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ダイノキョウリュウ  作者: タイガン


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11/17

ダイ11時代 マニヨウジの逆襲 怨念と怒り 

およそ60年ぶりに意識を取り戻したマニヨウジが、バウソーの身体を使い、ボンベエ盆地の土に自身の怨念と、戦死したシゲン人達の魂を込め作り上げた怨念土。その怨念土によって造られた、一軒家程の大きさでしかなかったマニヨウジの要塞。そして、囚われの身となったアンゾウ。それらすべてが合わさり誕生した血怨城。血のように真っ赤な目と牙をズーケン達に向け、歩を進める度にボンベエ盆地を震わせながら、怨念の鬼妖竜は迫る。

「あ…あ…あ…」

逃げなければ。だが、誰一人足が動かない。動くのは、小刻みに震える身体のみである。

「そうだ…それでいい…そのまま一歩も動けないまま、私に嬲り殺されるがいい…。一人一人、十二分にいたぶってから、あの世に送ってくれるわぁ!!」

最凶の体を手にし、牙を見せ不敵に笑うマニヨウジが、60年分の報復をせんと、恐怖のあまり全身を震わせる少年達に迫る。誰もが想像出来なかった事態に、ダイナ装備達も、今までにない恐怖に見舞われる。

「みんな逃げろぉ!殺されるぞぉ!!!」

「!!!」

だが、彼らは自分達の使命と、勇気を忘れたわけではなかった。殺される。アサバスの叫びには、彼が今まで経験したことのない、見たこともない巨大過ぎる脅威への恐怖そのものが表れていた。

ダイナ装備達のまとめ役である彼の、聞いたことのない絶叫は、それまで身動きが全く取れなかったズーケン達に、命の危機を理解させ、彼はようやく、やっとの思いで足を動かすことが出来た。

「逃げろ!今はとにかく逃げろぉ!!」

「あたし達のことはいいから、今はあなた達が逃げてぇ!!」

アムベエとレーベルも、続けて声を張って力いっぱい叫ぶ。彼らも、血怨城が恐ろしくて仕方がないが、今は、ズーケン達を一歩でもマニヨウジから遠ざけなければならない。その使命感が、僅かに恐怖に優った。

「ベロン!私のことはいいから、早く逃げて!」

だが、彼らの願いと勇気に反し、ベロンは、ダイナ装備の中で最も重いカンタを一人背負い、両足を震わせながら、歩みを進めていく。

「駄目だ…!俺は…友達を見捨てることなんて…出来ない…!お前達だって、本当は怖い筈なのに…今すぐにでも逃げ出したい筈なのに…俺達だけでも助けようと、必死になってくれてるじゃないか…!なのに…俺だけ逃げるなんて…俺と友達になってくれた皆を見捨てるなんて…出来るわけない!!」

「ベロン…!あなたって人は…!」

血怨城に、マニヨウジに、これから己自身が、親友達が殺されるかもしれない恐怖のあまり、ベロンは泣き叫んだ。殺されるのは、全身に震えと悪寒が走る程恐ろしいが、目の前で自身を救ってくれた友人達を喪うことも、涙が溢れて止まれらなくなる程怖いのだ。

「そうだよな…。俺達だって、友達を見捨てて自分だけ逃げるなんて…ましてや、弟を見捨てるなんて猶更だ!なぁルベロ!」

「おー!逃げるなら一緒だぜ!」

「お前達…」

今も一人カンタを背負い、涙を流しながら必死に足を動かす弟の元へ、二人の兄は、それぞれ友を抱えながら、恐怖を振り切るかの如く走り出す。

「全く…そのまま逃げてしまえば良いものを、わざわざ助けに行くとは…。美しい友情、そして兄弟愛だな…。だが、お前達のその勇気を称え…まずは貴様からだぁ!」

カンタを背負うベロンの上空で、血怨城の右腕が振り上げられる。

「ベロン!逃げろぉ!!」

ケルベが叫ぶ。だがその直後、兄の目の前で、真っ黒い豪腕が振り下ろされた。

「うわあああああああ!!!」「きゃああああああ!!!」

「ベロオオオオン!」

二人は喉が張り裂けん程痛々しい悲鳴を上げながら、離れ離れに吹き飛ばされていく。そのまま地に叩きつけられた弟の元に、兄二人が駆け寄る。

「ベロン!!!大丈夫か⁉」

「おい!しっかりしろ!」

「ううっ…うう…」

ケルベに抱き抱えられるベロンは、今まで味わったことのない激痛が駆け巡る身体では、呻き声を上げるのがやっとだった。三兄弟の元に、マニヨウジの更なる魔の手が迫る。

「そいつはもう動けん。さっさと見捨てて、貴様達だけでも逃げた方が身のためだぞ?」

「何言ってんだ!身動き取れねぇ弟見捨てて逃げる兄貴がどこにいんだ!」

「そーだそーだ!てめーだけは、ぜってー許さねーからな!!」

「お前ら…」

たとえ、敵がどれだけ大きく恐ろしくとも、弟を、ましてや身動きが取れなくなる程の怪我を負った状態で置いていくなど、彼らには出来なかった。そんな兄達の姿に、アムベエも、きっと自身なら同じことをしただろう。だが、怨霊の要塞は、容赦なく迫る。

「弟思いな兄達だな…ならば、そのまま身動きが取れない弟を守ってみせるがいい…」

命を懸けてケルベとルベロに、血怨城は真っ赤な牙を見せると、その隙間から紫色の炎を溢れさせる。

「いかん!皆逃げろ!」

「そうだ!このままじゃお前らが…」

一早く危機を察知したアサバスとアムベエが、それぞれの手元で危険を知らせる。特にアムベエは、もし自分なら彼らと同じことをしただろうと思っていたが、今は、しかし、ルベロは兄と弟の前へ出ると、血怨城に向け、アサバスカサを開く。

「何をしている⁉死ぬ気か⁉」

「わりーな…出来るもんなら俺だって今すぐ逃げてーよ…。でもさ、そこに動けねー弟がいたら、守るしかねーだろ…」

マニヨウジに深手を負わされ、逃げることすら出来ない弟の前に立つルベロの後ろ姿は、震えていた。

「ルベロ…お前って奴は…わりぃな」

今まで味わったことのない恐怖に真正面から抗い、傷ついた弟を守ろうとするルベロに、かつて弟を持ったアムベエは、感銘を受けていた。今は、彼らを一刻も早くマニヨウジから遠ざけなければならないが、力になりたいとも強く思っていた。だが、身動きの取れないダイナ装備の体では、どうすることも出来ない無力感にも苛まれていた。

「駄目だ…逃げろ…」

その傍ら、激痛のあまり意識が朦朧とするベロンは、せめて兄達だけでも逃がそうと、やっとの思いで声を絞り出す。しかし、そんな彼の思いに反し、もう一人の兄ケルベも、ベロンの前に、ルベロの隣に出た。

「ルベロ…俺も一緒にやるよ。やってやろうぜ」

「お前達…」

ケルベは、片脇に抱えたアムベエを自身の足元に置くと、アサバスカサを持つルベロの両手の上に、自身の両手を重ね、強く握り締める。

「愚かな!死ねぇ!」

たとえ、どれ程マニヨウジが恐ろしくとも、たった一人の兄と弟を守る。そんな兄弟達の決意ごと焼き尽くさんと、怨念の火球が放たれる。

「来るぞ!踏ん張れ!いいか!私が合図したらすぐに上へ上げろ!真正面からは受け止めきれん!」

「わーった!」

二人が決めた以上は、尽力するしかない。襲い来る紫の火炎玉を、ケルベとルベロ、そしてベロンを守る為に勇気を振り絞った彼らを守る為、覚悟を決めたアサバスの三人で受け止める。

「ぐっ…うっ…!」

アサバスに言われた通り、二人は火球を傘ごと上げようとするも、とても子供である二人の力だけでは、受け止めるだけでやっとであった。その火力の勢いに、二人は徐々に押されていく。

「馬鹿め!」

マニヨウジは、兄弟に追い打ちをかけんとさらに火球を放つ。それは、アサバスカサが受け止めていた火球と衝突すると、たちまち凄まじい爆発を引き起こした。

「「「「うわあああああああああ!!!!」」」」

その威力を物語る爆風と爆炎を前に、ケルベロ3兄弟、アサバス、アムベエの5人は、それぞれ散り散りに吹き飛ばされていく。

「そぉら!」

5人に更なる追い打ちをかけんと、マニヨウジは、血怨城の長い尾を鞭のごとく奮い、宙を舞うケルベとルベロに叩きつけた。

「ぐああっっ!!!」

「ぎゃあああっっっ!!!!」

さらなる追撃を受けたケルベとルベロは短い悲鳴を上げ、地面に叩きつけられる。

「ケルベッ!!!」

「見ろ!貴様が守り切れんかったばっかりに友が傷つくことになったぞ!言い出しっぺの貴様が守らんでどうする⁉恥を知れぇ!」

次々と友人達が蹂躙されていく光景に泣き叫ぶズーケンを、マニヨウジは楽しむかのように嘲笑う。

「奴め…よくもあんな真似を…!」

60年もの間、悪霊に囚われ続けていた己を救い出し、新たな友となってくれた恩人達が、目の前で自身を騙し、利用し続けたマニヨウジによって痛めつけられ、罵られ、嘲笑われている。バウソーにとって、これ以上ない程怒りが燃え上がったことはなかった。ほぼ丸腰に近いことを忘れ、彼はマニヨウジの元へ歩を進めていく。

「待ってバウソー!あたし達だけじゃマニヨウジには勝てないわ!今は逃げるのよ!」

「だが、このまま奴を放っておいたら、あいつらをもっと酷い目に遭わせるに違いない!それにズーケンだって…そんなこと、許せないじゃないか!」

「だからってマニヨウジと戦ったら、今度こそ殺されちゃうかもしれないのよ⁉お願いだから逃げて!!」

「…!」

マニヨウジへの怒りのあまり、血怨城に立ち向かおうとするバウソーと、それを泣き叫びながら必死に引き留めるレーベル。そんな二人に、血怨城の牙が向けられる。

「バウソー…まさか60年もの間、貴様とこんなところで眠り続けることになるとはな…長い付き合いのよしみだ。貴様も、親友の元へ送ってやろう…」

「!!」

ズーケンは、震える右手でティラノズ剣を握り締める。本当は今すぐにでも助けにいきたい筈なのに、身体は震えるだけで、全く動かせそうにない。やっとの思いで、ダイナ装備達から見れば60年かけてようやく助け出したバウソーに、そのバウソーを共に助け出したレーベルに危機が迫る中、彼は離れたところから見つめる事しか出来なかった。

「見ているか!あの小僧の孫よ!このままでは貴様の祖父の親友が、貴様の新たな友が、この私によって殺されてしまうぞ!あれだけ助けたいと願い、やっと助け出した命ではないか!その命を見捨てるつもりか⁉貴様には、この私を倒す力があるというのに!それでも友か⁉答えてみるがいい!」

「…!」

ティラノズ剣を握り締め、震えることしか出来ないズーケン。そんな彼が苦しむ様を楽しみに、嘲笑うマニヨウジは、更なる追い打ちをかける。

「もし、貴様に友を救いたいという気持ちがあるのなら…この私と戦い、友を守ってみせろ!バウソーとベルトの小娘、そして…」

「!」

血怨城が火口を開き、紫の炎を溢れさせる。また、あの紫の火球が放たれる。ズーケンはさらに身体を震わせ、バウソーは咄嗟に身構える。

「こいつらもなぁ!」

マニヨウジが叫ぶと同時に火球が放たれ、紫色の爆発を引き起こす。そしてその場所は、ズーケンでもバウソーでもなく、誰もいない筈の、石碑のすぐ目の前であった。

「「「うわあああああああああああああああ!!!」」」

「⁉」

誰もいない筈の場所から、3人の幼い少年の悲鳴が、爆発付近からボンベエ盆地に響き渡る。

「そこでコソコソ隠れていないで、大人しく出て来たらどうだ?もし出て来ないなら…分かっているな…?」

血怨城の二本指が、石碑を指差す。石碑の向こう側にいる誰かに向かって、マニヨウジはさらに脅しをかけ、その口から再び紫炎を燃やす。すると、石碑の裏側から、観念したかのように3人の少年達が次々と、おそるおそる姿を見せる。

「…みんな⁉」

3人の少年達は、ズーケンのよく知る友人達、レーガリン、ヘスペロー、ペティであった。皆、ズーケン達と同じ様に、大半の者が一生の内に見ることもないであろう強大な力を見せつけられ、恐怖を味合わせたマニヨウジに、全身の震えが止まらなくなる程血怨城に怯え切っている。

「みんな…どうして…?」

何故ここに彼らがいるのか。ズーケンの疑問に、辛うじて口を開いたペティが、身体と共に声を震わせながら答える。

「お前…昨日、俺らん家来ただろ…?お前が俺ん家に来た後、レーガリンから電話がかかってきて、お前が家に来たけど、会えなかったことを話したんだよ」

「それで今度はレーガリンが、僕の家にかけてきて…その時のズーケンのことを思い返してみると…なんだかちょっと変だったから…何かあったのかと思って…」

「それで今朝、ズーケンがいないっておばさんから電話があったから、もしかしてと思って皆で集まってここに来てみたら…この通りだよ…」

3人は、恐怖のあまり誰一人顔を上げることが出来ずにいた。まさかと思ってボンベエ盆地に来てみれば、確かにズーケンはそこにいた。だが、そのズーケンと友人達を、圧倒的な力で蹂躙する、悪霊の要塞も、そこにあった。

「それはとんだ災難だったな…こいつを捜しに来なければ、こんな恐ろしい目に遭わずに済んだのにな…」

「…!」

ズーケンは、彼らを巻き込みたくなかった。だが、自身の行動によって彼らがここへ来てしまった。そのことで負い目を感じているのは、確かだった。マニヨウジは、ズーケンなら罪悪感を抱き、悔むことを知っていた。ズーケンの、ティラノズ剣を握る力が強くなる。

「どうだ小僧?貴様の為に駆けつけ、貴様のせいでこんな目に遭っている友を、助けたくはないか?貴様の選択によっては、助けてやらなくもないぞ?」

「⁉」

「ズーケン!耳を貸すな!」

爆発の衝撃でルベロの手から離れたアサバスが叫ぶ。しかし、目の前で友人達が次々と蹂躙されていく光景を目の当たりにし、その心を極限状態まで追いつめられたズーケンには、届かなかった。

「選択肢は二つだ。やっとの思いで貴様らがこの私から助け出したバウソーと、共にバウソーを救ったこの場にいる全員か、それとも貴様の為に駆けつけた3人を取るか、好きな方を選ぶがいい…。もう片方は助けてやるが、もう片方には死んでもらうことになるがな…。どの道、貴様のおかけで助かる命と、貴様のせいで死ぬ命が出る。さあ…どうする…?」

「そんな…!」

それは、選べる筈のない二択であった。60年もの間、マニヨウジによって囚われの身となった少年を救う為、共に手を取り合い、新たに友情を育んだ8人の友人達と、いつも傍にいて、自身の身を案じ駆けつけてくれた3人の友人達。そのどちらか一方は救うことが出来るかもしれないが、もう一方は殺されてしまうかもしれないのだ。

「ズーケン!よせ!マニヨウジが約束を守る筈がない!これは俺達をただただ苦しめ、いたぶって追いつめる為の罠だ!」

「そうよ!あなたがどちらを選ぼうと、マニヨウジは誰も助けるつもりなんてないわ!」

「やかましい!」

あれだけ自分達に対し憎悪を燃やしていたマニヨウジが、誰一人生かして帰す筈がない。悪霊からの理不尽な二択を突きつけられたズーケン。その誘いに乗らないよう必死に呼びかけるバウソーとレーべル達に、血怨城の火球が放たれる。

「!」

逃げて!!ズーケンが叫ぶ間もなく、火球は彼らの足元で爆発し、その爆風が二人を吹き飛ばしていく。

「うわああああああ!!!」「きゃあああああああ!!!」

「バウソー!!」

地面に叩きつけられたバウソーの身体は一度跳ね、腰に巻かれたレーベルと共に再び叩きつけられた。

「見ろ!貴様が躊躇っている間に、また友が傷つくことになったぞ!これでもまだ迷っているのか⁉いい加減決断したらどうだ⁉」

「…っ!」

「ふざけんな!そんなの決められるわけねぇし、決める必要もねぇんだよ!ズーさん!マニヨウジの言うことなんか真に受けんな!」

「ズーケン!私達のことはいいから!早く皆を連れて逃げて!」

「そんな…」

自身とは親子ぐらい年が離れた弱く幼い少年達をいたぶり、痛めつけ苦しめることを楽しむマニヨウジと、自分達ダイナ装備を犠牲にしてでも、せめてズーケン達だけでも救おうとするアムベエとカンタの、互いに正反対の感情を持った正反対の叫びが、ズーケンの耳に否が応にも入っていく。端から見れば、先程レーベルが言った通りだろう。だが、次々と友人達が蹂躙されていく光景を目の当たりにしていたズーケンには、最早冷静な判断力も残っておらず、その心は、とうの昔に限界を超えていた。

「やれるものならやってみろ!だが、もしそんな真似をすれば…分かっているな…?」

「…」

血怨城の牙から溢れる紫炎を見れば、言うまでもなかった。さらに、ふと3人の友人達に目をやると、皆も自身と同じ、恐怖のあまり全身の震えも、大粒の涙も溢れて止まらなかった。そんな彼らは勿論、彼らを連れて逃げるよう、同じ恐怖に苦しみながらそう言ってくれた、アムベエ達ダイナ装備を見捨てることも、彼には出来なかった。

「もし…もしもだけど…」

皆を助けたい。しかし、今のズーケンには、マニヨウジと戦う力も、皆を連れて逃げるどころか自分一人で逃げる気力さえも残されていなかった。そんなズーケンがただ一つ、友人達を救うことが出来るかもしれない、ある提案があった。

「僕が…死んで…皆を助けることって…出来ないの…?」

「「「「「⁉」」」」」

何も考えることが出来なくなったズーケンの、命を捨てた提案に、誰もが絶句した。マニヨウジが約束を守る筈がない。誰もが分かり切っていた。だがズーケンには、もうそれしかなかったのだ。

「ズーケン!何言ってるんだよ⁉そんなの絶対ダメだよ!!!」

「そうだ!!そんなんで俺達が助かっても全ッ然嬉しくなんかねぇぞ!!」

「今度こそ殺されちゃうよ!!!」

このままでは確実にズーケンが殺される。彼の自分の身を顧みない提案に、その友人達全員それぞれが怒り、泣き、叫び、猛反対した。一方、ズーケンに非情な選択を強いたマニヨウジは、その言葉を待ってたと言わんばかりに、血怨城の、ズラリと並んだ真っ赤な牙と歪んだ笑みを見せる。

「よくぞ言った…。貴様の、他人の為なら己の命を顧みないその勇気と、友を思いやる友情は本物だ…。その思いに…この私が、応えてやろう…」

血怨城は、再び牙の隙間から炎を溢れさせ、ズーケンの目の前で、悪意に満ちた火口を開く。

「っ…!!!」

「ズーケン!!!」

ズーケンが死ぬ。誰もが何としてでも防ぎたい事態だったが、その誰もがどうすることも出来ず、それぞれ目を見開き、つむり、背けることしか出来なかった。

「死ねぇっ!!!!」

そして、ズーケンを焼き尽くすであろう怨念の炎が、ついに放たれた。だがその直前、血怨城は突如踵を返した。それによって、ズーケンに降りかかる筈だった火球は、ある人物達の元へ向かっていく。

「えっ…」

あまりの突然の出来事に、3人は、自分達に迫りくる火球を、ただただ見ていることしか出来なかった。

「「「うわあああああああああああああああ!!!」」」

気が付けば、彼らの足元で爆発が起き、3人は爆風に吹き飛ばされ、地に叩きつけられていた。

「そ…そんな…」

この場にいる誰よりも一緒に過ごしてきたレーガリン、ヘスペロー、ペティ。共に笑い合ってきた彼らが今、苦痛によって顔を歪ませ、声にならない程の声を上げ、身体を動かすことすらままならないでいる。

「どうして…?僕が死ねば…皆は…助けてくれるんじゃなかったの…?」

友人達を襲った悲劇と、その悲惨な光景に、ズーケンは、全身と共に声を震わせることしか出来なかった。

「馬鹿を言え!初めから貴様との約束など、守るつもりもないわ!貴様らの為に、どれだけ私の計画が狂わされたと思っている⁉特に、貴様とその祖父であるあの小僧だけは…絶対に許すわけにはいかんのだ!」

理不尽且身勝手としか言いようがない、悪意の塊であるマニヨウジは、力の差が歴然としているほぼ無力な少年達に、特にズーケンに対し、さらにその憎悪を燃やす。そして、その悪意を宿した眼が、また歪む。

「この私をあの世に送ろうとした者全員、一人残らずあの世に送ってやる!だが、簡単に死ねると思うな!貴様自身が殺される恐怖と、友が殺される恐怖、その両方を味わうがいい!!特にズーケン…貴様は一番最後だ!目の前で友が一人一人殺されていく様を嫌と言う程見せつけてから、貴様をたった一人にしてから殺してやる!苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで!苦しみ抜いた末に死ねぇ!!!!」

激しい憎悪を燃やしていたマニヨウジから、これまで以上の歪んだ笑みが生まれる。殺そうと思えば、いつでも殺すことは出来た。彼は、自身の積み重なった逆恨みを晴らす為、少年達を苦しめいたぶる為、敢えて死なないよう、火球をわざと少年達の足元めがけ放つ等、力加減をしていたのだ。

「どうして…どうしてこんなことが出来るんだ…⁉みんな…みんな苦しんでるじゃないか⁉傷ついてるじゃないか⁉なんでこんな…こんな…こんなことが出来るんだ⁉」

自身の為に、友人達が皆10にも満たない少年に突きつけられた、あまりにも残酷でむごたらしい光景と現実。気が付けばズーケンは、マニヨウジに向かって泣きじゃくんで、叫んでいた。彼は、今まで人には優しく、思いやりを持って接し、出来る限りの相手のことを考え、傷つけないよう心掛けて生きてきた。だが、マニヨウジはその全く真逆の存在であった。己のことしか考えず、自身の為ならどれだけ相手が傷つこうが苦しもうが構わない。むしろ、他者を苦しめることに快楽すら覚えているのだ。ズーケンには、それが全く理解できなかった。理解したくもなかった。彼だけでなく、誰もが理解し難い悪意を持った存在マニヨウジは、泣き叫び続けるズーケンを、鼻で嘲笑う。

「何故かだと…そんなの決まっている!私が貴様らを痛めつければ、貴様らが苦しみ、傷つき、痛み、泣き、叫ぶ!だからこそだ!私にとって貴様らが苦しみ、悶える姿は、この私にとってこの上ない喜びなのだ!貴様らが苦しめば苦しむ程、傷つけば傷つく程、この私に喜びを、楽しみを与えてくれる!さあ、もっと苦しめ!傷つけ!泣き喚け!そして死ねぇ!この私によって殺され、その命を持ってこの私に償え!!この私への恐怖に打ち震え、この私にこれ以上のない喜びと楽しみを与えてもらうぞ!!!覚悟するがいい!!!!」

ズーケンが、この場にいる少年達が初めて出会う、彼らが生きる星ダイチュウ星には、既にほとんど存在しなくなった、その心の全てを悪意に染めた存在であった。それをついに理解したズーケンは、これまで抱いていた恐怖や悲しみに加え、新たな感情が生まれた。

「…ふざけるな」

身も心もこれ以上ない程傷つき、とうとう限界を迎えたズーケンは、俯いたまま、その一言だけ呟いた。その時の彼の声は、この場にいる誰もが、彼と出会ってきた誰もが聞いたことがない程低く、激しい怒りと憎悪を感じさせるものだった。

「なにぃ…?」

悪意を宿した紫の眼をしかめ、首を傾げるマニヨウジ。その眼に、俯いたままゆっくり立ち上がるズーケンが映る。

「絶対に許せない…!どうして皆が傷つかなくちゃいけないんだ…!なんで僕達がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ…!何もかも…何もかも…お前のせいじゃないか…!」

ズーケンは俯いたまま、生きてきた中で初めて抱くであろう怒りを露わにし、突如顔を上げる。

「⁉貴様…その目は…⁉」

涙が流れ続けるその瞳は、ズーケンのものではなかった。かつて地球に栄えた恐竜の目、そのものであった。マニヨウジが目を疑う最中、ズーケンの、怒りに奮える身体から、青白い電流が迸り、バチバチと音を立て始める。

「ま、まさか…!」

「ズー…ケン…?」

アサバス達ダイナ装備や、レーガリン達は目を疑った。彼らは、今、己が見ている光景が信じられなかった。だが、ズーケンの身に今何が起きているのか、それは理解していた。だからこそ、信じられずにいたのだ。

「ガアアアアアアアアアッッッ!!!」

次の瞬間、ズーケンは喉が張り裂けん程の咆哮を上げる。同時に、彼の傷だらけでボロボロな小さな頭、腕、脚、尾、その身体全てが、電流がバチバチと段々音を大きく立てながら徐々に巨大化していく。

「これって…やっぱり…!」

レーベルを始め、誰もがズーケンの身に何が起きているのかを理解する頃には、ズーケンは、巨大化を終えていた。ズーケンの変わり果てたその姿に、誰もが言葉を失った。それは、かつて大昔の地球上に栄えた恐竜、ズケンティラヌスそのものであった。ズーケンの身に何が起こったのか。それは、ダイチュウ人が命の危機に瀕し、溢れんばかりの激情が身体中を駆け巡った時に起こる、キョダイノガエリであった。

「グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!」

キョダイノガエリを起こし、キョダイナソーとなったズーケン。彼の、強い怒りと悲しみが入り混じった咆哮が、ボンベエ盆地全体を震わせ、木霊していた。


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