講師やることになりました……がしかし
ともあれ、講師や先輩会員たちにラスベガス土産を渡すことにした。
講師の義明君以外はご年配なので、見るからにドギツイ原色のM&M'Sはやめて、すべてハーシーズのチョコレートにしていた。
銀色の包み紙のキスチョコを一袋ずつ。ミルク味やクッキー&クリーム、アーモンドなどのミックスを。
「それでね、旅行中にアプリでいくつかあたしが作ったアクセサリーが売れたんです。嬉しかったなあ。帰ってきてから慌てて発送しましたよ」
「今度はちゃんと送料別に設定した?」
「しましたー! これでもう間違っても赤字にはなりません!」
最初のうちは慣れなくて、うっかり送料込みで商品の価格を設定してしまって、送料と手数料が引かれると売れるたびに赤字になる状態だった。
という話を、うっかり社内で同僚たちと話して、あのクソ上司に聞かれてしまったのがカレンの運の尽きだったわけで。
「はあ……その失敗談を会社で話しさえしなければ、今頃まだあの会社にいたんですよね、あたし……」
そうはいっても、今となってはもうあの会社に戻りたいとは思えなかった。
同族会社で、明らかに異常行動の社員も創業者一族だからといって優遇され保護される。
就職する前に調べて、ある程度は知っていたことではあったが、まさか自分がその被害に遭うとは思いもしなかった。
「それで、旅行中にクラウドファンディングっていうのに申し込んでみたんですよ。そしたら応援してくれる人がものすごく集まって」
「え、それっていま流行りの? いくらぐらい集まったか聞いてもいい?」
イケメン講師の義明君はさすがにまだアラサーの若手、クラウドファンディングを知っていた。
他のご年配は知っている人と、知らない人と半々ぐらいだった。
ニュースや新聞で最近の新しい資金調達の方法としてよく話題が流れてくるので、名前だけは全員が知っていたけれど。
「な、内緒にしてくださいね? ……200万ちょっとです。使い道があらかじめ設定されてるから、遊ぶお金に使ったりはできないんですけどね」
「「「おおおおー!」」」
金額の大きさに、驚きの声が上がる。
ですよね、ビックリですよね!?
「カレンさん、すごいね。それだけ実績が出たなら、サークル活動から公認教室の開講申請、出してみようか。クラファンで話題の講師ってことで」
「え、あたしが講師ですか!?」
なんと講師の義明君から、まさかの講師へのお誘いだ。
「公認教室って?」
「今は有志のサークル活動だから、毎月の会費は会場使用料や材料費に当てる分だけ。公認教室になると、参加費をもう少し高めに設定できる」
「ということは……」
「皆で使える材料を収益の中から買えるようになります。今は主催者のオレの手持ちや、皆さんから寄贈してもらった材料やパーツばっかりだからね」
レジンアクセサリーは、材料になるレジン樹脂も、中に封入する素材やパーツも多種多様だ。
中には金箔や天然石など、値の張るものも多い。
月に数千円でも材料費に使えると、作風の幅も広がろうってものだった。
講師をやらないか、の誘いを受けてから1ヶ月後、十二月の半ば頃に単発の公認教室を開催してみることになった。
ちょうどクリスマスシーズンなので、ヒイラギの葉を模した木製パーツと組み合わせたレジンアクセサリーを作ると講師の義明君と決めた。
公認教室というのは、営利目的で開催できる講座のことだ。
会場はこれまでと同じように区民会館を利用できるが、利用料金が上がることと、講座の内容に対して区の審査が入る。
既にサークル活動として数年の運営実績があったので、審査自体は問題なく通ることができた。
ただ、試しにレジンアクセサリー作り初級講座を開催したものの、思ったように参加者が集まらず2回目以降の開催予定は立たなかった。
それでも3千円の参加費で8人が集まって、商業利用の施設利用料等を差し引いて16800円の利益が出た。
「利益の半額を講師とスタッフで山分け。残りの半分はサークルの活動費に」
講師はカレンと、元々のサークルの主催者義明君、スタッフは会員のご年配のおばさま3人の計5人。
利益の半分を五等分して一人当たり1680円となった。
「まあ、その報酬1680円も、帰りに皆で食事会に行って使い果たしちゃいましたけどねー」
弁護士事務所でのアルバイト帰り、定時上がりのセイジとやってきた地元の小料理屋ひまらやで、そう溜息をついたカレンだった。
「敗因は何だったの?」
「東銀座だから、銀座のお洒落な場所かと思いきや、区民会館ですからねえ。駅からもちょっと遠いし、その辺が敬遠されちゃったのかも」
あの後よく調べてみたら、実は銀座のほうにいくつか若い女性向けのお洒落な駅近の会場を使ったレジンアクセサリー作りのカルチャースクールが見つかった。
「銀座の駅前には有名な自作アクセサリーのパーツのお店があるんです。そこが会場だと勘違いしてた人もいたみたいで……」
要するに銀座地区の競合と比べられて負けてしまったわけだ。
彼らと比べればカレンたちの公認教室のほうがずっと廉価だし、参加者ひとりひとりにきめ細やかな対応ができていたとは思うのだけれども。
ご覧いただきありがとうございます。
読者様にお願いです。
続きが気になる、と思ってくださったらブクマと評価のお星様★★★★★で応援いただけると嬉しいです!




