ビギナーズラックは続くか?
結局カレンは一晩中、ほとんど眠れなかった。
ホテルをチェックアウトする時点で、カレンが立ち上げたクラウドファンディングの『自作レジンアクセ作家のプロで食べていきたい』プロジェクトには、58万円まで支援が集まっていた。
「ひ、ひえ……」
何か変な声が出た。
もう今日は朝食の前に空港に向かってしまうことにした。
朝食は空港のカフェで簡単に取ればいいだろう。
睡眠不足だが、飛行機に乗ってしまえば後は乗り継ぎさえこなせば成田空港までは寝ていられるのだし。
荷物をまとめて、ホテルをチェックアウト。
あとはシャトルバスで数ドル払えばそのまま空港へ連れて行ってくれる。
ラスベガス空港でようやく、お土産の購入だ。
スーツケースにはもうあまりスペースの余裕がなかったので手荷物で機内持ち込みして持ち帰ることになる。
「んー。やっぱり今回一番お世話になった藤原君よね」
セイジにはラスベガスのブリキ看板を。
ちょっとしたトレーとしても使えるし、壁に飾ってもいいやつだ。
「元職場の同期やお世話になった総務課長さんたちにも」
会社は解雇せざるを得なかったが、職場の人たちには大変お世話になったと思う。
トラブルに巻き込まれたカレンを見捨てず、心配してくれた彼らには感謝しかない。
愚痴を聞いてくれた小料理屋ひまらやのオヤジさんや常連さんたちへも忘れずに。
元職場へはお高いチョコレートの箱とキーホルダーを人数分。
小料理屋の面々にはハーシーズのチョコレート。パッケージがラスベガスのメイン看板で格好いい。
そして、チェックインまで余った時間で、つい。
つい、空港内のスロットマシンの前に座ってしまったカレンだ。
「だ、だって米ドル札やコインなんて余っても仕方ないもの!」
と言い訳するようにして旅行用の財布から1ドル札と10ドル札をごそっと出した。
カジノで4千ドルを儲けていた分のうち、千ドルを滞在中の観光費用や食事代、買い物に使って、残りの3千ドルは東京の成田空港に着いてから日本円に換金するつもりだった。
カレンはアメリカに銀行口座など持っていないし、米ドル決済用のクレジットカードなども持っていなかったので。
アメリカの有名ブランドのバッグやアクセサリーも惹かれたのだが、いくら退職金その他が出たとはいえ今のカレンは無職の身。
今回カジノで儲けた分は、新しく再就職先が見つかるまではプールしておこうと決めていた。
そのはずだったが、そんな残りの3千ドルから、さらに千ドルを取り分けてスロットマシンの上にドン。
「うふ、うふふふふ……あのクソ上司とオサラバしてからあたし、ちょっとツイテル感じじゃない? 最後の大勝負、いくわよー!」
もう着信音は消音にしていたが、カレンのスマホからはいまだにクラウドファンディングで「支援されました!」のお知らせ通知が届き続けている。
いける。これはいける! と勝負に挑んだスロットマシン、ルーレットの結果は如何に?
派手に負けた。
そう、空港で時間潰しのため最後に遊んだスロットマシンで。
そもそも、2時間も余計な空き時間があるのが良くなかった。
結局、千ドルだけと決めていたはずが、さらに百ドル、また百ドル……とどんどんルーレットマシーンに米ドル札を飲み込ませていくこと数度。
結局、大きく勝つことはなく、マイナス千5百ドルまで減ってしまった時点で、残りも溶かしてしまおうか! と興奮しながら思ったが脳内セイジが必死で止めてきたので頑張って終わりにした。
まだスマホにはクラウドファンディングの支援金通知が入り続けていた。
いったいいくら集まることになるのか、怖くて見れなかった。
「あ。そうだ、支援者さんたちへの支援お礼送るとき、ラスベガスのお土産も一緒に送ろうっと♪」
ばら撒き土産向きのキーホルダーやボールペンならそんなに嵩張ることもない。
そうして、カレンの4泊5日のラスベガス旅行はちょっと締まらなかったけど終わりを迎えたのである。
「お、意外とカッコいいな!」
帰国した翌日、セイジの勤め先の弁護士事務所へ、カレンの元勤め先との交渉の最終結果の確認と、土産を渡しに来所した。
セイジに渡したのはブリキの横長のラスベガス看板だ。
真っ赤で如何にもアメリカ、という感じ。
事務所にはM&M'sとハーシーズ、それぞれのチョコレートの詰め合わせ・ラスベガスバージョンを。
こちらはカレンの一回り以上、上の世代にはよく受けた。どちらもアメリカ、ラスベガスといえばハードロックカフェと並んでアメリカ映画によく出て来るスイーツなので、男の人でもよく知っていたようだ。
カレンの元勤め先との交渉は、旅行中に弁護士先生がほとんど終えていて、退職金も慰謝料込みで数日以内に振り込まれるとのこと。
着金を確認したら、退職金等の金額が記入された給料明細が元勤め先から送られてきた後で残高照会を済ませた通帳と一緒に事務所にコピーを提出すれば、成功報酬12%を支払って完了となる。
「手付金も割引していただいたのに。成功報酬も割引いて貰っちゃって良かったんでしょうか?」
本当なら成功報酬は20%のはずだった。
「藤原君のスタッフ割だと思ってくれればいいよ。相手先とそんなに揉めることもなかったし、うちの事務所的には楽な仕事でありがとうって感じだね」
藤原の上司である所長の弁護士先生は、恰幅の良いお腹を叩いて笑っていた。
「あとは今後3ヶ月間、元勤務先とのやりとりが必要なら、うちの事務所が入るからね」
「何から何まで……ありがとうございます」
明日から、就職活動をしながらこの弁護士事務所のバイトをすることになる。
この日は他に話などもなかったので、所長とセイジを交えて軽く雑談した後でカレンはそのまま弁護士事務所を辞した。
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