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オカルト同好会にようこそ  作者: 野田あご
第一章 それはまだ梅雨に入りたてのころのお話
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-09 中間報告会

 宮上先輩が見舞われた家庭科室の出来事の半分は人為的だった。

 あの南とかいう先輩がドアノブをガチャガチャしてドアを蹴破ろうとした。

 じゃあ宮上先輩を閉じ込めたのと、南が去り際に聞こえたという少女の笑い声は一体誰だったんだろう。


「二月」


 週明け月曜日の放課後。いつもの教材室に顔を出すと、珍しく渡瀬が一人でそこにいた。

 A5版のノートを開いてペンを動かしていたので絵でも描いていたのかもしれない。美術部だし。

 近づけばノートを閉じてしまったので何を描いていたかはわからなかった。

 いずれにせよ、こいつはいつも神月とセットで行動しているから単品なのは珍しい。


「家庭科室、何かわかった?」

「幽霊が出るなんて聞いたことがない、みたいな。そっちは?」

「守屋先輩って派手なタイプだったんだけど、最近ちょっと落ち着いてきた、みたいな話ぐらい」


 所詮俺たちは素人だ。

 調査すると言ってもその程度しかわからない。


「あと、さ、宮上先輩なんだけど、あの人小学生の頃『霊感少女』と呼ばれてたんだってさ」

「『霊感少女』?」

「何か近い未来に起こることをまるでわかっているみたいに言い当てたとか、もうすぐ死ぬ人がわかるとか」

「ふうん、成長するにつれてそういうのが消えた、とか?」

「もともと狂言だった、とか」



 信じたら呪いが強くなる、とか逢魔が刻とか、そういうオカルトっぽいことを何度か口にしていた宮上先輩を思い出した。

 さらっと話をしていたが、そういえば何だか詳しそうな感じだった。

 結構ぼんやりしている感じだから気づかなかった。


「案外、隠れオカルト好きとか」

「それ、会長が喜んで勧誘に行くから」


 巻き込むのはかわいそう、やめなよ、と渡瀬は顔をしかめている。

 

「あのぼんやりした感じ、白い着物着て柳の下に立ってたら絶対幽霊だと見間違える気がする」

「二月! ひどすぎ! でも、確かにそういう感じするね。ぼんやり輪郭が細くて消えちゃいそうな感じ」


 その言葉に渡瀬も俺と同じ印象を持っていたのだと知る。 


「あ、志保! もう来てたんだ!」


 神月が今日も元気にやってきた。

 この時間にここにいるということは、部活動が休みなんだろう。


「二月君はいつもいるよねえ」

「いない日もあるんだけど!」


 暗に暇人と言われているようで思わず抗議する。

 俺もちゃんと別の部に所属はしている。活動には積極的に参加していないだけ。要するに幽霊部員だ。

 オカルト同好会と掛け持ちする幽霊部員ってなかなかそれっぽいのではないだろうか。


 学校指定のサブバッグを適当な机の上に置くと神月も輪に加わった。


「おうおう、一年生たち、こんな早い時間から感心感心」


 と、会長も教材室にやってくる。

 月曜日から全員集合するなんて、何だか変な感じだ。

 会長も椅子を引きずって俺の横に適当に座れば、今日の活動が始まる。



 先ほど渡瀬と話した内容を会長と神月にも共有した。


「守屋先輩が大人しくなったってどういうこと? 私が聞いた話だと、守屋先輩って二年生になってから、彼氏をとっかえひっかえしてて、今四人目ってきいたけど」

「お盛んな!」


 会長の合いの手はギリギリアウトな発言だが、いつものことだ。誰もツッコミを入れない。


「クーリングオフなんじゃないの?」

「三人は多いだろ」


 俺、ゼロだし。

 多分会長もゼロだし。


「で、まあ、元カレの方にもちょっと探りを入れてみたんだけど」


 神月がさらっとすごいことを言った。

 なかなかの行動派。別れた相手の話なんてタブーじゃないのか。


「元カレ三人全員、別れを告げたのは元カレの方なんだって。三人とも『別に嫌いじゃなかったけど、別に好きな人ができたから』って」

「三人とも!?」


 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 三人全員なんて、そんなことってあるのか。

 

「えー、失礼すぎんだろ、その理由って」

「二月は真面目過ぎ。派手グループがそんな真面目なわけないじゃん、適当に付き合って適当に別れるんでしょ」


 渡瀬にクールな口調で吐き捨てられれば黙るしかない。

 派手な連中って……やっぱコミュ強だ。


「宮上が霊感少女って聞いたことはあったけど、そんな感じするか?」


 話題を変えながらも、会長は懐疑的な様子だ。


「小さい頃の予言とかそういう話だったか? んなもん偶然が重なって更に大げさに噂が広がった系の話だろ」

「むしろ宮上先輩自体が幽霊っぽいって話を今二月としてて」

「ひどい! 二月君、ひどいよ!」


 神月が俺を批難するが、同じことを渡瀬も思っていたわけで。

 渡瀬に視線を送るが、涼しい顔して目を逸らしていやがる。


「凌、お前なぁ……」

「会長には言われたくないです!」


 会長にだけは! 絶対に!


「人聞きわるいな。……オカルト同好会にスカウトしとこうかなって思っただけで、凌より全然マシなはず」

「それは、マシじゃなくて、増える方の増し」


 冷静に渡瀬がツッコミを入れている。


「とりあえず今わかっていることをまとめると、守屋先輩が意外と遊び人なこと? 浮気性なタイプが好みなこと? 宮上先輩が幽霊みたいな人でオカルト同好会にはぴったりなこと?」


 強引に神月がまとめはじめる。――何か変なこと言っているようにしか聞こえないが、どこかあっているような気もする。

 

「家庭科室には幽霊は出ないこと」


 そんな神月に乗っかるように、俺も調べてきたことを付け足してやる。


「あ、そうそう、体育館に女の子の幽霊が出るなんて話、運動部員で知っている人いなかったよ」


 更に神月が付け加えた。


「だから体育館に女の子の幽霊は出ない」

「守屋里美の性格が変わった」


 そこに、渡瀬も加わった。


「もっと明るくて派手なタイプだったらしいよ。今は何か、暗いっていうか、大人しい? 同じ大人しいでも宮上先輩とはちょっと違うよね」


 あとは、……家庭科室にいた宮上先輩を襲おうとしたのは幽霊じゃなかった、ということだが、これは言わない方がいいだろう。会長もそれに関しては口に出そうとはしていない。


「……というわけで、結論。全然わかんない!!」

「駄目じゃん」


 神月の総括にすかさず渡瀬がツッコミを入れる。

 まあ、そうだな。この調査結果じゃそういう結論しか出せない。

 

「調べる方向性が間違ってるのかなあ?」

「方向性というと?」

「私たち、何を調べてるんだっけ?」


 神月に改めて問題提起されて少しだけ考えた。

 確かに、今までは調べられることを手当たり次第調べていただけだが、結局何のための調査だったのか、というと。


「呪いは本当にあるのかってことだろ?」


 何を当たり前のことを? と言いたげに会長が言ってくる。

 そうだ、スタートはそれだった。

 

「宮上先輩が、『呪いは認識した瞬間に完成する』って言ってたけど。呪われているって気づかなきゃ呪いとして成り立たないってことか」

「宮上先輩が? てか二月君、宮上先輩とそんな話ができるほど親しいの? いつの間に?」

「親しいってわけじゃ」


 ただ帰りが一緒になって、階段から落ちそうになったところを助けただけ、それだけだ。

 あ、そうだ、階段に現れたあの腕、この二人にも話していいものなんだろうか。

 会長に視線をやるが、会長は何か考え事をしているようで俺の視線には気づいてくれない。いいや、内緒にしておこう。この二人、特に神月に話したら明日にはすごい勢いで噂になりそうだ。『階段の腕』とかって七不思議のひとつとして。


「ただ、何か足を踏み外して階段を落ちそうになった宮上先輩を助けただけ」

「踏み外したって……、大丈夫かな? 宮上先輩」

「そしたら、それを見ていた守屋先輩が階段を落ちそうになるなんて呪いのせいだって騒いで大変なことになりそうだった」

「なるほど、なるほど」


 神月はリアクションが大きい。

 逆に渡瀬は感情が表情に出にくいタイプだと思う。

 興味深そうに大きく頷いている神月と、腕を組んで無表情で話を促す様子の渡瀬と。


「で、まあ、そこで『信じるほど呪いの力が強くなる』? とかって宮上先輩が言ってて」

「呪いはプラシーボ効果だっていう考えもあるよな」


 と、これは会長。


「プラシーボって、効き目があるって思いながら飲めばただの水も薬になるって奴だっけ?」


 雑な解説だが、神月のそれはわかりやすかった。


「呪いがあるって信じると、それだけで悪いことが起こるということ?」

「いや、普通に起こった悪い出来事を、全部呪いのせいだって思い込んでしまうってことだ」


 会長の言葉を聞いて思い当たる節があった。

 俺が力を使う時、大抵の依頼者が『霊のせいで、全てがうまくいかない』と言っていた。確かにあの黒いモヤの影響もあるのだと思う、が、何でもかんでも原因が幽霊のせいと考えるのはどうなんだろうと感じたことは一度や二度じゃない。


「じゃあ、呪いは守屋先輩の気のせいってこと?」

「そのまとめ方は雑だと思う、さすがに」


 気のせいで済ますには、あの表情は鬼気迫っていたように思う。

 慌てて俺は口を挟んだ。


「守屋先輩が呪いだと言い切る何かが宮上先輩にあるんじゃないの」


 渡瀬が切口を変えて全員に問いかけた。

 『何か』とは、なんだろう。

 ここで考えていても答えなんて出ないってことだけはわかる。


「宮上先輩に何があるんだろう? ちょっとばかり仲良くなってみようかな」


 神月は冗談っぽくそんなことを言っていたが、何か本当に仲良くなってきそうで怖いんだけど。


「じゃあ、宮上先輩のこと詳しく調べてみることにする?」

「そうしよう。頑張ろうね、二月君!」

「え、俺?」

「だって、今のとこ宮上先輩と一番接点あるのって二月君でしょ」


 そう言われてみればそうだが。

 今仲良くなろうかなって言ったのは神月だろう。

 

「俺はもうちょっと、『女の子の霊』って方で調べてみようかと思う」


 会長はそう言った。


「私はもうちょっと守屋先輩について調べてみる。ちょっとだけ性格が変わってるっていうのが気にかかるんだよね」

「立て続けに三人に振られれば性格も変わるんじゃ?」


 ストレートに思っていたことを意見すれば、渡瀬に呆れたような視線を向けられてしまった。


「振られて性格が変わるような人が、次々と別の人と付き合うと思う?」

「……思わない」


 そうか、すぐに次が見つかっているのか。

 言われてみればそうだ。と、いうか、どうやったらそんなに次から次へと乗り換えられるんだろうなぁ。謎。

 思わず黙り込む俺と、他のメンバーを見やって、再び神月が元気に口を開いた。


「そういうことで、本日の活動おしまい。解散!」

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