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ダイノキョウリュウ  作者: タイガン


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14/17

ダイ14時代 九歳児達による救済の時 キョウダイナユウシャ

60年の時を経て、再び戦場と化したボンベエ盆地には、喉に風穴を空けられ、悲鳴を上げながらのたうち回る巨大な悪霊の要塞と、親友の名を泣き叫ぶ少年達の悲鳴が響き渡っていた。キョダイナソーとなったズーケンの身体は、依然としてピクリとも動かない。

(ズーケン…このまま君が死んじゃうなんて…そんなのイヤだよ…!お願いだから…戻ってきて…!)

レーガリンを始め、誰もが脳裏にズーケンの死が過り、絶望し始めた時だった。

「…!!!」

突如、ズーケンの巨大な身体が白い光を放つと、光に包まれた彼の身体が、徐々に小さく縮んでゆく。

「ズーケン…!!!」

そして光が消えた時、そこにいたのは、彼らが知るいつもの親友であった。元の姿へと戻った少年は、ゆっくり目を開ける。

「う…うう…うん…?ややや…いやはや…身体中が痛むなぁ…」

奇跡の生還を果たして早々、身体中をさする彼の口から出たのは、いつもの、どこか間の抜けた声と言葉であった。その一方で、レーガリン達の頬には、また大粒の涙が流れ始める。それは、先程まで流していた涙とは、言うまでもなく別物だった。

「「「「ズーケン!!!」」」」

誰もが一斉にその名を叫ぶ。そして、誰よりも早く、バウソーが抱きつく。

「ああだ!!」

「よくぞ…よくぞ戻ってきてくれた…!!ズーケン!!!うおおおおおおおおおおお!!!!」

「あぁだだだだだだだだだだだ!!!」

奇跡の生還を果たした恩人かつ友人を、人一倍大声でおいおい泣きながら、熱く強く抱き締め上げるバウソー。全身に痛みが残ったまま、猛烈な抱擁とホールドを受けるズーケンは、人一倍大声で悲鳴を上げる。彼の頬にもまた、大粒の涙が流れ始める。その涙が意味するものは…言うまでもない。

「おいおいよせって!今度こそ死んじまったらどうすんだ⁉」

「んもぅ!やめてってば!」

「ぐえっ!はっ!」

近い内にまた祖父の元へ逆戻りしそうになったものの、ズーケンがあまりにも痛々しい悲鳴を上げるので、ペティ達友人一同が一斉に止めに入る。レーガリンが、自身の鼻の上の丸まった角を、バウソーの肩甲骨の中心目掛けて突くと、バウソーは、瞬時に我に返る。

「すまん…ズーケン…」

「あだだだだ…気にしないで」

息を吹き返して早々、再び命の危機にさらされたものの、一命を取り留めたズーケンは、深々と頭を下げるバウソーをなだめる。出来るなら、彼の背中をさすってなだめたかったが、あまりにも自身の身体が痛むので、代わりに自分の身体をさすった。

「よかった…ズーケンが…戻ってきてくれた…!本当に…本当に…よかったよぉぉぉぉぉ…!」

「わやっ!」

バウソーの次は、つい先程彼の背を突いたレーガリンだった。バウソー以上の声量と涙と共に、最早タックルに近い勢いでズーケンに飛び込んだ。初めは、色んな意味で衝撃を受けたものの、それはすぐに感動に変わった。

「レーガリン…」

こんなに泣きじゃくる彼を見るのは、初めてだった。それは周りの友人達も同じで、ズーケンは思った。それ程までに、皆を、大切な友人達を悲しませてしまったのか。彼の心に、自責の念と罪悪感で満ち始める。

「ごめん…僕…みんなのこと、怖がらせちゃったね…」

キョダイナソーとなっている間、実はズーケンには意識があった。だが、自分の中で燃え滾る怒りと憎しみを制御できず、力の限り暴れ回ってしまった。皆に怖い思いをさせてしまったと、これまでにない程自己嫌悪に陥っていた。それ以上に、自身が生きていることを喜んでくれるのか。

「確かに怖かったよ…。マニヨウジもあんな姿のズーケンも…。でも、それより…君が死んじゃう方が…君に二度と会えなくなる方が…ずっとずっと怖かったんだよぉ…!!」

「…!!」

レーガリンの言葉に、誰もが涙ながらに頷いた。

「それに僕…やっと気付いたんだ…。僕が今まで、皆と楽しく過ごせたのは…僕に友達がいるのが…君や…皆のお陰だったんだって…。こんな僕と、君が、皆が一緒にいてくれるから…。特にズーケンには、僕にとって初めての友達になってくれただけじゃなくて、ヘスペローやペティ、ここにいる皆と友達にさせてくれた…。なのに僕は、そのことに気付かないで…君には僕がいないとダメなんだって思い込んでた…。でも、違ったんだ。僕は、誰よりもわがままなのに…誰よりも一人になりたくないし、誰かがいてくれないとダメなんだって、やっと分かったんだ…!」

「…!」

レーガリンの、大粒の涙と共に語られる気づきと思いに、ズーケンも、感涙が溢れて止まらなかった。

「それに…ズーケンだって本当は…僕と一緒にいて…イヤな時あったんでしょ?」

「え」

つい先程まで彼に泣かされていたが、その彼に涙を止めてもらった。

「パパがね…僕はパパに似て、言い方が悪かったりキツかったりする時があるから、きっとズーケンみたいな子は、一緒にいてしんどい時があるんじゃないかって言ってて…そうなのかな?」

「ややや…」

申し訳ないが、ないとは言い切れない。ただ、イヤというより、キツい。

「僕は、普通にしてるつもりだったんだけど、自分でも気付かない内に、皆にイヤな思いさせちゃってたから、僕はズーケンに会うまで、友達が出来なかったんだんだって、やっと気づいたんだ…。言い方が悪い僕のことに気付けなかったのと、僕が元々、皆に優しくなかったから…。きっと、知らない内に君や、他の誰かのことを、傷つけちゃってただろうし…ごめん」

「レーガリン…」

自身が周りと馴染めなかったのは、周りではなく、己に原因があった。自分のせいで、今まで周囲の人達に不快な思いをさせ、傷つけてしまった。それを知ったレーガリンは、ズーケンを喪いかけた時程ではないが、強いショックを受けていた。ズーケンもまた、かつて後押ししただけとはいえ、新しい命を死なせ、両親の心に深い傷を負わせてしまったと思い込んでいた彼には、それが痛い程分かる気がした。

「レーガリン…君は、今のままでも十分優しいよ」

「えっ…」

レーガリンが今、生まれて初めて感じている、自責の念や罪悪感。それをズーケンは首を振り、払った。

「だって、自分が誰かにイヤな思いをさせたんじゃないか、傷つけたんじゃないか。そう思って不安になったり、自分を責めちゃうってことは、君は、誰かの気持ちを考えることが出来るってことなんだ。君はただ、言葉を使うのが、人の気持ちを理解するのが、他の人より少し苦手なだけなんだよ。それに、僕の為に泣いてくれたんだよね。それって、僕のことを、友達だと思ってくれて…大切に思ってくれてる証拠なんだと思う。それだけでも、僕は嬉しいよ」

「…!」

「それに、僕だって…君や、皆がいないとダメなんだ。だから、もっと大切にとか、もっと優しくだとか、あんまり考えなくていいよ。君は、今のままで、十分優しいから。だから、今まで通りでいて。皆も」

「…!!!」

ズーケンの言葉は、レーガリンだけでなく、その場にいた全員の涙を更に誘い、心をより温かくした。

「ズーケン…ありがとう…!!!」

本当は、自分にダメなところがあるのに、ズーケンにだって、それが何なのか分かっているのに、それでも彼は自分を認め、友達として認めてくれているのだ。ただ、ズーケンは今の自分を認めてくれているが、それでもレーガリンは、もっとズーケンや皆に優しくありたいと強く思っていた。欠点だらけの自分を、友人として温かく受け入れてくれている皆の為に。彼がそう決意した時だった。

「おおおおおおおおおおおのれえええええええええ…!!よくもよくもよくもおおおおおおおおおおおお!!!」

「!!!」

いつの間にか聞こえなくなっていた、災厄の悪霊の怒りと恨みの声が、再会を喜ぶ彼らの背後から響き、ボンベエ盆地全土に木霊する。一度は、一瞬で彼らに恐怖と絶望を与えたマニヨウジが、再び立ち上がり、今度こそ息の根を止めんと進撃を開始する。同時に、全員の心に再び恐怖が蘇るものの、それによって、心が支配されることはなかった。

「全く…折角いい空気だったのによ…。ぶち壊しやがって…!」

「そーいや、あれが残ってんだよなー…。ズーケンが生き返ったのが嬉しすぎて、すっかり忘れてたぜ」

「やるしかないようだな…。だが、ズーケンがいるなら、俺達は勝てる」

ズーケンが死の淵から生還した。それはつまり、大切な親友が戻ってきただけでなく、この戦いへの勝機も、戻ってきたことを意味していた。よって、ケルベロ三兄妹を始め皆、再び希望を持つことが出来た。彼だけが扱え、唯一マニヨウジに対抗することが出来るティラノズ剣によって貫かれた、血怨城の首元の傷は…まだ完全に塞がってはいない。傷口からは白い光が漏れだしており、そこが急所であることは、ズーケンやアサバスには、一目瞭然であった。

「ズーケン、生き返って早々悪いが、やれるか?」

「…なんとかなるかと」

ラ―ケンから聞いた情報が事実ならば、今度こそマニヨウジに勝てるかもしれない。ズーケンは一番深手を負っているものの、祖父との約束、大切な人達、そして己の幸せを守るため、身体中の痛みを堪え、全身の力を振り絞り、立ち上がった。

「バウソー…レーベルを、僕に」

「あたし…?」

「祖父ちゃんから聞いたんだ。君の力があれば、マニヨウジに勝てるって」

「なに⁉ラーケンが⁉」

ズーケンが頷くと、バウソーは己の腰に巻いていたレーベルを即座に外し、戸惑う彼女をズーケンに託した。

「レーガリン、ヘスペロー、ペティ…。ダイナ装備の皆と一緒に、僕の傍へ」

レーベルを腰に巻かず、片手で持ったズーケンは、最も付き合いが長い3人の友を、自身の両隣と正面に立たせる。右隣にアムベエを持ったペティ。左隣にはアサバスを持ったヘスペロー。そして正面には、地面に置いたカンタに両手を添えるレーガリン。自身は重いからと、カンタ自ら地面に置くよう言ったのだ。

「ズーケン!これを…」

ズーケンの元にバウソーが駆け寄り、最後のダイナ装備、自身を救うために親友が遺してくれた最後の希望を、新たな親友に託す。

(祖父ちゃん…見守ってて…。僕達、必ず勝って、皆を、僕自身を守ってみせるから…!)

ズーケンは目を閉じ、祖父への誓いと己の決意を込め、ティラノズ剣を強く握り締める。亡き祖父と、祖父が救おうとした親友、そして彼を含めた親友達の思いと共に、今度こそ平和を、未来を、そして幸せを掴むのだ。

「レーベル…僕達が、二度と離れ離れにならないように、僕達が、皆をずっと傍に感じられるように、強く、思ってくれるかな?」

「…?」

ズーケンが、何を伝えようとしているのかは、レーベルには分からなかった。だが、今はそれが必要だということは理解出来た。

「分かったわ」

レーベルが、気持ちを自身に集中させると、そのベルトの体が、白い光を帯び始める。光の輝きが増していく中、レーベルは、自身の中の力が高まっていくのと同時に、この後、何をすべきかが自然と理解出来た。

「みんな!じっとしてて!」

自身の中の力が、最高潮に高まったことを感じ取ったレーベルは、ズーケンの手から離れ、レーガリンの背後に回る。そして、宙に浮いたままベルトの帯を伸ばしていき、4人を囲む輪を作った。

「えいやっ!」

「うわぁっ!」「ああっ!」「おわっ!」「ややぁっ!」

次の瞬間、4人を囲んでいたベルトが一気に締まり、ダイナ装備諸共、4人は勢い良く正面衝突した。

「うおっ!これは…?」

その際、バウソー達は目を疑う。それは4人が正面衝突した瞬間、彼らは白く眩く輝く、一つの光となったからだ。そして光は、迫る血怨城よりも高く、雲が覆う空へと舞い上がった。

「一体…何が起きているのだ…?」

マニヨウジ達が見つめる中、白い光はさらに輝きを増し、そして弾けた。その際、さらに眩い光を放ち、誰もが思わず顔を背けた。そして光が収まった時、ある光景が待っていた。

「あ、あれは…ズーケン?」

一同が再び顔を上げると、そこには、つい先程眩しいぐらいの輝きを放った光はなかった。代わりに、身体を大の字にした、ズーケンがいた。しかし、いつものズーケンではなかった。

「なんだ…その姿は…?」

その姿に、バウソー達だけでなく、マニヨウジも目を疑った。いつものズーケンを主体にしつつ、まず二本指が五本指に変わっていた。背中にはペティの翼のような両腕と、ヘスペローの背の棘が合わさっており、尾もまたヘスペローの棘付きの尾を思わせるものだった。そして頭には、レーガリンのような角の生えた襟と、鼻の上の角が備わっている。まるで、ズーケン、レーガリン、ヘスペロー、ペティの四人が一つになったような姿だった。

「えっと…これ今、どうなってるの…?」

「なんか、身体が全然動かせないんだけど…」

「俺も…手は動かせんだけど、どうも身体が…」

ズーケン以外の3人は、自分達の身に何が起きたのか理解出来ず、何故か自由が効かない身体に戸惑う。因みに、ペティの言う、手とは、今ズーケンの背中に生えている翼のような腕のことである。

「あれ?皆は何処へ…?あやっ⁉指が増えてる⁉」

「なんか…手が背中についてる…?どうなってんだ⁉」

「ちょっと皆、何があったの?」

自身の身体の変化に驚き、戸惑い、各々が動かせる身体の部位を動かし慌てふためくズーケン達。端から見るとそれは、ただジタバタしてるように見えた。また、四人を今の姿に変えたであろうレーベルも、それを把握出来ずにいた。

「僕はなんともないけど、なんか身体が変な感じが…」

「ちょっと鏡ほしいね。今どんな感じか気になるし」

「貴様ら…一体何をした?」

「え?」

自分達でも現状を理解出来ていない為、明らかにイラついているマニヨウジに尋ねられても、答えようがなかった。

「何をしたって言われても…ズーケンに言われるがままだったし、僕達も何がなんだか…」

「おいズーケン、これどうなってんだよ?」

「僕達は、合体したんだ。祖父ちゃんはレーベルの力を使えば、僕達は合体してマニヨウジに勝てるって」

「「「えええええええええええええっっっ⁉」」」「何だとおおおおお⁉」

ラ―ケンからズーケン越しに伝えられた事実に、レーガリン達3人は勿論、彼らの下にいるバウソー達、そしてマニヨウジさえも驚かせた。

「一体…どうしてそんなことに…?」

「あたしも信じられない…。さっきズーケンに言われた通り、とにかく皆が離れ離れにならないように強く願ったら…こんなことになるなんて…」

「そりゃ一つになれば離れようもないけど…でも、これでマニヨウジと戦えそうだねぇ」

「だな。皆と一緒にいるからか、俺も今、やれる気がするよ」

前代未聞の事態に、一同の戸惑いと衝撃は強かったものの、彼らは不思議な力が湧き上がるのを感じていた。それは力強く、そして温かいものであった。

「皆…今度こそマニヨウジをやっつけて、あの中にいる女の子も救って、絶対に絶対に…皆でお家に帰ろう!!!」

「「「おーーー!!!」」」

ズーケン達の心には今、ズーケンが奇跡の生還を果たす前とはうって変わって、希望と今までにない強い力に満ちてきていた。

遂に、悪意と憎悪の怨霊マニヨウジを封印し60年の時を経た今、その因縁に終止符を打ち、ラ―ケンとの約束を果たし、ダイチュウ星に生きる全ての人々の命と平和を守り、そして、自分達の幸せと未来を掴むべく、本当の最後の決戦が今、始まろうとしていた…。



「おのれ…キョダイノガエリするわ変なジジイが割り込んでくるわその挙句の果てに合体するわ…なんてしぶとい奴らだ…!だが、いくら小僧共が合体したところで、この私に勝てるわけがない!今度という今度こそ…地獄へ送ってやる…!!」

マニヨウジもまた、60年にもわたって続いた因縁を焼き尽くすべく、煮えたぎる憎しみの火口から、憎悪の炎を放とうとしていた。

「わぁっ!くるよ!!」

「ペティ!早く飛んで逃げ…」

「その必要はない!」

「やや!」

どこからか、アサバスの声が聞こえた。

「ズーケン!私を使え!」

声のした方に顔を向ける。それは、友人達と合体したズーケンに巻かれた、レーベルからだ。しかし、その声の主は、どう考えてもアサバスだ。

「早くレーベルに触れ、私を取り出せ!そして使え!」

「や!急にそんな」

「早く!」

「やややややや!」

状況が状況且、急かされた為に右手に力が入り、レベルトの、レーベルの顔があしらわれた中心部を、思いっきり叩いてしまった。

「いたっ!」

「やっ!すまん!」

レーベルに詫びながら、ベルトの中心部から出現したアサバスカサに一瞬声が漏れながらも、反射的に両手で掴む。

「死ねぇ!!!」

しかしその直後、怨念の火の玉が目前にまで迫る。

「よし!私を炎に向けてかざせ!」

「ははっ!」

言われるがまま、迫りくる炎に向けアサバスカサをかざすと、アサバスは傘の体を白く光らせる。

「はぁっ!」

勢い良く開き、巨大な岩のような火の玉を受け止めた。

「なにぃ⁉」

思わず目を疑うマニヨウジだったが、それだけではなかった。

「まだまだ…!」

「やややや…⁉」

アサバスが自らを回転させると、彼を境に怨念の炎が散っていき、やがて火の玉の全てを消し去った。

「なっ…馬鹿な⁉」

「見たかマニヨウジ!これが我々の真の力だ!ここにいる友と、ここにはいない友全員の力で、今度こそ貴様をあの世に送り、我々全員の手で平和を掴む!」

アサバスが高々と宣言すると同時に、ズーケンも無意識にポーズを決めた。それは、帰ったらたまたまテレビで流れていたヒーロー番組からインスピレーションを受けたものであった。それだけ彼の心が高揚しているのだ。

「おのれ…!炎を防いだぐらいで調子に乗るな!あの世に行くのは貴様らの方だ!死ねぇ!!」

マニヨウジは再び、炎を放つ。今度は火球ではなく、火柱だ。

「無駄だ!!」

しかし、再びアサバスがそれを防ぐ。

「おのれ!だが、いつまで持ち堪えられるかな…?」

つい先程まで、少年達を翻弄し痛めつけた火球を防がれ、一時は歯を食いしばる程怒りと惑いを見せたマニヨウジだったが、長くは持つまいと、鋭く並んだ牙と共に余裕を見せる。

「ズーケン!私を力一杯回せ!」

「や、やや?」

アサバスは今、自力で力一杯回っている。

「巨大な鍋をかき混ぜるかのように腕を使って力一杯回せぇ!」

「あ!あああああはい!!」

アサバスの言うことを正しく理解したズーケンは、言われた通りアサバスを、円を描くように大きく力一杯回す。すると、アサバスが防いでいる炎が渦を巻き、どんどん肥大化していく。

「何ィ⁉どういうことだ⁉」

「こういうことだ!」

次の瞬間、アサバスカサが己の体を閉じ、そして、再び勢い良く開く。すると、傘の上で渦巻いていた炎が、自身の産みの親の元へ走り、帰っていった。

「ギャアアアアアアアア!!!!」

紫色の炎が血怨城全体に迸り、マニヨウジから痛々しい悲鳴が上がる。それは、怒り任せに放った分その威力は倍増しており、血怨城は思わず片膝を着いた。

「すっげぇ!!」

「いーぞいーぞ!!勝てるぞー!!」

これにはケルベもルベロもガッツポーズを取ったり手を叩いたりと大はしゃぎだった。しかし、マニヨウジも黙ってはいなかった。

「おのれぇ…!ならば…!」

一時膝を着くも、全身で炎を振り払いすぐに立ち上がったマニヨウジは、牙が並んだ火口を開き、再び紫色の炎を溢れさせる。

「また炎がくる!」

「いや…おそらく奴の狙いは…」

アサバスの視線の先には、自分達の戦いを見守る、傷ついた友人達の姿があった。

「ありゃ間違いねぇ!ズーさん!今度は俺を出してくれ!それで俺をあいつらんとこへ投げろ!」

「やや!おおう!」

アサバスのある憶測と、全く同じ考えが浮かんだアムベエが名乗り出る。彼らの考え等知る由のないズーケンは、言われるがまま左手でアムベエを取り出し、彼をフリスビーのごとく投げた。この際、レーベルを強く叩かないよう、配慮した。

「これならどうだぁ!!」

その直後、マニヨウジは三度火柱を放つ。しかしそれは、ズーケン達ではなく、彼らを下で応援するバウソー達と、意識を失ったままのケイティに向かって放たれた。

「うおー⁉マジかよ⁉」

「させるかよ!!」

アサバス達の予想通り、火柱がバウソー達に襲い掛かる。しかし、直撃する直前、上空から巨大な風呂桶が、彼らを覆いかぶさるように落ちてきた。

(おおい今度はなんだ⁉)

(めっちゃ真っ暗だぜ!何も見えねー!)

(だが、助かったようだな…)

急に視界が真っ暗闇に包まれ、戸惑うバウソー達。しかし、暗闇の向こうで、炎が激しく燃え盛る音が響いてくることから、直撃を免れたことだけは理解出来た。

「おのれ小癪な…!」

「マニヨウジ!レーべルの秘められた力で、我々は一つとなった。つまり我々は今、8人分の魂の力を宿している!そしてその内4つの魂の耐性を、お前は持っていない!よって我々には、お前を倒す力がここにあるのだ!!」

「すげぇだろ!これが今の俺達の力だ!!もうてめぇなんか怖かねぇ!!必ずてめぇをあの世に送ってやるから覚悟しやがれぇ!!!」

己の猛攻を次から次へと防がれていく様にマニヨウジは苛立ちを募らせていく一方、因縁の悪霊を倒す力を身に着けたアサバスとアムベエは、力と自信に満ち溢れた声を響かせる。

(なんだうっせーな!!)

(意気込むのはいいが、あまりでかい声を出さないでくれ!!)

(み、耳が壊れる…)

「あっ!…わりぃ」

ボンベエ盆地でも巨大な桶の中でも、アムベエの力強い声は、彼の想像以上に響き渡っていた。

「貴様ら…調子に乗るのもそこまでだ…!こちらには、人質がいることを忘れたのか⁉」

「!!」

「いくら貴様らに私を倒せる力があるとしても、あの小娘は救い出せまい!仮に私をあの世に送れたとしても、この中にいる子娘も道連れにすることになるんだぞ!それでもいいのか?」

マニヨウジは、右手で血怨城の腹部を指差し、人質という、血怨城に次ぐもう一つの切札を強調する。

「どうした?さっきまで勢いはどこへいった?私を倒すのではなかったのか?私を倒したければ、あの世に送りたければそうするがいい…。だがその時は、この子娘を犠牲にすることになるだろう!それでも私に勝つつもりか⁉それが貴様らにとって、本当の勝利と言えるのか⁉」

「…!」

マニヨウジから見れば、ズーケン達が自身を倒すことは勿論、人質となった少女を救うことも目的なのは、容易に想像がついた。そして人質がいる以上、今の自分に手出しが出来ない、彼らの優しさも十分理解していた。

「貴様らは、私に絶対勝てない…!勝つのは…この私だぁ…!」

少女の為にズーケン達が自身をあの世に送れないと見たマニヨウジは、勝利を確信し、高々と高笑いを響かせる。

「どうしよう…このままじゃ…!」

「何か手はないのかよ⁉」

「…ある」

折角マニヨウジを倒す力を得たのに…。焦るヘスペローとペティに、ズーケンは静かに答えた。

「ズーケン⁉それは本当なの⁉」

「祖父ちゃんから教えてもらったんだ。ただ…かなり、勇気がいるんだ…」

レーベルに問われた、ズーケンの見つめる先には、今もマニヨウジの私怨と紫の炎が渦巻く、血怨城の火口がある。

「あの中にいるとなると…やっぱそうなるよねぇ…。でも、それしかないなら、僕も行くよ」

「!」

レーガリンは溜息混じりに呟いたが、覚悟は決まっていた。ズーケンが何をしようとしているのかは、誰もが察していた。

「怖いけど、皆と一緒なら、僕も行くよ」

「やるしかねぇんだろ?なら、行こうぜ」

「…ありがとう」

これから自身が何をしようとしているのか、ズーケンはそれを口に出すことは出来なかった。祖父は大丈夫だと言ってくれたが、いざ実行するとなると、正直、恐怖と不安しかなかった。だが、それでも友人達は、恐れる気持ちを抑え、己に命を預けてくれたのだ。その勇気に応える為にも、少女も、そして大切な友人達を守る為にも、絶対に失敗は出来ない、だが、自分達なら出来ると、己を奮い立たせた。

「我々も共に行くぞ。恐れることはない。ラ―ケンが言っていたのなら、大丈夫だ」

「そうよ。皆一緒なら、怖くなんかないわ」

さらにズーケンは、ダイナ装備の二人からも名実ともに力に満ちた励ましを受けた。彼らのその気持ちは嬉しかったが、少し申し訳ない気持ちにもなった。

「アサバスとカンタは、アムベエ達と一緒に、バウソー達を守ってあげててほしいんだ。少しの間、僕達はこの場を離れるし、皆、多分ボロボロで動けないと思うから」

彼らの気持ちはとても有難かったが、今いる友人達を守るという、もう一つの大事な役割を託したかったのだ。

「任せてくれ。必ず成し遂げる。その為にもレーベル、我々に力を与えてくれ。そうすれば、彼らを守る力を、我々は持つことが出来る」

どうやらレーベルにはまだ、自分達の知らない力があるようだ。それが何なのかは分からないが、それがどこか頼もしく感じ、不安が多い中少し安心することが出来た。

「うん。分かった。皆、頑張ってね」

「ありがとう。レーベルもね」

彼女達ダイナ装備の為にも、絶対に成し遂げなければならない。いつもなら気を遣わせてしまったとさらに申し訳なく思うところだが、今は、アサバス達の思いを糧に少女を救い出すことが、彼らに対する何よりの気遣いになると、ズーケンの気持ちを奮い立たせていた。皆の気持ちもより引き締まり、心身共に、少女救出への準備を終えた。そしてそれは、マニヨウジも同じだった。

「これで終わりだ!食らええええええ!」

マニヨウジは、先程よりも倍以上の巨大な火球を、ズーケン達に向けて怒声と共に吐き飛ばした。

「ズーケン!あとは頼んだぞ!」

「わ、分かった!そっちもお願い!」

互いに守りたい誰かを託し、それぞれの使命を果たす為、まずズーケンはティラノズ剣を手に取る。

「えやあっ!!」

マニヨウジの怨念の火球は、ズーケン達を境に真っ二つに割れた。

「な、なにぃ⁉な、何故だ⁉その剣では、物体は切れんはずだ⁉」

ティラノズ剣が斬れるものは、魂のみ。

「その炎は貴様の怨念や憎悪の念…つまり、貴様の魂の力によって生み出されたものだ。貴様の魂によって生まれた以上、その剣は、貴様の攻撃全てを切り裂くことが出来るのだ!」

「な…なん、だとぉ…⁉」

「そして…レーベル達5人の魂の力を受けた、我々の姿を見るがいい!!」

アサバス達ダイナ装備3人はそれぞれ、レベルトから放射された一直線の光を受け、白い光に包まれながらその姿を変えていく。

「なっ…その姿は…⁉」

「これが…私達の新たな姿…そして力だ!!」

皆それぞれ、己の魂を移した器に、彼らの本来の肉体が合わさったような姿となった。レベルトの光によって生み出された光の肉体は、白く輝き、力強く、優しく、どこか安心を覚えるものであった。

「お前ら…」

その輝かしい姿に、ケルベ達は思わず圧倒され、更なる希望を抱いた。対して、マニヨウジは更に苛立ち、真っ赤な牙からギリギリと歯ぎしりを立てる。

「貴様ら…どこまでこの私の邪魔をするつもりだ…ふざけるなあああああああ!!!」

「今だ!ペティ!」

「ああ!任せろ!」

マニヨウジが大口を開けて方向を響かせた瞬間、ズーケン達は翼を羽ばたかせた。

「みんな!絶対生きて帰ろうね!」

「うん!あの子も一緒に!」

「いくぞおおおおおおおおおおおお!!!!」

ほぼ悲鳴に近い雄叫びを上げ、彼らは、血怨城の大きく開いた口内に、飛び込んだ。

「あがぁ⁉」「嘘だろ⁉」

あまりに衝撃的な光景に、バウソー達も、マニヨウジのように顎を大きく開いた。そして、思わぬ異物が突っ込んできたマニヨウジは、ジタバタと巨体を動かし、もがき苦しむ。

「おのれ…そう来たか…!だが…生きて帰れると思うなよ…!」



ズーケン達が、血怨城の中に囚われたアンゾウを救う為、その体内に飛び込んだ一方、新たな姿を得たアサバス達は、不安げに見つめるケルベ達に語り掛ける。

「安心しろ。ズーケン達は必ず、人質となった少女を救う使命を果たし、無事に帰ってくる。我々はその間、危険も顧みず助けに来てくれた彼を、何としても守り抜くぞ!!」

「「「おう!!!」」」

60年もの長き間、背負い続けてきた使命を、亡き親友に誓った約束と共に背負ってきたダイナ装備達は、待ち侘びた瞬間が近づきつつあることを、ひしひしと感じ取っていた。

「アムベエとお前達3兄弟は、マニヨウジの気を引きつけていてくれ。我々は、ケイティ殿の身を守る。カンタは、危険を感じたらいつでも逃げられるよう、彼を背負っておいてくれ」

「任せろ!ズーさん達にばっか、いいカッコはさせねぇぜ!」

「勿論よ!レーベルも今、ズーケン達と一緒に頑張ってる!私達も、あともう少し、一緒に頑張りましょ!」

マニヨウジと戦う気力、血怨城に囚われたアンゾウを救い、共に戦ってくれる親友達を、同じ星に生きる人々を守り、亡き親友の悲願を、60年間背負い続けてきた使命を果たす。その思いすべてを取り戻した3人には、かつてない程強く、優しく、温かい力が湧き上がり、希望で満たされていた。

「みんな!今こそ60年間背負ってきた使命を果たす時だ!ここにはいない、ラミダスやラ―ケンの願いも思いも背負い、レーベルと共に少女を救いに行ったズーケン達と共に、己自身を守りながら、この星に生きる者全員を守り、今度こそ平和を掴むぞ!!!」

「「「「「「「おーーーーー!!!!!」」」」」」」

マニヨウジと対峙する前、アサバスは似たような向上を述べた。その時は、声も少なからず震えており、マニヨウジに対する、体中を覆う恐怖や悪寒を振り払い、自身と皆を鼓舞する意味合いが強かった。だが今は、恐怖は多少残っているものの、悪寒は一切感じない。あの時見えなかった、希望も勝機も見える。その声も、当時とは比べ物にならない程力強く、共に戦うバウソー達の声も瞳は今や、勝利への希望と生きる渇望に満ちていた。

「今日こそ…全てを終わらせる!そして今こそ…全てを救う時だ!!!いくぞおおおおおおおおお!!!!!」

それぞれ、全うすべき役割を果たす為、己を含めた誰一人死なせず、この場にいる者も含めたダイチュウ人全員を救う為の、最後の戦いに臨んだ。



これまで、血怨城という圧倒的な力を持ったマニヨウジによって、誰もがなす術もなく蹂躙され、絶望と死の淵に追いやられていた。だが今や、彼らは今まで自分達を一方的に蹂躙してきた、血怨城の炎を払い、跳ね返す程の力を、マニヨウジと渡り合う力を得た。しかし、先程まで予想外の事態の連続と、想定外の反撃に遭い、一時は激昂する程取り乱していたマニヨウジだったが、今や落ち着きを取り戻しつつあった。

「愚かな奴らよ…。たった一人の小娘を助ける為に、自ら我が体内に飛び込むとは…。この血怨城の体内には、この地で散った無数のシゲン人の怨霊達が渦巻いている…。小娘を救うどころか、生きて帰ってこれることすら叶わん!あのままこの私と戦っていれば勝機もあったかもしれんと言うのに…」

いくらアサバス達が己の攻撃を防ぎ、抗う力を得ようとも、自身をあの世に送ることが出来るのは、ズーケンと、ズーケンが持つティラノズ剣のみである。そしてそのズーケンは今、自らの体内におり、この場にはいない。それが、マニヨウジに冷静さと余裕を与えていたのだ。


「たとえいくら貴様らがこの私を倒す力を手に入れたとしても、この私を倒せば、私の中にいるこいつらも死ぬことになる。貴様らは、小娘を助けにいった奴ら諸共私を倒すつもりか?それとも、こいつらの帰りを待つ間貴様らが時間を稼ぐつもりか?馬鹿め!その前に貴様らは、この私によって一人残らず殺され、奴らも血怨城の中にいる怨霊達によって呪い殺されるのだ!」

「黙れマニヨウジ!ズーケン達は、必ず戻ってくる!我々も、それまでの間、絶対に倒れたりはしない!ズーケン達も我々も、誰一人欠けることなく、全員の力で貴様に勝つ!そして、ズーケン達がアンゾウを救い、戻ってきた時こそ、貴様の最期だ!!」

「ほざけ!そこまで言うなら、貴様ら自身だけでなく、そこの死にかけのジジイも守ってみせろぉ!」

ズーケン達さえいなければこちらのもの。そう言わんばかりに、自身の勝利を確信し、勝ち誇るマニヨウジ。だが、アサバス達は決して屈しない。ズーケン達の帰りを信じ、誰一人死なせぬことを誓った彼らの頭上に、意識を失い、全く身動きが取れないケイティめがけ、血怨城の長い石の尾が振り上げられる。

「その手は通じねぇぞ!」

先程火柱を防いだ時の様に、アムベエは瞬時に巨大な桶に姿を変え、再びバウソー達を覆った。その直後、血怨城の尾が鞭の如く振り下ろされ、重い衝撃音が響き渡るも、先程炎を防いだ時と同様、アムベエは無傷であった。

「おのれっ!」

「言っただろ?俺がいる限り、こいつらには手出しさせねぇ!今はお前を倒せねぇが、お前も俺達を倒せねぇ!」

(やっべーな耳割れる!)

マニヨウジの攻撃から再び親友達を守った、アムベエの自信と希望に満ちた力強い声が、ボンベエ盆地に、親友達の耳に響く。

「わりぃわりぃ。けど、安心しろ。俺が、お前らを必ず守るからな。もうこんなろくでなしの悪霊なんざ俺達の敵じゃねぇし、大したことねぇよ」

「貴様…!」

つい先程まで、自身がいたぶり痛めつけていた、親子ぐらい年が離れた少年達に、己の攻撃を全てを防がれた挙句挑発を受けるマニヨウジ。苛立ちのあまり、血怨城の鋭く並んだ真っ赤な牙をギリギリ言わせながら、再び炎を溢れさせる。

「そうはさせないわよ!」

怨念の炎が、再び放たれようとする中、光の身体を得たカンタが、自身と同じくらい巨大化させた尾を、血怨城の右足のすね、弁慶の泣き所付近めがけ、光の体ごと一回転させた勢いをつけ、叩き込んだ。

「グエアアアッッッ!!」

「やっぱここが一番痛いわよね!えいっ!」

「グオアアアッ!!」

今度は、血怨城の3本指の足目掛け振り下ろすと、マニヨウジからまた、痛々しく且つ生々しい悲鳴が上がる。

「今まで散々やりたい放題してくれたんだから、そのお返しをさせてもらうわよ!このっ!このっ!このっ!」

「ぐっ!ぐあっ!ぐえええっ!」

これまでのお返しと言わんばかりに、感情と力が尾に籠るカンタは、血怨城の右脚の脛と足の指に、ハンマーのような尾を交互に何度も叩きつける。

「カンタの奴も、やりたい放題だな!いいぞ!もっとやってやれ!」

アムベエの声援に応えるかのように、何度も彼女が血怨城に衝撃を与える度に、マニヨウジから短い悲鳴が上がる。

「お…おぉのぉれぇええええ!!どいつもこいつもこの私をコケにしおってぇ!!許さんぞぉ!貴様らは絶対許さんぞぉ!!誰一人生かしてなるものかぁ!!覚悟しておけぇ!!!!」

血怨城の真っ赤な眼を、煮えたぎる怒りによってさらに紅くギラつかせ、マニヨウジは燃え上がる憎悪の限り絶叫する。自身を巨大な桶から、光の身体を得た姿に戻したアムベエは、アサバスとカンタと共に、バウソー達の前に、そしてマニヨウジの前に立つ。

「俺達ゃ誰一人、てめぇに許してもらうつもりなんかねぇよ。俺達だって同じだからな!それに、覚悟すんのは、てめぇの方だ!覚悟してオケよ?」

「そうよ!もう…あなたの思い通りにはさせない!」

「マニヨウジ!我々の奥の手を見せてやる!」

今の彼らに、マニヨウジは敵ではなかった。それぞれの光の身体に、バチバチと白い電流が迸り始める。

「こ、これはまさか…」

「ああ…ズーケンの時と同じ…?」

その光景に、ケルベとベロンに思い浮かんだもの。それは、先程ズーケンが起こした、キョダイノガエリの前兆であった。

「貴様ら、まさか⁉」

「そうだマニヨウジ!これが、皆を守る、我々の新たな力だ!!」

アサバスが叫んだ瞬間、3人の身体が眩い光を放ち、一瞬彼らの視界を奪う。

「やはり…だが、まさか本当にその姿になるとは…」

そして、光が収まると、そこには、バウソー達がまさかと思っていた、キョダイナソーとなった、アサバス、アムベエ、カンタの3人の姿があった。

「すっげぇ!マジでキョダイノガエリしたのか俺達!」

「それに、意識だってちゃんとある!」

「これも、私達に力をくれた、お前達のおかげだろうな。ありがとう」

「い、いや俺達は、なんもしてねーよ…」

ダイナ装備達の精神年齢は、ズーケン達の年齢と大差ない。その彼らが何故、キョダイノガエリを起こしても、ズーケンのように暴走することなく己を保っていられるのか。それは、3人にも分からなかったが、アサバスは、自身の心に、優しさと温かさを感じていたことから、自身に力を分けてくれたズーケン達と、この場にいるバウソー達、親友達のおかげではないか、そう確信していた。その親友の一人であるルベロは、謙遜はするものの、ニヤニヤが止まらなかった。

「し、信じられん…。まさか…貴様らまで…!」

目の前で起きた奇跡に、マニヨウジは目を疑うばかりだった。血怨城の巨体より小さかった少年達が、今や肩を並べる程の身体を手に入れた。しかも、3人同時に。その状況が何を表すのか、マニヨウジが、血怨城が、思わず後ずさりする様が、それを物語っていた。

「いくぞマニヨウジ!我々の、友を信じる気持ち、思いやる優しさ、友も、そして己自身を守る為に、戦う勇気によって生まれた力を、その身を持って思い知るがいい!!!」



アサバス達が、己の命を懸けマニヨウジと対峙する一方、ズーケン達は、マニヨウジの体内、真っ黒な怨霊渦巻き、悲痛な呻き声が木霊する空間を突き進んでいた。この空間にいる怨霊達は皆、マニヨウジが怨念土を生成する際に取り込んだ、60年前戦争によって戦死したシゲン人達の亡霊である。マニヨウジは、彼らの怨念を動力源にし、血怨城を動かしているのだ。始めは皆、上下左右怨霊まみれの光景に戦々恐々していたものの、友人達と一緒にいるからか、慣れもあってか不思議と恐怖が和らいでいた。

「なんか、心霊スポットに入ったみたいだねぇ」

どちらかというと、怨霊スポットの方が正しい気がするズーケンだったが、それどころではない。

「つーか、ここほんとにマニヨウジの腹ん中かよ…」

合体したズーケン達の背中の翼を、腕を動かしひたすら運ぶペティは、飛べども飛べども少女の元に辿り着かない。血怨城の見た目通りなら、とっくの昔に行き止まりに着いていても、下手すれば尻から出ていてもおかしくない。

「多分…あの粘土に取り込んだ、シゲン人の霊の数だけ、ここも広くなってるんだと思う…」

「マジかよ…じゃ、いつになったら…あん?」

ため息交じりに嘆いて早々、共有している全員の視界に、あるものが目に入る。

「ねぇ…あれって…」

それは、真っ暗闇の中で、一人眠るようにうずくまる、ズーケンと同じ獣脚類、キアンゾウサウルスの少女だった。

「いた!」

ついに見つけた少女に、ペティはズーケン達の翼を素早く動かし、ズーケン達は腕を力いっぱい伸ばす。

「え?」

しかし、彼らの翼を、腕を、無数の黒い手が掴み、しがみつくように彼らを取り押さえた。

「あやややややや⁉」

「な、なにこれぇ⁉」

「おわぁっ!羽掴むな!」

「うう…おんりょうが…すごい…」

シゲン人の怨霊達の怨念も呻き声も力強く、ズーケン達は藻掻いても藻掻いても逃れることが出来なかった。

「ダメだ…動けない…」

少女がすぐ目の前にいるというのに、手を伸ばすことすらままならない。最早万事休すかと思われた時だった。

「皆もうやめて!!!こんなことしたって何にもならない!あなた達はたくさん辛い思いをしてきたし、苦しんできたんでしょ⁉あなた達がやってることは、自分達と同じ思いをする人を増やしてるだけよ!!そんなことをしたら…家族や大切な人が傷ついて悲しむだけじゃない!!そうなったらあなた達だって悲しいし、傷つくに決まってるわ!!だから、もうこれ以上…誰も傷つけないで!!!」

レーベルは、ベルトの体をシゲン人達の怨霊に触れられたことで、彼らの強い恨みや憎しみ、怒りや悲しみ、苦しみの念と記憶が痛すぎる程伝わってきた。それは、普段感情を露わにしたり大声を出すことが少ない彼女が叫びたくなるぐらい悲惨なものだった。怨霊達の、元兵士達の強すぎる負の感情を理解した時、レーベルから強く眩い光が放たれる。怒り、悲しみ、苦しみを理解したからこそ、レーベルの優しさあってこその怒り、悲しみ、苦しみから生まれた光だ。それを浴びた怨霊達は悶え苦しみ、つい先程まで抑えつけていたズーケン達から、次々と離れていった。

「た…助かった…」

解放されたのも束の間、ズーケン達から離れた怨霊達は、今度は少女に覆いかぶさるように集まっていった。

「おいおい…冗談だろ…」

さらに、怨霊達から解放されたズーケン達にも、また別の怨霊達が襲い掛かり、再び彼らに重くのしかかった。

「こ、これじゃキリがないよ…」

レーベルがどんどん集まり、重くのしかかってく怨霊達を前に、レーガリン達は最早どうすることも出来なかった。

「みんな、もうよせ!!」

その時突然、一面暗闇のどこからか声が響いた。すると、レーベルのベルトの体が再び輝き出し、先程よりも強い光を放ち、彼らにまとわりついていた怨霊全員を吹き飛ばした。

「今…何が起きたの…?」

ヘスペロー含め全員が呆然とする中、怨霊の真っ黒い渦から、声の主と思われる一人の亡霊が現れる。

「ああっ!貴方は…」

ズーケン達に襲い掛かってきた怨霊達とは違い、その霊は、先程レーベルが放ったような白い光に包まれている。その姿に、レーベルは見覚えがあった。

「ラミダス!!!」

「えっ…⁉」

アサバス達から、名前だけ聞かされていた存在にして、亡き祖父が恐怖を堪え、歩み寄ったシゲン人ラミダス。まさかここにいるとも会えるとも思っていなかったズーケン達にとって、予想外過ぎる展開であった。

「どうして、ここに?あの時、マニヨウジを封印する為に…」

「そうだ。私はあの時、マニヨウジに憑りつかれたバウソー諸共、マニヨウジを60年間封印し続けた。だが、封印している間も、封印が解けた後も、私の意識は奴の怨念に埋もれたままだった。しかし君が、レーベルが優しさによるダイナ装備としての力を発揮した時、私は意識を取り戻すことが出来た。君達には、またしても助けられたな。ありがとう」

ラミダスが感謝と共に優しい笑みを見せると、ズーケンに、不思議と安心感が生まれた。かつて、祖父が彼を信じた理由も、なんとなく分かる気がした。

「だが、今は再会を喜んでいる場合ではないな」

優しい笑みを見せたのも束の間、周囲の怨霊に塗れた光景を見渡すと、すぐに真剣そのものに変わる。

「みんな!もうこれ以上マニヨウジに利用され、己の怨念に呑まれ翻弄され続けるのはよせ!彼らとその子に罪はない!こんなことをしても、マニヨウジの道具にされるだけだ!それは生きていた頃と何一つ変わらない!そんなこと…許していいはずがない!!」

ラミダスは、かつての同胞達に語り掛ける。しかし、彼らは聞く耳を持つ様子はなく、今度はラミダス諸共、三度ズーケン達に襲い掛かり、取り押さえた。

「ぐっ…」

「!」

しかし、ズーケンは咄嗟にレーベルからティラノズ剣を取り出し、怨霊達に光の刃を向けた。

「ズーケン⁉」

彼の突然の行動に、皆驚き、意表を突かれた。そして、怨霊達も一斉に動きを止め、ズーケンに視線を向ける。

「みんなは…みんなは何のために戦争で戦ったの…?本当は、すっごく怖かったはずなのに…今すぐにでもお父さんやお母さんの元に帰りたかった筈なのに…。それは、その会いたかったお父さんやお母さんとか、自分の子供とか、家族を守りたかったからなんでしょ?なのに…こんなことしてたら、みんなが守ろうとしてた人達が、大切にしていた人達が…どれだけ悲しむか…」

ティラノズ剣を握り締める両手を震わせながら、ズーケンはかつて愛する者の為に戦った戦士達に訴えかける。その目からは、涙がこぼれ始めていた。

「その子にだって、家族がいるんだ!みんなと同じ様にお父さんやお母さんがいて、その子がいなくなってからずっと心配して、ずっと不安で、ずっと帰りを待ってるんだ!!僕は、その子をお父さんやお母さんに会わせてあげたい!!大切な人に会えないって、会えなくなるって、すっごく苦しいから!!みんなだって…みんなのお父さんやお母さん、たくさんの大切な人達だって、みんなが戦争に行くとき、すごく辛かったはずだから!!きっと今でも悲しんでるし、皆みたいに苦しんでるよ!!!」

「!!」

大切なものがある喜びや幸せを知り、それを喪う悲しみを知っているズーケンの強い思いが、シゲン人の怨念渦巻く空間に響く。すると、怨霊達の恨みの声が弱まり、静まり返っていく。さらに、ラミダスは自身を抑えつける力も、弱まっていることに気がついた。

「僕は、その子だけじゃなくて、ここにいる皆全員、大切な人達全員に会わせてあげたいんだ!ダイチュウ人とか、シゲン人とか、そんなの関係ない!!大切な人を思う気持ちは…大切な人に会いたい気持ちは…大切な人に会えない苦しみや辛さは…みんな一緒だから!!みんなの大切な人達は、もうこの世にいないのかもしれない…。けど、みんながここにいたら、みんなの大切な人達も、みんなに会えないし、みんなだってその大切な人達に会いにいけない!きっと…みんながくるのを…会いに来てくれるのを…今でも待ち続けているはずなんだ!!だから…早くいこう!!みんなのところへ!!!」

「…!」

マニヨウジによって、人質とされた少女も、死んでも尚怨念を利用され続けるシゲン人達も、ズーケンにとっては、救いたい人達に変わりなかった。そんなズーケンにラミダスは、かつてシゲン人である己を信じ、歩み寄っててくれた少年の面影を見ていた。

「この子の言う通りだ!元はといえば、我々シゲン人が身勝手に引き起こした戦争が全ての始まりだ!決して許されることではない…。だがそれでも、皆が戦ったのは何の為だ⁉愛する故郷を、愛する者達を守る為だったのではないのか!それが今はどうだ!お前達の中に、この子達と同じくらいの子がいた者もいただろう!己の怨念に身を任せ、何の関係もない子供達に私怨をぶつけている…情けないとは思わないのか⁉こんな今のお前達の姿を、お前達が守ろうとした者達は見ているだろう…。そんな姿を…見せていいはずがない!!お前達の中にかつてあった…いや、今も心の奥底に眠っている優しさと思いやりを…思い出すんだ!!!」

ラミダスの強い思いもまた、同胞達を、怨念と悪意から解き放った。怨霊達の真っ黒な空間が、段々真っ白く染まっていく。

「そうだ…!俺には…家族がいたんだ…!」「お父さん…お母さん…!」「子供達の元に…今度こそ帰るんだ…!」「マニヨウジなんかに、これ以上利用されてたまるか…!」「早く皆に会いに行ってあげたい…ずっと…僕のことを…待っていてくれてるはずだから…!」

シゲン人の霊達は、何のために戦ったのか。愛した人、愛してくれる人、守りたかったもの全てを思い出し、次々と己を取り戻していった。そして、怨念渦巻く真っ黒の空間は、あっという間に、完全に真っ白へと塗り変えられた。

「かつて、守るべき者の為に戦った同志達よ。我々が守ろうとした者達は、もうこの世には誰一人いないだろう…。だが、この世にはまだ、かつての我々のように、守りたい者の為に戦っている者達がいる…。その者達は、ここにいる我々が守ろうとした、己の子と年も変わらぬ者達ばかりだ。彼らの中には、我々シゲン人の起こした戦争によって家族を喪ったもいる。だが、彼らはそれでも、私を、シゲン人を信じ、己を捧げ、命を削り、ダイナ装備となってくれた。そして彼らは今、目の前の少女だけでなく、家族と人生の仇である、我々シゲン人さえも…マニヨウジから救い出そうとしてくれている…。彼らの気持ちに応える為にも力を合わせ、死しても尚我々を利用し続けるマニヨウジに一矢報いり、共に今度こそ、愛する者の元へ還ろう!!!」

つい先程まで、怨念に満ちた呻き声を上げていたシゲン人達は、一斉に力強い歓声を上げた。それを見届けたラミダスは、ズーケンに向き直る。

「ありがとう…。君のおかげで皆、大切にしていた人達を、優しさや誰かを思いやる気持ちを、そして、己を取り戻すことが出来た。それに、こうして私も、あの日からようやく己を取り戻すことが出来た。感謝してもし切れないくらいだ」

「いやいややや、そんなそんな…」

ラミダスに深々と頭を下げられ、ズーケンは思わず両掌を広げ、慌てて謙遜する。少なくとも、ラミダスの意識を取り戻すきっかけを作ったのはレーベルであり、シゲン人達の霊が正気に戻ったのは、ラミダスの言葉も大きい。そもそも、ここに来ることから遡ってみれば、自分一人だけで出来たことは、一つもなかったのだ。

「それに、その姿は…」

「あたしの力!ラミダス!あたしこんなことが出来たんだよ!そのおかげで、バウソーあの子も助ける力も持てたし、こうしてまたあなたにも会えた…。あたし、この体で良かった!私だけじゃなくて、皆んなもそう思ってるわ!」

「そうか…!」

ラミダスにとって、レーベルのその言葉が、何よりの救いになった。かつて、レーベル達をダイナ装備に変えた時、彼は、自分のしたことが果たして正しかったのかどうか、マニヨウジを封印する間際まで分からなかった。だが、60年越しにそれが正しかったことが証明された。これ程心から安堵し、胸が喜びに満ち溢れることはなかった。

「君達も、すまなかったな…。怖かっただろう…。だが、よくぞ勇気を出してここまで来てくれたな。ありがとう…」

ズーケン達には、本来なら無関係であるズーケン達を巻き込んでしまったことへの罪悪感が大きかった。

だが、たとえ無関係であったとしても、恐怖を乗り越え、勇気を振り絞り、マニヨウジと戦ってくれたことにも深く感謝していた。

「あ、いや…そんな…」

「なんか…マニヨウジとはえらい違うねぇ」

「まあやっぱ、流石にアレがヒド過ぎたってことか」

3人もまた、自分達に頭を下げるラミダスが、マニヨウジと同じシゲン人とはとても思えなかったが、ズーケンと同じように、ラーケンが何故彼と分かり合うことが出来たのかは、分かるような気がした。

「ここにいるシゲン人の霊達だって、本当はラミダスみたいに優しい人達が多いはずよ。元々皆、戦う為じゃなくて、大切な人を守る為に戦争に行った人達がほとんどだったと思うし、その戦争で身も心も追いつめられて心に深い傷を負ったから、人が変わってしまったんだと思うわ」

「そっか…」

レーガリン達も、かつて母星がシゲン人との戦争にあったこと、最初に遭遇したシゲン人がマニヨウジだったこともあり、最初は身構えていた。しかし、ラミダスとの出会いを通して、彼らの、学校では戦争を引き起こした元凶のように語られるシゲン人に対するイメージは、優しい者もいればそうでもない者もいる、と上書きされた。たとえ種族は違えど、その心は、優しさや思いやりもあれば、時には苦しみ、痛みを感じ、傷を負う。自分達と同じなのだ。

「それに、その剣…君はもしや…」

60年前、自身に歩み寄ってくれた少年の形見を、ラミダスは覚えていた。

「ま、孫です。ズーケンと…いいます…」

「孫…。そうか…あの少年の…」

ラミダスは、ズーケンがかつて自身に歩み寄ってくれた恩人の孫であることを知ると、彼が寿命を削りながらも命を繋いだこと、そして、既にこの世にいないことを悟った。一方ズーケンは、ラミダスは温厚であったものの、悪辣非道なマニヨウジと同じシゲン人であることもあって、やや緊張気味だった。そこへ、複数のシゲン人の霊が、ズーケンの前に出る。

「この子を…」

その内一人は、アンゾウをまるで自身の子供のように抱き抱えており、彼女をそっと、ズーケンに託す。ズーケンは彼女を落とさぬよう、緊張しながら慎重に受け取った。

「この子をどうか…家族の元へ返してやってくれ…。きっと今、この子の両親も、帰りを待っているだろうから…」

眠るアンゾウを見つめるシゲン人の目は、優しかった。彼女を心配しているであろう両親の気持ちが、苦しみが、彼には痛い程理解出来たのだろう。かつて、自身が兵士として戦争に赴いた際、笑って送り出してくれた両親も、心の内では今の自分と同じように苦しんでいたのではないか。

「もうすぐお家へ帰してあげるから、もうちょっとだけ、待っててね」

ついに取り戻したアンゾウを見つめるズーケンの瞳もまた、彼と同じ様に優しさに満ちていた。命の重さを、その両腕に感じるズーケンだったが、彼の腕には少々、彼女は重い気がした。

「その子と共に、ここを出るんだ」

「でも、どうやって…」

「我々が、この血怨城を内側をから抑える。その隙に、外へ出た君達が、再びその剣を使い、我々と共にマニヨウジをあの世に送ってくれ。それで今度こそ…すべてが終わる。やっと…家族の元へ帰れる…」

ラミダス達シゲン人の霊達が、揃って安堵の表情を浮かべるも、レーガリンにはある疑問が浮かぶ。

「でも…もし、ここにいる人達の家族が、ここにいる人達と同じ様に成仏出来ずに、今でもどこかを彷徨ってたら…向こうに行っても、会えないんじゃ…」

「!!!」

「お前…!」

よりにもよって、こんな時に余計なことを…。無意識とはいえ、レーガリンが発した疑問には、ペティ達だけでなく、シゲン人の霊達をざわつかせた。

「そうだ…俺の家族が皆、向こうにいるとは限らない…」「今でも俺のことを…捜しているのかもしれない…」「それじゃあ向こうに行っても…子供達に会えないじゃないか…!」

たとて自分達が成仏したとしても、かつてその帰りを待っていた者達が、今でも空の上で待っているとも限らない。彼らと同じ様に、今でもこの世のどこかを彷徨っているのかもしれない。シゲン人の霊達に、次々と動揺が走る。

「皆、落ち着くんだ!今ここで我々がうろたえていては、救える命も救えない!!今の我々には、やるべきことがあるはずだ!!」

「綺麗ごとを言うな!」「そうだ!もしかしたら今でも、我々のことを捜して彷徨っているかもしれないじゃないか!」「なのに私達だけ先に行くなんて…そんなことは出来ない!」

ラミダスは、同志達をなだめ、成すべきことに専念させようとするも、たとえ成仏しても、不安と焦燥に駆られ、冷静さを失った彼らに、その声と思いは届かなかった。

「もし…」

そんな中、ズーケンが声を絞り出す。しかし、誰の耳に届かなかった。シゲン人の霊達の動揺の声に怯みそうになるものの、彼は目を閉じ、深呼吸する。

「もし!僕が皆の中の誰かの家族に会えたら、皆のことを捜していたら…皆が向こうで待ってるって、伝えて、皆のところへ送るから…だから…」

「けど、俺達の家族にどうやって会うつもりだ?」「そもそも、霊を見ることすら出来ないじゃないか!」「たとえ君にはダイナ装備が、死者の魂をあの世に送る術があったとしても、それじゃ意味がないじゃないか!」

「あ、いや…それは…」

おそるおそる、自身の気持ちを伝えていくも、言葉を遮られ、複数の霊達に詰め寄られてしまうズーケン。

「もういいじゃないか。その気持ちだけで」

そのシゲン人の同志達を制したのは、ラミダスではなかった。一人の、名も知らないシゲン人の霊だった。

「ありがとう…。僕達シゲン人の為に、そこまで力になろうとしてくれて…。自分達の意思ではなかったとしても、僕達はこの星の人達をたくさん傷つけてしまった…。その事実は変わらないし、謝っても謝りきれないし、とても許されることじゃない。そのシゲン人である僕達のことを、君達は助けようとしてくれている…。それは、どれだけ感謝しても足りないし、その恩もきっと、返しきれないくらいだよ…」

ズーケン達は、そのシゲン人の顔からは、穏やかさ、温かさ、そして優しさに満ちていることを感じた。

「ただ、彼らも、悪い人達じゃないんだ。ただ、家族や大切な人達への思いが、前に出過ぎただけなんだ。それは、分かってあげてほしい」

「は、はい!」

詰め寄られた際の緊張がまだ解けていなかったものの、彼にそう言われると、自然と信じられる気がした。それに、先程自分達に詰め寄った霊達は皆、どこか気まずそうに下を向いている。彼の言う通りなのかもしれない。

「僕達は、向こうへ行くよ。僕を待っている人達がいなかったら、その時は向こうで、その人達の帰りを待てばいい。もし、どこかで僕達のことを捜して、今でも彷徨っている人がいたら、僕達のことを伝えて、僕達の元へ送ってあげてほしいんだ。でも、それよりもまずは、君達の人生を生きて欲しい。青の子だけじゃなくて、僕達のことまで助けてくれる君達には、僕達の分まで精一杯生きて、幸せになってほしいから」

「ありがとうございます…!」

穏やかで優しい笑みを浮かべ、温かい言葉をかけてくれる名も知らぬシゲン人に、深い感謝の意を表して、ズーケン達は、深く一礼した。頭を下げたのはズーケンの意思だったが、3人も頭を下げる程嬉しかったのは確かだった。彼もまた、ズーケン達には言葉では表しきれない程大きな感謝を抱いていた。そして今では、先程ズーケン達に詰め寄ったシゲン人達含め、この場にいるシゲン人の霊達は皆、彼と同じ様に、優しく微笑んでいた。かつて、何のために戦ったのか、何を守ろうとしていたのか、本来その心に持っていた優しさ、誰かを思いやる気持ち、そのすべてを思い出したシゲン人の霊達。その代表として、ラミダスが前へ出る。

「君達には、己の危険を顧みず、誰かを助けようとする勇気、相手を信じる心、そして何より、人を思いやる優しさがある。君達には、我々の分まで長く生き、そして、幸せになってほしい。ここにいる者は皆、生きたくても生きられず、幸せを奪われ、幸せすら掴めなかった者が多い。戦争には反対しながらも、戦うことがを、誰かの幸せを奪うことは、避けられなかったのだ…。追い詰められていたとはいえ、この星の人達の多くの命を、幸せを奪い、深く傷つけ、取り返しのつかないことをしてしまったことに変わりはない…。謝っても謝り切れることでも、許されることでもない。だが、それでもせめて、この場で心から、謝罪をさせてほしい…」

60年前ラミダスは、同士達と共にダイチュウ星に送り込まれた。だが、ダイチュウ人を誰一人手にかけることはなかった。しかし、戦うことが出来ない自分を守ろうと、襲い掛かってきたダイチュウ人の命を奪った同志がいた。己は、手を汚すことはなかったが、その為に他の同士に命を奪わせてしまった。その罪悪感は、今でも心に残っている。彼の中に溢れる思い全てを込め、今までよりも深く頭を下げると、周りのシゲン人達も、一斉に頭を下げた。その、後悔と懺悔に満ちた謝罪は、彼らの思いと共に、ズーケン達の心に深く刻み込まれた。その光景を、彼らは生涯忘れることはないだろう。

「戦争を引き起こした我々シゲン人が言えたことではないかもしれない。だがダイチュウ星の人達も我々も皆、己を犠牲にせざるを得ない状況にあったとはいえ、愛するものを、守りたいものを守る為に戦った。それは紛れもない事実だ。しかし、その一方で己を犠牲にした多くの者達が、己自身は勿論、守ろうとした愛する者達を不幸にしてしまった。君達の家族にも、おそらくいるのかもしれない…。私が言えたことではないが、命を懸けて戦った者達がいたからこそ、今がある。今の、君達の幸せがあるのだ。そして、その君達の存在そのものに幸せを感じている者達もいる。君達が、生きているだけで、親を、周りの人達を幸せにしているのだ。そのことをどうか忘れず、今ある幸せを、愛する人を、そして己自身を守り、大切にして生きてほしい」

ラミダスは、自身とその同志達を助けに来てくれた少年達に、自身の、この場にいるシゲン人達の願いを伝えた。彼らなら、これから彼らが守るであろう人達なら、その願いをきっと実現してくれると、信じたかったのだ。

「「「「はい!」」」」

自分が傍にいるだけで、幸せを感じてくれる人達がいる。自分もまた、その人達といることで幸せを感じている。自身を幸せにしてくれる人達を守るだけでなく、自分自身を守ることで、大切な人達幸せを守るだけでなく、己自身の幸せを守ることになるのだ。そのことを学んだズーケン達は、ラミダスの言葉を生涯忘れず、必ず守り抜くことを誓った。幸せを掴めなかった者達の分まで。

「では、皆…いくぞ!!!」

ラミダスが号令をかけると、ズーケン達は、真っ白な空めがけ、ティラノズ剣を突き上げた。




「この野郎!!」

「グアアアアアアッッッ!!!」

ズーケン達が少女を救出に向かっている一方、彼らと、バウソー達を守り抜くことを約束したアサバス達は、己の身体をキョダイナソーに変え、目の前に立つ恐怖の悪霊と対峙していた。キョダイナソーとなって早々、アムベエが血怨城目掛け突進し、己の頭の桶をその腹部に打ち込んだ。その衝撃のあまり、血怨城は一度宙に浮き、その巨体をボンベエ盆地に叩きつけられた。

「すっげぇパワーだ!これならマニヨウジなんか怖かねぇぜ!」

「よぉし!私も行くわよー!」

アムベエに続き、カンタもマニヨウジに追い打ちをかけんと、自身の尾を光のハンマーへと変える。気合十分といった具合に、ブンブンと振り回し始める。

「おのれぇ!この小僧共がぁ!!」

そこへ、ダイナ装備達への憎悪を糧に態勢を立て直したマニヨウジが、血怨城の石の鞭を地に這わせるように、ダイナ装備達の真横に向かって繰り出す。

「この!いい加減にしなさい!」

カンタは、自身の真横に迫った石の鞭の先端に、己の光のハンマーを叩きつけた。

「グギャアアアアアアアアアッッッッ!!!」

それは、ボンベエ盆地を凹ませる程の威力を誇っており、マニヨウジからまたもや悲鳴を上げる程、親友達を守るには十分過ぎるぐらい強力なものであった。

「ここも痛いわよね!私だって痛いもの!」

「オオ…ッ!おのれっ…!調子に乗るなぁ!!」

尻尾がめり込んだまま、マニヨウジは振り向き様に、ダイナ装備達に憎悪の火柱を放つ。

「無駄だ!!」

勇ましい声と共に、迫りくる紫炎と、親友達の間に、アサバスが割って入る。同時に、自身の傘を広げ、そのまま大回転する。

「うおおおおおおおおお!!!」

キョダイナソーとなったこともあり、その回転力も強力になっており、血怨城の火柱を防ぐだけでなく、そのまま前進することも可能にしていた。

「何ィ⁉」

「いくぞマニヨウジ!!くらえええええええええええ!!!」

アサバスはさらに回転力を上げ、火柱を、火花を散らしながら突き進んでいく。そして間もなく、憎炎の火口まで辿り着き、旋回したまま火口に飛び込んだ。

「ガアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

マニヨウジは、頭からボンベエ盆地に叩きつけられ、アサバスの旋回によって、そのまま地中へとめり込んでいく。

「よっしゃー!いー感じだぜー!」

「勝てる…!勝てるぞぉ!頑張れぇ!」

一時は、マニヨウジによって、身も心もボロボロにされ、絶望の淵に叩き落とされたことが嘘だったかのように、ダイナ装備達が一方的にマニヨウジを圧倒していく。その奇跡ともいえる光景に、ルベロやケルベ達は歓声を上げた。

「ぬ…ぬぅ…ぬぅおアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」

希望を、勝機を見出し始めた彼らとは正反対に、マニヨウジは再び立ち上がろうと足掻き藻掻き、怒り任せに地中に埋まった頭を持ち上げ、咆哮を上げた。

「バ…バカな…⁉あ、有り得ん…!何故…何故この私が、ここまでこんな小僧共に⁉こんなちっぽけな奴らに手も足も出んのだ⁉ふざけるなあああああああああああああああああああああ!!!!」

あれだけいたぶり、痛めつけ、弄び、悪夢を見せつけてきた少年達に、今は全く歯が立たず、逆に翻弄され続け、逆に悪夢を見せつけられている。つい先程までの状況とは一転し、自身が一方的に追い詰められている現実が受け入れられず、マニヨウジは、発狂寸前まで追いつめられていた。

「マニヨウジ。確かに俺達ぁ、一人でも強過ぎるぐらい力を持ったお前から見りゃちっぽけかもしれねぇな。けどな、俺達から見りゃ、そのちっぽけな奴らが、友達が力なんだ!守りたいって思える人がいて、自分のことを守りたいって思ってくれている人がいる…。それが、俺達の力になるんだ!」

「そしてそれは、あなたのように自分のことしか考えられなくなった人には、絶対手に入らない力よ!

一人でも強いあなただって、一人じゃここまで来られなかった…強くなれなかった。あなただって、誰かに支えられてくれる人達がいた筈よ。でも、それを忘れて、自分の事しか考えられなくなったあなたなんかに、私達が負ける筈がない!」

「そうだ!他者に対する優しさも思いやりも持たない貴様は、自身が否定した力の前に敗れる!ズーケン達が帰ってくれば、友を、優しさを、思いやりを、そして、それらを全て信じる己自身を信じた、我々の勝利の時がやってくるのだ!!」

状況は、力の差は、最早歴然としており、その何もかもが覆されていた。3人のダイナ装備達は、戦う力、生きる力、友を信じる力に満ちている一方、それらを一切持たず、彼らに一方的に叩きのめされているマニヨウジは、現時点ではなす術がなかった。

「黙れ…!黙れ黙れ黙れ黙れえええええええええ!!!!何が友だ何が優しさだ何が思いやりだ!!!そんなものに何の価値も力などない!!それを、今からこの私が…」

証明しようと、紫炎を燃え上がらせたその時、血怨城の首元にある、光の傷口から、白い光が漏れ出す。

「ア…ガ…ア…」

光は、徐々にその輝きを増していき、輝きが強くなればなる程、マニヨウジから絞り出すような呻き声が上がる。

「ガギャアッ!!!」

マニヨウジが、短い悲鳴を上げたと同時に、傷口が放つ白く眩い光の中から、あるものが飛び出してきた。

「あっ!あれは…」

バウソーの視線の先には、右手に光の刃を宿した剣を、左腕に人質となった少女を抱えた、親友達の姿であった。

「ズーケン!!」

待ち望んでいた親友達の帰還に、バウソー達は歓喜に包まれた。ゆっくりと地に降りるズーケン達の元へ、彼らは一目散に駆け寄った。

「無事帰ってきたか!待ってたぞ!」

「内心心配だったから、また会えて嬉しいぜー!」

「よくぞ彼女を救い出し、お前達も戻ってきた!これ以上のことはない!」

ケルベ、ルベロ、アサバスが次々と、任務と生還両方を果たしたズーケン達を称える。

「僕達の方こそ…皆が無事で…やや?」

ズーケン達もまた、無事生還し、親友達と再会出来たことに、心から安堵し、喜びを感じていた。ただ、今のアサバス達の姿には、少々戸惑ったようだ。

「ああ!この姿か!見てくれ!これはお前達、親友達のおかげで得た力だ。この力のおかげで、この場にいる親友達を、そして、己自身を守ることが出来た!ありがとう!」

「ややや⁉そうだったんだ…」

自分も、こんな感じだったのだろうか…。3人の、キョダイナソーとなった姿を見ていると、自身がキョダイノガエリした時の苦い記憶が蘇る。しかし、彼らからは恐ろしさ等は一切感じず、むしろ、安心感や

頼もしさを感じた。

「久しぶりに自分の身体で、自由に暴れ回って楽しかったぜ!ありがとな!」

「ほんと!おまけにキョダイノガエリしても、自分を保っていられるんだもの!ずっとこの姿でもいいくらいだわ!あ、でも流石に、皆と同じくらいがいいかな。なんてね!」

およそ60年ぶりに、本来の肉体に近い身体を得たダイナ装備達は皆、その喜びと興奮のあまり、まるで子供のようにはしゃいでいた。光の身体を得た彼らは、自由に動ける身体を取り戻しただけでなく、その心の年相応の、少年少女の心も取り戻していたのだ。

「僕の方こそ、皆のおかげで、無事に帰ってこれた気がするよ。ありがとう」

「皆!あたし達ね、ラミダスに会ってきたのよ!」

「ええっ!レーベル、それ本当⁉」

かつて自分達をダイナ装備に変え、死の運命から救い、親友達を、人々を守る力を与えてくれたラミダスに、血怨城の中で再会を果たした。レーベルはそのことで、他の3人とはまた違った興奮と喜びを覚えていた。

「マジかよ!てっきりあん時死んじまったもんだと…良かった…良かったぜ…!」

「そうか…ラミダスの魂は、まだ残っていたのだな…」

「そう!あたし達が戻ってこられたのも、ラミダスと、血怨城の中にいたシゲン人の霊達のおかげなの!それで…」

皆、アサバスと同様、マニヨウジ諸共封印したバウソーだけでなく、その身を犠牲に、マニヨウジを封じ込めたラミダスの安否もまた、長年気がかりだった。そのラミダスは今、肉体は失われ魂だけの存在となっていたが、レーベルは再会することが出来た。その喜びを、血怨城内部で起きた温かい出来事をこれから語り尽くそうとした時だった。

「何を…何を勝った気でいる…?戦いはまだ…まだ終わってはおらんぞおおおおおおおおおおおお!!!!」

ダイナ装備達の話の種は尽きないが、怨霊の闘志と怨念も、まだ燃え尽きてはいなかった。

「バウソー…この子をお願い」

ズーケン達は、左腕に抱えたアンゾウを預け、マニヨウジと血怨城、二つの脅威に向き直る。

「ズーケン…やれるか?」

「うん…。皆と一緒なら、大丈夫だよ」

更なる憎悪と共に立ち上がり、目の前で怒り狂う怨念の鬼妖竜を前に、少年達の心に再び恐怖が蘇り、小さな身体が震え始める。だが、心と身体を共にする親友達が、傍にいる親友達がそれを和らげ、勇気を与えてくれる。

「私が…この私が…貴様らのようなちっぽけで無力で弱い小僧共に負ける筈がない…!こんなことはあり得ない!あってたまるものか!こんな…こんな小僧共の為に…この私が…ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!」

60年前、一人の同胞によって肉体を失い、一時は魂だけの存在となったものの、バウソーの歩み寄る心を利用し、新たな肉体を得た。しかし、自身の肉体を消し去った張本人と、肉体を捨てた名も知らぬ少年達によって、60年もの眠りにつくことになった。生まれながら才能に恵まれ、常に優秀であり続け、大きな挫折や失敗を経験することがなかったマニヨウジにとって初めての大きな挫折であり、これほどの屈辱は今までにはなかった。

「殺してやる!殺してやる!!絶対に一人残らず皆殺しにしてくれる!絶対に…絶対に許さんぞおおおおおおおおおお!!!!」

60年後、自身の野望を阻止されながらも、封印が弱まったこともあり現代に蘇ることが出来た。かつて己を封印したダイナ装備達への耐性を手に入れ、自身を封印した者達への復讐と、全ダイチュウ人の虐殺を胸に宿した。だが、またしてもそのダイナ装備達と、彼らの親友達によって、バウソーと分離させられてしまい、再び肉体を失うことになった。しかし、この事態に備え、怨念土を生成しておいたことによって、血怨城という最恐にして最凶の体を得た。少年達への報復にも成功し、最早敵なしと思われた矢先、今度は二人のキョダイナソーの抵抗に遭う。それでも自身の絶対優勢が変わることなく、両者共に叩きのめした。今度という今度こそ、勝利を手にするところだった。だが、後一歩のところでズーケンが奇跡の生還を果たし、彼が親友達と合体し、ダイナ装備達に光の肉体を与えたことによって形勢が逆転した。予想だにもしなかった、まさに悪夢のような現実を前に、マニヨウジは正気を失いかけながら、ふらつきを見せながらも、少年達への憎悪と執念を胸に立ち上がる。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

「!」

そして、言葉にもならないその怒りが、恨みが、憎しみが、最高潮に達し、そのすべてが籠った最大級の火柱を、憤怒の絶叫と共に放った。

「無駄だ!最早貴様の手の内も行動も全てお見通しだ!」

咄嗟にアサバスが、ズーケン達の前へ出て、これまで通り己の傘を開き、回転させ、その炎を防いだ。

「バカめ!!!死ねえええええええええええええ!!!!」

「⁉」

だがその直後、血怨城が踵を返しながら長い尾を振り上げる。

「いかん!皆逃げろ!」

火球は囮だった。マニヨウジは怒り狂いながらも、ズーケン達を欺く為の思考回路は残っていたのだ。アサバスは叫ぶ。だが、血怨城の尾が振り下ろされる位置には、先程の激戦で全く身動きが取れないケイティがいる。もしこのまま振り下ろされれば、他の皆は避けられても、彼だけは直撃を逃れることは出来ない。突然のことで、そこまで頭が回る者は誰もいなかった。しかし、咄嗟に光の刃を振り上げる者達はいた。

「ぐあっ⁉」

それが、円を描くように振り上げられた時、石の鞭を根元から切り裂いた。

「それっ!」

切断された尾が宙に舞ったところを、カンタが飛び出し、己の担架の背中で弾いたことで、ケイティ達に落下するのを防いだ。切り落とされた尾は、誰にも降りかかることなく、ボンベエ盆地に落ちて間もなく、塵となって消えていった。

「これ以上、あなたの為に誰も傷つけさせないわ!」

「ぐっ…がっ…ガガガガガガガっっっっっ…!!!!」

散々ズーケン達を苦しめてきた炎を、痛めつけてきた尾も、今の彼らには全く通用しなかった。しかも、鞭のような長い尾は、あっさりと切り捨てられた。これまで少年達をいたぶってきた攻撃全てを防がれた。その言葉にならない激情のあまり、マニヨウジはただ、真っ赤な鋭い歯をガタガタさせるのみだった。

「最早打つ手はないようだな。マニヨウジ。とうとう貴様をあの世に送る時が来た。この星の平和の為、この星で暮らす人々の為、今度こそ貴様を倒す!」

「60年間、ずっとこの時を待ってたんだから!覚悟しなさい!」

「あなたを絶対許さない!ラミダスやラーケンの分まで頑張るって約束したから、その約束も、友達も皆も絶対、全部あなたから守って見せる!」

ダイナ装備達は、いよいよ災厄の悪霊との因縁を断ち切る時が来たと、今まで以上に気合いが入り、溢れんばかりの心の力に満ちている。

「誰が…打つ手がないだと…笑わせるなぁ!」

炎を防ぎ、尾も切り落とした。ズーケン達は、血怨城の攻撃を全て攻略したかに思えたが、怒れるマニヨウジは、少年達に、奥の手と言わんばかりに血怨城の鼻をピノキオのごとく伸ばす。

「おおっと!」

それは、不意打ちに近かったものの、アムベエが自慢の桶の頭で難なく受け止めた。

「おのれぇ…!」

マニヨウジが、いくら血怨城の鼻に力を込めても、アムベエは全く押される気配はない。

「マニヨウジ。俺はてめぇのことを死ぬ程恨んでたし、憎んでた。そして…死ぬ程怖かった。けど今は、そんな気持ちは微塵も湧かねぇ。むしろ、憐れに思ってる…のかもな。不思議だぜ」

「なにぃ…?」

マニヨウジが更なる怒りに身を委ねる一方、アムベエはこれまでと違って、どこか落ち着きを見せていた。

「てめぇを見てると、今までこいつらみてぇに、誰かに優しくすることも、思いやりを持って接することもしてこなかったみてぇだな。バウソーを騙すわ、女の子を人質に取るわ、わざと人が苦しむような真似ばっかして楽しむわ…どうやったらそんな奴になるのか、俺には検討もつかなかった。けどよ、やっと分かった気がするぜ。考えてみりゃ、簡単なことだったんだよ」

その答えは、自分達の真逆である。アムベエはそう結論づけた。

「…お前、誰からも愛されなかったんだろ?」

「!!!」

アムベエの答えを聞いた瞬間、マニヨウジの脳裏に、幼少期、少年時代、青年時代…優れた才能を持って生まれたものの、心無き愛無き哀しい一生が過った。しかしそれらは、ズーケン達は勿論、誰にとっても無縁のものであった。

「俺には、こいつらみたいに、一緒にいてくれて、話を聞いてくれたり、時には俺のことを心配してくれて、温かい言葉をかけてくれる友達がいる。皆、こんなバカな俺でも、大切に思ってくれてるんだ。けど、お前には、お前自身のことを大切に思ってくれる奴がいなかった。だから、お前は優しさも知らなけりゃ、思いやりも、愛も知らない。知らねぇから、教えることも出来ねぇんだよな。そんなお前が招いた結果がこれだ。人を力でねじ伏せ、利用することしかしなかった、誰よりも身勝手で誰よりも横暴な…誰よりも憐れな結末だ。なんつーか…気の毒でしかねぇよ」

「きっ…貴…貴様アアアアアアアアア!!!!貴様に…貴様に何が分かる⁉この私の…何が…ウガアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!」

恐怖と絶望を味合わせ、虐げ続けてきた少年達の一人、アムベエの同情を受け、マニヨウジは再び怒り狂い、絶叫する。その咆哮の矛先は、己の復讐の邪魔をしてきた少年達だけではなかった。それが誰なのか、誰一人それを知る由もなかった。

「ズーさん、この憐れで不憫な化けもんは、こいつみてぇに身勝手で、自分の為に他人に自己犠牲を強いるような奴が生んだ時代の、負の遺産だ。そんな時代と一緒に、俺達の手で終わらせてやろうぜ」

マニヨウジのような、怨念と悪意に満ちた存在は、ズーケン達が生きる「今」に残しておいてはならない。アムベエは長い時間の中、マニヨウジが何故そのような存在になったのか、自分なりに結論を出していた。そして今、マニヨウジの荒れ狂う様から、自身の答えが正しかったと確信した。アムベエはどこか、すっきりしたような表情でズーケン達に語り掛ける。

「そうだね…いこう!みんな!!!」

ズーケン達は、災厄の悪霊であり、憐れで不憫な怪物でもあるマニヨウジに、引導を渡すべくその強く優しい心を一つにする。

「皆!今こそ…すべて終わらせる時だぁ!!」

一体化したズーケン達が力強く頷くと、光の身体を得たアサバス、アムベエ、カンタが、それぞれ白い光の粒子となって、ズーケン達に巻かれたレーベルの元へ吸い込まれていく。

「なんだか…力が湧いてくるな」

「うん…正直、まだちょっと怖いけど、すごく安心するよ」

「まあ、あともう少しだよ。僕もいるから、もうちょっとだけ、頑張ろ」

「皆…僕には、皆がついているし、皆にも僕がついている…だから、絶対大丈夫!大丈夫だから…もう少し、一緒に頑張ろう!」

心身共に一体となった、8人の少年少女達は、初めて一体化した時よりも強く、温かく、優しい力に溢れ、心が満たされていくことを感じていた。

「うっ…うう…」

そして、その子供達を守り抜いた、一人の大人である彼が、薄っすらと目を開く。

「ケイティ!気がついたか!良かった…!」

「バウ…ソー…あれは…?」

意識を取り戻したものの、まだ朦朧とする意識の中、ケイティの目に、自身を守るかのように立つ、少年達の後ろ姿が映る。

「ケイティ、見えるか?あれは、ズーケンだ。いや、ズーケンとその親友達が一つになって、マニヨウジと戦って、俺達を守ってくれてるんだ!そしてついに、そのマニヨウジを倒す時が来たんだ…!これでやっと、やっと平和が戻るんだ…!」

「だから祖父さんも死ぬな!絶対生きろよ!」

「全員で生きて帰んだからさ、じーさんも、一緒に帰ろーぜ!」

「そしたら、ちゃんと…お礼を言わせてほしい…。だから…死なないでくれ…」

バウソーが、年老いた親友の肩を抱き、ケルベロ三兄弟と共に、涙ぐみながら呼びかける。

「ズーケン君…皆…立派に…なったね…」

ケイティの、感涙が零れ落ちる瞳に見守られながら、少年達は、災厄の怨霊との戦いに終止符を打つべく、空へと舞い上がる。

「マニヨウジ!僕達は、どれだけお前が怖くても、恐ろしくても、絶対に負けない!もう一歩も退かないし、絶対に逃げない!僕には、守りたい人が、こんな僕を、守ってくれる人達がいるから!!!」

「黙れぇ!この私が、貴様らのような小僧共に負けるわけがない!こんなこと…あってはならない!!!この私が…この私こそ最強であり続けなければならんのだアアアアアアアアアアアア!!!!」

何度も彼らを絶望の淵に追いやり、勝利目前まで何度も迫ったマニヨウジだったが、最終的には、それら全てを覆されてしまった。さらに、自身の攻撃全てを防がれ、武器でもあった尾まで失い、挙句の果てには奥の手までもあっさり防がれ、自身が痛めつけてきた少年に、これまで誰にも知られなかった自身の姿を見透かされてしまった。

これ以上のない屈辱を受けるあまり、マニヨウジはとうとう完全に正気を失い、怒り狂った。絶叫に近い咆哮を上げる血怨城の火口から、再び炎が溢れ出す。だが、それだけではない。その怒りの、恨みの、憎しみの炎が、血怨城全体に燃え移る。

「⁉」

「貴様らにこのままあの世に送られるぐらいなら、この場で自爆して、この体諸共、ボンベエ盆地諸共、貴様らを吹き飛ばしてくれるわぁ!ダイナ装備以外は全員死ぬ上、血怨城の体は失うがこの私の魂は残る!そしていつか、再び新たな肉体を手に入れ、必ず貴様らに復讐してくれるわあああああああああああああああ!!!!」

少年達への憎悪と共に、その身を燃え上がらせるマニヨウジは、怒り狂い、笑い狂う。

「ズーケン!奴が自爆する前に、早くマニヨウジを斬るんだ!」

「う、うん!」

「もう遅い!貴様らに斬られる前に、このまま自爆して、何もかも木っ端みじんにしてくれる!誰一人…生かしてたまるものかアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

アサバスの咄嗟の判断に、ズーケンが、ティラノズ剣に力を込め始めた時、血怨城は既に爆発寸前だった。最早血怨城の自爆は、誰にも止められない。そう思われた直後だった。

「!」

以前、血怨城からズーケン達が脱出した時のように、その全身から白い光が溢れ出し、血怨城を燃やしていた憎悪の紫炎が、瞬く間に消え去った。

「なっ…何故だ…⁉何故急に…がっ⁉」

自身の怨念の炎が一瞬で消え失せたことに目を疑い、唖然とするマニヨウジ。状況を理解する間もなく、白い光が血怨城全体を包み込むと、炎の次に、体の自由を失う。

「なんだ…⁉一体、何が起こったんだ…?」

アムベエ達が呆気に取られる中、マニヨウジは、自身の身に何が起こったのかを理解した。

「そうか…ラミダス…!貴様らの仕業かぁ…!おのれぇ…最後の最後まで…!」

ラミダスだけでなく自身の中にいるシゲン人の霊全員が、己を抑え込んでいることを理解したマニヨウジ。彼らを再び自身の力で抑え込もうとするも、ズーケン達の、他者を思いやる心に触れ、心を取り戻した者達を、力だけでねじ伏せることは、最早不可能だった。

(みんな!これで全てを終わらせてくれ!!そして、この星の平和を、君達の未来と幸せを掴むんだ!!!)

(頑張れ!あともう少しだ!)(お前達ならやれる!思いっきりやってくれ!!)(僕達を…皆の元に…頼んだよ!!)

「!」

白い光に包まれる血怨城から、ラミダスの声が、シゲン人の霊達の声援が、ボンベエ盆地一体に響き渡る。

「ズーケン!今度という今度こそ、全て終わらせて!」

ついに万策尽きたマニヨウジに、災厄の怨霊によって引き起こされてきた悲劇に、その野望に終止符を打つ。60年もの長き間、ダイナ装備達が背負い続けてきた使命と、ラーケンが生涯胸に抱え続けてきた願いを果たすべく、ズーケン達は、ティラノズ剣に一斉にその思いと力を籠める。そんな彼らに応えるかのように、光の刃は、血怨城の体並みに、最大級の大きさを誇り、これまでで最も強く、眩しく、優しい光を放つ。

「みんな…いくぞぉ!!!!!」

「「「「「「「おう!!!!!」」」」」」」

ズーケン達は、その身を覆いつくす恐怖を、ラミダス達の声援、互いの存在と共に全て振り払い、勇ましい雄叫びを上げながら、その身体を大の字に広げる。ティラノズ剣と同じ様に、白い光を纏い輝く彼らは、その刃をまずは右一直線に振るい、次に真上に振り上げ、左にカーブを描きながら振り下ろし、そしてまた真上に振り上げると、今度は右にカーブを描きながら振り下した。それはまるで、大きな大の字を描くようであった。

「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおりゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!」」」」」」」」

そして最後に、ティラノズ剣を真上に振り上げ、描いた大の字をマニヨウジにぶつけるかのように、そのまま一気に振り下ろした。光の大の字は、身動きが取れず最早打つ手がなくなった、災厄の怨霊に炸裂する。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!!!!」

その瞬間、血怨城も大の字となり、マニヨウジの喉が張り裂け声が枯れ果てる程痛痛しい絶叫が、ボンベエ盆地全土に響き渡る。

「おい!見ろ!」

大の字となったマニヨウジが眩い光に包まれると、血怨城の内部から、小さな白い光が無数に飛び出し、次々と大の字へと吸い込まれていく。

「ガ…ガ…ガ…!」

同時に、血怨城の体が徐々にボロボロと崩れ落ちていき、塵と化していく。つい先程まで、自分達を恐怖と絶望の淵へ叩き込んだ怨霊の最期に、誰もが圧倒されている時だった。

(ありがとう…)

「!!!」

その言葉は、小さな光全てが大の字に吸い込まれるまで、空に還るまで聞こえ続けた。

「終わった…のか…?」

全ての魂が、還るべき場所へと還った後、未だ圧倒されたままのバウソーが呟く。

「…ああ。間違いない…ようやく…ようやくすべてが終わったんだ…終わったんだあああああああああああああ!!!!」

アサバスが、ボンベエ盆地に木霊する程、盛大に勝利の雄叫びを上げる。それに続き、皆一斉に歓喜の叫び声を上げ出した。

「うおおおおおおおおおお!!!」「よっしゃあああああああ!!」「やったあああああああ!!」「やったんだ…ついにやったんだ…!」「ばんざああああああああい!!!」

皆、言葉にならない程の思いがこみ上げ、叫び、笑い、泣き、喜んだ。一時は死の間際まで追い込まれ、絶望し涙し、心が折れかかった時もあった。大切な親友を、喪いかけた時もあった。だが、それら全てを、友や大勢の人達の力を借りてついに乗り越え、誰一人犠牲になることもなく、全ての命を救ったのだ。

「良かった…僕達…やったんだね…!」

親友達と一つになったズーケンがレベルトを外し、元の四人に戻った彼ら。真っ先に口を開いたのは、普段はあまり口を開かない、ヘスペローだった。

「今でも実感湧かねぇよ…けど、見ろよあれ」

ペティの真後ろには、ケルベロ三兄弟とバウソーが、それぞれ抱き合い、歓喜の雄叫びを上げていた。その内、ベロンとバウソーは肩を組みながら号泣し、共に空を見上げ男泣きを見せていた。

「あれ見てると、俺達本当にやったんだなって、思えるよ」

ペティは、ケルベ達の喜び様には少々苦笑いだったものの、己史上最大の喜びに満ち溢れていた。

「みんな…本当にありがとう…!おかげで、あたし達は無事に、60年間背負い続けてきた使命を果たせたわ。きっとラ―ケンも、とても喜んでくれているわ…」

ズーケンの手元で、レーベルが泣くような声で感謝を伝えると、一同の涙を誘った。

「僕の方こそ…皆がいてくれなかったら、何も出来なかった。僕一人じゃ、誰も救えなかったんだ。皆がいてくれたから、皆を助けられたし、僕も…こうして生きてる。助けられたのは、僕もあるんだ。皆、本当にありがとう…。あと…これからも、よろしくね」

ズーケンは、共に死線を潜り抜け乗り越えた親友達に、心からの感謝と共に満面の笑みを見せた。親友同士、心の底から笑い合う中、レーガリンだけは、どこか浮かない顔だった。

「ズーケン…あの…」

「?」

レーガリンは、あることを伝える為、祝福ムードの中、勇気と声を振り絞る。

「その…ごめん」

「や⁉」「⁉」

その場にいる全員の注目を集めながら、レーガリンは突如、ズーケンに頭を下げた。誰もが勝利に歓喜する中、突然やってきたその光景に、誰もが目を疑った。

折角祖父から託された使命を全うし、ダイチュウ星の平和を守ったというのに、一体どうしてしまったんだ…。誰よりも驚いたズーケンは目を丸くし、大変戸惑った。

「僕…今までずっと、君には…冷たい時が、あったって言うか…あんまり、優しくなかったていうか…君は、僕にずっと優しくしてくれてたのに…僕は、そんなに優しくなかったから…僕、君に…いや、皆にもっと優しくなるから…だから、僕と、ずっと友達でいてよ…お願いだよ…」

本当は、友達でいてくれたのに、自分は友達らしいことはしていなかった。それを伝えたかったが、涙ががこみ上げてしまい、上手く伝えられなかった。しかし、ズーケンにその思いは、きちんと伝わっていた。

「レーガリン…。君は、今のままでも十分優しいよ。だって…僕の為にあんなに泣いてくれたのは、僕のことを、大切な友達だって思っててくれたからだよね?それって…君が今のままでも優しい証拠なんだよ。だから、無理して優しくしようと思わなくていいから、君は、そのままの君でいて。僕は、そのままの君でいてほしいから。二人も、そうでしょ?」

いつもならおそるおそる、二人の顔色を伺いながら尋ねるところだが、今のズーケンは、どこか確信があった。

「まあ、俺は別にいいけど…」

「…」

「はっ!」

ペティが、隣のヘスペローに目をやる。その瞬間、ズーケンは、まさにはッとなった。

つい勢い任せに言ってしまったが、二人は、特にヘスペローのような繊細なタイプは、レーガリンのような物言いに難のあるタイプは苦手な筈だ。ズーケンに一瞬、不安が走る。

「僕だって…ちゃんと出来ない時だってあるし、イヤになっちゃう時があるのは、しょうがないよ。僕だって、自分のことがイヤになる時があるから…。でも、それでもいつも一緒にいて、僕の友達でいてくれて、ありがとう。こんな僕で良かったら…これからも、よろしくね」

「…!」

レーガリンは以前まで、ヘスペローのことを欠点だらけだと思っていた。確かにその通りかもしれないが、それは自分も同じだった。むしろ、自分の方が欠点は多いのかもしれない。だから、自分は嫌われてしまったのだ。父に指摘され、一番の親友を喪うかもしれない恐怖に見舞われ、ようやくそのことに気が付いた。そして今、欠点だらけの自分を、欠点だらけだと思っていた親友に、その優しさに心を救われた。

「うん…。ありがとう…」

ヘスペローは、優しくレーガリンに微笑む。その笑顔でレーガリンもまた、自然に笑顔になれた。ようやく、ヘスペローと心の底から、本当の親友になれた気がした。すると、他の親友達から拍手が聞こえてくる。

「お前、いいこと言うじゃねぇか。見てて心が温まったぜ」

「つーかお前、泣くんだな。見直したぜ。やっぱ、いー奴だな。お前」

「うおおおおおおおおおお!!!」

「泣くな…いや、一緒に泣こう…」

レーガリンの言葉に感激し、感涙するケルベロ達。ベウソーとベロンはまた、二人揃って男泣きするのだった。

「んもぅ、なんで見てるんだよぉ!」

レーガリンは、恥ずかしさと体温の上昇を感じ、全員に背を背ける。そんな彼の後ろ姿に笑いが生まれるが、ズーケンとヘスペローは、彼の言葉と思いを嬉しく思いつつも、少々気の毒に思ったのか、少々苦笑いだった。確かに、今のは恥ずかしい。

「ちょっと待って!今はそれどころじゃないわ!早くケイティさんを運ばないと!」

「ああっ!」

感動の瞬間に立ち会ったカンタに、ふと、動かなくなったままのケイティが目に入る。

「ケイティ!ケイティ!しっかりしろ!目を開けてくれ!」

「駄目よそんなに動かしちゃ!まだ息はあるから落ち着いて!絶対安静よ!」

「ババ、バウッ、バウッ、バウソー。一旦落ち着いて」

取り乱すあまり、ケイティの身体を揺さぶるバウソーを、ズーケン達の合体が解けたことで、光の身体を失ったカンタに代わり、バウソーと同じ様に取り乱しながらズーケンがその肩を押さえる。

「ケイティは…助かるのか…?」

「早く病院に運べば…でも、ここから近くの病院まで私が運んでも、間に合うかどうか…」

「そんな…」

親友の命が尽きるのを、このまま黙って見ていることしか出来ないのか…。ようやく、60年にも及んだ悪霊の呪縛から解放され、新たな親友達も出来たというのに、60年振りに再会を果たした親友を、目の前で喪いかけている…。残酷な現実を前に、バウソーは、膝から崩れ落ちてしまった。無論、新しい親友の一人は、このまま黙って見ているつもりはなかった。

「もし…もしだけど、僕達がまた合体して、飛んで校長先生を病院まで運んだら…間に合うかな?」

「⁉」

その手段は、何人かの脳裏には薄ら過っていた。しかし、口に出来なかった理由があった。

「確かに…間に合うかもしれないけど…今のあなた達は、身体がもうボロボロなのに、その状態でまた合体して、校長先生を病院を運ぶまでに合体が持つかどうか…」

「それに、もし誰かに見られたら騒ぎになっちゃうし、それがあなた達だってバレたら、その後何が起きるか分からないわ…」

もし病院まで持たず、空中で運んでいる最中に合体が解けてしまった場合、ケイティは勿論、4人の命もないだろう。さらに、姿を見られれば人々がパニックになる可能性もある。

「でも、それしか校長先生を助ける方法がないし、たとえ誰かに見られたとしても、僕はやるよ。ただ、その為には…」

ズーケンは、レーガリン、ヘスペロー、ペティと目を合わせる。校長を救うには、彼らが必要だ。だが、下手をすれば命を落とす可能性もある。

「それは…行くしかないよねぇ。人の命がかかってるわけだしさ。このままだと校長先生が死んじゃうかもしれないし、行こうよ」

「うん。途中で合体が解けちゃうのは怖いけど、校長先生の命に比べたら、どうってことないよ。自分の気持ちも大事だけど、やっぱり、人の命の方がずっと大事だよ」

「なりふり構ってられねぇよ。一刻を争う事態なんだろ?なら、さっさと行こうぜ」

「みんな…!」

4人の気持ちも答えも、一つだった。

「俺達は自力で降りる。女の子をおぶってさ。だから、心配すんな。ここまで来たら、簡単に野垂れ死んだりしねぇからよ。安心してくれ」

「しょーじき、もーちょっとのんびりしてーところだけどよ、どーせまた会えんだからさ、また後でゆっくり話そーぜ」

「その通りだ。俺も、この人にも、お前達にもまだ礼を言い足りない。だから頼む…誰一人…死なないでくれ」

「ありがとう…」

ズーケン達は今、命をかけた戦いを終えた後も、さらに命の危険を冒し、目の前で喪われようとしている命を救おうとしている。出来ることなら代わってあげたいが、それが叶わない彼らは、せめて少しでも親友達の為に出来ることをしたかったのだ。

「ズーケン…ケイティを、頼む」

最悪の場合、5人の友を同時に喪ってしまうかもしれない。だが、今は親友達を信じるしかない。バウソーは、祈るような思いで、古くからの親友を、新たな親友達に託した。

「必ず…助けるよ。みんなも、また会おうね」

互いの無事を祈りながら、互いの思いを託しながら、ズーケンとバウソーは、両手の二本指を合わせた。

(なぁ。この辺じゃなかったか?)(確かにこの辺りから聞こえた気がすんだけどなぁ)(けど、一体ボンベエ盆地に誰が何の用で行くんだ?)(お化けじゃなきゃいいけど…)

その直後、ボンベエ盆地の向こうから、人々の声が聞こえてくる。戦いの目撃者はいないようだが、何が起きたのか、正解者はいた。

「まずいな。ここに誰か来る!」

「あんだけどんちゃん派手にやってりゃ、そりゃ人も来るか」

「時間がないわ!急いで!」

ダイナ装備達はそれぞれ、レーガリン、ヘスペロー、ペティに慌ただしく抱えられながら、レベルトを巻いたズーケンの元へ集う。

「それじゃ皆、行くわよ!」

レーベルの掛け声で、ズーケン達は再び一つとなった。彼らは、ケイティの両脇を抱えると、白い光を纏った羽兼ペティの腕を広げ、大急ぎで空へ飛び立つと、5人の命を懸けた空中搬送を開始した。


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