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ダイ1時代 僕はズ―ケン ズケンティラヌスだ

初めて小説を書きました。

未熟なところが多いと思いますが、温かい目で読んでくださったら幸いです。

11/8誤字を修正しました。

ここは地球ではない。地球に生きる人類が長い年月をかけて築き上げてきたような街や文化、文明が存在している星、ダイチュウ星。そこにはかつて地球に栄えた恐竜をまるでモンスターを捕まえて育てるゲームに出てきそうな姿をした、ダイチュウ人と呼ばれる住人が暮らしている。彼らは我々人間と同じように学校や会社に行く等して日々の生活を営んでいる。簡単に言えば、我々人間の暮らしをダイチュウ人達はそっくりそのまま送っているのだ。他にも人間と同様、中には衣服を身に纏う者もいるがその大半は女性か、お洒落を楽しみたい者である。また職業に因んだ服装をする者もいるが、基本何も着ない者が多い。

これから語られるのは、そんなダイチュウ星に生きるとある少年の物語である。



そこは辺り一面真っ白だった。その中心で一人佇む少年がいた。彼の名はズーケン。ティラノサウルスに近い姿をした恐竜、ズケンティラヌスの少年だ。人間に換算すると、9歳に値する。がっしりした両足に比べ、か細い二本指の両手が特徴である。因みに、爪は相手に怪我をさせないよう丸く切られており、彼のような鋭い爪や角を持ったダイチュウ人のエチケットとなっている。

「…やや?ここは?」

少々薄めな黒い体色をしたズーケンは、己が立たされている状況が理解できず、首を右、左、右に動かしながら辺りを見渡している。

「ズーケン、こっちだ」

背後から名を呼ばれたのでズーケンは振り向く。しかし、誰もいない。

「おかしいなぁ…」

再び前を向くと、丁度正面に、老けた自分が立っていた。

「ああああだっ!だっ!だっ⁉」

「落ち着け落ち着け。俺だよ、俺俺」

小さな両手と尾を空高く上げ仰天するズーケン。老けたズーケンに似た老人が、冗談だと言わんばかりに笑う。彼は右手の指で自身を指差しながら、左手でズーケンの肩をポンポンと叩いてなだめる。その甲斐あってか、ズーケンは少し落ち着きを取り戻す。

「ええっと…どなた様ですか?」

落ち着きを取り戻したズーケンは、老人の顔を覗き込むように見つめる。自身とそっくりな顔、自身より少々濃いめな黒い身体。俺俺言われたものの、どこかで見たような気もするがどうも名前が出てこない。

「まあ、そうなるよな。俺は、お前の死んだ祖父さん、ラ―ケンだ」

「ややぁ!道理でどっかで見たことがあると思ったら…」

死んだ祖父さんだと言われ、仏壇に飾ってあった笑顔の遺影が過る。

「それで、その、死んだラ―ケン祖父ちゃんが…なんの御用ですか?」

緊張からか、少々喋りが変になったと感じたズーケンだったが、ラ―ケンにとってはいつも通りの孫の話し方だった。なので全くといっていい程気にしていない。

「時間ないからさっさと言う。ダイナ装備4人と1個集めて、マニヨウジをあの世に送って、この星とバウソーを救ってやってくれ」

「…やや?」

いきなり、知らない単語が飛び出してきた。何を言っているのか、さっぱり分からない。

「ダイナ装備ダイナ装備。そんでマニヨウジからバウソー救って…」

「え、えっと…ダ、ダイそー…マニ、マニヨー…?」

ラーケンの口調は、焦りを感じさせるものであり、少なくともズーケンは、事を急ぐ事態であることは分かった。だが、肝心な亡き祖父が何を伝えようとしているのかは、やはり分からない。ざっくり復唱したものを聞いても、なんのこっちゃと言わんばかりに右、左、右と首を傾げる。

「詳しいことはアサバスに聞け」

「アサバス…どなたですか?」

知らない単語の次は、知らない人が飛び出してきた。

「傘の、体をしたダイナ装備で、俺の親友の一人だ。今に家に来るだろうから、もうちょい待ってろ」

「やややややや」

一体どんな人物なのかと思ったら、そもそも人ではないのかもしれない。とにかく情報が多すぎて、最早祖父が何を言っているのかさっぱり分からなかった。しかし、祖父はお急ぎらしく、とにかく話に耳を傾けることにした。

「とにかく、マニヨウジの封印が昨日から緩み始めてきて、9日もすれば封印が解けちまうんだ」

「マニヨウジ⁉昨日⁉そりゃまた急な…」

マニヨウジ。今から60年程前、ズーケン達が暮らすダイチュウ星は、シゲン星からやってきたシゲン人の侵略に遭った。その際ダイチュウ星の侵攻の指揮を執っていたのが、マニヨウジである。

シゲン人は、かつて地球に繁栄した原始人に似た、霊力と言われる自身の魂の力を操る種族である。クロマニョン人のシゲン人であるマニヨウジはその中でも優れた力を持っており、迎え撃つダイチュウ人達を悉く返り討ちにしていた。しかし、ある日突然謎の失踪を遂げたことでシゲン人達はダイチュウ星から手を引き、戦争は終結したといわれている。また、その名はダイチュウ星では誰もが戦争と共に学校で教わる為、知らない者はほぼいないと言っていい。勉学はやや苦手なズーケンでも、戦争に関する授業は他とは感じるものが違うからか流石に覚えていたのだ。

「封印が完全に解けちまう前に、奴をあの世に送ってバウソーを助けてやってくれ」

祖父の話をどうにか理解しようと耳を傾けるズーケン。少なくとも、事態は一刻を争うことだけは理解出来た。しかしやはり、詳しい情報が欲しいのでもう少し聞き出そうとした時だった。

「時間だ。そろそろ起きろ。学校に遅刻するといけないからな。じゃ」

「やや、でも他のダイナントカの在りかは…」

「アサバスに聞け。また来る」

「や!ちょ!ちょ!ちょ!」

多くの謎を残したまま、ラ―ケンは未だに状況が理解し切れていない孫の前から、スゥっと霧のように消えていった。そして…。

「あ…」

目が覚めると、彼の目の前には小さな電球と見慣れた茶色い天井が広がっていた。





「ねぇズーケン。今日の君、なんか変だったよ。なんていうか…心ここにあらずっていうか、心ここにあらズーケンっていうか」

「ややや…そうかそうか」

放課後。ズーケンは学校にいる間、今朝の夢が気になって気になって仕方がなかった。その為授業中は勿論、友人と話している時もいまいち反応が悪かった。授業中はよく担任に注意され、友人と会話している時は今言われた通りである。

「んもぅ。またその返事だよ。僕らが話しかけてもそればっかじゃないか」

ズーケンの隣で、少々呆れながらもお怒り気味な青色の身体の彼は、レーガリン。トリケラトプスに似た姿をし、三角形のような尖った骨が王冠のように並んだ頭部が特徴の恐竜レガリケラトプスの少年で、ズーケンのクラスメイト且友人である。悪気はないものの物言いが悪く、時に周囲から反感を買ったりする等ズーケンを悩ませることがたまにある。さらに周りからも顰蹙を買うこともある為、友人は今この場にいるズーケンと彼らの後ろにいる二人の少年のみである。因みに本来なら4足歩行の種ではあるが、彼のように二足歩行でも歩くことも出来る。無論、四足歩行で歩くことも何の問題もないが、握手する際等を考慮し手を拭くものを持参している者が多い。

「なんだか、いつもより元気がない気がしたんだけど…何かあった?」

ズーケンの背後から、不安そうな顔で彼を心配しているのは、ステゴサウルスに近い姿をした、ヘスペロサウルスのヘスペローだ。緑色の彼は、人見知りであり繊細であり他の二人より口数は少ない上、仲の良い友人も少ない。因みに、彼はレーガリンとは違い4足歩行で歩いており、その丸い棘が並んだ背には両手を拭く為のハンカチが入った巾着がかけられている。

「やや…ううむ…」

そんな彼を心配させない為にも、亡き祖父が夢で伝えてきたことは伏せてどうにか濁そうとするが、文字通り場の空気が濁ったようだ。

「寝不足…とかじゃねぇよな。だったらとっくの昔に寝てるし」

ヘスペローの隣に、レーガリンの後ろにいるのは、ペテイノサウルスというプテラノドンと同じ翼竜の仲間である種族のペティ。頭部と尾以外はプテラノドンとそっくりではあるが、鋭い歯が並んだトカゲのような顔と、細長い尾にひし形のような先端が特徴である。また、翼竜は他の3人の種とは違い恐竜の仲間ではない。ズーケンとは他の二人とは違い3年生になってからの付き合いではあるものの、ズーケンからしてみれば、他の二人より良い意味で気を遣う必要がない居心地の良いれっきとした友人である。そして黄色の彼の種族である翼竜は、翼のような腕はあるものの本来なら自力で飛行することは出来ない。ただし、ダイチュウ人である彼らの場合多少は可能である。普段は4足歩行で移動しているが、今は手が汚れないようにする為レーガリンと同じく二足で歩いている。

「まあそれよりズーケン、今からズーケン家行っていい?」

「やや!」

ズーケンが何と言い訳しようか考えていた時、突然レーガリンから切り出されて一瞬戸惑う。

「ねぇいいでしょ?最近あんまりズーケンと遊んでなかったし、どう?」

「ううん…」

ズーケンは悩んだ。確かに最近放課後、友人達ともあまり遊んでいない。というのも、ズーケンは放課後とある場所に通っているのだ。これから今日も行くつもりなのだが、それを話してしまえば友人達に心配をかけてしまう気がして、言い出せなかったのだ。

「まあ…今から流石に急すぎるしな。俺だって無理だし」

「そう。じゃあ明日は?」

「明日…」

レーガリンの表情が曇り、声のトーンも落ちたので少々焦りと申し訳なさが生まれるズーケン。明日は母が出掛けるので留守番を頼まれているが、一応友達を呼んでも良いと言われているので呼べなくもない。

「分かった。いいよ」

これ以上断るのは申し訳ないのとそろそろ遊ばないと彼が機嫌を損ねてしまうので、ここは一度彼を自宅へ招き入れることにした。

「やった!」

やっとズーケンと遊べることに、レーガリンはさっきまでの曇り模様なしかめっ面だったのが嘘みたいに、パッと晴れるぐらいレーガリンは晴れやかな笑顔を見せる。彼にしてみれば、数少ない友人の一人であるズーケンとただ一緒にいたいだけなのだ。

「ヘスペローとペティも、ウチに来る?」

「いいのか?なら、お邪魔するわ」

「え…えっと…」

レーガリンを招き入れる城は、二人も誘わねばならない。ペティは乗り気だが、ヘスペローは、どこか気まずそうな様子だ。

「どうした?」

「え…えっと…」

ズーケンに尋ねられると、ヘスペローは俯いてしまう。

「僕は…あの…その…」

「別に、行きたくないなら行かなくてもいいけど」

「あ…」

ヘスペローの歯切れの悪くはっきりしない態度に、少々苛立ちを覚えたレーガリンの突き放すような物言いは、ヘスペローの言葉を完全に詰まらせた。四人の間に冷たい空気が流れていることを、当のレーガリンは気付いていない。

「お前…」

「ヘスペロー!あのさ…本当に、無理する必要はないんだよ」

空気の悪化を察知したズーケンが、眉間にしわを寄せたペティが言葉を発する前に必死に声と言葉を絞り出す。

「なんか…遊びに行こうよって誘われた時、断っちゃうと付き合いが悪いとかもう遊んでやんないぞとか冷たいとか…そういうこと言われちゃって、仲間外れにされちゃう時ってあるよね…。どうしても外せない予定があったりただ単に気持ちが乗らなかったりして、応えられない時もあるっていうか…そんな日もあると思うんだ。僕はそんな時があったっていいと思うし、誰にでもあると思う」

「…うん」

ズーケンとヘスペローの脳裏に、保育園や小学1、2年生の頃の出来事が過る。ズーケンはその現場を見たことがあり、ヘスペローは実際に経験したことがあった。

「誘ってくれるのは嬉しいし、だからこそ断ったら申し訳なくなるけど…やっぱり誘ってくれたからには、楽しまなくちゃ。だから僕は、ヘスペローが楽しめそうな時に遊べばいいと思うし、僕はヘスペローが楽しんでくれたら嬉しいよ」

「!」

ズーケンは、ヘスペローは誘ってくれた自身と遊びたいという気持ちも無下にしたくない思いと、事情があって楽しめそうにない状態との板挟みに悩んでいたのではないか、そう考えていた。

「ヘスペローの気持ち、相手も分かってくれたらいいなって思うんだ。折角友達になれたんだし、お互いの気持ちをちゃんと言えてお互いの気持ちをちゃんと理解出来るようになれたらなって。だからもし、また僕が遊びに誘った時にヘスペローの気持ちが乗らなかったら、その時は遠慮しないではっきり言っていいよ。言い辛いかもしれないけど、僕は大丈夫だよ。もし明日僕の家に来れなくても、ヘスペローの付き合いが悪いわけでも冷たい訳でもない、たまたまタイミングが合わなかっただけなんだよ。だから、気にしないでいいからね」

「…うん」

ズーケンは緊張しながら言葉を探しながら、自分の経験から得た考え方と思いを伝え、最後に笑顔を作った。今回のレーガリンの誘いにはおそらく乗り気ではないと読んだズーケンは、断りづらい性分なヘスペローに、あえて逃げ道を作ったのだ。

「ズーケン…ありがとう」

ヘスペローが嬉しそうに微笑むと、ズーケンはひとまず安心出来た。自身の言っていたことが、間違っていなかったと思えたからだ。

「でもやっぱ、僕も行くよ」

「へ?」

だが、ズーケンが作った逃げ道に、ヘスペローは通らなかった。

「ズーケンが、僕のことをちゃんと考えてくれているのは伝わったし、その気持ちも嬉しかったよ。確かに、僕は見ての通り友達付き合いが苦手で…あ、でもズーケン達と一緒にいる時は楽しいよ!でも、どんなに楽しくても、誰かといると疲れちゃうみたいで…。だから、土曜日や日曜日はお家でゆっくりしたいって思ってたんだ」

「やや、そっか…」

逃げ道が不要だったことには少々戸惑ったものの、ズーケン自身も人疲れしやすいところもあるので、休日はゆっくりしたい気持ちはかなり共感出来た。

「それと、僕が迷ってたのはもう一つ理由があって…僕がズーケンの家に行ってもズーケンは嬉しいのかなって思ってて…。でも、今ズーケンがああ言ってくれたおかげで、僕はズーケンの家に行っていいんだって分かったよ。考えてみれば、僕はズーケンの家に一度も行ったことがなかったから、一度は行ってみたいって思ったんだ。だから…僕も、いいかな?」

折角ズーケンが断りやすい状況を作ってくれたものだから、ヘスペローは猶更本音を言い辛くなってしまったのだ。だが、だからこそズーケンには自身の本当の気持ちを話すべきだと考え、勇気を出したのだ。

「…そうだったんだね。勿論、ヘスペローもおいでよ」

「うん!ズーケン、ありがとう!」

自身の捉え方は間違っていなかったが、量り切れないところはあった。ヘスペローは、自身の家に遊びに行ってみたかったものの、自身への配慮があったのだ。ヘスペローの気持ちは嬉しかったものの、その気持ちを理解出来なかったことを悔やむ気持ちが、ズーケンの中では強かった。だが、それがバレないよう友人には明るい笑顔を作った。この時は少々疲れる。

その後のことは、昇降口の隅で打ち合わせを進めた結果、明日土曜日午前10時にズーケンの家に集まることになった。集合時間に関しては、一秒でも早くズーケンと遊びたいレーガリンが提案し、皆の休日の起床時間を考慮した上やや強引に彼が決定を下した。



友人達と別れた後、ズーケンは今日レーガリン達と遊べなかった理由、最近通うようになったとある場所を訪れた。

「ズーケン。来てくれたのか。いつもありがとうな」

ベッドから半身を起こし息子を歓迎するのは、ズーケンの父ズケンタロウ。息子であるズーケンと彼にとって父親であるラーケンよりも濃く黒い身体が特徴の彼は、人間に換算すると36歳に値する。

「けど、悪いないつも。学校が終わるといつも来てくれて…あんまり無理しなくていいんだぞ?」

ズーケンは、ズケンタロウが入院してから学校が終わると、ほぼ毎日父の元へ見舞いに通っている。ズケンタロウは、息子が見舞いに来てくれることを嬉しく思いつつも、少々申し訳ない気持ちにもなっているのだ。

「ううん。僕は、父ちゃんに会いたくて来てるからいいんだよ」

「そうか…ありがとう。でも、出来る時でいいからな」

「うん…ありがとう」

ズケンタロウが入院している病院は、学校から自宅までの道にはない。ズーケンは学校の帰り道から寄り道し、20分程かけて通っているのだ。帰りも遅くなってしまう為ズケンタロウは、見舞いは無理せず来られる時にしてほしいと考えていた。だがズーケンの出来る時は、やろうと思えば出来る時である。彼の気遣いでお節介な性分上、多少の無理はしてしまうのだ。

「父ちゃん。具合はどう?良くなってきた?」

「ああ。少しずつだけど、良くなってきているよ。きっと、近い内に退院出来ると思うよ」

「ほんと⁉良かった~」

ズケンタロウは元々病弱であり、数日前過労で倒れた際、病にかかっていることが分かった。だが、幸いなことに初期段階で見つかった為、大事には至らず現在は治療に励んでいる。

「悪いなズーケン。俺が倒れちゃったばっかりに…お前と母さんには心配かけちゃってるよな…」

「ううん。そんなことないよ。こうして父ちゃんと話せるだけで十分だよ」

「そっか…ありがとな」

自身が倒れてから、妻と子供を不安にさせたり心配かけたりしているというのに我が子は優しい。ズケンタロウは思わず、涙が出そうになった。ただ、ふと目に入った病室内の時計の時刻はまもなく5時を差そうとしている。自身が入院する前なら、ズーケンは既に家に帰っている時間だ。そろそろ妻が心配するだろう。

「俺は大丈夫だから、そろそろ帰って母さんを待っててあげなよ。お前が家にいなかったら、母さんも心配するだろうからさ」

「そうだね。それじゃ父ちゃん…またね」

ズーケンが踵を返し、病室を出ようとした時だった。

「ズーケン」

ふとズケンタロウは思い立ち、我が子を呼び止め振り向かせる。

「なんかあったら、いつでも言ってくれ。俺は、身体は弱いけど、お前を思う気持ちは誰よりも強いからさ。母さんも、俺と同じだよ」

「…ありがとう」

一瞬、祖父のことを話そうかと考えたズーケンだったが、治療に励んでいる父には心配はかけられなかった。気持ちだけ、受け取ることにした。





時刻は午後9時半。ここはズーケンの部屋。彼は見舞いを終え帰宅した後、夕食を済ませ、明日に備え布団に潜っていた。

「…」

瞼を閉じたズーケンの脳裏には、今日一日の出来事が過っていた。夢に祖父が出たことや父の見舞いに行ったこと。中でも友人達と明日遊ぶ約束をする際のヘスペローとのやり取りが強く残っている。もう少し、彼の思いをきちんと汲み取れなかったものか…。ヘスペローは救われていたとはいえ、ズーケンにはそれが心残りであった。さらにもう一つ、大きな気がかりがあった。

(祖父ちゃん、出てくるかなぁ…)

明日、友人達が家に来ることへの緊張と、夢枕に立った亡き祖父ラ―ケンが再び夢に現れるかどうかの不安である。夢はよく見るが、起きた時または一日が終わる頃にはその内容の大半は忘れている。ただ、今回の夢は何かが違う。やはり、何か意味があるのかもしれない…。そんなことを考えていると、景色は暗闇から、昨晩見た真っ白な空間へと変わった。

「む…ここは…」

右、左、右と、横断歩道を渡るかの如く辺りを見渡すズーケン。

「ズーケン」

ズーケンが最後に右を向いた時、丁度反対側から名前を呼ばれた。

「やや!ラ―ケン祖父ちゃん!」

左を向くと、昼間の夢に会った亡き祖父ラーケンの姿があった。

「今朝は悪かったな。いきなり出てきてびっくりしただろ」

「やや…まぁ…」

正直、今もびっくりした。亡き祖父は苦笑いしながら頭を下げ、右手の二本指で頭を掻く。だが、その両腕は短く、頭を掻くにも首を垂れなければならないのだ。

「祖父ちゃん…やっぱり、あの話は…本当なの?」

とても現実離れした話なので、念には念を込めて再確認する。

「ああ。全部本当だ。ダイナ装備のことも、マニヨウジのことも、バウソーのこともな」

「ややぁ…そうなんだ…」

改めて祖父から、今朝の話は事実だと念を押されるズーケン。あくまで夢の中の話なので、事実かどうかは分からない。だが、やはりズーケンにはただの夢とは思えない。

「色々時間がない。他の奴らの居場所はアサバスから教えてもらえ。ダイナ装備を5つ集めたらボンベエ盆地に行ってマニヨウジの封印が完全に解ける前にバウソーに憑りついた奴をあの世に送って、あいつを助けてやってくれ。詳しいことはアサバスから聞け。明日家に来るからさ」

「やや!」

内容は大方昨晩聞いたことに加え、その詳細が少し語られる。明日は、レーガリン達が家にやってくる。アサバスと鉢合わせするのだろうか。

「ズーケン、いいか?時間はもうあと5日しかない。それまでにダイナ装備の皆を捜し出してくれ。ダイナ装備は全部で5つだ。マニヨウジが復活すれば、大勢の。だから、今度こそ奴をあの世に送って、俺の代わりに人々を…バウソーを救ってやってくれ」

ズーケンが考えている間もラーケンは話を続ける。ズーケンは、祖父の真剣そのものの表情と焦りを感じさせる口調から、祖父が語るマニヨウジのことがどれだけ大ごとなのかが、おのずと伝わってくるような気がした。もしかしたら、それ以上かもしれない。

「お前には…想像できないぐらいの苦労をかけちまうと思う…けど、いざとなったら友達とかズケンタロウ、父ちゃんにも頼れよ」

その時のラ―ケンの表情は、先程までとは打って変わって優しかった。また、ズーケンには何故だかその言葉が心に深く刺さったように感じた。

「祖父ちゃん…」

「それじゃ、またな」

次の瞬間、ズーケンの視界には茶色い木造の天井が映った。祖父からの夢のお告げが果たして事実か否か…それが今日、明らかとなる。



時刻は間もなく午前9時半。ズーケンの部屋には、部屋の主と昨日遊ぶ約束を交わした3人の友人達がいた。ゲーム機でもあればそれで遊ぶ予定だったが、ズーケンの家にはその類のものは一切なく、結局学校と同じ様にひたすらお喋りに徹することになった。彼らの話題は、学校での出来事や最近流行りのテレビ番組等々、学校で話す内容と大差なかった。だがそれらを一通り話し終えると、今度はレーガリンがひたすら日頃の愚痴を語り始める。両親や周囲の同級生達への不満を片っ端から聞かされ、ペティやヘスペローも疲弊する中、ズーケンは疲れをほとんど感じていなかった。昨日、祖父が話していたアサバスのことが頭の中の大半を占めていた為、友人の愚痴などほとんど耳に入らなかったのだ。

「なんか…また心ここにあらズ―ケンだねぇ」

「やや?」

昨日も同じことを言われた気がする。しかも、昨日よりはムスッとした顔だ。

「そういや昨日もそんな感じだったな。なんかあったのか?」

「やや…それは…」

昨日に引き続き心ここにあらズーケンには、ペティも流石に心配になった。ヘスペローも、心配そうな目でズーケンを見ている。だが、本当のことを答えるわけにはいかない。

(ピンポーン)

「!」

その時、呼び鈴が鳴った。まさか…。ズーケンはその場から逃げ去るように玄関に向かう。部屋を出る直前、ヘスペローから呼び止める声が聞こえたが、応えられそうになかった。そしてズーケンが玄関に着く直前、玄関が開く。

「え?」

思わず立ち止まるズーケン。玄関を開けて早々家に侵入してきたのは、レモンのように黄色い身体をしたケルベロサウルスの少年である。ケルベロサウルスとは、簡単に言うとサムズアップしているような特徴的な親指がないイグアノドンといった方が近いだろう。また、彼の右手には古びた銀色の傘が握られており、それはまるでイルカを模しているようにも見える。目の前で堂々と不法侵入されたことに衝撃を受け唖然とするズーケンだったが、それ以上の衝撃が待っている。

「邪魔するぜ」

「こらっ!ルベロ!勝手に人の家に入るな!」

「しゃーねーだろ!きんきゅーじたいなんだしよ!」

「だが、最低限の礼儀は守るべきだ!一度外へ出て待つんだ!」

「やだよめんどくせー!つーか、目の前にいるっての!」

「何ぃ⁉」

ルベロと呼ばれた少々口調の荒く軽い少年と、その右手に握られたカジキマグロのような生物を模した古びた傘が喧嘩している。ズーケンは目の前で起こったことが理解出来ず、彼らが愕然とした己を見ているものの、頭が全く動かない。

「あ…や…あの…えっと…」

「見ろ!貴様が無断で家に入るからだ!彼を呆然とさせてしまったではないか!」

「え、あ…まーそうだけど…おめーも喋るからだろ…」

「む…それもそうか…」

開いた口が塞がる気配がないズーケンを前に、少年と傘は互いに落ち度を自覚し、落ち着きを取り戻す。そして傘は、ズーケンに明かす。

「申し遅れた。こいつの名はルベロ。そして私の名は、アサバス。60年前、マニヨウジを封印したダイナ装備の一人だ」


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