第41話〜半蔵たちのアジトへ〜
「リディアさん、この街のどこで半蔵さんたちが集まっているんですか?」
「この通りを真っ直ぐ行ったところにある空き家だが……トールたちは先に冒険者ギルドへ行った方がいいんじゃないか?」
「冒険者ギルドへ?」
「そうだ。クエストの報告をして、報酬をもらった方がいいんじゃないか?」
「確かにそうですね……失念していました」
どうして冒険者ギルドなのだろうと思ったが、リディアさんの言葉で納得した。
オルトンの街では連絡しておきますとしか言われず、報酬を貰っていない。
そんなやり取りを聞いていたであろうマリンが立ち止まる。
「じゃあ私が冒険者ギルドに行ってきてあげるわ。トールさんとリディアは半蔵たちのところへ行きなさい」
「いいのか?」
「いいのよ~。どうせ私が居ても話すことないし、冒険者ギルドにも用事があるからね!」
両手を後ろに回して歩きながらマリンが言う。
このまま行ってしまっていいものかと悩んでいる俺に、リディアさんが口を開いた。
「わかった。じゃあ、マリンさんはギルドへ報告を頼む。あと、宿を取っておいてくれると助かる」
「は~い! いってきますわ~!」
手をヒラヒラ振って歩き出すマリンに苦笑いしてしまう。
(あいつに真面目な話は無理だから適材適所だな)
そう決めた俺とリディアさんはマリンとは別の方向へ歩き始めた。
冒険者ギルドへ向かうマリンの背中が見えなくなる前に、リディアさんが口を開く。
「さて、私達も行こう」
俺は頷き、リディアさんについていく形で歩みを再開するのだった。
それから数分後、目的の場所に到着したのかリディアさんが立ち止まる。
「ここのはずなんだが……家なんてないな……」
「この辺りは家どころか、商店ばかりですからね……」
周囲を見渡しながらそう言ったリディアさんから視線を向けられた俺は、もう一度あたりを見回してみる。
リディアさんが立ち止まった場所はクローラの街にある繁華街の一角だった。
当然こんな場所に空き家などあるはずもなく、周囲には人が賑わっている様子が見えるだけだ。
「詳しい場所は聞いていないんですか?」
「そうだな……半蔵さんが言っていた場所はこの辺りで間違いないんだが……」
自信なさげにそう言うリディアさん。
俺も直接聞いておけばよかったと後悔するが、もう遅い。
彼らがアジトと呼ぶくらいだから、そんな簡単に見つかるはずがないのもわかっていたことだ。
(どうしたものか……)
俺が頭を抱えていたら、後ろから【シュタ】っと軽い音が聞こえてきた。
後ろを振り向くと、そこには黒づくめの人間が立っている。
「えっ? ……半蔵さん!?」
「ぬっ!? リディア殿とトール殿か!? 早いでござるな!?」
半蔵さんも驚いた様子でこちらを見ている。
そんな驚きに満ち溢れた表情をしたまま固まる半蔵さんを見て、リディアさんが安堵する。
「すいません、道に迷ってしまって、みなさんのアジトはどこにあるんですか?」
「それなら拙者が案内をするが……マリン殿はいずこへ?」
「マリンさんは冒険者ギルドで今回のことを報告へ行っています。ここには私たちだけ来ました」
「マリン殿にも話を聞きたがったが……致し方無い……それにここでは落ち着いて話ができぬ……こちらへ」
半蔵さんは歯切れ悪くそう言い、背を向けて歩き出してしまったのだ。
リディアさんは俺と目を合わせ、小さな声で「ついていこう」と言い足を動かす。
(本当にこんな繁華街にアジトが?)
俺は不安になりながら、二人の後を追う。
半蔵さんは建物の間を縫うように進み、大通りからどんどん離れていく。
それと並行して周りの街並みは怪しさを増していき、薄暗い裏路地へと入っていくことになった。
(なるほど、あそこからスラム地区に向かえってことだったのか。ここならアジトにうってつけだな)
繁華街を少し離れるとスラム地区があり、人通りも少なくなってくるので隠れるには最適な場所だ。
周囲を建物に囲まれて薄暗く、日中であっても太陽の光が入ってこない。
「こっちだ。拙者からあまり離れないように気を付けてくれ」
半蔵さんが顔だけをこちらに向けて囁くように言う。
視線を動かすと、薄汚い格好をした数人がギラつくような目でこちらを睨んでいた。
周囲にいる人間は見るからに浮浪者といった風貌の人間ばかりだ。
「警戒されているみたいですね……」
小声でリディアさんに話しかけると、彼女はコクリと頷くだけで何も言わなかった。
「行くぞ。二人とも立ち止まるなよ」
半蔵さんの言葉に俺とリディアさんは頷き、後を追った。
前を歩く半蔵さんの足取りに迷いはない。
狭い道を抜け、また細い通路を通ってさらに奥へ。
(こんな道、半蔵さんが居なかったら二度と通れないぞ……)
ゲームを知り尽くしていたと思っていた俺でも、クローラの街でこんな迷路のような道を進んだことはない。
それだけこの付近がゲームを攻略するのに関係のない場所だということだ。
そんな場所をしばらく歩いていたら突然半蔵さんが立ち止まり、こちらに振り返ってきた。
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次回は明日公開します。