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07




「ミキちゃん!今週の土曜日出かけるから予定空けといて!」


柊木さんにそう言われたのが、金曜日の夜。

柊木さんの突拍子の無さには慣れたつもりだったけど、この人の曜日感覚や常識はどれ程狂っているのだろうかと、頭を抱えた。


予定が無かったからいいものの、あったらどうするつもりだったんだろう。


そんなことを考えながらも、私は首を縦に振った。

そして早朝に叩き起こされ、急いで服を着替え、何が何やら分からぬまま車に乗せられて、到着したのは……


「じゃん!遊園地!!」


別に自分が所有している訳でもないだろうに、都内にある有名な遊園地の駐車場で、柊木さんはドヤ顔でそう言った。

私は呆然としながら、呆れていた。


「驚いた……!?」


「そうですね……驚くしかないです」


まさか何の説明もされず遊園地に来るなんて、思っていなかった。

呆れつつ、はしゃいでいる柊木さんを見て、私は思わず癒された。

可愛いと思った。


まぁ、たまにはこんなことがあってもいいか、なんて流されてしまいそうになる。

絆されている、そう自覚するが、悪くない。


ただ一つ、懸念があるとすれば。


「…………」


ここまで乗ってきた車……黒いバンの運転手。

髪の毛を金髪に染めていて、大量のピアスを付けているその男性は、なんとなく近寄り難い。

不機嫌そうに柊木さんを見ているから、尚更。


アパートの前に停められた車を見た時、てっきり柊木さんが運転するのかと思ったが、実際にはこの男性だった。


誰?と聞きたかったけど、なんとなくタイミングを逃してしまい、今に至っても名前すら知らない。


「チケット買ってくるね!」


満面の笑みでそう言って、柊木さんはその場を立ち去ってしまう。

つまり、私とこの謎の男性の二人きりということだ。


「チッ……はぁぁ……」


二人になった瞬間、男性は舌打ちをして、その後深いため息を吐いた。

苛立っているのか、眉間に皺が寄っている。

身長が私より高いのもあってか、少し怖かった。


「なぁ、アンタ」


「は、はい」


「悪いな、あのバカが……突然で驚いたろ」


「ええ、まぁ……」


そう言って、男性は不機嫌そうな顔を和らげ、笑みを浮かべた。


「俺は岩津だ。アンタのことは、柊木から……よく聞かされてるよ」


よく聞かされてる、という言葉には諦念が混じっていて、男性……岩津さんが、普段から苦労していることが伝わってくる。

さっきの近寄り難さは消え去り、むしろ親近感が湧いてきた。


柊木さんに振り回されている者同士、会話が弾むかもしれない。

そう思った矢先、岩津さんは頬を指で掻きながら、罰の悪そうな顔になる。


「アンタには謝らねぇといけないことがあってな……」


初対面の人間に謝られる心当たりが無く、私は心の中で首を傾げた。


「アンタが盛川だってこと、柊木に教えたのは俺だ。……すまねぇな、アンタの写真を見せられて口を滑らせちまった」


前言撤回、この人と距離を詰めるのは、少し考えた方が良さそうだ。

柊木さんが私の名前を知った件については、結果的に良かったとはいえ、生徒や父の関係者でもなさそうなのに、私の名前を知っているのは明らかに怪しい人だ。


私は半歩、岩津さんから距離を取った。


名前が柊木さんに伝わった理由よりも、気になることがあった。


「……岩津さんは、柊木さんとどういうご関係なんですか?仕事仲間……とか?」


「あーそうだな…………知らぬが仏、言わぬが花だな。こっちは薮蛇だぜ、アンタの秘密を暴いた俺が言うのも、おかしな話だけどな」


釈然としない答えだった。

質問を投げ掛けても返ってこない柊木さんよりは、いくらかちゃんと答えてくれているが、それでも曖昧なことには変わらない。

 

『アタシの仕事?そうだなぁ…………薬とか?』


『それ……冗談ですか?』


『冗談だよ』


前に交わした、柊木さんとのやり取りを、ふと思い出した。

あの時はてっきり冗談かと思ったが、案外……


そんな想像を、私は頭数から振り払った。

薮をつついて出てきた蛇に噛み殺されるのが私だけならばいくらでもつつきたいが、他人にも迷惑がかかるかもしれないなら話は別だ。


この岩津という人は、怪しいことこの上ないが、悪人ではなさそうだ。

困らせるのは、出来るだけ避けたい。


「アンタ、柊木のことは好きか?」


突拍子も無い問いだった。

どうして突然、と質問の意図を考えるが、全く分からない。

ただ、岩津さんの視線がとても真剣で、ふざけている訳ではないのは理解した。


(好き、って……)


じわじわと顔に熱が溜まるのを感じる。

はぐらかしたいところだったが、岩津さんは真剣なのだ。真剣に、真面目に聞いている。


ならば私も真剣に、そして真面目に答えるべきではないか?


「好……き、です……」


蚊の鳴くような声だった。

声量が尻すぼみになって、大層聞き取り辛かっただろう。


岩津さんはそんな私をじっと見ていて……見ているだけで、何も言わない。

それがまた私の羞恥心を煽った。

勘弁してくれ、そんな思いで頭がいっぱいになる。


やがて、岩津さんはふっと笑った。

気だるげな笑みだ。

鋭そうなイメージが先に来る岩津さんだが、笑顔になると途端に幼く見える。

柊木さんと同じく、この人もどこか不思議な人だった。


「いい返事が聞けて、安心したよ」


そう言うと、岩津さんは車のドアを開けた。


「帰るんですか?」


「柊木から連絡が来たら迎えに来る。それまでは、適当に時間を潰すつもりだ。……目一杯楽しんでくれ」


そしてそのまま乗り込むと、私の返事を待たずに、岩津さんを乗せた車は遊園地の出口へと走り去って行った。


「…………?」


後に残された私の胸には、違和感が生まれた。

随分と、親しそうだった。

誰と?私と?いいや、柊木さんとだ。

誰が?私が?もちろん、岩津さんだ。


普段からよく話すんだろう。

私の話をよく柊木さんから聞いている、と言っていた。それは、とても嬉しかった。


ただ、何故か胸がズキリと痛んで、何故だか分からないが、胸がぎゅっと締め付けられるのだ。


岩津さんはきっと、私よりも遥かに柊木さんを知っているんだ。


「チケット買ってきたよ!」


困惑する私の耳に、柊木さんの声が飛び込んでくる。

それを聞いた瞬間、胸の痛みも、締め付けも、綺麗さっぱり霧散した。


「あれ、岩津もう行っちゃった?」


霧散したはずだったのに、柊木さんの口から岩津という名前が出た瞬間、モヤモヤとした感覚が這い上がってくる。


「はい、後で迎えに来ると……」


「うわぁ……お土産何がいいか、先に聞いとけばよかった」


なんなんだろうか、これは。

こんなことは、初めてで。


分からない、何にモヤモヤしているのか分からなくて、それにモヤモヤしてしまう。悪循環だ。

胸に手を当てて、脈を測ってみるが、いつもと変わらない。


「ミキちゃん?」


柊木さんに名前を呼ばれて、ハッとする。

柊木さんの顔を見て、心配させてしまったと気が付いた。


「すみません、少し考え事をしていて……」


「何か悩みでもあるの?」


「いや……その……」


私は言葉を濁す。

自分でも分からない物を、どうやって人に説明すればいいのだろうか。


悶々としていると、何かを考えていた柊木さんが、私の腕に手を組んできた。


「あの、柊木さん……?」


「よく分からないけど、今はパーっと遊んじゃおうよ。一回忘れてさ、また明日にでも考え直したら、パーっと解決するかもよ?」


とても楽観的な考えだった。

でも、そのぐらいが丁度いいのかもしれない。


「……そうですね」


私もまた、柊木さんに体を近付けた。

恥ずかしかったが、今日だけは……いいだろう。


「よーし!じゃあ行こ!」


そして、ワクワクとした気持ちになりながら、私達は遊園地の中へと乗り込んだ。





以下プロフィール。




柊木明美(ひいらぎあけみ)


年齢・永遠の20歳(自称)


身長・172cm


職業、年齢不明の謎のお姉さん。

20歳を自称しているが実際は25、6程。

根っからの女好きで女誑し。

ミキちゃんに確認取ってから岩津に連絡した。

それで来てくれる岩津もおかしいと思う。

岩津とは付き合いが長いので情はあるが扱いは雑なとこある。

遊園地行きを思い付いたのは金曜の昼間。




盛川美希(もりかわみき)


年齢・17歳


身長・163cm


生徒会長をしている高校3年生。

文武両道で家は超大金持ち、家事も完璧にこなせるハイスペック人間。真面目である。

実は人生初めての遊園地で内心浮かれている。

何の説明も無しに乗せられた車に知らない人(岩津)が居てめちゃくちゃ動揺した。

この日感じた胸の違和感の名前を、美希はまだ知らない。




岩津聡(いわつさとし)


年齢・23歳


身長・175cm


見た目チャラ男な純情ボーイ。

女性とは手も繋いだことない。ちなみに、その女性に柊木はカウントされていない。

「遂にあの柊木にも大切な人が……」としんみりしつつ喜んでいたが、その相手が学生(未成年)と知って絶句した。しかも盛川じゃねぇかおいテメェ。

話してみたら真面目そうだった。安心して柊木を任せられる。


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