第35話〜漆黒の鎌男〜
「脅威は去った! 優秀な戦士よ、出てきてくれないか?」
そう言いながら鎌を腰に収めた漆黒の男はこちらに向かって声を投げ掛けてきた。
俺はマリンと目を合わせ、小声で「どうする?」と尋ねたところ、彼女は首を横に振っている。
「見られたから殺すとか言われたらどうするのよ」
「たしかに……」
もちろん俺もその意見に賛成である。
漆黒の男は俺とマリンが隠れ続けているのが不思議なのか、首を傾げる仕草を見せた。
「おかしいな。隠れていないで出てきてくれ! 俺は怪しい者ではない!」
本人がそう言ってはいるものの、漆黒の男の姿は異様そのもの。
頭から足の先まで全身を黒装束に身を包んでおり、唯一露出しているのは目元のみだ。
フードの下から覗く瞳は切れ長で一見すると冷酷な印象を受ける。
そして背中には特徴的な漆黒の大鎌を携えていた。
(でも、大男から俺たちを助けくれたんだよな……信じてみようか?)
しばらく思案していると、俺たちの後ろからゴソゴソと音がした。
振り返るとリディアさんが起き上がってしまっている。
(あっ……まずいぞ……これは……)
そう思ったときには遅かった。
「ここにいたのか。怖くて声が出せなかったのか?」
音を立てずに俺たちの前に現れた漆黒の男が話しかけてきた。
冷たい印象を受ける目が怖いものの、こちらから話しかけないわけにもいかず、緊張しながらも声をかける。
「…………助けていただき、ありがとうございました」
「礼など必要ない。私はすべきことをしただけだ……ん?」
男の目線は俺からマリンの方へと移っていく。
その視線に気づいたマリンは咄嗟に俺の背に隠れたのだ。
「君、どこかで会ったことあるよな? 覚えていないか?」
「……えっ?? さ……さあ、私は美少女で、いろいろな人の目を惹くからわからないわ」
(なんて言い草だ……それで納得するのか?)
おそらくこの人はアポカリプスオンラインをプレイしていて、転生するときにマリンに会ったのだ。
それなのにマリンは会ったことを誤魔化すために強引な言い訳を述べている。
そんな様子を見ていたリディアさんは状況がわからずキョトンとした表情を見せていた。
「まあいいか……君たちはプレイヤーか?」
やはりこの男がこのゲームの知識を持っていることに間違いないようだ。
俺たち以外のプレイヤーについて聞き出すことができるチャンスだと思い、俺は会話を続けることにした。
「はい、そうですが……あなたもですか?」
「おお! そうか!! もう二年以上待っているからな……同胞が増えてよかった」
漆黒の男がこちらへ向ける冷徹な目がほんの少しだけ優しく見えた。
本当に嬉しそうに話している姿を見て内心ホッとする。
俺はその隙にこの男性のステータスを覗き見た。
◆
【名前】半蔵
【種族】人間族
【年齢】24歳
【職業】上忍
【レベル】104
【基礎能力値】
体 力:3,100/11,400
魔 力:1,050/3,400
筋 力:20(職業による補正+30)
生命力:15
敏捷性:120(職業による補正+20・装備による補正+10)
器用さ:70(職業による補正+10装備による補正+10)
知 力:15
幸 運:20
スキル:鎌熟練度Lv10(鎌使用時攻撃力10%増加)
忍術Lv10(風・火・雷・水・土 使用可能)
風飛びLv10(移動速度十倍)
…………
装備品:ヒヒイロカネの鎌:攻撃力200
忍装束:防御力100(セット効果:敏捷性+10・器用さ+10)
◆
(こっちもこっちで狂戦士に負けず劣らずの強者だ……)
漆黒の男も3次職でトップクラスの火力を誇る上忍だ。
しかも、レア度の高い武器や防具を所持している。
倒れている狂戦士を見ながら、俺は自分のステータスの低さを自覚してしまう。
(あっ!? もしかして!!)
頼みごとができたので漆黒の男性へ質問をしようとしたところ、その前に男の方が先に話し掛けてくる。
「今、拙者の仲間が魔王軍を倒しに行っている。すぐにこの破滅紋も消えるだろう」
「そうなの? それは朗報ね」
いつの間にか俺の後ろに隠れていたマリンがひょっこり顔を出し、話に混ざってくる。
タイミングを逃した俺は仕方なく口を噤み、話の流れに身を委ねた。
「おっと、挨拶が遅れたな。拙者は半蔵、君たちの名前を聞かせてほしいのだが?」
「私はマリンで、こっちはトール。後ろでボケっとしているのはリディアよ」
マリンは最後にリディアさんを指差しながら名前を明かす。
それを受けて、半蔵さんは頷きながら返事を返した。
「よろしく頼む」
「ええ、よろしくね」
互いに挨拶を交わした後、沈黙が流れる。
(今しかない!)
会話が途切れたタイミングで俺は狂戦士の大男を指差した。
「あのっ! あの人の装備品とかって、どうされるんですか?」
俺は狂戦士が持っていたオリハルコンの大剣など、戦利品の行方を尋ねた。
半蔵さん俺の指差す方向を見て、一瞬考え込むような素振りを見せる。
「ああ、あれか……トール殿が使われるなら、仲間に相談してみるが?」
「いいんですか!?」
まさかの申し出に驚愕してしまう。
何より強力な武器をこんな簡単に譲り受けてしまっても良いのだろうかという戸惑いもあったからだ。
前のめりになって聞き返すと、半蔵さんは腕を組んで唸り始める。
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次回は明日公開します。