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オカルト同好会にようこそ  作者: 野田あご
第一章 それはまだ梅雨に入りたてのころのお話
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-02 遥が語る相談事①

(遅くなっちゃった…)


 職員室の扉を閉め、宮上遥(みやかみ はるか)は小さく嘆息を漏らした。

 荷物を教室に置いたまま来たのは失敗だったと、ここで思い当たる。

 教室までの道のりを戻りながら、再度ため息を漏らした。

 職員室からなら教室に戻るより下駄箱の方が近い。鞄持ってくればよかった、と。


 「頭はいいが要領は悪いんだなあ」と先ほど冗談混じりに言った担任の顔を思い出して更に憂鬱になった。

 「頭がいい」はともかくとして、「要領は悪い」は図星だと思う。


 こんなに遅くなってしまったのは遥が今日日直当番だったからで、職員室に行かなければならなかったのは日直日誌を提出しなければならなかったからで。


 日誌だって『今日の一言』という今日一日の感想のようなものを書く欄がなければもっと早く提出できたはずだった。

 何を書いたらいいのか、散々迷った挙句、『梅雨の合間の晴れの日でした。夏らしい陽気に近づいてきたように思います』などというありきたりな文章でにごしてしまった。


 晴れたと書いたのに、廊下の窓から見える空はどんよりとした雲に覆われ今にも雨が降りだしそうなのは何とも重い気持ちにさせてくれる。

 

 電気は点いているもののどこか暗く、他に人影のない廊下を遥は教室へと急いだ。


 教室は本当に暗い。

 電気を点けなくても自分の机ぐらいは判別がついたのだが何だか寂しいような気がしてあえて電気を点ける。


 「ぴん」と何かをはじくような小さい音が響いて、一瞬の間を置いて蛍光灯が光る。

 誰も居ない教室は明るくなってもどこかわびしく、遥は少し後悔した。

 そのまま荷物を持ってとっとと出ていればよかったのかもしれない。とはいえ電気を消すのもおかしい気がして、そのまま自分の席まで行き、机の上にまとめたあった荷物を手に取った。


 確認のために窓からちらっと外の様子を窺う。雨はまだ降っていなかった。濡れずに帰れるかもしれない。


 小さな希望だったが帰る気力を取り戻すには十分だった。学校指定の通学バッグを肩にかけ踵を返そうとした途端――、


「あれ、宮上さん?」


 遥が入ってきた時に開けたままになっていた扉からクラスメイトが顔を覗かせた。


「え、ああ、相内さん」


 驚いて危うく悲鳴を上げるところだった。やってきたのが級友であったことに、胸をなでおろしながら彼女が教室に入ってくるのを見やった。


 相内絵美(あいうちえみ)、出席番号は必ず一番になると自虐とも自負ともとれる言葉を発しているクラスの中でも賑やかな部類の女生徒である。

 どちらかというと消極的な遥とはあまり接点がない。


「なんか教室電気ついてるから、誰か消し忘れたかと思ってさ、見にきちゃった」

「日直当番で残ってたから……」

「大変だねー」


 やや同情的な口調で絵美は言って、少し考えるそぶりを見せてから遥の近くまで歩み寄ってきた。


「ねえ、今から肝試しするんだけど、宮上さんも行こうよ」

「え」


 あまりにも唐突で、一瞬何を言われたのか理解できなかった。

 遥は顔が引きつっているのを自覚しながら絵美を見る。


「えーと、肝試し?」

「ひょっとして幽霊とか怖いって人?」


 からかうような口調で問われ、遥は首を横に振った。


「怖いとかじゃなくて」

「里美……同じクラスの守屋里美(もりや さとみ)ね、って霊感強いんだって。あの子が体育館がヤバイっていうからさ、行ってみようってことになって。怖くないんでしょ? ぶっちゃけあたし、怖いんだよね。人が多い方が怖くなくない?」


 守屋里美もクラスメイトの一人だ。

 絵美のように賑やかなタイプが集まるグループでいつも行動している。

 賑やかなグループにいてどこか冷めたような印象を受ける少女だが、霊感があるとは知らなかった。


「もう遅いし、体育館って開いてるのかな?」

「大丈夫だって。ほら、行こっ」


 半ば強引に遥は体育館へと引っ張られていった。



 *** ***



「電気、消してくるの忘れちゃったね」

「今更」


 ふふっと絵美は鼻で笑う。

 体育館の入り口の前で守屋里美たちがやってくるのを待っていた。


「今から肝試しだってのに的ハズレなこと言うの? 本当に怖くないんだ」


 おどけたような口調で言われても、遥自身困ってしまう。

 この薄暗い中で体育館に入るのが怖くないかといわれたらやはり少し怖い。だが、しかし。


「あの、相内さんって、幽霊って信じる?」


 口にして我ながら変な問いかけだと感じた。

 何か付け加えた方がいいんだろうか、と絵美の様子を窺っていると、やはり軽い口調で答えを返してきた。


「だって、霊感強い里美がいるっていうんだからいるんでしょ」

「相内さんは居るってわかるの」

「それを確かめに行くんでしょ」


 そうだよね、となぜか遥は納得してしまった。

 理屈なく絵美の言葉には説得力があった。


「絵美ー」


会話が途切れ二人で黙りこくっていると、校舎へと繋がる廊下から話題の守屋里美と菊池彩子(きくち あやこ)が連れ立ってやってきた。


「おまたせっ。やっぱ香奈の奴帰っちゃったみたい」


 怒っている、というよりは仕方ないといった様子で彩子は言って、肩をすくめる。里美は何とも思ってないのか無表情だ。

 絵美と彩子と里美と、そして今名前が挙がった桜井香奈(さくらい かな)の四人が普段よく一緒に行動しているグループだ。

 賑やかな彼女らがクラスの中心的グループと言っても過言ではない。


「って、あれー?宮上さんだ、どしたの?」


 近くまで歩み寄ってきて、ようやく遥の存在に気づいたのだろう、彩子が尋ねてくる。

 咄嗟に答えられずに遥が口ごもると絵美が代わりに答えてくれる。


「あ! 私が連れてきたの。肝試しなんて怖くないっていうからさ」

「怖くないの」


 絵美の答えに里美が挑戦的な視線を送ってきたが、遥は気づかないふりをした。


(何だか、敵意みたいなのを感じるんだけど。気のせいだよね?)


「……ちょっと怖くなってきたかも」


 とりあえずフォローのつもりで遥は言う。

 体育館の中が怖いというより向けられた敵意が怖い。


「そうね、そういう感覚大事だと思う」


 さらりと言って、里美は体育館に視線をやった。

 やはりその口調には棘を感じるが、あまり気にしないことにして遥は彩子と絵美を交互に見やった。


 先ほどから絵美の顔色はすぐれない。本当に怖がっているようだ。

 逆に彩子の表情は明るい。

 里美が体育館には幽霊がいる的なことを言い出して、彩子がそれじゃあ肝試ししようと提案して、絵美とそして帰ってしまったらしい香奈があまり乗り気じゃないという感じかと考察する。


(……大変だなぁ)


 まるっきり他人事のように遥は思う。

 クラスの中で浮いてはいないものの、遥は特定のグループに入っていない。

 ここにいるメンバーのグループともほとんど交流などないのに、どうしてこんなことになっているんだろう。


「まー香奈も帰っちゃったぽいし、人数が増える分には大歓迎!」


 彩子はあくまで明るく笑う。割と懐が広いらしい。

 四人のまとめ役といったところだろう。


「でも、大丈夫?」


 彩子に聞かれて、どういう意味で大丈夫なのかわからなかったので答えようがなく、遥はえ? え? とうろたえる。


「怖くなってきたんでしょ」

「あ、ええと、怖いけど、その、逃げたいってほどじゃないから、うん、行ってみようよ、中」


 しどろもどろに返答をし、「あ」と声をあげる。


「でも、鍵かかってるんじゃ…」

「入り口の鍵はかかってるけど、昼休みに裏側の窓の鍵を一つ開けといたの」


 彩子はえへんと胸を張った。

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