第48話〜シャンタルさんの求めること〜
「一言だけ聞きます。聞き終えたら、俺を街へ帰してください」
「……はい」
俺の言葉に頷いたシャンタルさんは深呼吸してから口を開く。
「今後、私たちの活動に興味が向きましたら、【これ】を使っていつでもお越しください」
そう言って俺に一枚の名刺のようなカードを手渡した。
受け取って見ると【神界への招待状】という文字が書かれている。
裏を見ても何も書いていない。
どうやらカード自体が何かしらの機能があるらしい。
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名 称:神界への招待状
効 果:なし
詳 細:シャンタルの作り出した神界へ自由に出入りすることができる。
ただしシャンタルに認められた所有者のみ使用可能。
所有者:トール
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カードの詳細を見てから、ポケットへしまう。
「……わかりました。その時が来たら来ます」
俺の返事を聞いたシャンタルさんは安堵した表情を浮かべた後で頭を下げた。
そして、俺の手を両手で包み込むようにして握りしめてくる。
「どうか、よろしくお願いいたします」
まるで、祈りのように両手で握った手を持ち上げて自分の額に当てる。
(手を振り払うのもな……そうだ)
こんなに仰々しくされてしまい、手を振り払うことに抵抗が生まれた。
俺はそんな間を埋めるべく、横に座るリディアさんへ顔を向ける。
「リディアさんは、俺と一緒に行くのか、このままここに残るのか、どっちにしますか?」
「わ、私!? それは……えーっと……」
シャンタルさんの話を聞いていた感じでは、リディアさんはここに残りそうだった。
リディアさんの言葉を待っている間にも俺はこれからのことをぼんやりと考える。
(また、マリンと二人か……仕方ない……我慢するか……)
リディアさんが俺とマリンの間に入ってくれることでスムーズに事が運んだことが何度かある。
なぜか俺とマリンは意見が合わないことが多く、リディアさんがうまく取り計らってくれていたのだ。
またマリンと言い合いをする日々が戻ってくると考えると気が滅入る。
(リディアさん、今までありがとうございました……さようなら……ぐすん……)
心の中で涙をこらえる俺。
こんなことをしているうちにシャンタルさんの手も俺から離れていく。
「私は……私はトールと一緒に行くよ」
シャンタルさんと半蔵さんが小さくうなずく。
しかし、俺はその回答の意味がわからなかった。
「えっ? どうして?」
「えっ? ダメなのか?」
キョトンとした表情になるリディアさん。
俺もリディアさんがついてくる理由がわからず困惑するばかりだ。
「いえ、てっきり残ってシャンタルさんたちと行動すると思っていましたので……なぜ俺と一緒なんですか?」
俺が疑問を口にすると、リディアさんはなぜか両手を後ろ手に組んでモジモジと身をよじらせはじめた。
ほんのりと顔を赤くしていて、いつも自信満々で威勢の良いリディアさんらしくない姿だ。
「いや、それはだな……うぅぅ……」
リディアさんは恥ずかしそうに言葉を紡ぐも続きが出てこないらしい。
(どうしたんだろう? 気持ち悪いな)
大変申し訳ないが今のリディアさんはなんだか不気味だ。
何か理由があって同行しようとしているのは間違い。
しかし、俺にはリディアさんの目的がまったくわからなかった。
(うーん……リディアさんはこの世界で何をしようとしているんだ?)
結局、答えは出ない。
そんなことを考えているうちに、いつの間にかリディアさんが目の前に立っていた。
俺の顔を覗き込みながら人差し指を立ててくる。
「お前は私が守る! いいな!?」
フンフンと鼻息荒く宣言するリディアさん。
意味が分からないし、ちょっと怖いので止めてもらいたい。
ただ、そんなことを言える雰囲気ではないので素直に頷くしかなかった。
「えっと……はあ……」
「それじゃあ、街へ戻ろうか」
「それじゃあ、街へ戻ろうか」
俺の曖昧な返事を受け、リディアさんはそのまま扉へ向かう。
シャンタルさんは俺たちに頭を下げて見送ってくれた。
「半蔵、念のため街まで送ってあげてくれる?」
「御意」
シャンタルさんに言われて、半蔵さんは俺たちの前に出る。
俺たちはそれについていく形で教会を後にした。
◆◆◆
「ここまでくれば大丈夫でござろう? では拙者はこれで失礼するでござる」
街を目前にしたところで、半蔵さんが踵を返した。
「色々とお世話になりました」
「気にするな」
俺がお礼を言うと半蔵さんは片手を上げて去っていった。
こうして俺たちはようやく街に戻ることができた。
日はだいぶ傾き、夕日になろうとしていた。
(眩しいな)
目を細めて夕日を眺める。
眩しさに慣れてきたころ、ようやく周りの風景が見えてきた。
辺りを見渡しても人の気配はない。
(知っている場所だな……マリン!! 待っていろよ!!)
俺は力強く足を踏みしめて冒険者ギルドを目指す。
目的はただ一つ。
(マリンを全力でぶん殴る!!!!)
それだけだ。
怒りに任せて殴りつける。
ただそれだけを考えながら歩き続けた。
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次回は明日公開します。