第45話〜裏切者〜
「リディアさん、申し訳ありません。すべての原因は私なのです……」
「えっ?」
なぜかシャンタルさんから告げられた謝罪の言葉にリディアさんは驚いた顔を見せた。
沈痛な表情を浮かべたシャンタルさんの話は続く。
「女神によってこの世界に導かれ、女神の言葉を届けられる私の存在……これがい……」
シャンタルさんはそこまで言って一旦言葉を切り、視線を落とした。
そこまで聞いて俺は何となくシャンタルさんが何を言いたいのかわかってきた。
(仕組まれている……そう思うだろうな……)
自分のプレイしているゲームの世界に来たのなら、誰だって自由に過ごしてみたい。
そう考えるのが普通だ。
だが、自分の思いとは裏腹に行動がすべて女神という存在によって操作されていると思えば──。
(俺だって嫌になる……あれ? 俺はマリンに何かやれって強制されたことあったか?)
俺はこの世界に来てからほとんどの時間をマリンと過ごしている。
基本的にマリンは俺の行動に付き合っているだけだ。
たまに、「魔王を倒してくれないと神界に帰れない」というだけで俺に対して何かしろとは言ってこない。
(どういうことだ? マリンとセイレンさんでは同じ女神でも考えが違う?)
俺が別のことで頭を悩ましているとき、シャンタルさんの言葉で意識が戻される。
「私がいることでこの世界に不信感を持った者たちが魔族に加担しているのです」
「それは……どういう……私には今一つわからないというか……」
困惑した表情を浮かべながら聞き返すリディアさんの声は弱々しくなっていた。
リディアさんは俺へ同意を求めるような視線を送ってくる。
しかし、俺は何となくわかっているので、自分の考えが合っているのかシャンタルさんに確認することにした。
「自分たちが利用されるのが嫌でたまらない……といったところじゃないですか?」
俺の言葉にシャンタルさんは小さく頷く。
そしてゆっくりと口を開くと、続きを口にした。
「一番決定的だったのは、私が女神からの言葉を届けるための存在でしかない。ということです」
シャンタルさんの言葉に、今までずっと無表情だった半蔵さんが顔をしかめた。
その反応を見たシャンタルさんは少し悲しそうに微笑んだあと、また口を開く。
「私は戦うための力を持たず、この教会から出ることもできません……ですから、直接敵を討つこともできないのです……」
「頭領……」
そう言ってシャンタルさんは項垂れてしまった。
半蔵さんもなんと声をかければよいのか迷っているようだ。
空気が重くなった中、リディアさんが遠慮がちに口を開く。
「戦えないってどういうことなんですか?」
「リディア殿、それは……」
「いいのよ半蔵。この世界を知っているリディアさんには当たり前の反応よ」
半蔵さんが何かを言いかけたところでシャンタルさんが止める。
それから一度呼吸を整えてから、話の続きを話し始めた。
「私は他の転生者とは違い、女神から【神の代弁者】という職業を与えられたのです」
「神の……代弁者……ですか?」
「はい。私だけの特殊な職業。と、セイレンさまがおっしゃっておりました」
「女神セイレンさまが……」
セイレンさんのことを話す時のシャンタルさんは嬉しそうに微笑む。
俺はそこまで聞いて、シャンタルさんのステータスを覗こうと思った。
(ステータスを見れば、今聞いた話を信じられる)
話を聞いていて自分の中でいくつかの疑問が生じていた。
俺はそれを確かめるためにシャンタルさんをにらむように注視する。
◆
【名前】シャンタル
【種族】人間族
【年齢】26歳
【職業】神の代弁者
【レベル】1
【基礎能力値】
体 力:10/10
魔 力:10/10
筋 力:1
生命力:1
敏捷性:1
器用さ:1
知 力:1
幸 運:1
スキル:神託(神から言葉をもらうことができる)
神憑依(1日に1分間、神を憑依させることができる)
神交信(1日に5分間、神と言葉を交わすことができる)
神域展開(指定した建物を神域にし、許可のないものの侵入を阻む)
無敵(攻撃やスキル、その他受けるダメージを無効にする)
能力固定(体力や魔力が減ることはないが、成長しない)
状 態:なし
◆
(神の……代弁者か……)
おそらく、この教会がシャンタルさんの指定している神域なのだろう。
「あの……トールさんも私の話を聞いて不快になってしまわれましたか?」
シャンタルさんを見続けてしまったせいで勘違いさせてしまったようだ。
「いえ、そういうわけではなく……その……」
どう説明すればいいのかと悩んでいたその時──。
「トール殿、今は余計なことを考えないことだ。拙者にこれを抜かせるなよ」
半蔵さんが鎌に手を添えながら鋭い視線を向けてくる。
半蔵さんの言葉には妙な迫力があり、俺の背中に冷たい汗が流れた。
リディアさんは不安そうに俺と半蔵さんを交互に見てはオロオロとしていた。
(これは下手なことを言えないな……)
半蔵さんとシャンタルさんから発せられる緊張感が周囲に広がり始めていた。
まずは俺が敵意を持っていないことを証明する必要がある。
下手なことをいえば半蔵さんによって殺されるかもしれないからだ。
(マリンがいれば生き返らせてもらえるけど、ここにはこれない)
ここは慎重に選ばなくてはいけない。
ただ、下手には出る必要がないと考え、俺はシャンタルさんに話しかけることにした。
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次回は明日公開します。