第34話〜停止した大柄の男〜
「……ああ!!?? ここまでやって退却しろだあ!!??」
唐突に叫び声を上げたかと思えば、男の顔は驚愕に満ちていた。
空に向かって話をしていることから、おそらく魔道具を用いての通信だとわかるが、かなり興奮しているようだ。
「こっちは任務達成寸前なんだぞ!! おいゴラァ!!?? あ?? ……クソがぁ!!!!」
最後は完全にキレてしまった様子で通話を打ち切ったようで、男が頭を掻きむしっている。
(助かったのか……? いや違う……!! )
一瞬でも安堵してしまったことを後悔した時には遅かったようだ。
頭を激しく振って我を取り戻した様子の大男は俺たち三人に血走った目を向けてきたのだ。
「ふざけやがってえええええええええ!!!!」
叫びながら大剣を振るい始めた男を前に、まだ自由に動けない体をなんとか立ち上がらせようとするが、激痛で上手くいかない。
もはや抵抗もできないだろうと踏んでか、ゆっくりと歩み寄る大男はニヤリと口角を上げた。
(駄目だ……体が思うように動かない……くる!)
痛みに耐えるために目を瞑ったときだった。
「トールさん動かないで! セフティウォール!!」
直撃を免れたマリンが防御壁が展開してくれた。
その効果は凄まじく、大男の振るう大剣を防ぐほどだ。
「プリーストが小癪な真似しやがって!!」
怒声を上げながらも大男は再び剣を振り上げる。
だがそれは無意味なことに終わることとなる。
再び剣を振りかぶろうとした大男だったが、一陣の風によって弾かれるように後ろに下がった。
── "ザシュ"っと肉を切り裂くような音が聞こえた直後、頭上高く悲鳴が響き渡る。
「ギャアアアアアアア!!!!」
(えっ……いったい誰が……?)
驚いて目を開けると、目の前の大男の腕がないことに気づいた。
いや、正確には腕が付け根から地面に落ちたのだ。
「油断しすぎだな」
大男の前に現れたのは、漆黒のローブに身を包み、巨大な鎌を手にした人物であった。
フードを深く被っていて顔は見えないのだが、声からして若い男性であることがわかるその人物に対して大男は顔をしかめている様子だった。
「おいおい……俺の腕が落ちちまったじゃねえか……」
ポツリと大男が零した言葉に対し、漆黒の男は淡々と告げる。
「お前が単独行動するのはわかっていたからな。取らせてもらった」
「けっ! 根暗、お前か!」
悪態を吐く大男の反応を見る限り、二人は顔見知りのようだ。
それも気心の知れた仲間という雰囲気ではなく敵同士のような関係に近いような気がする。
(このタイミングなら!!)
俺は自分よりも遥かに強い二人の能力を覗き見るべく、視線を凝らす。
◆
【名前】ダミアーノ・ガヴァッツィ
【種族】オーク族
【年齢】28歳
【職業】狂戦士
【レベル】102
【基礎能力値】
体 力:12,200/16,700
魔 力:490/490
筋 力:120(職業による補正+30)
生命力:50
敏捷性:30
器用さ:20
知 力:20
幸 運:10
スキル:両手剣熟練度Lv10(両手剣使用時攻撃力10%増加)
狂化Lv10(攻撃力2倍 防御力半減)
空破斬Lv10(範囲攻撃:攻撃力1000%)
…………
装備品:オリハルコンの両手剣:攻撃力400
状 態:なし
◆
(狂戦士……戦士系の3次職……なんでもう……)
シナリオが進行していないのに、3次職に転職している事実を知り、動揺を隠しきれない。
(いや、待てよ……方法がないわけでもないか……)
この段階で出てくるモンスターを大量に狩り続ければ不可能というわけでもない。
ただ、倒すモンスターの量が膨大で時間がどれほどかかるかもわからないが。
自分の考えがあっている保証はないが、他に思い当たる節はない。
(黒い服の人は……ダメだ速すぎて視れない)
狂戦士のステータスを除いている途中に、二人の間では戦闘が始まってしまっていた。
先に仕掛けたのは狂戦士の男であり、手に持った大鎌を全力で横振りする攻撃を繰り出したが、黒衣の男はこれを余裕を持って躱しているように見える。
更に一撃、二撃と続く猛攻に対しても漆黒の男は見事な身のこなしで回避を続けていくのだ。
その動きはまるで舞い踊るかのような軽やかさを感じさせた。
「トールさん、トールさん。こっちよ、こっちにきてよ」
身を隠すように屈んでいるマリンが手招きしてくるので、慌てて駆け寄る。
リディアさんの近くに集まった俺とマリンは、這いつくばるように隠れながら戦う二人の動向を眺めていた。
黒衣の男が放つ攻撃には殺意のようなものが感じられないが、反撃の一手を許さないといった連続技のような無駄のない戦い方だ。
そして一方の大男は狂気に駆られたような表情で喚き散らしながら剣を振り回しており、まさに理性を失った獣の様相である。
戦況は大男の片腕がないため完全に黒い人へ傾いており、既に決着は近いように見えた。
「俺がお前みたいなヤツに負けるはずがないんだ!!!!」
「お前は俺が責任を持って殺してやる。女神さまによろしくな」
そう言い放った後、目にも止まらぬ速度で攻撃を仕掛けた男により、勝負は決まることとなる。
黒衣の男の持つ鎌が大男の首を刎ね飛ばしたのである。
ドサッという音とともに首が地面へと落ちていき、体の方も力なく崩れ落ちて倒れていった。
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次回は明日公開します。