ついに警察沙汰……からの即日解雇!?
これはもう、誰かに話を聞いてもらいたい。
週末にもならない平日だったが、友達などにスマホでメッセージのやり取りで散々愚痴ったカレンだ。
最近再会したばかりの元同級生セイジも心配してすぐ返信をくれた。
「というわけで、何とか落ち着いた感じ」
「でも同じ部署なんだろ? 大丈夫?」
「来期は移動願いを出そうと思って。さすがにこんなトラブルがあったし、人事部のほうでも考慮してくれるかなって」
「何かあったら電話でもいいからすぐ連絡くれ。話きいてるだけで危ないよ、その上司」
「だよね」(スタンプ)
そして実際、終わらなかった。
しかも決定的な出来事まで起こってしまうのである。
昼休み、カレンは外食ランチから戻るとき、社屋ビル一階のコンビニで荷物を受け取ろうとした。
そこを例の上司、飴田課長に見られて「やっぱり社内の就業中に副業やってるんじゃないか!」と小型段ボールを奪われたのだ。
「ち、違います! 返してください!」
「ふざけるな、副業の商品のやり取りをしていたんだろう!」
「だから違います! 返して! 泥棒! ドロボー!」
この事態にコンビニ店員が即座に店内から通報した。
課長は主人公から奪った段ボールをその場でテープを破り捨てて開けてしまった。
だが出てきたのはただの生理用品だ。
「何だ? これは?」
「……私、肌が被れやすいので生理用品はオーガニックものじゃないとダメなんです。コンビニやドラッグストアじゃなかなか売ってないから通販してたんですよ……」
さすがのクソ上司も「生理用品で副業してたんだろ!」などとイチャモンつけてくることはなかった。
むしろ、段ボールの中身に動揺している様子である。
そこへ警察がパトカーで到着し、本人も事態の不味さを悟ったようだ。
「あ、あ、こ、これは……」
コンビニ店員や他の客たちが、課長がカレンの荷物を奪っていたことを見ていたので言い逃れはできない。
当然、コンビニ内の監視カメラにも撮影記録が残っている。
もうカレンも我慢はできなかった。
真っ直ぐクソ上司を指差した。
「お巡りさん。この人に私の荷物を盗まれました。ただし、この人はこのビルの会社の上司です」
警官がコンビニ店員から事情を確認した後、飴田課長は先にパトカー車内へ連れて行かれ、カレンを伴ってビル階上の会社へ向かった。
ちょうど専務が社内にいたので、まとめて警察署へパトカーで向かい、事情聴取されることになった。
どうなったかといえば、あくまでも飴田課長による誤解と勘違いだと専務が何とか警察側に説明し、厳重注意だけで済ませたのはさすがというべきか。
警察での事情聴取後、会社へはタクシーで戻り、事情を知る社内カウンセラー、総務の女性課長を交えて更に話し合いをすることになった。
「飴田君。君、これでこの手のトラブルは何回目? さすがに警察沙汰にまでなっては、僕も会長を誤魔化せないよ」
専務はひとまず飴田課長に自宅に帰るよう指示を出した。
(ようやく片付いた……のよね?)
ところが残ったカレンが専務に叱責されることになった。
「君、クビね。こんな問題を起こすなんて、ほんと堪ったもんじゃないよ」
「なっ!? 何でですか! 原因は飴田課長ですよ!?」
さすがに納得がいかずカレンは専務に食ってかかった。
「あのね、君は知ってるか知らないけど、彼は会長の……我が社の創業者一族なんだよ。何があっても彼の解雇はできないんだ」
「そんな……」
専務に、しっしっと野良犬のように追いやられ、仕方なくカレンは総務の女性課長と一緒に総務部へ向かうことになる。
解雇ならこの会社での事務手続きは総務部で行うからだ。
カレン、女性の総務課長、男性の総務部長とで別の会議室で話し合いをすることになった。
既に警察沙汰になったことを把握していた総務部長はもう呆れ果てていた。
「年に何回かあるんだ、飴田絡みでこの手のトラブルが。しかし、専務がクビと言ったなら撤回させるのは難しいと思う」
「幸い、クビと言っただけで、青山さんも咄嗟に反論したのが良かったですね。これなら退職は自己都合でなく会社都合で処理できます」
「総務課長さん……」
てっきり機械的に事務手続きをそのままされるかと思いきや、総務部の二人からはどちらかといえば手厚い対応を受けることになった。
ちょっと意外だ。
「失業手当も最短で貰えるように、パンフレットまとめておきますからね」
「総務部から紹介状も出しておこう。再就職まで可能な限り相談も乗るから」
「……はい」
解雇はもう確定のようだった。
総務課長と部長は親身に対応してくれたが、独身一人暮らしのカレンには今後を考えると気が重い。
一通り退職と退職後の手続きの説明を受け、必要書類も受け取って、カレンは庶務課へ挨拶だけしておくことにした。
「えっ。青山さんが辞めるの!?」
「あはは……そういうことにされちゃいました」
「そんな……」
庶務課の同僚たちは皆、絶句していた。
(ははは……皆、もう経緯知ってるもんね……)
パトカーが来て、カレンも飴田課長も連れて行かれたことは、とっくに知れ渡っているようだ。
「め、メッセージ送るから! アドレス消さないでおいてよ、青山さん!」
「はい、こちらこそ。あたしが辞めた後のこと、どうなったか教えてもらえると嬉しいです」
「もちろんよ!」
親しかった同僚がそう必死になってくれたことが、ちょっとだけ救いだった。
その後は簡単にデスク周りの私物を回収して片付けて終わりだ。
庶務課の面々に頭を下げて、そのままカレンは退社した。
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