第14話 ~鉱山ダンジョン突入! の前に~
「それじゃあ早速ダンジョンに行くわよ!」
元気よく拳を突き上げるマリン。
腹ごしらえを終えた俺とマリンは冒険者ギルドのリリーさんに教えてもらった鉱山ダンジョンへ向かった。
街の奥にある鉱山の入り口は洞窟のような穴になっており、内部の様子は窺えるようになっている。
「おかしいわね。ここにも人がほとんどいないわ」
ダンジョンの入り口にも人の姿がなく、マリンが首を傾げる。
リリーさんの話ではダンジョンには人がいるとの話だったので、俺も不思議に思った。
「私たち騙されたのかしら?」
「うーん……そういうわけじゃないと思うんだけど……」
二人で首を傾げていると、後ろから声をかけられた。
「そこのお二人さん、もしかしてダンジョンは初めてかい?」
振り向くとそこには初老の男性が立っていた。
(この人はドワーフか? そんな感じ特徴だな)
妙に小さく、白い髭を蓄えた男性で、まるでサンタクロースのように見える。
そんなドワーフの男性がにこやかに微笑みながら話しかけてきたのだ。
「はい、初めてです」
「そうかい、それなら私が案内しようか?」
ドワーフの男性はにこやかに笑いながら提案してきたが、マリンは首を横に振る。
「誰かもわからない人に頼れないわ。トールさん、行きましょう」
「えっ? まあ、そうだな」
マリンの言うことにも納得できるので、そのまま一緒に立ち去ろうとした。
ドワーフの男性は俺たちの後を慌てて追いかけてくる。
「ちょっと待ってくれ! ワシはこのダンジョンの管理人じゃよ!」
俺たちが立ち止まると、ドワーフの男性が懐から取り出した身分証を見せてきた。
そこには【鉱山ダンジョン管理者『ダン』冒険者ギルド職員】と記載されていた。
(この人がダンジョンの管理人だったのか……全然わからなかったぞ……)
唖然している俺をよそに、マリンは大袈裟に頷いていた。
「そうだったんですね! てっきり悪い奴かと思っちゃいました!」
ケラケラと笑うマリンに対して、申し訳なさそうに頭を下げるダンさん。
「すまんのう……警戒させてしまったようじゃな……」
「いえいえ! お気になさらず!」
笑顔で答えるマリンの横で俺は軽く会釈をする。
それを見たダンさんはホッとした様子で胸を撫で下ろしていた。
「それでは改めて自己紹介させてもらおう。ワシの名前はダンという。この鉱山ダンジョンの管理人をやっておる」
「私はマリンと言います。こっちの無職はトールといいます」
「おい! なんでわざわざ無職って言った!?」
俺のツッコミを無視してニコニコ笑うマリンに思わずため息が出てしまう。
(はぁ……こいつは……まあ、いつもの調子に戻ったみたいで安心したけど)
心の中で愚痴りながらも、俺はダンさんに向き直る。
「ここは駆け出し冒険者用の入り口なんじゃよ。だから人がほとんどいなかったのじゃ」
そう言ってダンさんの指さす先には、看板のようなものが立てられてあった。
【低ランク用入り口】
と書かれているその看板の隣にもう一つ看板が建てられているのが見えた。
そちらには【中・高ランク以上専用昇り口】と書かれているようだ。
(なるほどな……低ランク用だから人が少ないのか……そんな設定だったな)
鉱山のダンジョンはあまり旨味がないため、ゲームでは数回しかきたことがなかった。
ゲーム内でも同じように別の入り口があったので、そこは同じらしい。
納得する俺を見て、ダンさんが続ける。
「初めて低ランクのダンジョンへ入る冒険者には【これ】を渡しておるんじゃよ」
ダンさんはポケットから小さな札を取り出した。
(札? 何の札だ?)
札にはスキルを込めることができるものがある。
わざわざダンジョンの入り口で配っているということはその一種だろう。
何のスキルだろう。初めてダンジョンにはいる冒険者ってことは、生還用か?)
俺が不思議そうに見ていることに気づいたダンさんが札を差し出してくる。
「この札【帰還】のスキルが込められているんじゃ。使用すればこの場所に戻ってくることができるものじゃよ」
どうやら予想通りの効果のようだ。
ダンさんから受け取った札を眺めていると、マリンが目を輝かせる。
「これって高いアイテムなの?」
「いや、冒険者ギルドならどこも100Gで販売しておるよ」
「なーんだ。たったの100Gか」
マリンは100Gと聞いてあからさまにがっかりしている。
(初めての冒険者に渡すのにそんな高価なはずないだろう)
マリンへ言いたいことをグッと飲み込み、代わりにダンさんに質問する。
「低ランク用のダンジョンで気を付けることはありますか?」
俺の言葉にダンさんは頷く。
「そうじゃのう……低ランクではそんなに出現しないが、スカルワーカーには気を付けろ。主に中・高ランクで出現するモンスターじゃ」
「わかりました」
「動きが遅いから、見つかっても全力で逃げれば危険ではないぞ」
(それはゲームと同じ……小さいことで所々相違があるみたいだ……なんでだ?)
この世界がゲームの影響を受けていることは間違いなさそうだが、細かい部分まで反映されているわけではないらしい。
「ああ、それと……このような鉄鉱石を一キロ500Gで買い取っておる」
ダンさんは赤黒い岩を持って俺たちに見せつけてくる。
(鉄鉱石が一キロ1,000G!? ゲームの十倍じゃないか!! 何が起こっているんだ!?)
あまりの違いにどのような言葉を発すればいいのかわからないほど動揺してしまう。
そんな俺とは対照的にマリンが元気よく手を挙げた。
「どれだけ持ち込んでも買い取ってくれるの!?」
「もちろん。最近、金属の需要が増えているから、いくらあっても足りないくらいだよ」
ダンさんの答えを聞いて、再び目をキラキラと輝かせるマリン。
(いや……ツルハシもないのにどうやって掘るんだよ……)
そんな疑問を抱いている間に、マリンは俺の腕を掴んで引っ張っていく。
「さあ! トールさん! 早速行くわよ!」
「お、おい! ちょっと待てって!」
俺は引きずられるように鉱山ダンジョンの中へと入っていったのだった。
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次回は明日公開します。