第43話〜廃止されたオープニング〜
「ギャアアアアアアア!」
「助けてくれぇええええ!!!!」
「お父さんを食べないで!!!!」
鼓膜に染み付いた絶叫が俺の精神を痛めつけてくる。
目を閉じても頭に直接映像が流れ込むせいで意味がなかった。
(これだ……スキップができない強制視聴……こんなので始まるゲームが楽しいとは思えない……)
VRゲームの時よりも臨場感があり、今にも自分がモンスターに襲われそうで気が気じゃない。
モンスターがクローラと同じ規模の街を襲撃して、人々を蹂躙している。
そこに一切に慈悲はなく、ただただ殺戮が繰り返されていた。
街の中は阿鼻叫喚の地獄絵図となり、次々と人々が断末魔を上げて死んでいく。
建物は崩壊し、家々は瓦礫の山になり果てている場所も少なくない。
街の中心にある城は真っ先に破壊され、中から血塗れになった領主が現れて再び絶叫を上げる。
「……うぉぉ……おおぁ……」
言葉にならない声を出し続ける老人の顔は憎悪に満ちており、恨み辛みの感情が全身から溢れ出していた。
次々と人々がモンスターによって殺される中、彼は城のバルコニーへと歩いていき、眼下に広がる惨状を眺める。
「おのれ……許さぬぞぉおおお!!!! モンスターども!! 必ず根絶やしにしてくれる!!!!」
両手を掲げて怒号を放つ彼に呼応するように大地は揺れ動き、城が崩れ去る。
そこからはモンスターの軍勢が次々と出現していき、街を瓦礫に変えた。
逃げ場のない民たちは次々に虐殺される。
その情景を一通り目にした後、場面は再び教会の中へと戻り始めた。
(気持ち悪い……知っていてもクルものがあるな……)
鑑賞中にこらえていたものが喉元まで込み上げてきているのがわかる。
これ以上耐えられる自信がないと思った矢先、足元に木の桶が置かれていた。
「吐くならそこへ吐けでござるよ」
(半蔵さん!? まさかここまで読んでいたのか……? いや、それどころではない……!!)
半蔵さんの一言で吐き気を堪えられなくなり、桶の中へ胃の中のものを吐き出す。
不快な味が口内いっぱいに広がりながらも、俺は吐き続けた。
「ウゲェエエエエエ」
「オエェエエエエエエ」
俺の横ではリディアさんも同じように嘔吐していた。
気遣う余裕なんてものはなく、彼女と同じようにえずき続けてしまう。
涙が流れ、鼻水が出ようとも構わず吐き出し続けること数分、ようやく嘔吐が終わる。
ようやく落ち着いた頃合いを見計らい、半蔵さんが水の入ったコップを差し出してくる。
「飲めるなら飲んだほうが良いでござるよ」
俺は無言でそれを受け取って口の中を綺麗にする。
深呼吸をした後に気持ちを落ち着けて感想を伝えるべく顔を上げた。
「酷いオープニングだった」
「こんなものを見てよくゲームを進めようと思ったわね……この映像を考えたやつ頭がおかしいんじゃないの……」
リディアさんも落ち着きを取り戻し始めていたようで、俺に続いて思ったままの言葉を口にする。
リディアさんがここまで感情的になっているのは俺と同じかそれ以上に不快感を抱いた証拠だろう。
「とりあえず、二人とも休んで落ち着くでござるよ。拙者はこれを片付けておく」
俺とリディアさんはその場にへたり込むと互いに顔を見合わせてため息をつく。
半蔵さんは慣れているのか、嘔吐物の入った桶を平然と持ち上げて協会の外へ出る。
(何度介抱すれば慣れるんだろうか……)
座っていても、あの映像が脳裏に浮かんできて気分が悪くなるので、立ち上がって部屋の中を見回すことにした。
祭壇の後ろには扉があり、近くの壁に額縁に収められた絵画が目に入った。
(これは何を表しているんだ? マリンとセイレンさんに似ている人もいるな……)
神々らしき姿の人物が数人描かれていて、それぞれに武器のようなものを携えている。
「二人共、そろそろ大丈夫でござるか?」
絵画を眺めていると、空になった木桶を持った半蔵さんが戻ってきた。
「ええ、俺はもう平気です」
「私もなんとか……」
初見のリディアさんの顔はまだ青いままだが、先ほどよりは回復しているようだ。
リディアさんがゆっくりと立ち上がるのを待って、半蔵さんが奥へ進む。
「では、拙者たちの頭領が待つ部屋へ案内するでござるよ」
半蔵さんが祭壇の横にある扉を開ける。
そこは長テーブルが一つ置かれているだけの殺風景な部屋で、一番奥の席に一人の女性が座っていた。
腰ほどまである長い金色の髪に青い瞳をしており、真っ白な肌からは見た目の幼さとは対照的に色気を感じる。
身に纏っている服はかなり質素だが、上品さを感じられる装いだ。
胸元が少し開いているもののだらしない印象はなく、高貴な生まれであることが想像できた。
(これは……神界にいるときのマリンの服装にそっくりじゃないか……)
彼女の容姿は先ほどみた絵画の中にいた人物にも似ていた。
俺が呆けていると、少女がこちらを見てニッコリと笑う。
彼女は立ち上がると俺たちの方へ歩いて来て口を開いた。
「ようこそお越しくださいました。私はシャンタルと申します」
シャンタルと名乗る女性は礼儀正しく挨拶をする。
その振る舞いには育ちの良さを感じさせられるものだった。
「初めまして、俺はトールです」
「リディア・ルーデンスです」
自己紹介を受けて反射的に俺やリディアさんも名乗る。
お互いに軽い挨拶を終えたところで、シャンタルさんが俺たちを貫くような瞳を向けてきた。
第43話をご覧いただきありがとうございました。
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次回は明日公開します。