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最終的に集まった支援金は……

 さて失業保険の退職後の7日間の待機期間も過ぎて、まだちょっとだけ時差ぼけの頭ながら、元同級生セイジの弁護士事務所に出勤だ。


 シフトは、午前か午後どちらかのシフトで4時間から5時間ずつ。

 カレンは午前中にハローワークや再就職先候補の会社への訪問、面接などを入れることにして、アルバイトは午後シフトをメインにしてもらっている。

 アルバイトなら残業もほとんどないし、17時の退勤後にスーパー銭湯に寄ったり、スーパーで買い物したらするにもちょうどいい時間帯なのだ。




「へえ、クラウドファンディングでねえ! 200万はすごいよ、僕、身近で上手くいった人初めて見たよ」

「他のプロジェクトみたいに数千万とかは行かなかったんですけどね」


 ラスベガスに旅行中、何となくプロジェクトを立ち上げたクラウドファンディングでいきなり支援金が集まっていたカレンだ。

 最初の数日で何と200万円を突破して、現在はもう支援金の申し込みは緩やかになっていて止まりつつある。


 そのことを話してみると、弁護士事務所の所長の先生も、他のスタッフたちも驚いていた。


 ただ、サービス開始の同時期に立ち上げて派手な成果を上げている他プロジェクトから見たら、カレンの成果はショボいほうだ。


「あはは……革製品の小物やバッグの制作プロジェクトの人なんて、もう三千万円集まってましたけどね。すごいですよね、あれ」


 とりあえず来年3月の確定申告は慣れないことだらけになるはずなので、一年間だけこの事務所と顧問契約を結ぶことを所長の弁護士先生から勧められた。

 いざというとき相談できるだけなので格安の月額5千円。日々の帳簿付や、確定申告の時期の専門的アドバイスはまた別の話になる。


 この事務所の専属税理士は今のところ元同級生のセイジだけなので、実際にはセイジにあれこれ教えてもらうことになりそうだ。


「ま、安心料だと思ってさ」


 ちなみに、事務所の税理士との契約費用はクラウドファンディングでゲットした支援金で賄える。


 カレンのプロジェクトは『自作レジンアクセ作家のプロで食べていきたい』で、アクセサリー作りに必要な環境や利用サービス費用はすべて支援金の用途の中にあらかじめ含めていた。


 プロジェクトを立ち上げる最初のときに、よくわからないなりに項目ボタンを押しておいてよかったー!




 ところで、ハンドメイド作品でクラウドファンディング百万超えは快挙なのだと、プロジェクトの経過連絡で利用サービスの担当者からのメールで知ったカレンだった。


 ちょうどサービスがプロジェクトを募集したばかりで、積極的に立ち上がったプロジェクトを広告としてWebや SNSで紹介していたのも追い風になったらしい。


 カレンのアクセサリーはレジンという透明な樹脂で作るアクセサリーだ。

 スマホで頑張って見栄え良く撮影した自信作の、SNS映えする写真を複数使ったのも良かったようだ。

 各種SNSでもバズって、驚くほど支援金が集まってしまった。







「それで、アクセサリー作家専業でやっていくのかい?」


 休憩時間、コーヒーを飲みながら雑談で所長に訊かれたが、カレンは慌てて首を振った。


「まさか! 技術だってまだまだ全然だし、家で独りでアクセサリー作り続けるだけなんて寂しくて死んじゃいますよ! しばらくは、再就職して日銭を稼ぎながら副業ですね」


 そう、結果としてみればレジンのアクセサリー作りは趣味から副業になった。

 後日、開業届も出して来ようと思っている。


「良かったよ。正しい判断だね」

「俺たちもこの歳になると、脱サラして潰れた連中、たくさん見てるからさ。心配だったんだ」

「あはは、ですよねー! でも今回の慰謝料やクラウドファンディングの利益だっていつまであるかわかんないですし。確定申告して所得税も払わなきゃって注意書きもありましたし、迂闊なことはできないですよ」

「住民税や保険料も上がるから気をつけるんだぞー」

「はいっ」


 そして実際、翌年の確定申告時の所得税の金額に驚くことになるカレンなのだが、今はまだ平和といえば平和だった。




 会社を退職し、ラスベガスから帰国した翌週にはハローワークへの相談なども一通り終わり、ようやく落ち着いてきたカレンだった。


 そこで、メッセージアプリでしか連絡を取り合っていなかった、区民会館のアクセサリー作りのサークルに、今週からまた参加を再開することにした。


 ある程度はメッセージアプリのグループに事情を投下していたカレンだったが、改めて経緯を説明すると講師の義明君も、先輩会員たちもしきりに同情してくれたのだった。


「災難だったわねえ、カレンちゃん。カレンちゃんの勤め先だった会社のお菓子、私好きだったんだけど今度からお茶菓子は別のお店のにしようかしら」

「いえいえ、変な人は元上司とごく一部だけなので! お菓子に罪はないので今後とも贔屓にしてやってくださいね!」


 そう、カレンの元勤め先は東銀座の老舗菓子の会社。

 銀座を始めとした主だったデパートのデパ地下には必ず出店しているし、カレン自身、就職先だからとは無関係に、大好きなお菓子たちの会社なのだ。

 和菓子も洋菓子もどちらも定番商品や季節商品は、よく雑誌の特集で取り上げられている。

 最近だと和菓子の琥珀糖をアレンジした洋菓子がヒットしていて、カレンも故郷の家族に送ったものだった。


(あーあ。あたしがレジン樹脂のアクセサリーを好きになったのって、会社で売り出した琥珀糖のキラキラが好きだったからなのよね。透明で綺麗なとこが一緒。なのにいきなり解雇とか、ほんとツイてない……)


 琥珀糖は、食紅などで色を付けた砂糖水を寒天で固めて乾燥させた、和菓子の一種だ。

 似たようなお菓子は実はスーパーなどでも安価で売っている。


 ところが近年、これもSNSで美しい色鮮やかな数々の琥珀糖が紹介され、また伝統的に琥珀糖を作っている老舗の菓子店が知られるようになった。

 それにつれて、カレンの元勤め先の菓子会社も従来の琥珀糖に加えて、新規商品の開発に積極的に乗り出すようになったという経緯がある。


(ドライフルーツを入れた新商品、結局、試作品を試食する前に解雇されちゃったのよね……)


 悔しいといえば、それが一番悔しいことだったかもしれない。





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