第54話〜フレデリックの条件〜
「わかった。そこまで言うのなら、トールくんにチャンスをあげよう」
「本当!? トールさん!! よかったわね!!」
俺よりも先にマリンが喜びのあまり飛び跳ねる。
俺はというと、正直言って複雑な気持ちだった。
というのも、俺には一つ気になることがあったからだ。
(本当に俺にチャンスをくれるのだろうか?)
そもそも、フレデリックさんはなぜ俺のことを気にかけてくれるのだろうか。
いくらマリンやリディアさんが頼んだとしても、こんな簡単に入隊を許すとは思えないのだ。
(それとも、何か裏があるのか?)
そんなことを考えていると、フレデリックさんは俺を気遣うように話しかけてきた。
「その前に……トールくん、きみはレベル0でありながら、本当に殲滅隊に入隊したいのかい?」
「もちろんです。人の生活を脅かすモンスターは許せません」
いつ何時問われるかと思って用意していた解答を口にした。
即答する俺を見て、フレデリックさんは満足そうに頷く。
「わかった。ならば、できる限りの力を示してほしい」
「どういうことですか?」
「流石に何もできない者を殲滅隊に入隊させるわけにはいかない。なんでもいいから君の力を見せてくれ」
フレデリックさんは真剣な表情でこちらを見つめてくる。
(なんでもって言われてもな……)
「トールさん! なんで何もしないのよ!!」
「痛っ!?」
何をしたらいいのかわからなくて困惑していると、マリンが背中を思いっ切り叩いてきた。
思わず悲鳴を上げてしまう。
(俺がどうしようか考えているのに、何をするんだこいつは!?)
文句を言ってやろうと振り返ると、マリンが興奮した様子で肩を揺すってくる。
「何ボーッと突っ立ってんのよ!? チャンスを与えられたならやりなさい!!」
「お前はなんで俺に命令口調なんだよ!」
思わず怒鳴りかえすが、マリンは俺の言葉など無視してさらにまくし立ててくる。
「ここで隊長を納得させれないと殲滅隊の入隊は不可能よ! 次にこんな機会なんて絶対にないわ!?」
(確かにこいつの言う通りだけど、何をすれば……)
俺は考えても答えが出せなかったため、フレデリックさんに話しかけた。
「わかりました。では何をすれば認めてもらえますか?」
「そうだな……ああ、何も浮かばないのなら、その剣で私に斬りかかってきなさい」
フレデリックさんは頭を捻らせた後、そんな提案をしてきた。
言い終わると腰に下げているサーベルを抜き取り、俺に向けてくる。
(それで良いのか?)
ちょっと拍子抜けしながら、俺も新調した鉄の剣を抜く。
「トールさん! そんなやつケチョンケチョンにしてあげなさい!!」
「トール! 頑張れ!!」」
二人が俺へ応援の言葉を口にする。
(よし……行くぞ!!)
「行きます!!」
気合いを入れて一気に駆け出す。
勢いを殺さないように体を捻りながら横薙ぎに剣を払うと、フレデリックさんが素早く反応して後ろに飛びのいた。
避けられると分かって、すぐさま一歩踏み込み追撃をしようとした。
しかし、それすらも躱されてしまう。
(この人は強い!? ステータスは!?)
考えながら剣を振り続けることで距離を縮めた。
至近距離になった時に、フレデリックさんのステータス覗き見る。
◆
【名前】フレデリック・ハットン
【種族】人間族
【年齢】34歳
【職業】軽騎兵
【レベル】73
【基礎能力値】
体 力:9,140/9,140
魔 力:420/420
筋 力:20
生命力:35(職業による補正+5)
敏捷性:70(職業による補正+10)
器用さ:65(職業による補正+5)
知 力:20
幸 運:5
スキル:剣熟練度Lv10(剣使用時攻撃力10%増加)
騎兵Lv10(乗馬時攻撃力・防御力10%増加)
舞武Lv10(範囲内物理攻撃力1000%ダメージ)
…………
装備品:ミスリルのレイピア:攻撃力60
◆
(リディアさんよりも少し強い!?)
フレデリックさんにステータスでは上回られている。
技術も圧倒的にあちらが上で、俺の攻撃がことごとくいなされていた。
いきなりフレデリックさんが俺の剣を捌きながら、蹴りを放ってきた。
「うわっ!?」
想定外の攻撃を食らい、俺はよろめく。
その隙を逃すまいとフレデリックさんは追撃を仕掛けてくる。
(このままだと負ける……何か無いのか!? そうだ!)
視界の隅にマリンが入り、俺はあることを閃いた。
俺に接近しているフレデリックさんの隙を作るためにスキルを発動させる。
「フィールドアシミレーション!」
すると俺を中心にした1メートルの範囲にある地面を沼のように変化させた。
「ぬおっ!? 地面が!?」
突然の変化に対応できなかったのか、フレデリックさんは足を取られて転倒した。
生まれたこの好機を逃さずに攻める。
(ここだ!!)
俺は勝負をつけるべく、フレデリックさんに全力の一撃を加えようとした。
「もらった!!」
ようやく一撃が入ると思った瞬間、フレデリックさんが目にも止まらぬ速さでサーベルを振るった。
──キィン!
(これでもダメか!?)
そう思って距離を取ると、フレデリックさんが笑顔になる。
「すごいな。合格だ」
「……え?」
予想外の言葉が返ってきたので、俺は間抜けな声を上げてしまった。
「やるじゃないか。レベル0と言うのは、カードを更新していないだけかい?」
立ち上がったフレデリックさんは感心したような表情を浮かべていた。
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