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「盛川さんって、あの盛川財閥の令嬢なんでしょ?凄いよね、それで生徒会長もやっちゃってるんだもん!流石盛川って感じ!」


「盛川は凄いよなぁ頑張ってて、内申点上げてやるから、親御さんによろしく言っといてくれよ……なんてな!」


「盛川ー!ノート見せて!お願い!」


「盛川さん……私今月お金無くて……盛川さんの家ってお金持ちでしょ?少しでいいから貸してくれない……?」


「盛川ちゃん頭いいよね……あ、もしかして、家庭教師とか雇ってたりする!?盛川家の家庭教師……絶対凄いじゃん」


「盛川だかなんだか知らないけどよ、金持ちだからって調子乗んなブス」


「盛川さん……相談があるんだけど……実は、彼氏が浮気してて……」


「盛川、今週末合コン行かない?盛川財閥の娘が居たら絶対イケメン釣れるって!」


「盛川先輩!今度盛川先輩の家に行っていいですか?一回でいいから豪邸見てみたくて、あ、プールとかあったりしますか!?」


盛川、盛川盛川盛川。


皆が私そう呼んで、盛川として見る。

仕方がない、私が盛川の家に生まれた以上、どうしようもないことだ。


それでも、くだらないと思ってしまう。


私のことが、神にでも見えているのだろうか、私は普通の人間なのに、有名な家に生まれたというだけでそれ程違う存在に見えるのだろうか、妬ましいのだろうか。


くだらない、誰も彼も。


そんな人達に、笑顔と愛想を振り撒く私も。


「いえ……家の名前に恥じないよう、皆さんの期待を裏切らないよう、頑張っているだけですよ」


「ええ、先生にお世話になっていることは、父にはよく伝えてあります」


「ノート……ですか?全く……自分でやらないとダメですよ、今回は見せますが、次からは自分でやりましょうね、私も手伝えますから、頑張りましょう」


「私が稼いだお金ではないので貸すことは出来ません……力になれず、申し訳ありません」


「か、家庭教師ですか?いえ、居ませんよ、普通に授業を受けて……それから、家で復習するぐらいです」


「……そうですね、ですが今は盛川は関係ありません、教室の入り口を塞ぐのは、周りにも迷惑がかかるので止めた方がいいと思いますよ」


「浮気ですか……それは災難ですね、まず、貴女がこれから彼氏とどういう関係でいたいのか、教えてくれますか?」


「合コン……?すみません、そういった場には……イケメン……?あの、ごめんなさいよく分からなくて……」


「家族が……家に人を呼ぶことに否定的なので……」


今日も今日とて、私は笑顔という名の仮面を張り付けて、“盛川に恥じない自分”として振る舞う。

そんなことを一時間、二時間と続けて、ようやく訪れる昼休みは、学校で過ごす上で唯一ゆっくり一人で過ごせる癒しの時間だった。


常に人が溢れ返っている校内で、数少ない人気の無い場所。

且つ、生徒ないしは私が立ち入っても問題が無い場所。


それは生徒会室だった。


生徒会所属の生徒は皆、教室で友達と食事をしている。その為、たまに書類を取りに来る教師以外にはこの部屋に立ち入る者は居ない。


だから私はいつも生徒会室で食べているし、今日もそうしようと思っていた。


「あ……」


いつも持ってきている弁当箱が、鞄のどこを探しても見付からない。

やってしまったと気付いたが、もうどうしようも無かった。


(朝のあれのせいだ……)


自分も用意している手作り弁当を鞄にしまう前に、通り雨が降ってきたのだ。

洗濯物を外に干していた私急いで取り込んで、そのまま……


そう言えば、朝帰りしてきた柊木さんが、私が家を出る時に何か言っていた気がする。

もしかしたら弁当を忘れていると呼び止めてくれたんだろうか。


電車に乗り遅れそうだったとはいえ、またいつものダル絡みと判断してスルーしたのは早計だったかもしれない。

無視してしまった件を含め、後で謝ろう。

そんなことを思いつつ、私はこの後どうしようかと悩んでいた。


この学校には、購買も学食もある。

それに加え、私は財布を持ってきていたから、弁当以外の選択肢を選ぶことが出来た。


しかし、この財布は、食材を買う為に柊木さんから預かった物だ。

帰りにスーパーに寄って、数日間分の夕飯の材料でも買っておこうと思っていた。


この学校はアルバイト禁止だ。つまり、このお金は完全に柊木さんが稼いだ物であり、そして柊木さんが私を信用して預けてくれた物でもある。


そんなお金を、自分の昼食代として私的に利用していいのだろうか?


いいはずがない、今日は大人しく、生徒会室で勉強でもして過ごそう。

そう決めた時だった。


「あ、盛川さん!ちょっといいかな?」


同じクラスの生徒が、親しげに話しかけてくる。

私は、それを笑顔で答えた。


「どうしましたか?」


「さっき昇降口に行ったらさ、凄い綺麗なお姉さんにこれ渡されて……」


そう言って、その生徒が差し出した物を見て、私は驚愕した。

それは、私がいつも使っている弁当箱。


(なんで……)


どうして、私が朝忘れた物が、ここに。

嫌な可能性が頭を過る。いや、そうとしか考えられない。


「“盛川美希さんに渡してくれ”って言われたんだけど……お家の人かな?」


「……ええ、そうだと思います。実は、お弁当を忘れたことにさっき気付きまして……届けてくれたんでしょう」


「へぇー盛川さんも可愛いところあるんだね!」


動揺を外に出さないように。


どくどくと、耳の奥で音が鳴っている。

体の内側がぐにゃりと曲がったような気持ち悪さを感じ、目の前の全てが霞んで見えた。


柊木さんは、私が盛川だと言うことを知っている。


そうとしか、考えられない。

でも、考えたくない。

いくら考えたくないと思考を塞ごうが、それでもそれは真実であり、事実であり、現実なのだ。


知られたくなかった。


足元が瓦解するような感覚に襲われる。まるで天が落ちてきて、それに押し潰されているかのような、絶望感。

足から力が抜けそうになった瞬間、私はあの人の笑顔を思い出した。


『ミキちゃん』


盛川という色眼鏡を着けずに私を見て、笑ってくれる柊木さん。


きっと、大丈夫。


私はギリギリで堪えると、笑顔のままお礼を言って、その場を離れた。


結局、弁当に手を付けれなかった。




◇◇◇◇




放課後、校門の横には、柊木さんが居た。


「あ、ミキちゃん!」


子犬みたいにキラキラと目を輝かせてこちらを見る柊木さんは、黒いスーツを身に纏っていた。

スラッとしたモデル体型に、スタイリッシュなスーツがよく似合っている。


どうしてここに、という言葉を飲み込んで、私は柊木さんの下へ歩いて行った。


「柊木さん……スーツなんて、持ってたんですね」


他に言いたいことはたくさんあるのに、まず出てきた言葉はそれだった。


「ちょっと午前中に用事があってさ。ね、ね、それより、アタシがここに居てビックリした?」


柊木さんは無邪気にそう問いかけてくる。

ビックリしましたよ、とても。

私はまた言葉を飲み込む。

いや、飲み込まざるを得なかった。


口を開けた瞬間、飛び出したのは掠れ声だった。

頑張って声を出そうとしてみるも、出てこない。

四苦八苦する私を柊木さんは不思議そうに、やや困惑して見ていて、完璧に返事のタイミングを逃してしまった。


「……ミキちゃん、何かあった?」


私の顔色の悪さに気付いた柊木さんは、今まで聞いたことが無い、まさか柊木さんから聞くとは思わない、そんな静かな声でそう聞いてきた。


「…………」


周りがザワザワと騒がしい。

騒ぎの原因は、確実に柊木さんだった。

柊木さんは自覚しているのか自覚していないのかは知らないが、キラキラとしたオーラを周りに放っている。


「……移動、しませんか?」


私がそう提案すれば、柊木さんは頷いてくれる。

人前だったこともあり、差し出された柊木さんの手を、私は掴めなかった。





以下プロフィール。




柊木明美(ひいらぎあけみ)


年齢・永遠の20歳(自称)


身長・172cm


職業、年齢不明の謎のお姉さん。

20歳を自称しているが実際は25、6程。

根っからの女好きで女誑し。

行ってきますのチュウをミキちゃんに仕掛けようとしたら無視された、悲しい。

と思ったらミキちゃんの忘れ物を見付けた。

好感度アップだ学校に駆け込め!!

かっちりとした服が苦手。




盛川美希(もりかわみき)


年齢・17歳


身長・163cm


生徒会長をしている高校3年生。

文武両道で家は超大金持ち、家事も完璧にこなせるハイスペック人間。真面目である。

美希が通っている学校は女子高。

初等部中等部高等部、といった感じで分かれている。お金持ってる家か、運動とか勉強がめちゃくちゃ出来る人しか入れない。


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