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オカルト同好会にようこそ  作者: 野田あご
第一章 それはまだ梅雨に入りたてのころのお話
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-05 凌のアルバイト

「ちょっと考える時間がほしい」


 そう会長は相内先輩と宮上先輩に告げ、二人を先に帰した。


 何とも怖くて奇妙な話だったな、と思っていれば、会長と目が合う。


「どうするんですか?」


 周囲に『困ったことがあればオカルト同好会に相談してね☆』と宣伝してまわっていたのは会長だ。

 安易にそんなことを言っていた会長に責任をとってもらいたいもんだ。


「ああいうのは凌の担当だろ?」

「見えないんですよ!」


 渡瀬と神月には言いたくないから、聞こえないように小声で会長に伝えた。


「は?」

「だから宮上先輩には何にも『見えない』んです」


 だから相談されても何もできない。

 そう答えれば、会長は黙りこんでしまった。やっぱり俺を当てにしていたのか、と。

 まあ、わからなくもないが。


「呪われてるってさ、冗談でも言わないよね」


 神月が少しだけ嫌悪感をにじませた表情で言えば、渡瀬がその言葉に大きく頷いていた。


「もしかして、本当は幽霊も呪いもなくて、宮上先輩に対する嫌がらせなんじゃないの?」

「でも、守屋里美は宮上とクラスが一緒なだけで、グループも違うし、多分交流という交流はない」


 二人のやりとりに、気を取り直したのか会長が口を挟んだ。

 会長の言うことには一理ある気がする。


「宮上先輩ってよく見ると美人だから、やっかみなんじゃないんですか?」

「でも、宮上先輩は目立たないタイプでしょ、わざわざ攻撃する必要はないと思う」


 神月の問いかけに渡瀬がすぐに否定する。

 それも一理あるな、と内心で頷いて、


「守屋先輩ってどんな感じなんですか?」

「派手なギャル系」


 会長に尋ねれば、簡潔な答えが返ってきた。

 派手なギャルって。まあニュアンスはわからんでもない。


 先ほどまでここで語っていた宮上先輩は、目立たない地味なタイプだったと思う。

 タイプが違う二人は、感情のぶつかりあいもないだろう。

 地味な方が派手な方をうるさいなと思うことはあるだろうが、宮上先輩はおっとりしていて、どこかぼんやりしている感じで、周囲の人間がどうしようが意に介さない感じがした。


「見えないけど、何かがいる、か」


 宮上先輩も言っていた。守屋先輩が『いる』と言っているから『いる』んだろうと。

 

「二月くん、なんか気になることあるの?」

「幽霊がいるっていうのも、呪いっていうのも守屋里美の宮上先輩への嫌がらせってのが一番しっくりくるけど、動機がなさすぎて」

「……無差別な嫌がらせの可能性は?」

「それもあるかもしれないけど」


 神月の問いかけに、俺が考えていたことを吐き出せば、横から渡瀬がさらに問いかけてくる。

 聞かれてもわかりっこない。


「少し、調べてみるか」


 小さなため息とともに、会長がそう提案した。


「賛成! 気になるもんね。私、体育館の幽霊のこと、部活で聞いてみる。あと、守屋里美先輩がどんな人なのかっていうのも」


 神月が元気よく手を挙げた。

 彼女に任せておけば普段体育館を使う生徒たちから色々聞き出せるだろう。


「私も、部活で守屋先輩たちのグループの話聞いてみる。多分同じクラスの先輩がいたはず」


 続いて渡瀬も手を挙げた。

 渡瀬はクールに見えるが、好奇心はそこそこ強いと思う。多分このメンツの中で一番鋭いから良い情報を仕入れてきそうで心強い。


「じゃあ俺は、家庭科室の方調べてみます」

「あ、俺もそっち」


 俺の言葉に会長も手を挙げた。



 そんなわけで我らがオカルト同好会は、体育館の霊と呪いについて調査をすることなった。




「あ、俺、用事あるんで先帰ります」


 DVD鑑賞以外の活動ができるせいか、やや興奮している面々にそう告げて俺は自分のリュックを持ち準備室から退散した。


 まだ雨が降り出さない空を仰ぎながらもため息を漏らす。


 何だか、面倒なことに巻き込まれている気がする。

 もうやると言ってしまった以上決して出せぬ言葉を胸中だけでつぶやいて帰路を急いだ。



 

 *** ***



 

 もう常連客と言ってしまって差しつかえがないほど入り浸っているファミレスの一番奥の席に座り、俺は約束の人物を待った。

 ここ数ヶ月、学生だけでなく様々な年齢層の人からの依頼が増えてきたように感じていた。今日も一人目は社会人だったか。

 

「遅くなって、すみません」

 

 そう頭を下げながら俺の前の席に座るのは、別段目立った所もない普通の眼鏡サラリーマンだ。

 きちんとスーツを着て来るところは社会人っぽいなと感じた。

 対する俺はパーカーにジーンズというラフな格好だ。

 悲しいかな身長のせいでとても社会人には見られないだろうと内心自嘲する。

 せめてあと10センチ、いや5センチは欲しい。そうすれば舐められることもなくなると思う。


 もう10年近く「チビ」と侮られ続けた俺の切実なる願いなのだが、願い続けていればいつか叶うのだろうか。

 

「実は――」

 

 と語り出そうとするサラリーマンを一瞥し、すぐにその肩に手を伸ばす。正確には肩の上に在った『物』に。

 黒いもやのように『視える』それを無造作に掴んで、

 

 消えろ!


 と念じれば、モヤは手の中で静かに小さくなりやがて消えてしまった。

 

「はい、除霊終わり。別に経緯とか教えてもらわなくてもちゃんと消えたから。今後は、危険なとこにいかないことと、あんまり人の恨み買わないように気をつけて」

 

 感情をこめずに言い放ち、サラリーマンに手のひらを向けて差し出す。

 

「それじゃ、お支払いお願いします」

 

 サラリーマンはキツネにつままれたような表情を隠そうともしていない。

 首を捻りながらも財布を取り出すと、俺の手の上に千円札を乗せた。

 

「まいどあり~。どうぞお気を付けて!」

 

 と、元気に見送れば、やはり首を捻りながらも彼は立ち上がり、一度ペコリと頭を下げるとそのまま店を出ていく。


 立ち上がりもせずそれを見送って、受け取った千円札を財布にしまい込む。

 そのまま机に突っ伏した。

 この程度なら全然疲れるようなこともなかったが、『仕事』の後は精神的にくるものがある。

 

「今日はまだもう一人」

 

 呟いて顔をあげる。

 約束は30分後。それまで席を占領するのだ。何かオーダーしておくことにした。

 オーダー専用端末を操作して注文をして、再びテーブルに頭を伏せた。

 

「あんなに小さい物だけでも滅茶苦茶怯えてたなー」


 依頼のメールを思い出して呟く。

 最近の不運ぶりにはじまり、誰かに見られているような悪寒、そして夢見が悪いとつらつらと書かれていて、何とか助けてほしいと必死さが伝わる文章だった。


「あの人の感覚が鋭すぎるのか、それとも小さいのに力が強いのか……」


 自分の力だというのに、俺はこの力が何であるのか説明することができない。

 霊的な物が黒いモヤに見えて、それに触れて念じれば黒いモヤが消える。

 俺にできるのはそれだけだ。


 黒いモヤが一体何なのかなんてわからない。

 見えているそれの大きさや形が違うのはなぜなのかと聞かれたところで応える術などない。


 消せるけれど、俺の消しているものは一体何なんだろう。


 ただ、それを消せば、不運や霊障とも呼べるような妙な現象がぴたりとやむということはわかっている。

 それがわかっているから、こんな除霊とか怪しいうたい文句で依頼者を募り力を使っている。

 使い続ければもしかしたらそのうち黒いモヤが何なのかわかるかもしれない。

 そして俺のこの力の意味も。


「ホント、何度やってもわっかんねー……」


 ぼやいていれば、注文の商品をロボットが運んできたので顔を上げてそれを受け取ると、届いたフライドポテトを一つ摘まみ上げてかみつく。

 いつ頼んでも変わらぬ美味しさなのはありがたかった。

 

 「あー、30分は長いな。一人当たりの時間、15分設定にしとくか」


 待機時間が長すぎて間が持たない。そう思いながらもフライドポテトをもう一本口の中に放りこんだ。

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