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ダイ15時代 それぞれのこれから 今から出来ること

数分後。危険を冒し、ケイティを緊急搬送するズーケン達は、一度病院付近の森林に降り、合体を解除した。そして、4人で残された力全てを振り絞り、ケイティをタタンカに乗せ、病院へ緊急搬送した。道中、空中でケイティを運ぶ彼らの姿は多くの人々に目撃され大騒ぎになったものの、その正体が特定されることはなかった。この出来事は後に、羽つきティラノサウルスとして、都市伝説の一部として語られることになった。ズケンティラヌスとティラノサウルスの違いは、ダイチュウ人でも区別がつく者が少ないのだ。

また、ケイティを搬送したズーケン達もかなり負傷していた為、ケイティと共に緊急入院することになった。それから1時間後、ケルベ達5人も、ボンベエ盆地の騒ぎを聞きつけた市民の通報により緊急搬送された。彼らも、ズーケン達と同様、しばらくは療養生活を送ることとなった。


「それにしても、まさか60年前突然いなくなった君と、またこうして再会出来るなんて…夢にも思わなかったよ。しかも、あのマニヨウジが絡んでいたなんて…」

「しっかし、お前ほんと9歳のままなんだな。本当なら、お前も爺さんだろ?」

「ああ。おそらく、マニヨウジと共に封印された影響だろう…。封印されている間のことは、何一つ覚えていない。だから、マニヨウジが俺から離れた時、まるで、長い眠りから覚めたような感覚だった」

「まーでも、それはそれで良かったじゃねーか。60年も起きてたらぜってー辛いぜ?あんなのも一緒だしさ」

「それが、不幸中の幸い…だったのかもしれん。お前を救えて、本当に良かった」

ケルベロ三兄弟、バウソー、ケイティの3人は同じ病室になった。4人の話題は、当然マニヨウジとの戦いのことだ。因みに、バウソーの身元については本当のことを言う訳にもいかないので、ケイティが咄嗟に記憶喪失になっていると医師に説明し言及を防いだ。

「確かに…60年もの間、マニヨウジと共に眠り続けてきたと思うと…寒気が止まらん…。それに、あの時…マニヨウジ諸共俺をあの世へ送らず封印し、60年後に助け出すことを選んでくれたラミダスと皆には、感謝してもしきれん。お陰で今、俺は救われた。お前達にも、何と礼を言えばいいのか…心から恩に着る…!そして、この恩は必ず、この一生を懸けてでも返す!いや、返してみせる…!」

バウソーは、ベッドに額をつけ、彼の気持ちとしては海よりも深い感謝の気持ちを込め、深く頭を下げた。

「そんな大袈裟にならなくていいって。俺達だって、お前が無事でいてくれただけで十分なんだからさ」

「そうだバウソー。あとはお前さえ元気でいてくれれば、それで十分だ」

「お前達…うおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

命を救ってもらっただけでなく、温かい言葉をかけてくれるケルベとルベロに、言葉と身振り手振りだけでは表現し切れない程感謝、感激、感動し、感涙と共に声が溢れ出した。

「バウソー。君の感謝の気持ちは嬉しいけど…他の患者さんもいるから、あまり大きい声は出さない方がいいよ」

「あ…すまん…」

バウソーが左を向くと、患者の丸く開いた目と目が合う。そして、首を定位置に戻す。恥ずかしさと、気まずさが入り混じった、バウソーの何とも言えない表情に、和やかな笑いと少々苦味を含んだ笑いが生まれた。

「バウソー。60年前、マニヨウジと一緒に封印された君が今、こうして僕や、新しい友人達と笑って過ごせているのは、本当に奇跡だって思えるくらい僕は嬉しいよ。ラ―ケンもきっと、心から喜んでくれているよ。誰よりも君のことを考えて、誰よりも君のことを助けたいって、思っていたはずだからね」

「ラーケン…」

誰が見ても一目瞭然な程落ち込むバウソーを見かねたケイティは、自身の気持ちを織り交ぜながら、バウソーと共に、自分達のことを最も気にかけ、誰よりも心を開くことが出来た、今は亡き親友に思いを馳せた。

「つーか、ズーケンの祖父ちゃんも、マニヨウジのこととかバウソーのこととか、ちゃんと話しときゃ良かったのに。そしたら、ここまで苦労することもなかったかもしんねーしさ」

「お前なぁ…」

「いや、そうかもしれないね」

ケイティとバウソーが、ラーケンに思いを馳せる中、ふと思ったことを口にしたルベロ。兄ケルベは、またかと言わんばかりに呆れるも、ケイティは苦笑いする。あながち、共感出来なくもないようだった。

「僕も正直、本音を言うと、話してほしかったよ。でも、ラ―ケンを責めるつもりはないよ。僕がラ―ケンの立場でも、誰かに打ち明けられたとは思えないし…きっと、ずっと一人で抱えて生きてたかもしれないから。それに、もし仮に話してくれたとしても、僕も、信じてあげられたかどうか分からない…。でも、それでもあの時は、声をかけるべきだったんだ。たとえ信じられなかったとしても、話だけでも聞いてあげられたら、彼の心を、彼が背負っているものを少しでも、軽く出来たかもしれないから…」

ラーケン程、優しさと人を思いやる気持ちに溢れた者はいなかった。ケイティにとっては、まさに親友であり恩人であるような存在だった。彼には何度も助けられていたケイティだったが、その反面、自身はラ―ケンに、何もしてあげることが出来なかった…。そんな思いがあった。今思えば、ラ―ケンがあの日、ボンベエ盆地でマニヨウジと共に眠るバウソーへ、一人誓いを立てたあの時、後に転校することになるケイティにとって、彼の話を聞き、心の苦しみを和らげ、親友への恩返しをする最後のチャンスだったのだ。それを逃してしまった後悔は、生涯残ることになるだろう。

「確かに…俺だったら、言えねぇかもな。話しても信じてくれるとは限らないし、信じてくれたらくれたで、なんか重いもん背負わせちまうような気がするしさ…」

「難しい…」

もし自分がケイティだったら…そう思うと、ケルベやベロンのように、誰もが葛藤するだろう。

「けど、もし友達が抱えてるんだったら、力になれるか分からねぇけど、話だけでも聞いてやりたいって思うぜ」

「だな。やっぱ折角のダチなんだしさ、なんかあったら助けてやんねーとな」

「俺も…そうでありたい」

しかし、ケルベやルベロ、そしてベロンはきっと、自分に出来ることをするのだろう。そんな彼らを見ていると、ケイティはそんな風に思えた。

「それと、マニヨウジと戦っていた時、すごく怖かったけど、やっとラ―ケンの力になれた気がしたんだ…。まあ、ほとんど一方的にやられちゃってたし、最後は結局、君達に助けてもらったけどね」

「だが、あの時あなたが来てくれなかったら、間違いなく俺達は今、ここにはいなかった。あなたにも、俺達は救われていたんだ」

「そーそー。じーさんなのによくやったよ」

「ありがとう。そう言ってくれると、僕も嬉しいよ」

文字通り、老体に鞭を打って打たれながらも、少年達を守る為に戦ったケイティ。不甲斐なさも少なからず感じていたものの、目の前には確かに、自身が守った命がいる。怪我を負いながらも元気に笑う彼らと、その感謝の言葉を聞いていると、なんだか自分のことを誇りに思えた。苦笑い気味だった笑顔も、やがて喜びと安心に満ちた笑みに変わった。

「バウソー。こうして今、君が救われたことで僕も救われたし、きっとラ―ケンも、救われていると思うよ。これからは彼の分まで、失った年月の分だけ、いやそれ以上生きて、君が幸せになればいい」

「そうか…。ラ―ケンも、喜んでくれるといいがな…」

60年ぶりに再会を果たした親友に優しく微笑むケイティだが、その親友であるバウソーの表情は浮かない。

「俺は、あいつに、ラーケンや皆に命を貰ったようなものだ。皆は、俺を助ける為に命を懸けてまで俺を助け出してくれた。しかも、俺の友達になってくれた。その皆の力に、友達の力に、俺はなりたい。今までずっと助けられてばかりだったから、友達になったんだから、俺は友達への恩返しがしたい。この命を、人生を、友達の為に生きたい。だが、助けられてばかりだった俺が、皆の力になれるだろうか…」

「バウソー…」

バウソーは、ズーケン達に、感謝してもしきれない程、一生かかっても返しきれない程の恩を感じていた。義理人情に厚い彼は、これからの人生を全て、親友達に捧げようと考えていたのだ。だが、ケイティは少し複雑だった。そのわけを話そうとした時だった。

「バウソー…。友達ってのは、友達の為に、何かしないといけないのかな」

「え?」

ケイティが口を開く前に、ケルベが、バウソーに問いかけた。

「力になるとか、恩返しとか、そりゃ確かに友達の役に立ちたい気持ちは分かるし、俺だってそうでありたいよ。こいつらにとっても、頼り甲斐のある兄貴でいたいさ。でも、俺にはちょっと難しかったっぽくてさ。俺、結構抜けてるところあるし、むしろ逆に、周りから心配かけてるみたいなんだ」

ケルベは苦笑いしながら弟達に目をやると、二人揃ってうんうんと頷いている。

「けど、それが俺なんだよ。そんな俺を、こいつらは兄貴として、ズーケン達も友達として受け入れてくれた。力になるとか、そんなの関係なしでさ。むしろ、誰かの為にって思っても、上手くいかなくて空回りしちまうこともある。だからお前も、友達だからって別に何かする必要もないし、もっと力を抜いて、友達なら友達としてただ一緒にいてやれば、それでいいんじゃねぇのか?」

「!」

友達は、ただ傍にいるだけでいい。そんなケルベの言葉に、バウソーは己に課した使命で重くなりつつあった心が、一瞬で軽くなったのを感じた。

「そーそー。俺みたいに何にも出来ないどころか、めーわくかけまくってる奴もいるし、そんな奴でも誰かの友達でいられるんだよ。友達でいてくれる奴がいるんだよ。そいつらはきっと、俺が友達でいてくれるだけでじゅーぶんなんだって、思ってくれてんだよ。だから俺、せめてそいつらにだけはめーわくかけねーよーにしよーって決めたんだ。人一倍誰かを困らせちまう俺からしてみれば、恩返しとかどーでもよくて、ただ友達でいてくれるだけで、ありがてーんだよ。だから、お前がいーなら、友達でいてくれよ。なんもしなくていーからさ」

「俺も…変に気を遣われるよりは、楽にしてくれた方がいい。お前が、俺達の力になろうとしてくれる気持ちは嬉しいが、その為にお前が無理するなら、それは…申し訳ない。俺は、俺の友達には、気を遣わないでいてほしい。特にズーケンは、そう思っている筈だ。バウソー…お前は、友達に、どうあってほしいんだ?」

三兄弟それぞれ、自身の友達としての在り方、友達に求めるものがあった。バウソーは今一度、自身に問いかける。

「そうか…。俺は…皆の力になれるような、頼りになる友達でありたいと思っていた。そうじゃないと、みんなに悪いと、友達でいられないんじゃないかって思っていたから…。けど、皆にはそんなこと関係なくて、ただ一緒にいるだけで、それだけでいいんだって思えた…。それに俺も、皆には、これから友達になってくれる誰かには、変に気を遣わせたくないし、恩返しも何もいらない。ただ一緒にいてくれるだけで、俺も十分なんだ。友達でいてくれるだけで、それでいいんだ。ただ、やっぱり俺は皆の力になりたい。でも、なるべく無理はしない。俺が無理すれば、皆に心配かけてしまうかもしれないし、皆に無理させてしまうかもしれない。だから、俺はみんなを大切にしながら、自分のことも大切にすることにするよ」

バウソーは、自身の友達としての在り方、友達に求めるもの、そしてこれからの自分の在り方を、自分なりの答えを見つけ出した。それを語る彼の表情は、先程の使命感に満ちた真剣さはなく、程よく肩の力が抜けたように明るかった。

「バウソー。君の、友達に恩返ししたい気持ち自体は間違っていない。むしろ、それだけ大切に思える人がいて、その気持ちを持てること自体が、とても素敵なことなんだよ。もし、友達が困っていて君が助けたいなら、君が出来そうな時に、出来るだけのことをすればいい。そもそも、君のことだから、友達であってもなくても、困っているなら誰でも助けようとするんだろうけどね」

「ま、まあ…」

自身のことはお見通しな、ケイティからの温かい励ましに、バウソーはやや照れながらも、有難く受け取った。

「でも、それが君の良さでもあるんだ。人のことを考えられる君だからこそ、それと同じくらい、自分のことを考えてくれたら、僕は嬉しいよ」

「ケイティ…」

バウソーは、60年の時を超え、互いに思い合える親友を持ち、自身を思いやることが出来るようになった。ケイティは、いつ自身がこの世からいなくなっても大丈夫だろう。そんな安心感も覚えていた。

「皆…足りないところだらけの俺だが、皆さえよければ、これからもよろしく頼む」

バウソーが、ベッドの上で立ち上がると、改めて未熟な自身の友達になってほしい願いを込めて、深々と頭を下げる。すると、ケルベも、バウソーのベッドに乗り、彼の前に立つ。

「こっちこそ、よろしくな。お互い、肩の力を抜いていこうぜ」

ケルベが5本指の手を差し伸べると、バウソーは喜びと安堵に満ちた表情で、二本指を差し出す。ケルベがバウソーの手を包み込むように握ると、まるで寿司を握るかのような握手を交わした。ケイティに軽く注意され少々苦味を含みながらも、和やかな笑いが生まれた。その光景を、他の三人は勿論、先程バウソーと目があった患者も、微笑ましく眺めていた。



一方、ケルベ達と別々の病室になったレーガリン、ヘスペロー、ペティの3人は同じ病室になった。ダイナ装備達も、彼らの私物として同じ病室にいるものの、他の患者にその存在を悟られないよう、3人と会話する時は声量を控えめにするよう心掛けていた。いつも話の中心にいたズーケンとは別の病室になってしまったことを残念がりながらも、3人だけでも一緒になれたことを喜んでいた。この日は、見舞いに来ていたクイタンも交えて、今回の戦いを振り返っていた。

「そんなにすごい戦いがあったんだ…。良かったぁ…みんなが無事で…」

マニヨウジとの戦いの一部始終を、奇跡の生還を果たした友人達から聞いたクイタン。彼らがどれだけ想像もつかないような恐怖や絶望と戦っていたのか、そんな中でも、見事マニヨウジに打ち勝ち、バウソーとアンゾウを救い出し、こうして今話せていることに安堵するのだった。

「しっかし、俺達よく生きてたよな。何度も、もうダメだって思ったのに、こうして生きてんのが今でも信じられねぇよ…」

「うん…僕もそうだよ。それに、ずっと信じられないことの連続だったからね。バウソーのことから、マニヨウジのことまで…正直僕も、今ここにいるのが奇跡みたいだよ」

「マニヨウジ倒した後も、校長先生のことがあったからねぇ。喜んでいる場合じゃなかったのもあると思うし…まあでも、こうして今皆と話せてるし、バウソーを助け出したのも事実だから、僕はちょっと、やり切った感じがあるよ。大怪我もしたけど、生きてるのも事実だよねぇ…あたた」

まだ戦いの傷も痛みも残る彼らもまた、マニヨウジとの死闘で身も心もズタボロにされ、何度も命を奪われそうになりながらも、奇跡の生還を果たしたことを喜び合っていた。さらに、それぞれ学んだこともあったようだ。

「我々は、お前達のおかげで、ラミダスとラ―ケンから託されたバウソーを無事救い、マニヨウジを倒すことが出来た…。最早礼の仕方が思いつかんぐらい、恩に着っている」

「俺はもう、嬉しくて嬉しくてたまんねぇよ。マニヨウジをぶっ倒して、バウソーもアンゾウも、世界を救った。一時はどうなるかと思ったけどよ、それも全部乗り越えて、何もかも救ったんだ。誇りに思うぜ」

「それに、肩の荷が下りた気分ね。皆大怪我したけど、誰一人欠けることなく生きて帰ってこれて、ほんとに良かったわ。どんなに楽しい時でも、マニヨウジのことがどこか心に引っかかってたから、これでようやく、心置きなく楽しく過ごせそうね」

「あたしも、胸のつかえが取れてもうホッとしてるわ。やっと全部終わったんだもの。ラ―ケンもきっと喜んでくれてると思うし、今ごろ安心していると思う。みんな、本当にありがとう!」

60年間背負い続けてきた使命を見事果たし、その重圧から解放されたダイナ装備達の心は、共に戦ってくれた親友達と、大きな喜びと安心感を分かち合うと同時に、大きな恩と感謝の気持ちを抱いていた。

「皆…よくぞ最後まで、私達と共に戦ってくれた…。どれだけ感謝しても、お前達が生きている間感謝し続けても、おそらくこの恩は返しきれないだろう。お前達がいなければ、あの時私の話を信じてくれなければ、私達と共にマニヨウジとバウソーを救うことも、マニヨウジを倒すことも出来なかった…。お前達がいてくれたから、バウソーとアンゾウの救出は勿論、この星にあるすべての人々が、平和が、幸せが守られた。ただ我々は、お前達がいてくれた時点で、既に救われていた。私達を信じ、傍にいてくれたことが、身動きの取れない私達のマニヨウジへの恐怖を和らげ、孤独という恐怖から救ってくれた。私達は、お前達の存在に、ずっと助けられていたのだ。改めて、我々ダイナ装備一同、心からお前達に感謝する。ありがとう…」

アサバスから言葉では表現し切れない程の感謝の気持ちを、3人はしかと受け取った。彼が感じている恩は、自分達では想像し切れるもんではないのだろう。そんな彼の言葉を聞いていると、自分達の心も、救われるような気がした。ただ、少なからず引っかかっていることもあった。

「気持ちは嬉しいんだけど…ズーケンがいない時に言うのも、なんかちょっとねぇ…」

「なに?」

「それは、俺も思ったわ。なんか急に喋り出したな~って思ったら、いきなりダイナ装備一同とか言い出して…まあ、言ってること自体は、間違ってねぇけどよ」

「…やはりそうか」

少なからず、自覚はあったらしい。

「多分、早く言いたくて言いたくて仕方がなかったのよね。今は入院中で皆、中々集まれないから」

「あたしは、ひとまず3人に感謝を伝えて、皆が退院してから改めてちゃんと伝えようって思ってたんだけど…」

思いが感極まったばかりに、気持ちが先走ってしまったアサバスには、自他共に苦笑いだ。

「ていうか、ズーケン達も揃ったらまた言うの?その感じでいける?」

「当然だ。私は、お前達に心から感謝している。一生返しきれん程の恩だ。伝えろと言われれば、いつでも伝えることが出来る」

「やれやれ…どうやら心配いらねぇみてぇだな…」

今の熱量を、ズーケンがいる時にまた再現出来るかどうか、レーガリンとペティは懸念するが、アサバスの言葉に、嘘偽りは一切なかった。彼らは、先程のくだりの再放送を見ることになりそうだ。

「そういえば、皆はこれからどうするの?バウソーも救われて、マニヨウジもいなくなったわけだし」

ふと気になったレーガリンが尋ねると、ダイナ装備達の間に、しばしの沈黙が流れる。

「それなんだけど、ダイナ装備になってから皆と集まる度に何度も話し合って、最終的には皆でテルエさんのところでお世話になろうって話にはなってるわ。60年前、あたし達を引き取ってくれた中で唯一今も元気なのはテルエちゃんだけだし、テルエちゃんも歓迎してくれてるみたいだから」

「ただ、テルエちゃんのところで皆でゆっくり暮らすのもいいけど、私達にもまだ何か、出来ることがあるんじゃないかって、ずっと前から話し合ってたのよ。私達、みんなお節介だからね」

「我々は元々、この星を救う為、人々を救う為、マニヨウジを倒す為にこの姿になった。やむを得ない事情があったにせよ、我々には人々を助けたいという強い思いがあり、自分の意思で選んだのは間違いない。だから、もしまだ我々に出来ることがあれば、我々に力になれることがあれば、それに全力を注ぎたいのだ」

「俺も、マニヨウジを倒す為に、人々を守る為に、どんな形であれ自分が生きる為にこの姿になったんだ。俺の命は、本当ならもうなかったようなもんで、ラーケンとラミダスから貰ったようなもんなんだ。だから、俺の命は誰かの為に使うべきだと思ったし、俺自身も、もっと誰かの力になりてぇって思ってた。ラーケンは、俺が生きているだけで十分だって言ってくれたけど、それでも俺は、何か人の為になることがしてぇんだよ」

60年という長い月日の間、もしも今のように使命を果たした時が来たら…。それぞれその時を何度も夢見ては、集まった時に何度も語り合っていた。

「それで、答えは出たの?」

「ああ。それは…」

レーガリンが問う。長年、苦楽を共にした親友達と、静かで平和な暮らしに胸を高鳴らせる一方、不死に近い自分達だからこそ、出来ることがあるのではないか。そう考えたアムベエ達ダイナ装備が出した答えは、不死に近い彼らだからこそ、彼らだけに出来るものであった。

「60年前にあった、ダイチュウ人とシゲン人の戦争、そして、今回みんなと一緒に乗り越えたマニヨウジとの戦いを、後世に伝え続けることだ」

「!」

彼らの中には今、新たな二つの使命が生まれていた。一つは、マニヨウジとの決戦に臨むずっと前から、もう一つは、ズーケン達がマニヨウジに最後の一撃を加える前に、アムベエが決意したものだった。

「俺達は、60年前に起きた戦争を知ってる。そして、今回の戦いもな。戦争ってのは、命を軽く見た誰かの勝手で起きちまうんだ、たくさんの大切なものと幸せが奪われ、遺された奴も、一生分の傷を背負わされちまって、それが死にたくなっちまう程苦しくて辛い、生き地獄なんだ。どんな理由があっても、絶対に二度と起こしちゃいけねぇって、それを伝えていくことさ。多分、いつか戦争を知ってる奴は、俺達だけになるからな。それだけは、絶対にやんなきゃいけねぇと思うし、死なねぇ俺達にしか出来ねぇことだし…それが、戦争で命を奪われた、家族や、大勢の人達の為に出来ることなんじゃないかって…俺は思った」

戦争は終結し、負の遺産であるマニヨウジもいなくなった。ダイナ装備達に課せられた使命は全うしたが、彼らは、新たな使命を見出し、それを背負い、その永遠に近い生涯を捧げようとしていた。

「その通りだ。後世に語り継ぐことは、我々でなくとも出来る。だが、戦争を知る者はやがて、我々だけになる。新たな戦争が生まれない限りはな。しかし、我々は戦争を、そしてマニヨウジとの戦いを経ている。兵士として戦場に赴くことはなかったが、戦争がどのようなものであったか、マニヨウジがどのような存在であったか、それは知っている。不死の存在である我々に出来ることは、二度と戦争が起きないよう、我々が知る限りの戦争と、我々しか知らない、今回の戦いを未来永劫伝えていくことだ。それは、我々にしか出来ないことだ。私もやろう。それが、平和を守り、マニヨウジを倒した我々の、新たな使命だ」

「それはいいね。もうあんなのがまた襲ってくるのはごめんだし、あれで最後にしないとねぇ」

「だろ!俺達は、テルエんとこで皆で一緒に暮らしながら、新しい使命を、戦争のことを伝えていくっていう役目を果たすんだ!」

ダイナ装備達が見出した次なる使命に、レーガリンも賛同し、アムベエも意気揚々と喜びを見せる。だが、無視できない問題があった。

「ただ、この姿だと、皆驚かせちゃうかなって…それがちょっと心配なのよね。あたし達も、人々に気味悪がれて最悪捨てられないようにって思って、身を隠すことにしたから…」

「まあ確かに。話を聞く以前に、戸惑うかもね。まあ僕達はみんな慣れてるけど」

思い返せば、レーガリン達も最初にアサバスが喋るところを見た時はかなり驚いた。さらに、60年前レーベル達を引き取った少年少女達も、始めは驚き、少なからず恐怖を抱いていたのだ。他にも、彼らが戦争のことについて伝えていくには、まだ問題がある。

「それもそうだけどさ、そもそもどうやって人々に伝えていくんだ?テルマトロマエにいても、風呂入りに来ねぇと、そもそも話聞けねぇし」

「そうなのよ~。そこも問題なのよ~…。私達じゃ自力で何処にも行かれないでしょ?かといって、誰かに話す度にテルエさん達に毎回毎回運んでもらうのもなんか申し訳ないし…それも悩みどころなのよね」

特に、ダイナ装備の中で最も重いカンタを始め悩めるダイナ装備達の力になろうと、クイタンがおそるおそる手を挙げる。

「あのさ…校長先生に、一回相談してみたらどうかな?ほら、こういう時こそ誰かに相談した方がいいと思うし、校長先生なら、今回のことも知ってるから、力になってくれるんじゃないかって思うんだけど…どうかな?」

クイタンが、勇気と知恵を振り絞りながら提案する。というのも、こうしてみんなの前で自分の意見を言うのは、かなり久しぶりだったからだ。

「確かに、その通りだな。ケイティ殿なら、我々の為に尽力してくれるだろう。それに、もしかしたら何か名案を出してくれるかもしれない…。何事も、相談は大事だからな」

「そうね。クイタン、ありがとう!」

「あ…うん…。役に立てたなら、良かったよ」

ダイナ装備達に、自身の提案を受け入れてもらえ、さらに最も付き合いの長いレーベルからも感謝された。クイタンは、友人達から長い首ごと、顔を背けるぐらい照れていた。だが、そのことで安心感を覚え、自信となりつつあった。

「そんで、実はよ…もう一個、考えてたことがあるんだ…」

ここからは、彼が自分の中で一人決意したことだ。それを語るのには少々緊張するが、勇気を少しだけ、振り絞ることにした。

「マニヨウジみたいな奴を、二度と生まないようにすることだ」

「どういうこと?」

首を傾げるレーガリンのように、この時点ではまだ、誰もアムベエの考えは見当がつかなかった。

「マニヨウジは、俺達よりも強くて恐ろしい力を持ってるし、腹が立つぐらい俺より頭が回る。けど、そんなマニヨウジに、俺達は勝てた。どうみてもあいつより力もない俺達が、どうして勝てたのか…それはきっとあいつが…一人だったから。俺達のような、お互いを思いやれるような仲間がいなかった。それどころか、同じシゲン人の霊でさえ、あのバケモンのエネルギーとして利用することしかしなかった。それが、運命の別れ道ってやつだったんだろうな」

事実、あと一歩のところまでズーケン達を追い詰めたマニヨウジだったが、血怨城の動力源として取り込んだ、同じシゲン人の亡霊達に反旗を翻されたことで、形勢を逆転され、敗北を喫することとなった。

「つまり、マニヨウジは同志を、仲間を仲間として見ず、それどころか同じシゲン人としてその存在を尊重しなかった。それが奴の孤立と敗北を招くことになった…その通りかもしれん」

「そんなとこだ。あとは、ズーさんの優しさだろうなぁ」

「そうね。血怨城の中に入った時、女の子だけじゃなくて、シゲン人の霊達のことも助けたいって言ってたでしょ。ダイチュウ人もシゲン人も助けたいっていう、ズーケンの優しさがあったからこそ、シゲン人の霊達は皆、あたし達の味方になってくれたのよね」

「確かに。あれは、あいつじゃないと出来なかったな」

血怨城の内部でシゲン人の霊達に襲われた時、ズーケンがいなければ、ラミダスと再会することも、アンゾウを救うことも、シゲン人の霊達が己を取り戻すことも彼らと分かり合うこともなかったかもしれない。今回の戦いを通して、ズーケンの存在は、彼らの中でより大きなものとなった。

「でも、レーベルだって最初シゲン人の霊に襲われた時、僕達のことを助けてくれたよ」

「そうそう。なんかこう、パーって光って凄い大声で怒ってたねぇ」

「え?そうだったの?」

ヘスペローとレーガリンからの報告に、クイタンは少々驚いた。レーベルは普段、声も小さくあまり感情的になることが少ないので、彼女が大声で怒る姿は、少々想像し切れなかった。ただ、その彼女が怒りを露わにするとなると、彼女やズーケン達がどれだけ過酷な場所にいたのか、それはなんとなく分かるような気がした。

「レーベルもやるじゃな~い」

「そんな…あたしなんか全然…で、でも、それがマニヨウジのような人を生まないことと、何か関係があるの?」

親友達から褒めれるのは嬉しいが、どうも照れくささが勝ってしまう。レーベルはひとまず、話題を切り替えようと、アムベエに問う。

「マニヨウジには、お前らが持ってるような優しさや人を思いやる心がなかった。俺にはそれが信じられなかった。俺には、もうこの世にはいねぇけど家族や、お前らみたいな友達がいて、こんな俺を大切にしてくれるし、愛してくれる。だから俺も、皆のことを大切に思ってる。ただ…奴には、マニヨウジには、奴自身を大切にしてくれて、愛してくれる奴がいなかったのかもしれねぇ。だから…ああなっちまったのかもな。あの戦争を起こした連中も、そんな奴ばっかだったんだろうよ」

「…!」

マニヨウジは、ダイチュウ星を二度も危機に陥れ、同胞でもあるシゲン人さえも道具として利用した、最恐にして災厄の怨霊である。同時に、愛を与えられなかった故、愛を知らず、不幸を振りまく侵略者と化した、加害者にして、被害者でもある。アムベエは、そう考えていた。

「お前の言う通りかもしれん…。だが、奴がどれだけ不幸な境遇で育ったとしても、我々や、何の関係もない者達にしてきたことは、断じて許してはならない…。そうだろう?」

「ああ、そうさ。その通りだ。自分の不幸の為に、何の関係もない奴の幸せや人生を踏みにじる…。そうなっちまったら、もう誰も愛してくれねぇ。人として終わりなんだよ。だからこそ俺は、そんな奴はマニヨウジで最後にしてぇんだ。愛を知らずに育った奴がどんなひでぇことをするか、どれだけ相手を傷つけようと、人生を歪めようと何とも思わねぇし、むしろ喜び、楽しむ…。そんな奴にならねぇように、もしまだ愛を知らねぇ奴がいたら、俺がそいつに、愛を教えてやる。そいつらが、愛に飢えた被害者から、どうしようもねぇし救いようもねぇ加害者になる前にな。それが出来たら、もしかしたら…戦争が起こるのを、防げるような気がすんだよ…」

愛無き者達が戦争を引き起こしたのだとしたら、愛無き者がいなくなれば、この世に生きてる全ての人々に愛があれば、第二のマニヨウジも、戦争もなくなるのではないかと考えていたのだ。それを言うのはかなり照れ臭かったが、彼の思いの強さがそれを上回ったのだ。

「マニヨウジのような、愛無き悪魔が二度と生まれぬよう、愛を知らぬ者に、我々が愛を教える…か。戦争のことを語り継ぐのと同等かそれ以上に、大事な使命が出来たな。私も、全力を注ごう」

「賛成!私も色んな人達とお話したいし、それが誰かに愛を与えられるなら私、喜んでお話しするわ!それに戦争のことだけじゃなくて、色んなお話が出来たら、きっともっと仲良くなれる筈だし、楽しみだわ~!」

「あたしも…戦争を二度と起こさないようにとか、マニヨウジみたいな人を生まないようにとか、あんまり大きなことは出来ないかもしれないけど…あたしは、あたしの出来ることをする。上手く話せなくても、話を聞いてくれる人がいるだけで嬉しいし、自分のことを気にかけてくれる人がいるだけで、心強いと思うし、誰かにとって、あたしもそんな存在になれたらいいなって思うから、頑張るね」

「…ありがとな、皆」

アムベエは、同志達が自身の考えに理解を示し、賛同し、共に協力もしてくれることに感謝の気持ちが溢れてきた。自身の為に決意してくれたわけではないが、自身の考えに理解を示してくれたことが何より嬉しかったのだ。一つの大きな使命を終えたダイナ装備達は、新たな使命を得た。その使命は、いずれ多くの人々の心を救うだけではなく、いずれ訪れるであろう、共に死線をくぐり抜けた少年達との別れによる孤独から、ダイナ装備達の心も救うことになるだろう。そして、少年達もまた、彼らの使命に尽力するに違いない。

「それで、あなた達はどうするの?何かやりたいこと…って言っても、元の生活に戻るのよね。でも、それが一番幸せよね」

カンタがふと、4人の親友達に尋ねると、彼らは一瞬、顔を見合わせる。

「そうだな…。俺達もマニヨウジとかバウソーのことで頭がいっぱいいっぱいだったから、これといって、特に何も考えてねぇな」

「僕も、早く元の生活に戻りたいってずっと思ってたから、今はそれで十分だよ」

ペティ、ヘスペローの二人は、今まで通りの生活を送れるだけで満足だった。

「僕は、レーベルがいなくても大丈夫なように、レーベルや、お父さんやお母さん、それに、天国のクイポンさんが安心出来るような人になるんだ。今は、ズーケンや皆のような友達を頼りながら、少しずつ成長していけたらいいなって思うよ。勿論、僕も出来そうな時は皆の力になるし、その為にはまず、僕が色んな人達に触れ合わなきゃだけどね。上手く出来ない時もあると思うけど、少しずつ、自分なりに頑張ってみるよ。みんな、こんな僕だけど、これからもよろしくね」

クイタンは、レーベルをズーケン達に託した時のように、己を変えようと、強くなろうと、成長しようとしている。

「ああ。よろしくな。まあ、力抜いとけ」

「ありがとう」

嬉しそうに笑う彼を、新たな友人として、ペティ達は歓迎する。勿論、己を変えたい強い気持ちはそのままに、力を抜き、楽にするように。

「実は…僕にも、考えてたことがあるんだ」

「考えてたこと?」

クイタンにも続き、レーガリンにも、これから先自分がどうありたいのかを、自分なりに答えを出していた。

「ズーケンは僕のことを、今のままでも十分優しいって言ってくれた。それは嬉しかったけど、でも、本当はそんなことないと思うんだ。実際、パパから話を聞いて、僕には問題だらけだったことも分かった。僕のせいで、イヤな思いをした人もいれば、傷つけてしまった人もいるんだろうね。でも僕は、そのことを全然覚えてない。僕はもしかしたら、自分でも思っている以上に、ダメな奴なのかもしれない…」

レーガリンは、今までの自身と向き合い、己を理解しようとしていた。だがその為に、大きな自責の念と罪悪感に苛まれていた。

「きっと、皆よりいっぱい迷惑をかけてきたんだ。でも、それでも、皆は僕と友達でいてくれる。僕は、そんなズーケンや皆のことをもっと大切にしたいし、皆にとって、良い友達でいたいんだ。僕だって、ずっと気を遣われるのは、イヤなんだよ…」

今まで経験してきた、人と関わることによって生まれた、嫌な思い出達。だがそれは、自身の言動が原因であり、相手は自分以上に不快な思いをしていたのかもしれない。自分の為に、誰かに不快な思いをさせたり、迷惑をかけたり、傷つけてしまっていたのかもしれない。それはおそらく、友人達にも及んでしまっていたのだろう。良い友達になりたい。バウソーと同じ様にその思いが強くなるものの、レーガリンの場合、それは自己嫌悪による自身を苛む気持ちと、孤立への不安によるものだった。

「まあ…確かに、何度かお前にはヒヤヒヤさせられたけど、俺は別に、お前が迷惑だとは思ってねぇよ。第一、嫌だったらもうとっくの昔に離れてるしさ。少なくとも、俺は気にしてねぇし、改まって何かする必要もねぇと思うぜ」

「僕も…皆には、僕と友達でいてもらってるって思ってたし、僕なんかがいても、本当は迷惑なんじゃないかって思ってたんだ。でも、ズーケンは、今の僕を受け入れてくれてたことが分かったし、レーガリンも、きっとそうだと思うんだよ。それに、レーガリンの今の話を聞いて、悩んでいるのは僕だけじゃなかったんだ、もしかしたら僕達、意外と似たところがあるんじゃないかって思えて、ちょっと嬉しかったんだ」

「…そっか」

少々照れ臭さを感じながらも、自身の気持ちを伝えた二人だったが、レーガリンの返事は、溜息混じりでどこかそっけなかった。ペティから見ればいつものことだったが、気にしいなヘスペローは、少し不安になった。ただ、どこか安堵しているようにも感じた。

「嫌…かな…?」

ヘスペローがおそるおそる尋ねると、レーガリンは目を閉じ、静かに首を振った。

「…いや。むしろ、ホッとしたよ。僕だけじゃなかったんだって…でも、違うんだよ」

ヘスペロー達にあって、自身にないもの。レーガリンは、ズーケンの優しさに触れれば触れる程、自身には、彼のような優しさを持っていないことを痛感していた。

「僕は正直…君のことを、ダメな奴だって思ってた…。いつもオドオドしてて、見ていて情けなく見えたし、迷惑に思うこともあった。でも…情けないのは、僕の方だった。僕は、何にも分かってなかった。君のことも、自分のことも…。けど君は、僕に優しい言葉をかけてくれた。僕じゃ、そんなこと出来ない。僕には…君達が持っているような優しさがないんだよ…。だから…クイタンと初めて会った時だって、あんなことになっちゃったんだ…」

「お前…」

レーガリンは、初めてクイタンと会った日のことを、強く後悔していた。それもあって彼の罪悪感と自己嫌悪は、ペティ達の想像以上であった。彼の、顔を上げることも出来ず、深い溜息をつく様を見るのは初めてであり、皆かける言葉に悩み、迷った。だが、クイタンだけは、彼の本音を聞いた時から既に決まっていた。

「確かに僕は…君の事は、最初に会った時、苦手な子だって思ったよ。正直、ここに来る時、ちょっと緊張したんだ。でも、僕にもオドオドしているところがあるのは事実だし、自分でも情けないって思う時はあるよ。それに今、君の気持ちを知って、君も自分を変えたいって思ってることも分かった。似た者同士なのは、僕も同じだったんだ。だからこれからは、皆で一緒に、皆に、自分に優しく出来たらいいなって思うんだ。勿論、お互い気持ちを楽にして、楽しく過ごしながらね」

「!」

それは、以前新しい友人からかけてもらった言葉であり、その友人を救った言葉でもあった。そして、最初にその言葉をかけた者は、レーガリンにとって最初の親友でもあった。恩人の言葉が、他の友人達を巡って、彼に回ってきたのだ。

「クイタン…ヘスペロー…ありがとう…!」

レーガリンは涙ぐみ、その声を振り絞った。ようやく、クイタンの優しさを理解し、ヘスペローとも心から親友になれたような気がした。勿論、自分なりの言葉で、自身を励ましてくれたペティや、バウソーやケルベロ3兄弟、自分達とは姿形が違うダイナ装備達も、これからもっと親しくなれて、お互い大切な存在になれると思えたのだ。レーガリンが感涙する様には、クイタンは安堵しつつもどこか複雑だった。

「これも、ヘスペローのおかげだよ。今のも、ヘスペローに言われたことをそのまま言っただけだし…」

「ううん。僕も、クイタンと同じで、元はズーケンがかけてくれた言葉なんだよ。だから、僕の力じゃないんだよ」

「そんなことないわ。たとえ誰かから貰った言葉だとしても、その言葉を、その人の為に使ってあげたんだから、ズーケンの言葉でもあって、あなた達の言葉でもあり、あなた達の気持ちでもあるのよ」

ズーケンの言葉は、クイタン、ヘスペロー、そしてカンタの心を優しく温め、救った。きっと皆、彼の言葉を、これから先多くの人々に伝えていくのだろう。

「だな。んじゃ、今度は俺達から、あいつに返してやるとするか。元はといえば、あいつの言葉なんだ。俺達があいつにとって楽で楽しい相手になって、いつか言い返してやろうぜ」

今まで、それぞれにとって楽で楽しい相手でいてくれた親友の為に、自分達も居心地の良い相手になる、もしくは、良い相手であり続けることを決めた少年達。それは、親友への恩返しにもなり、いつかオウム返しにもなりそうだ。ただ、レーガリンにはまだ不安が残っていた。

「でも…僕に、出来るかな?今の僕はただでさえこんな感じだし、具体的にどうすりゃいいのか分からないし…結局、ズーケンにまた気を遣わせちゃうのかなぁって…」

親友達の温かい言葉を受けても尚、不安が拭いきれないレーガリン。そんな彼を見かね、ここまで黙って見守っていたアムベエが声をかける。

「お前がズーさんの為に良い友達になろうとしてる気持ちは立派だ。ズーさんから、今のお前でも良いって言ってもらえても、それでも変わろうと思ってるのもな。お前は改善が必要かもしれねぇけど、ズーさんは、何も自分を追いつめる程お前に気を遣ってほしいなんて思っちゃいないんだよ」

「じゃあ、どうすればいいの?僕が気を遣えるようにならなかったら、またズーケンや皆に迷惑かけちゃうよ」

レーガリンが、今までズーケンや周りに迷惑をかけてきたことに罪悪感を覚え、自責の念に苛まれている様子から、アムベエは、あることを見抜いた。

「お前は、今まで自分が周りに迷惑をかけてきたからって、今度は逆に、周りに迷惑をかけることに敏感になり過ぎちまってるんだよ。変に気を遣わなきゃいい。今まで通りに、楽にしてりゃいいのにさ」

「でも、迷惑をかけられるのもイヤだけど、もうかけるのもイヤなんだよ…」

「ああそうさ。俺だってそうだし、きっとみんなそうだ。誰かに迷惑をかけないように、一生懸命やってんだよ。けどな、どんだけ気をつけてても、どうしても誰かに大きかれ小さかれ迷惑をかけちまう時はある。だけど、そればっか気にしてちゃ、ただ疲れちまうだけだ。だから、迷惑をかけちまっても、あんまり考え過ぎないことだ。反省は必要だけど、反省のし過ぎは、身体に毒だからな」

かつて、戦禍において家族を喪い、自分一人だけ助かったことを嘆き、必死に逃げる最中、はぐれてしまった家族を捜しに戻れなかったことで、アムベエは己を責め続けていた。そんな自分を救ってくれたラ―ケンの言葉で、今度は自己嫌悪による負の感情で苦しむレーガリンを救いたいと考えていた。

「もし、自分が迷惑をかけられた時は、許してやればいいんだよ。お前だって散々やらかしても、許してもらってきただろ?だからよ、お前がズーさんに迷惑をかけた時、逆にズーさんから何か迷惑をかけられた時は、お互いに反省して、お互いに許し合えばいいじゃねぇかよ。まあ勿論…その時の状況にもよるけど、ちょっとしたことなら、それでいいんじゃねぇのか?」

「アムベエの言う通りだと思うわ。相手に気を遣おう気を遣おうって思ってたら、きっと自分でも知らない内に無理して、あなたが疲れてしまうわ。そしたら、レーガリンは勿論、ズーケンも心配するわ。もしそうなっちゃったら、あなたにとっても、ズーケンにとっても、楽で楽しい相手じゃいられなくなるんじゃないかしら」

「…」

アムベエ、レーベルの言葉に、レーガリンは勿論、ヘスペローとクイタンも、思わず顔が前に出る程聞き入っていた。ズーケンを思うあまり、大事なことを見落としていたことに気付けたような気がしたのだ。

「少なくとも、レーガリンの場合は言葉遣いに気をつける。今はそれだけで良いと思うぞ」

「やれやれ…それじゃ結局、誰かさんと一緒じゃないか…恥ずかしい」

黄色い彼を思い出し、少々赤面するレーガリンだった。

「お前達も、ズーケンや他の友人達と一緒にいる時は、お前達が気持ちを楽にすればいい。無理に楽しい相手になることを意識しなくとも、楽でいることが、楽しいを生むことになる筈だからな。楽な相手でいる為に、まずはお前達が、楽にしていればいいのだ」

「うん…」

ヘスペローとクイタンは、ズーケンを楽しませることまでは考えていなかったが、アサバスから大事なことを聞けたのは、確かだった。ズーケンを楽にしてもらう為に、まず自分達が楽でいる。彼らは、肩の力が抜けていくのを感じた。

「ズーケンやあなた達みたいに、ちょっと気を遣い過ぎちゃう子にとっては、気を遣わなくて済む相手でいることや、変に気を遣わないことが、一番の気遣いなのよ。そんな皆のまとめ役は…ペティ、あなたね」

「え?俺?ああ…だな。まあ…やれるだけやっとくよ」

気を遣い過ぎず、尚且つ気にし過ぎないペティが、彼らのまとめ役に適任だと、カンタは考えていた。彼自身もそのことを自覚しており、カンタの言う通り、無理し過ぎないことを心掛けることにした。

「ま、お前ら皆、お互い良いダチを持ったってことだよな。気遣ってやりたくなる程良いダチがいて、そいつに気にかけてもらえる程、自分が良いダチだってことでもあるしさ。ズーさんに、ありがとうの一言でも言えりゃ十分だと思うぜ。気を遣おう気を遣おうって思って一緒にいるより、ありがたく思いながらいた方がお前らも楽だし、ズーさんも喜ぶと思うぜ」

また、アムベエ達ダイナ装備の助言により、レーガリン達は、ズーケンの気遣いを尊重しつつ、自分達も気遣うことを知った。

「そうだね…。みんな、ありがとう…」

レーガリンもまた、今の自分を受け入れ、寄り添い、温かい言葉をかけてくれる友人達がいることが、どれだけ恵まれていることなのかを痛感していた。恩人含めた親友達への思いと共に、再び涙が溢れ出すレーガリンは、ズーケンだけでなく、親友達全員に、もっと優しくありたいと強く願った。

(ズーケン…僕は、君に今まで散々迷惑をかけてきたし、世話の焼ける奴だと思うけど、これからは、僕と一緒にいて、楽で楽しいって思ってもらえるように頑張るよ。僕なりのペースで…でも、なるべく早めに、君みたいになれなくても、君や皆にとって、僕にとって優しい自分でいられるように。それと、たくさん困らせてきた分、今度からは君が困ったり悩んだりした時は、僕が力になってみせるよ。僕だって、頼りにされると嬉しいからねぇ。そうだなぁ…ズーケンの友達で、いざとなったら助太刀する、だから…ズケダチ。なんてどうかな?)

レーガリンは、親友達を思いやる気持ちによって生まれた目標と、ふと思いついた自信作を、一人胸の中にしまうことにした。その際、彼からは自然と笑みがこぼれていた。

「レーガリン…どうしたの?」

「へ?」

不審に思ったクイタンに声をかけられ、我に返るレーガリン。周りを見渡すと、全員こちらを見ている。

「なんか面白れぇことでも思いついたか?」

「ちょっと、教えてちょうだい!」

「ええっと…それは…」

己が優しくありたい親友達に詰められ、悩んだ挙句、レーガリンは胸の中にしまった目標を、早速取り出すことになった。


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