第55話〜フレデリックの試験に合格したトール〜
「あの……合格というのは……」
戸惑っていると、フレデリックさんが微笑んだ。
「言葉通りだ。トールくん、君に【入隊試験】を受ける資格を与える」
「入隊試験を受ける資格……ですか?」
意味がわからず聞き返すと、フレデリックさんは頷いた。
「そうだ。私は今、きみの実力を確かめた。そして、入隊試験を受ける権利はあると判断した」
「どうして入隊できないの!? 私たちの時はそんなのなかったわ!!」
納得いかない様子のマリンがフレデリックさんに抗議している。
「マリンさんの場合はレベル60を越えていて、試験はなしだったからね。普通の人はまず入隊テストに合格する必要があるんだよ」
「じゃあ、トールさんは普通の人と同じ試験を受けるってこと?」
「そういうことだね」
フレデリックさんはマリンの問いかけに頷くと、再び俺の方を向いた。
「そういうわけで、トールくん。きみにはこれから【一人】で試験を受けてもらうよ」
「一人ですか!? ……まあ、そうですよね」
一瞬驚いてしまったが、すぐに納得した。
俺の後ろには殲滅隊の試験を免除されるような高レベルの二人がいる。
このうちどちらでも俺に同行してしまうと、楽な試験になってしまう。
だから、フレデリックさんは俺へ一人で試練を乗り越えろと言っているのだ。
「ちょっとちょっとちょっと!? トールさん一人なんて不安なんですけど!!」
なぜかマリンが血相を変えてフレデリックさんへ詰め寄っていた。
(なんでお前が慌てるんだ?)
不思議に思っていると、フレデリックさんが苦々しく笑う。
「マリンくんやリディアくんが手伝ったら簡単に終わってしまうだろう? それだとトールくんの試験にならないじゃないか」
「うーん……それもそうね! トールさん、頑張りなさい!!」
尋常な勢いでフレデリックさんに詰め寄ったにもかかわらず、マリンはもう引き下がった。
(こいつの思考回路は本当に謎だ……)
俺が呆れていると、フレデリックさんが咳払いをした。
「では改めて、今回の入団試験について説明する……が、内容はこの札を南にあるフェザリミアの街長に届けるだけだ」
そう言って木でできた長方形の板を差し出してくる。
(なんだこれ?)
疑問に思いながら受け取り、フレデリックさんの言葉を待った。
「この木札を届ければ【あるモノ】が君に与えられるはずだから、それで試験は終了だ」
「あるモノ……ですか?」
手渡された木の札を無くさないように懐にしまいながら聞き返した。
「ああ、そうだ。詳しくは言えないけど、それがあれば君は晴れて討伐隊の仲間入りだよ」
「わかりました。フェザリミアの町へ行ってきます」
俺はフレデリックさんに頭を下げると、二人に向き直った。
「それじゃ行ってくるよ。二人は俺の試験が終わるまで適当に過ごしていてくれるか?」
「わかった。頑張るんだぞ」
「無理しちゃダメだからね〜!」
マリンとリディアさんの二人は笑顔で送り出してくれている。
ただ、マリンが何かを企んでいるような顔に変わったため、リディアさんに視線で合図を送った。
『マリンをお願いします』という意味を込めて見つめると、リディアさんは苦笑いしながら頷いてくれた。
「トールくんの健闘を祈る」
「ありがとうございます。行っていきます」
最後にフレデリックさんの激励を受け、俺は走り出した。
◆◆◆
「それにしてもフェザリミアか……港があるのと……きれいな噴水がある街だったな」
広大な草原を歩きながら俺は感慨深くつぶやいた。
フェザリミアは港町であり、貿易の拠点となっている。
そのため、様々な国から人が訪れていて、非常に賑やかな場所だ。
さらに、海に面していることから漁業が盛んで、海の幸も豊富である。
「久しぶりに魚料理とか食べたいな……」
クローラやオルトンにある飲食店は肉料理が中心で、魚はほとんど見当たらなかった。
あるとしても酢のような液体に浸された長期保存されたものだ。
生で食べられるような新鮮な魚介類は見かけたことがない。
(港ってことは魚料理があるよな。幸運値が上がる料理ってあるかな?)
などと呑気なことを考えつつ、俺は目的地を目指す。
しばらく歩いていると草むらが徐々に生い茂っていく。
(あれ? 道を間違えた? こんな場所なかったはずだけど)
ふと気になって、立ち止まって周囲を見回した。
フローラからほぼまっすぐ南に向かえばフェザリミアに到着する。
その道中、このような身長ほどもある草が生えたフィールドなんてなかったはずだ。
(おかしいな……もしかしてこれもゲームとの差異か?)
不審に思いながら再び歩き始めると、左右からガサガサという音が聞こえてきた。
同時に何かがこちらに向かってきている気配を感じ取る。
(モンスターか!?)
反射的に剣を抜き放つと同時に、草陰から二匹の魔物が飛びかかってきた。
「くっ!?」
咄嗟に前方へ転がり込むと、先ほどまでいた場所に向かって鉤爪のようなものが振り下ろされるのが見えた。
(危なかった……)
すぐさま立ち上がり、襲撃者の正体を確かめる。
そこにいたのは巨大なカマキリだった。
体長は3メートル近くあり、両手の鎌が鋭く尖っている。
何よりも特徴的なのはその膨れ上がった大きな腹だ。
(厄介なモンスターに見つかっちまったな)
俺は中段に剣を構えて、目の前にいる二体のモンスターを睨みつけた。
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次回は明後日公開します。