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第52話〜殲滅隊入隊できなかったトール〜

「その……なんだ……気を落とすなトール」


 俺の肩に手を置き慰めてくれているリディアさん。

 そんなリディアさんの優しさに感謝しつつ、深いため息をついた。

 現在、マリンが借りてくれた宿屋の一室で椅子に座っている状態だ。

 目の前にはテーブルを挟んでリディアさんが向かい側に座っている。

 テーブルの上には飲み物が置かれているのだが、飲む気分になれない。


「まあ、トールさんはレベルが0だから、殲滅隊に入れないのも仕方がないわ」


 元凶となったマリンがベッドに横たわりながら、俺に声をかけてきた。

 そんなマリンに殺意を覚え、堪える理由もないので襲い掛かる。


「お前が言うな!! お前のせいでこんなことになったんだぞ!?」


 飛びかかった俺は馬乗りになり、マリンの頭を両手で鷲掴みにする。


「痛い痛いっ! ごめんなさいってばぁ!」


 涙目になりながら謝るマリンだが、全く反省している様子はない。

 むしろ、この状況を楽しんでいるように見える。


「リディア助けてよ! トールさんが野獣になっているわ!!」

「私に振るのか……トール、マリンの言い方に怒るのもわかるが、暴力は良くないぞ」

「そうよそうよ! 暴力反対!」

「はぁ……もういいや……」


 リディアさんにたしなめられた俺は渋々とマリンを解放する。

 こうしてうっ憤を晴らそうとしても、俺が殲滅隊に入隊できない事実は変わらない。

 脱力して椅子に座り直す。


「落ち着いたみたいね。良かったわ」

「誰のせいだと思っているんだ……」

「そんなことより、これからどうするの? 殲滅隊に入隊する方法を考える? 」

「いや、もう殲滅隊に入隊するのは諦めるしかないだろ……」

「あら、諦めちゃうの? シナリオはどうするつもり?」

「そんなの、他の転生者が……そうか。チュートリアルクエストを受注していないから、進行できないのか」


 アポカリプスオンラインのシナリオは、基本的にチュートリアルクエストをクリアした人だけが進められる設計になっている。

 だからすべてのプレイヤーは面倒だと思いながらもクリアしていた。

 しかし、この世界にきた転生者は別だ。

 チュートリアルクエストを誰も受けないまま放置されていた。

 進める気がなかったのか、受注できなかったのか、俺が知る由もない。


(ただ、シナリオ進行の資格を持っているのは、受注した俺とマリンだけだ)


 つまり、マリンさえいればシナリオを進行することができる。

 それを知っているはずのマリンが、鬼気迫る勢いでベッドから起きて俺に詰め寄ってくる。


「そうよ! トールさん【だけ】がその資格を持っているの!」

「お前も一緒だっただろう? なんで俺だけなんだ?」

「私がチュートリアルクエストを受注していないからよ」

「……なるほどな……って、納得できるか!! なんでお前は受けていないんだよ!!」

「だって面倒じゃない! それに私は戦闘職じゃないのよ! それなのに魔物討伐なんてトールさんだけでいいじゃない!」


 俺はマリンの言葉で、今までこいつが不自然なくらい親切にしてくれていた場面を思い出した。

 面倒なクエスト関連の手続きをマリンが自分からやってくれていた。


(まさか、全部このためだったのか……)


 今更ながらマリンの魂胆を知り、呆れてしまう。


「だからお前……クエストの受注や報告を任せろなんて言ったんだな……」

「そうよ。土木作業は私も受注しないと損だから登録したけど、儲からない討伐クエストなんてやりたくないわ」

「くっそぉぉおお!!」


 自分の浅慮さに腹が立つ。

 マリンなんかに手続きを任せっきりにしていた俺の責任でもあるのだ。

 怒りに任せて拳を強く握りしめると、血が滴り落ちるほど爪がくい込んでいた。

 そんな俺を見たマリンは慌てた様子で近づいてくる。


「ちょっと!! トールさん!? 落ち着いて!? 血が出ているわよ!!」


 マリンが俺の手を取り心配そうに見つめている。

 すぐに回復スキルを発動させて、俺の傷を癒してくれた。

 傷を治されても、シナリオが進められない事実は変えようがない。


「……マリン、お前のせいでシナリオが進行できなくなった……もう、ゲームクリアなんて無理だ……」


 自分で言っていて悲しくなってくる。

 殲滅隊にも入れず、現実を突きつけられたことで、心が折れてしまったようだ。

 そんな俺を見てか、リディアさんが優しい口調で話しかけてきた。


「なあ、本当に無理なのか? 殲滅隊に入隊できないことがそんなに深刻なのか?」

「他の街にある殲滅隊専用のクエストをこなさないとシナリオが進まないじゃないですか。知っていますよね?」

「それは他の者じゃダメなのか? トール以外には無理なのか?」

「殲滅隊に入らないと無理そうです。この街で受注できるはずの必須クエストが発生していませんでしたから」

「そうなのか……」


 リディアさんも黙ってしまい、部屋の中が静まり返る。

 仲の良いギルド職員さんに頼んで殲滅隊専用のクエストを見せてもらった。

 しかし、その中にシナリオを進めるために達成しなければならない【必須クエスト】がなかった。

 時期的な問題かとも思ったが、シナリオ進行の資格を持つ人間が居なければ発生しないのだろう。

 俺は自分のステータスを表示させながら、天井を仰ぎ見た。


【名前】トール

【種族】人間族

【年齢】18歳

【レベル】0

【基礎能力値】

 体 力:5,000/5,000(★)

 魔 力:1,995/1,995

 筋 力:50+2(★)

 生命力:50(★)

 敏捷性:50+5(★)

 器用さ:50+5(★)

 知 力:50(★)

 幸 運:29

 スキル:吸血Lv1《与えたダメージの1%体力が回復する》

     急所攻撃Lv1《1%の確率で即死》

     状態異常耐性Lv1《10%の確率で状態異常を無効化》

     フィールドアシミレーションLv1《1M圏内のフィールドを自分の意のままに操る》

     パラライズミストLv1《相手を麻痺させる霧を放つ》

     両手剣熟練度Lv1(両手剣使用時攻撃力1%増加)

     空破斬Lv1(範囲攻撃:攻撃力100%)

 装備品:ミスリルの短剣:攻撃力20(俊敏性+5 器用さ+5)

     革の胸当て:防御力5

     革の肘あて:防御力2


 能力は変換で上げることはできても、レベルまでは上がらない。

 殲滅隊に入隊するにはレベルが【5】は必要だ。

 レベル0という職業に就いている俺には到底達成できない。


「どうあがいても俺のレベルは上がらない……完全に詰んだな……」


 ステータスを眺めながら呟く。

 それを聞いたマリンが、何かを思いついたように手を叩いた。


「それならどうにかして入隊できないか頼みに行きましょう!」

「はぁ? 無理だろう? 門前払いに会ったばかりだぞ?」

「相手は私たちと同じ人間よ? 頼めばなんとかなるって! 諦めちゃ駄目よ!」


 そう言い放つマリンは本当に頼めば何とかなると信じているかのように、自信満々だった。

第二章スタートです。

これからもこの物語をよろしくお願いいたします。

もしよろしければ、ブックマーク等応援よろしくお願いいたします。

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