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まさかの胃カメラ……からのスーパー銭湯で同級生と再会

 カレンは翌日、自分のストレス状況が深刻だと認識して朝のうちに社内カウンセラーに面談予約を入れた。


 そして午前中、事情を知る同じ庶務課の同僚たちが例の飴田課長の気を逸らしてくれているうちに社内カウンセラーの元へ。


「青山さん、それは問題の課長の上に話を通した方がいいですね」


 カウンセラーはその場でカレンの庶務課の一番の上司の部長に連絡を入れて、カウンセリングルームまで呼び出してくれた。

 壮年の部長は慌てて飛んできて、カウンセラーを交えて状況を説明されると、頭を抱えてしまった。


「飴田、あいつめ。またか!」

「「また?」」


 どういうことなのか。


「あ、いや、……それで、僕はどうすれば良いので?」

「青山さんは胃痛が出ているので、通院の名目でまずは一ヶ月、週一で有給を取れるように計らってあげてください」

「わかりました」


「それと、問題の飴田課長には部長のほうから注意をお願いします」

「……そうですね」


 話の流れからすると当然、部長が注意してくれたものと思っていたカレンだ。


 だが後に判明するのだが、部長が行ったのはカレンの有給取得の許可だけ。

 そもそもの問題である飴田課長のパワハラには何も対処をしてくれていなかった。




 とりあえず今日はもう午後休ということで、カウンセラーからは退勤して通院を勧められた。


 会社の指定病院宛の紹介状を貰って、総合病院の内科の診断を受けることになった。

 病院へは会社最寄りのバス停からバスで十分。


 内科を受診すると、その場で胃カメラ診断を受けることになってしまった。


 苦しい思いをして胃カメラを飲んだ結果は、「ちょっと胃の中が荒れてるね」とのこと。

 胃ガンなどのような、そんなに深刻な状態ではないと訊いて胸を撫で下ろしたカレンだ。


 しばらくはコーヒーや辛いものなど刺激物を避けるよう言われ、胃薬を処方されてひとまずおしまいだ。

 薬は7日分。

 一週間後、また診察を受けにくるようにと言われてカレンは病院を後にした。





 通院後、アパートのある地元の最寄駅に帰り着くと、ちょうどスーパー銭湯のシャトルバスが駅エントランス真ん前の道路に停まっていた。


「このまま行っちゃお!」


 思い立ったが吉日というやつだ。

 そういえば、せっかく地元に新しくスーパー銭湯が開店したのに、まだ一度も行ったことがなかった。


 季節はちょうど秋、十月。

 寒くなり始めて温泉が気持ちの良い季節だ。


 スーツ姿のままシャトルバスに乗ること十分弱。

 到着したスーパー銭湯、爆竜の湯は大型タイプの施設で、7階建ての立体駐車場と一体型の建物の大きさにちょっとカレンはビックリした。


「大きい〜! どうせ行けるのは仕事休みの週末だけだし、土日は家族連れで混み混みだからって来ることなかったのよね」


 午後休を取れた本日はもちろん平日。

 それなりに客は入っていたが、混んでいるというほどではなかった。




 胃が弱っていたカレンは、身体にストレスのかかるサウナや岩盤浴はパスして、温泉と奮発してマッサージを堪能することにした。


 思えば就職してからずっと、自分を労わることを忘れていた。


「うう、これが整うという感覚……久しく忘れておったわあ……」


 半分整体、半分リンパマッサージのタイマッサージを受けると、もう全身がバッキバキに悲鳴を上げていた。


「つら。あたしまだ28なのに疲れすぎでは?」

「ホントホント、オツカレサマー!」

「ですよね!?」




 温泉とマッサージの後の、ゆるゆるでほっこりじんわりした身体を休憩スペースで休めていたとき、通路を通りかかった男性客に声をかけられた。


「もしかして、青山か?」

「藤原!? うそ、すごい奇遇ー!」


 何と地元の中学時代のクラスメイトだ。


「藤原、変わってないねー」

「青山こそ。ていうか何でこんなところに」


 カレンは女性用の赤色の館内着。

 相手、藤原は男性用の青色の館内着。


 そしてここはスーパー銭湯。



「「オッサンか!」」


「「お前がな!」」



 もう互いに大爆笑だ。

 周りの利用客たちの視線を集めてしまって、慌てて声を潜める。


「今日、平日じゃん。サボり?」

「まさか。病院行くために午後休貰っただけよ」


 利用客が休んでいる休憩スペースで会話し続けるのもなんなので、レストランに行って食事がてら再会を祝うことにした。





 アラサー女子カレンがスーパー銭湯で再会したのは、地元中学のクラスメイトだった藤原セイジだった。


「へえ、弁護士事務所勤めの税理士さん! 税理士事務所じゃないのね」

「クライアントは地元の会社法人が多いからね。将来的に税理士事務所を併設するための布石として雇われた感じ」

「へえ〜全然わかんなーい」


 カレンにわかるのは、彼が何やら期待の出世株ということぐらいだ。


「お前、そういうとこ変わってないなあ」


 当の本人は気分を害したふうもなく笑っている。

 とりあえずカレンはメロンソーダ、セイジはウーロン茶で乾杯した。




 この後、互いに予定も特になかったので、食事しながらの近況報告だ。


 カレンはレディース向けの野菜多めの和御膳を。

 セイジは天ざる蕎麦を大盛りで。


「副業疑惑で上司からパワハラ? それで胃を痛めて通院って……ヤな感じだな」

「まったくだわ。まあでも、そのお陰で平日の真っ昼間から優雅にスーパー銭湯なわけよ」

「優雅って。まあ、優雅だよな」


 土日祝日だと小さな子供連れの利用客も多いから、こんなゆっくりのんびりはできない。


「スーパー銭湯、ここは初めて来たけどいいわねー。ここ、近くにゲームセンターもあるから客質悪いかもって気にしてたけど、そんなこともなかったし」

「そりゃ、入館料をわざわざ払って来る客だからなあ。そういう意味では穴場なわけだ」


 聞いてみると、セイジはカレンと同じでまだ地元の実家住まいとのこと。


「青山は引越したんだろ?」

「あ、知ってたの? うちはあたしが就職するのに合わせて両親が田舎にUターンよ。駅から離れたアパートで一人暮らし」


 最寄駅から徒歩20分、バスなら8分だ。

 遠いけれど、徒歩圏内にコンビニもスーパー、ドラッグストア、百均、病院、銀行など生活に必要なものがすべて揃っていて便利だった。


 しかもギリギリ都内で、家賃は管理費や共益費込みで5万ポッキリ。

 既に社会人で仕送りのないカレンにはありがたいお値段だった。


「えっ。俺らが通ってた中学近くの交差点の裏じゃないか、そこ!」

「そうよ?」

「灯台下暗しか……」


 互いに地元民、家同士は10分と離れていない。




 あれこれ話したが、カレンのトラブルについて弁護士事務所勤めらしい助言をセイジから頂戴した。


「副業ってさ、明確な規定があるわけじゃないんだ。もし次に同じこと言われたら、口頭でなく書面で会社側から貰えますかって頼んでみたらいい」

「! それいいね!」


 そもそも、会社の総務が問題ないと言っているカレンの趣味を、難癖つけてくる上司のほうが異常なのだ。


「話を聞いた限りだと、その上司には個人情報を渡さないほうがいいと思う。聞いてるだけでイヤな感じするしな」

「まったくだわ……」


 とりあえずセイジ案だ。


 とはいえ、カレンの所属する庶務課の部長から、件の問題の飴田課長に注意はされているはず。

 明日からはまた平穏無事な会社員生活に戻っているはずだった。




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