額を手で押さえながら、誰にも聞こえない声量でモトロオが注意し続ける中、老人はゆっくりと体育館の端を通ってステージへと向かう。茶色のスーツに身を包んだ灰色の彼はこの学校の校長、ケティオサウリスクスのケイティだ。ケティオサウリスクスとは、キリンのように首が長い竜脚類と呼ばれる恐竜の一種である。竜脚類は本来なら四足歩行の恐竜ではあるが、今回は大事な話をする為か二足歩行で歩みを進める。彼はステージ上の祭壇に着くとマイクのスイッチを入れる。

「皆さん、こんにちは」

ケイティが穏やかな声で挨拶すると、児童達、特に低学年の列から一段と大きな声で返事が返ってきた。それに対しケイティは優しい笑顔で頷く。

「今日も皆さん、元気一杯ですね。皆さんの元気な声を聞いていると、僕も元気が出ます。さて、明日からいよいよ待ちに待った長いお休みに入りますね。楽しみにしている子が多いかと思いますが、いつも通り早寝早起きしてご飯を朝昼晩とちゃんと食べて、適度に運動することを心がけてください。そして勿論、楽しい思い出もたくさん作ってください。ただし、宿題の方も忘れずに。量が多くて大変かと思いますが、先に済ませておくと心置きなく遊べるので、なるべく早めに取り組むことをお勧めします」

ケイティは、優しい笑顔で助言とも忠告ともとれるような話を進めるが、児童達から見ればまるで親からお節介を言われているようで、やや退屈気味に聞き流す者が多かった。そんな話の途中、ケイティは児童達からモトロオに視線を移す。モトロオの、目は半開きでどこかけだるそうな様子が少々気になったのだ。

「あと、皆さんに宿題とまでは言いませんが、この休みの間に少し、考えてみてほしいことがあります」

「やや?」

大勢の児童達と目を合わせながら話していくと、次にケイティはズーケンと目を合わせた。

「皆さんにとって、優しさとは、思いやりとはなんだと思いますか?それについて、自分の考えを話してくれる子はいますか?」

校長からの予想外の問いかけに対し、児童達の間にざわめきが走る。

「お、お前らぁ…し、静かに…落ち着けぇ…」

ざわめきに負けじとモトロオも声を張るが、突然の難題を前に戸惑う児童達には全く届かない。

(こりゃ、黙っといた方が無難そうだ…)

突然の難題を前に、答える者は誰もいなかった。己も、沈黙を貫こうとするズーケン。しかし、何故かケイティとずっと目が合っている。不吉な予感。

「じゃあ、指名します。ズーケン君」

「おうふ!」

やっぱり!最初からロックオンされているような気がしたズーケン。変な声が出たせいか、周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる。

「…大丈夫かな?」

ズーケンを指名した校長も少し心配そうだ。だが、こうなっては仕方がない。変な声は出たが、変なことは言わないようにしよう。そんな思いを胸に、ズーケンは渋々立ち上がる。

「え…えー…えーっと…まず…どんな相手だろうと話を聞いてあげたり、無理してる誰かがいたら、力を抜くように言ってあげたり、自分のことより相手のことを優先してあげるとか…その他、諸々です…」

ズーケンは、ルベロやケルベ、そしてダイナ装備達との出会いを通して学んだことを思い出しながら、必死に言葉を絞り出す。周囲からクスクス声が聞こえていたこともあり、顔を真っ赤にし頭を真っ白になってしまったズーケン。そんな彼の考えを、ケイティは微笑んだまま相槌を打ちながら耳を傾けていた。また、担任であるモトロオも意識を朦朧とさせながらも教え子の話を聞こうと必死だった。しかし、内容はほとんど頭に入っていない。

「ありがとうございました。座ってください」

着席を促されたズーケンは即座に座った。しかし、やっと終わったと思ったら今度は周囲の同級生達からのいじりが始まった。こりゃ手に負えん。

「素晴らしい答えですね。僕もその通りだと思います」

「いやはやはやはや…」

嬉しいやら恥ずかしいやら。ズーケンは二本指で頭を掻くものの、彼へのいじりは収まらず。

「少し話は変わりますが、皆さんには、どんなお友達がいますか?僕に皆さんのように色んな友達がいて、僕と同じ様に皆さんのような子供達と関わる仕事をしていたり、ご飯屋さんをしていたり、会社で働いていたり、中には絵本を描く友達もいます。それぞれ頑張っていることは違いますが、皆優しくて温かい、僕の大切な友達です」

ケイティは、己の友人達について語り出す。一見、彼が最初に話した優しさや思いやりとは関係の無いように見えるが、その友人の中の一人にこそ、今回の話と深く関わっていた。

「その中でも、僕が皆さんと同じくらいの頃、僕には凄い友達がいました。その子は、人一倍心優しくて友達もいっぱいいて人気者でもありました。僕や他の友達が悩んだり困っていると、話を聞いてくれたり手を貸してくれたりしました。ある日、彼を誘って山へ遊びに行った時、僕達は山を登る途中、二人揃って足を滑らせて、崖から落ちそうになりました。その時、その友達が咄嗟に僕の腕を掴み、護身用に持っていた短剣、彼のお父さんとお母さんの形見を岩と岩の間に刺して、その場はなんとか落ちるのは免れました。ですがその際、彼の短剣はすぐに折れてしまい、結局僕達は落ちてしまいました」

児童達から小さな悲鳴と、心配の声が上がる。ケイティは当時の自分達も同じような声を上げていたと振り返っていた。

「短剣があったおかげで、僕達はかすり傷で済みました。ただ、彼の両親の形見であるその短剣は折れてしまい、僕は彼に謝りました。僕が山へ誘ったばかりに大怪我しかけた上、僕の為にたった一つの、両親との最後の思い出の品を、僕のせいで壊われてしまったことを…。ですが、彼は明るく笑って許してくれました」

いいっていいって。気にすんなよ。確かに、綺麗に根元から折れちまったけど、元々ボロかったしさ。仕方ないって。それに、もうこの剣で、誰も傷つくことはないんだ。こいつだって最初は人と戦う為に生まれたけど、最後は人を守った。俺達を助けてくれたんだ。お前がいてくれたから、こいつは人を傷つける剣から、人を救う剣になれたんだ。だから、これで良かったんだよ。ありがとな。

「両親の形見が、もう人を傷つけることはない。最後は人を救う剣になれた。そんな考え方が出来る彼に驚かされたのと同時に、僕自身も救われました。僕の友達は皆優しいですが、中でも彼は…特別でした」

彼の言葉とその気持ちと優しさはとても嬉しく、今でも鮮明に覚えている。だが、折れた短剣を見つめる彼の目は一瞬、哀しみを帯びていた。そのことも、忘れられずにいる。

「彼は、みんなに優しかったんです。僕は、そんな彼のようになりたいってずっと憧れていました」

かつて自身が、目の前で並ぶ児童達と同じ少年であった頃を思い出すケイティ。その瞳は、多くの児童達と目を合わせた後、またもやズーケンを捉えていた。

「ただ、今思えばその友達には、ある大事なことが抜けていたのではないか。僕はそう考えています。そしてそれは、これから皆さんに必要になってくる、とても大事なことだと思っています」

「へ?そりゃ一体どういう…」

「それはこの休みの間、皆さんそれぞれで考えてみてください」

ケイティは柔和な笑顔のまま全児童に問いかける。すると、いじりは収まったがたちまち体育館内は児童達の戸惑いの声で満ち始める。また、戸惑ったのは教員達も同じで、一人首を傾げる者や近くの教員と話し合う等、彼らの間にも動揺が走っている真っ最中だった。

「おおい…お前ら静かにぃ…してくれぇ…」

校長講和が始まる前よりざわめき始める児童達。これを収めんと再び、モトロオがか弱く吠えた。児童どころか、自身の耳に入っているかすら怪しい。

「難しいと思いますが、皆さんならきっと自分なりに良い答えが出せると信じています。これで、僕からの話は終わります。それでは皆さん、良い休みを過ごしてください」

騒がしく喋る児童達を他の教員達が注意する中、ケイティが、自身の話を締めくくる。こうして、僅か10分前後の間、全児童達に大きな動揺と難題を与えた校長先生のお話は、幕を閉じたのである。




ズーケン達の通うクラスは今、ケイティからの宿題の話題で持ち越しだった。それはここだけでなく、全学年どこのクラスも同じであった。早速ズーケン達も席が近いこともあって、この難問を解こうと小さな緊急会議が開かれていた。

「なかなかの難題を課せられちゃったねぇ。こりゃある意味一番難しい宿題になりそうだよ」

「しっかし校長の友達に欠けてたものなんて、話を聞いた限りあったとは思えねぇしな」

「でも、校長先生はそれが将来僕達にとって大事なものになってくるって言ってたけど…なんだろう…全然分かんないや」

会議を開いたは良いが、彼らを含めクラス中も全学年も苦戦を強いられていた。また、普段あまり口を開かないヘスペローも、答えは出ないものの今回の話し合いには自然と参加出来た。しかし、その一方でズーケンは、一言も発さず黙り込んだままである。

「ズーケンは?」

レーガリンが尋ねるも、応答はない。

「…ズーケン?ねぇズーケンってば」

「おおう」

レーガリンの、顔の横に生える丸く手入れされた角でツンツンと突かれ、ズーケンは我に返る。

「んもぅ、校長先生の宿題をどうにかしようと皆で考えているのに、君が心ここに在らズーケンじゃどうしようもないよぉ」

「すまんすまん」

少々不名誉なあだ名だが、今回もそう言われても仕方ないと思った。一応、ズーケンもケイティからの課題について考えてはいたが、全く見当もつかなかった。それともう一つ、気になっていたことがあった。校長講和の最中、ケイティとよく目が合っていたことだ。自分が何かしでかしたのではないか…一瞬そう考えたが、流石に心当たりはない。ただの偶然かもしれないが、どうも引っかかる。レーガリン達が見守る中、思考に思考を重ねるも次第に煮詰まり、彼の集中力は減少指向にあった。それに合わせてか、彼の視線も、自然と自身の足元へ向くのであった。

「むむ?」

丁度その時、足元に輪ゴムが落ちていることに気付いた。ズーケンはなんとなくそれを拾い上げると、自身の指にかけてハサミのように動かす。すると一同の視線が、ズーケンの指の中で収縮する輪ゴムに集まる。そこへ、教室のドアがゆっくりと開くと同時に、ズーケン以外のクラスメイト達の視線が一斉にドアへと向けられる。

「お~い…お前らぁ…静かに…しろぉ…」

入ってきたのは、担任のモトロオであった。しかし、その声は誰がどう見てもかなりの疲労を感じさせる程弱々しく、本人の気持ちに反してか細いものだった。

(なんだか今にも倒れそうだけど…大丈夫かな?)

モトロオの様子がいつもと違うことは、誰が見ても一目瞭然だった。ヘスペローを始めとした児童の数名が心配する中、モトロオがいつものように教壇に向かっている時だった。

「あっ」

明らかに様子がおかしいモトロオそっちのけで輪ゴムを弄っていたズーケンの指から、輪ゴムがゴム鉄砲弾のごとく発砲され、モトロオの額に被弾した。

「んぎゃっ!」

被弾した直後、モトロオは酔っ払いのごとくふらつき始め、目と首を上下左右に揺らしながら、教壇に覆いかぶさるようにして倒れ込んだ。

「せ、先生⁉」

「ありゃりゃりゃりゃ…」

自身の懸念が的中し、他の児童達と共に思わず声を上げるヘスペロー。そして、図らずとも自身が己の担任を狙撃したことを把握し、呆然とするズーケンが一言。

「先生が…「きょうだん」に倒れた…」

時には輪ゴムも凶器になることを知った、ズーケンであった。



場所は変わって保健室。モトロオは、教室が大騒ぎになったのを聞きつけた教員達によって、保健室へと搬送された。担任不在の為自習となったクラスから歓声が上がるも、その背景にはモトロオが倒れたことがある為、手放しには喜べない児童も少なからずいた。その代表格でもあるズーケンは、自習が全く手に着かなかった。そんな彼を見かねたレーガリンが誘い、二人は教室を抜け出した。

「ねてるねてる」

すーすーと寝息を立てて眠っているモトロオに、レーガリンは呟く。容態は安定しているようだ。ズーケンは少なくとも、モトロオの命に別状がなかったことに心からほっとした。

「良かったねズーケン。先生はこの通り元気そうだよ。たまには、仕留めそこなってみるもんだねぇ」

「おうふ」

冗談交じりに笑いかける友人にいじられたスナイパーは、思わず両手で右胸を押さえた。そもそも、今のモトロオは、果たして元気だと言えるのだろうか。

「それにしても安らかだねぇ。キスすれば起きるかも」

「キスは食べるに限る」

地球の魚も、何種類かはダイチュウ星にも流通している。

「う…ふぁ~…」

危機を察したのか、熟睡したモトロオが口を大きく開けて目も開ける。

「なんで…ここにいんだ…俺…?」

モトロオは辺りを見渡し、ここが保健室であることを察するも、何故保健室のベッドで眠っていたのかまでは理解出来ずにいた。

「ズーケンに、輪ゴムで狙撃されたんですよ」

「やや⁉ちょまっちょっ⁉」

「輪ゴムぅ…?」

レーガリンは冗談のつもりだが、ズーケンは本気で焦った。あながち間違ってはいない為、強くは否定できないのだ。しかし、そんなズーケンの焦りとは裏腹に、モトロオは全く覚えていない。

「確か…授業しようと思って教室に入って…あ!お前ら、授業はどうした?」

「見ての通りサボったんですよ」

「おおい!堂々とサボるな!」

「す、すいません…」

モトロオは右腕を挙げながら怒り、ズーケンは頭を下げるも、レーガリンは愉快そうに笑う。

「ズーケンが心配そうにしてたので、僕が一緒にお見舞いに来たんですよ」

「あ、そうだったのか…」

事情を知るなやいなや、モトロオは右腕と共に怒りを鎮める。レーガリンにとっては、こういう時の為のズーケンでもある。授業を抜け出したことをズーケンが申し訳なく思う一方、一応言葉に嘘はない為、レーガリンに罪悪感は然程なかった。

「でも、大したことなくて良かったですよ。きっともう2、3日寝てれば良くなりますよ」

「いや家に帰らせろよ!嫁に怒られるだろ!」

担任は恐妻家らしい。レーガリンのイメージ通りだ。恐妻家は、小さく息を吐く。

「まあ多分、疲労と過労が重なっちまったんだろうな。ありがとな。心配してくれて」

「へ?」

また怒られるかと思いきや礼を言われたズーケン。少々驚いたものの、嬉しかったのは間違いなかった。

「けど、もう大丈夫だ。安心しろ。次の時間から、またいつも通り授業をやってやるからな」

「ややや、でも…まだ休んでた方が…」

「心配すんな。教師は、色々やることが多いんだ。これぐらいで寝てらんねぇよ。ほら、教室戻るぞ」

まだ疲れているだろうに…大人は大変なんだ。よいしょ、とベッドから降りるモトロオを目にすると、ふと、ズーケンの脳裏に、両親の顔が浮かび上がった。

「…もっと、頑張らないと」

ズーケンは、少々足取りを重くしながら保健室を出るモトロオと、ズーケンと楽しいひと時を過ごせてるんるんと歩くレーガリンに、考え事をしながらついて行った。




モトロオの病み上がり授業を終えた一行は揃って帰路につこうとしていた。

「見た感じ、モトロオ先生は大したことないみたいだったし、問題はなさそうだね」

「まあ元気そうだけどよ、お前はちょっと問題あるぜ」

体調のことを言っているのだろうが、やはりどうも言い方に問題がある。

「そ、それで、ヘルボイ医院について誰か分かった人…」

冗談だろうが、授業中僅かだが言葉が詰まったり、足取りがぎこちなかったことに気付いていたズーケンから見れば、とても笑えるものではなかった。なので話題を変える意味合いも含めて情報を集ったが、誰も手を挙げなかった。

「レーガリンも知らねぇのか?」

「まあ…うん…」

本当は医者である両親に聞こうとしたが、いつものように多忙な両親を気遣ってしまい、何も言えなかった。ちなみに、ズーケンは普通に聞き忘れてしまった。

「服威軒はケルベ達が行ってくれてるとして、俺達はそれぞれヘルボイ医院のことについて調べるしかねぇな。んじゃ、またな」

結論が出たところで、それぞれの帰路につこうとした時だった。

「…あれ?」

青色の身体の少年が、気をつけの姿勢でうつ伏せに倒れている。

「えっ…⁉」

目の前で、少年が倒れている。その衝撃の事実に驚愕するヘスペロー達。3人が思わず固まってしまう中、ズーケンは真っ先に少年の元に駆け寄り、ひとまずひっくり返す。すると、見覚えのある顔が表れる。

「やや、もしかして…」

「かもね。でも、今は早く病院に連れていかないと」

緊急事態だ。ズーケン達は慌てるも、医者の息子であるレーガリンの対応は至って冷静だった。

「じゃあ僕がおぶって…」

「いや、あんまり動かさない方がいいかも。一旦日陰に移動しよう。で、丁度ウチが近いからそこから担架を持ってきて運ぼう。確か、お祖父ちゃんの部屋に一つ使っていないのがあった筈」

「わ、分かった!」

レーガリンの指示通り、ズーケンは少年の両脇を抱えるように持つと、すぐ近くの木陰へと移動させた。少年をヘスペローとペティに託し、レーガリンと共に担架を求め、彼の実家で診療所であるレガリ医院に走った。


数分後、ズーケンとレーガリンが紫の担架を持って現場へ戻ってきた。不幸中の幸い、学校からレガリ医院までは然程遠くなく、ズーケン達は10分もかからず現場に戻ってくることが出来た。

「来たか!」

「来た!」

無我夢中で先頭を走ってきたズーケンは反射的にペティに返事をし、迅速に担架を下ろす。

「いい?患者を担架に乗せる時は、患者の両脇と両足を持つの」

「ほい!」

「いちにさんで持ち上げて乗せて!」

「「いちにさん!」」

「はい運ぶ!足側の人を前にして!」

「いえっさー!」

「え、ちょっとまっ…今誰が喋って…」

「頭側のあなたは患者の容態を確認しながら運ぶの!急いで!」

「ははーっ!」

戸惑うペティとヘスペローをよそに、謎の声にレクチャーされるまま動くレーガリンとズーケン。二人は少年をレガリ医院に搬送する中、担架搬送の基本を叩き込まれながら一行はレガリ医院に急ぐのだった。

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