第30話 ~見知らぬ村~
建物の後ろに隠れながらも、そっと様子を覗いてみると冒険者たちにゴブリンの群れが迫っていた。
「なんでこんなところにゴブリンの大群がいやがるんだっ!?」
「このままじゃ俺達全滅すんぞ!?」
もう既に戦闘に入っているためか、焦りの声が上がっていた。
中には武器を手放し、逃げ出す者もいた。
(どうする? あのゴブリンなら俺でもなんとかなる……)
ゴブリン程度であれば倒す自信はあるし、このまま隠れている必要はないと感じていた。
(だが──)
「トール、やはりおかしい」
「そうだな。あの量のゴブリンが隠れる空間、どこにも見当たらない」
リディアが俺の疑問をすぐに口にしてくれた。
(そうだ、この辺りには身を隠せるような遮蔽物はない)
廃村の周囲は見渡す限り草原が広がっているだけである。
そんな場所にいるにもかかわらず、百匹を超えるゴブリンの接近に気付かないはずがないのだ。
つまりあのゴブリンたちは突然現れたということになる。
(こいつらどこから出てきたんだ……まさか……召喚陣がどこかにあるのか!?)
俺には心当たりが一つしかなかった。
「──よしお前ら!! ゴブリンを蹴散らすぞ!!」
討伐隊の中からそう発言した人物を見やると全身甲冑を着た大柄の男が立っていた。
その男はゆっくりと前に出て両手剣を構える。
「俺に続け!! 絶対に死ぬんじゃねえぞ!!」
「「「「おおぉぉぉぉーー!!!!」
討伐隊が一斉に呼応する。
士気の高さを感じる叫びに釣られるように他の冒険者たちも武器を持ち直して走り出す。
(あの人たちに任せておけばゴブリンは大丈夫そうだ)
先頭を走る大柄の冒険者に大勢の冒険者が付いて行っている。
討伐隊が突撃するような陣形でゴブリン群へ襲い掛かった。
俺はそんな光景にホッとして俺は自分の目的を遂行する。
「リディアさん、マリン、聞いてくれ」
まずは二人の意見を聞かないといけないと思い、声を掛けることにした。
「なに? トールさんもゴブリンと戦うの?」
「行くのか?」
「いや、そうじゃない」
俺の声掛けを聞いた二人は不思議そうな顔をしているようだった。
「おそらく近くにモンスターの召喚陣がある」
「えっ? こんなところに召喚陣?」
「それは本当なのか?」
マリンはともかく、リディアさんまで疑っているので、説明をしていくことにする。
「俺やマリン、そしてリディアさんの知らない村があって、そこでモンスターと鉢合う。できすぎじゃないですか?」
「確かにそうだが……」
顎に手を当てて考える素振りをするリディアさん。
「じゃあ、トールさんはどう考えてるの?」
早く話を終わらせたいのか、結論を急ぐマリンが質問してきた。
俺は一呼吸おいて答えることにした。
「……たぶん、魔王の仕業だと思うんだ」
「なぜそう思う?」
「俺やリディアさんがいるように、魔王側にも転生しているプレイヤーがいる可能性がある」
「そんなはずないわよ!」
話を聞いていたマリンが声を上げ、俺の両肩を強く握って前後に揺さぶってくる。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ……」
俺は揺さぶられながらも、なんとか声を絞り出して答えた。
それでもマリンは手を緩めることなく俺を激しく揺さぶる。
「どうして世界を救おうとする人たちが魔王側に付くのよ!? 意味が分からないですけど!?」
「マリンさん、落ち着いて──ん?」
リディアさんがマリンをなだめようとした時、俺たちの周りにうっすらと黒い霧のようなものが漂い始める。
「霧?」
異変に気付いたマリンが手を止めてくれたので、俺は詳しく霧を観察する。
霧の正体をすぐに確認することができた。
(これは──やつらが来ているのか!!??)
そのことに気付いた瞬間、突如地面が泥でドロドロになってきた。
いや正確には違うようだ。
土そのものが溶けているような感じで急激に足場が悪くなっていったのだ。
「うわーっ!? 何だ!?」
「足が取られた!! グアッ!!!!」
「おい、大丈夫か!? ゴフッ」
冒険者が次々に足を取られて転倒したり、転んだりしてゴブリンの餌食になっていく。
ゴブリンは沼に苦戦することなく、討伐隊を攻撃していた。
あたかも、こうなる事態を知っていたかのように。
(くそっ!! はめられた!!)
周囲には既にゴブリンによって取り囲まれてしまっていたらしく、完全に退路を失っていた。
事態を解決するには、地面を何とかしないとなんにもできない。
俺は剣を抜き、マリンとリディアさんの前に立つ。
「ぬかるみを生んでいるモンスターを探す! 二人も周囲を警戒してくれ!!」
「わかったわ!!」
「了解だ!」
俺たちはそれぞれ周囲を見回していつ襲われてもいいよう武器を構えて進む。
「霧の濃い方に奴ら……【ドリアード】がいるはずだ。注意していこう」
「本当にドリアードなの!?」
「まだ確定したわけじゃないが、おそらくな。だから、あまり霧を吸うなよ」
こんなことをできるのは土を自在に操る【ドリアード】くらいしか思いつかない。
ドリアードの身体は蔦のような植物で構成されており、根を足のように動かして移動する。
顔はなく、球体状になっており植物の茎ような細長い胴体を持つ姿は人食い花のように見える。
黒い霧も奴らが好む環境で、足のような根から放つ微量の毒霧だ。
(長時間吸い続けると、身体が痺れ動かなくなる……早く何とかしないと……)
そんなことを考えている時だった。
シュルシュルシュル
緑色の蔦が俺の足に絡みついてきていた。
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次回は明日公開します。