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第53話〜マリンの懇願〜

「無理だ。いくら冒険者でも、能力の無い人間を殲滅隊に入隊させることはできない」

「そこを何とか!! トールさんはこう見えても頼りになる男なのよ!? 入れてあげてくれない!?」

「そう言われてもだな……」


 マリンが領主の館の前で門番へ俺が中に入れるように頼みこんでいる。

 何を言われても【そこを何とか】と言い続け、言葉を繋いでいた。


(こういう風にしてくれるのなら、なんで最初から協力してくれなかったのか……)


 内心で文句を言いながら、マリンが必死に説得している様子を眺める。

 リディアさんも必死になっているマリンを止めることなく、見守っていた。


(たぶん駄目だろうな……)


 正直、期待はしていない。

 あの門番たちは領主に命じられた通りのことしかできないからだ。

 しかし、ここまでされたら、俺も何かしなくてはいけない気持ちになる。


「おい、あんた、いい加減にしろよ? 俺たちはレベル5以上の者だけを通すように言われているんだ。0は流石に通せない」

「それは重々承知しています! ですが、トールさんは絶対に役に立つんです! お願いします! どうか、お慈悲を!!」

「駄目だ。何度も言うが、その男をこの門を通すわけにはいかない」

「どうしても、ですか……?」


 マリンが縋り付くように門番の一人に懇願する。


「グッ……おい! お前からも言ってやってくれよ!」


 外見だけは美少女なマリンにそこまでされ、門番が動揺しながらもう一人の門番へと助けを求める。


「そうだな……確かに、俺たちだって、できることならその者を中に入れてやりたい気持ちはある。だが、規則は守らねばならない」

「そんなぁ〜」


 マリンは泣きそうな表情で、俺に助けを求めてくる。

 マリンにここまでさせて自分は何もしないなんて真似はできない。

 俺は覚悟を決めて前に出ると、深々と頭を下げた。


「俺からもお願いです。どうにか殲滅隊に入隊できる方法はありませんか?」

「そういわれても、ただの門番である俺たちにできることはないんだ。すまない」


 二人の門番が申し訳なさそうに頭を下げた。

 やっぱりダメだったかと落胆していると、後ろからマリンが俺の背中を押してくる。


「ちょっと何やっているのよ!? もっと押しなさい! 諦めちゃ駄目よ!!」


 マリンがこんな状況でもさらに頼む込むように催促をしてきた。


(こいつはこの人たちの気持ちが分からないのか……?)


 心の中でため息をつきながら、もう一度頭を下げてみる。

 すると、俺たちの様子を見ていた一人の兵士が近寄ってきた。


「君たち、どうかしたのかい?」


 兵士の一人が心配そうに話しかけてくる。

 どうやら、俺たちが揉めているように見えたらしい。

 俺が顔を上げると、門番二人が姿勢を正して敬礼する。


「「隊長! お勤めご苦労様であります!」」

「いいんだ。君たちもお疲れ様」


 隊長と呼ばれた中年男性は茶髪のイケメンだった。

 黒い軍服のような制服に身を包み、腰にサーベルを下げている。

 顔は美形と言っても差し支えないほど整っており、優しそうな印象を受けた。

 年齢は30代前半といったところだろうか。

 隊長と呼ばれる男性がこの館にいるなんて俺は知らなかった。

 そのため、隊長の名前は不明だ。


(こんな人いたか?)


 心の中で首をかしげていると、マリンが俺の前に立って口を開く。


「あんた偉い人!? ねえ、レベルが少し足りないけれど、殲滅隊に入隊できないかしら?」


 マリンが苛立ち気味に叫ぶ。

 そんなマリンに対して、隊長と呼ばれた男性が困った様子で答えた。


「急になんだい? おや? 君は……ハイプリーストのマリンさんだね? そっちの彼女は、リディア・ルーデンスさん?」


 隊長はマリンとリディアさんのことを知っているようだった。

 なぜだろうと不思議に思っていると、俺の疑問を察したように答えてくれた。


「ああ、私は殲滅隊の隊長である領主さまの補佐をしているからね。有力な冒険者の名前は憶えているんだよ」

(なるほど、そういうことか)


 それならこの二人の名前を知っているのも納得だ。

 マリンは自分は有名で能力のある冒険者だと上機嫌になっているが、スルーしておこう。


「そういえばあんた名前は? なかなか見込みがあるから覚えてあげるわよ?」


 どこ目線で話をしているのかわからないマリンが高飛車な態度を取る。


「マリンさん……あまり失礼のないようにね……」

「大丈夫よ、リディア! この人は良い男だから、きっと分かってくれるわ!」


 リディアさんが注意するが、マリンは聞く耳を持たない。

 隊長の男性は苦笑いを浮かべながらマリンへ手を差し出す。


「私の名はフレデリック・ハットンだ。一応、領主さまの側近として働いているから、これから顔を合わせる機会もあるだろうね」

「ふーん、よろしくね」

「それで、さっきの話だけれど、結論から言うと不可能だね」


 イワンさんが首を横に振りながら告げる。


「どうしてよ!? あんたなんとかできないの!?」


 即座に食いつくマリンだったが、すぐに門番二人に止められる。


「おい! お前! 無礼だぞ!?」

「そうだ! 隊長に向かって何て口の利き方だ!?」


 門番たちに止められながらも、なおも食ってかかるマリンをリディアさんがたしなめる。


「落ち着いてください、マリンさん! もう少し遠慮してください!」


 リディアさんにたしなめられたことで冷静になったのか、マリンは俺の横に戻ってきた。


「トールさんは必ず殲滅隊の役に立つわ! お願いよ!」


 そう言って頭を下げるマリン。

 その様子を見ていたフレデリックさんは少し考え込んでいた様子だったが、何かを思いついたように顔を上げた。

第52話をご覧いただきありがとうございました。

昨日は日程設定がずれていて更新できませんでした。

もしよければ、感想、ブクマ、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。


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これからもよろしくお願いします。

次回は明日公開します。

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