路頭に迷わず済みそうです、さて7日間の時間の潰し方は
会社を不当解雇されたカレンは、その3日後には元同級生セイジの勤め先の弁護士事務所に相談に行くことになった。
事務所員のセイジの紹介ということで所長の年配弁護士が直接面談してくれた。
この手の解雇トラブルは比較的多いようで、解雇予告手当の請求や、パワハラ等と不当解雇への慰謝料請求などの相談はさくさくと進んだ。
何にせよセイジの勤め先の弁護士事務所だ。身内割を適用してくれるとのことで、思ったより弁護士費用が少なくて済むようだ。
手付金が割引で成果報酬なので、カレンの負担はほぼゼロ。
面談のその場で弁護士の先生がカレンの退職した会社に問い合わせたところ、要求通りの支払いをするとの回答だった。
電話の相手は、専務にクビと言われた後に話をした総務部の男性部長だ。その分、話は早かった。
慰謝料に関しては、警察沙汰になったことやパワハラを行ったブラック上司の飴田課長のことを含め他言無用としてくれるなら即金120万支払うとのこと。
これらすべて、後日、弁護士事務所が間に入って書面で締結することになった。
退職金74万。
解雇予告手当一ヶ月分26万、これはカレンの一ヶ月分の給与相当。
慰謝料120万。
計220万となった。
そして失業保険の給付日数は120日、約6ヶ月。
「よ、良かった。失業してすぐ路頭に迷う感じじゃなかった!」
しかも失業前よりはるかに貯金が増えることになりそうだ!
地方の実家から東京に出てきて一人暮らしのカレンは、どうしても貯金しにくく銀行の通帳残高も横ばい状態だったので。
弁護士事務所から連絡を受けて、後日振り込まれる金額の明細を受け取ってカレンはその金額に驚いた。
これなら退職金や慰謝料などで貯金の余裕も、かなりできる。
ハローワークには既に行っていて、失業保険の受給期間中でも条件を満たすアルバイトは可能と教えてもらっていた。
再就職活動をしながら、短期短時間のバイトを探すことをカレンは決めた。
それで元同級生セイジの勤め先の弁護士事務所でお手伝いをすることになった。
「ちょうどいい、帳簿の入力バイトやらない?」
セイジは税理士として弁護士事務所に勤めているのだ。
弁護士事務所はカレンの住んでいる地元だし、帰り道にはセイジと再会したスーパー銭湯もあるしで。
アルバイトをしていれば退職で増えた貯金も減らさずに済むことから、即効でオーケーした。
ただ、失業保険を申請してから7日間は待機期間といって新しい仕事をすると失業保険が貰えなくなってしまう。
バイトはその後から始めることになった。
「就職してから、全然旅行とか行けてなかったから。7日間の間、遊んで来ようと思って」
と言ってカレンが出かけることにしたのが、何と北米ラスベガスだった。
いきなりメッセージアプリでセイジ宛に連絡が入ってきたと思ったら、もう翌日は成田に向かうそうだ。
「おいおい。そんな直前でよくツアーの予約取れたな?」
「インターネット様々よ。直前割が使えたからわりとお得だったの」
その日は就業後、いろいろカレンがお騒がせしていた小料理屋ひまらやで、セイジ一人で来店して店主のオヤジさんたちに報告することになった。
「海外には行けなくても、パスポートの更新だけはしてたんですって」
いきなりラスベガスに行くと聞いて、店主のオヤジさんも驚いていた。
「へえ、カレンちゃんて英語喋れる人だったのかい?」
「大卒ですけどサッパリらしいですよ。旅行英会話の本買ってから行くって言ってました」
「あはは」
帰国したらまた土産を持って、ひまらやを訪れたい旨、伝言しに来たセイジだった。
日本の成田空港からラスベガスへは約11時間、飛行機に乗ることになる。
途中、乗り継ぎでロサンゼルスを経由して一度飛行機を降りて乗り換える必要があった。
「あ、あのね、いま途中のロサンゼルス空港なんだけど、に、荷物、見当たらなくて」
翌日、昼間に半泣きで同級生のケータイに電話が入った。メッセージアプリの通話機能だからお互い無料なのが嬉しい。
だがその声は涙声だった。
「えっ。青山、おまえ何やってんだよ!?」
航空会社に問い合わせようにも、英会話がほとんどできないので話が通じないという。
「おい、俺、英語ちょっとできるから荷物受け取りの近くの職員捕まえて電話代われ!」
セイジは学生時代のうちに就職に備えてビジネス英会話はマスターしていたので、電話でカレンの代わりに確認してやることにした。
すると、乗り継ぎの場合は荷物を乗客に返さずそのまま飛行機から飛行機に載せ変えるので無問題とのこと。
「ロサンゼルスで荷物を受け取る必要はないってさ。受け取りはラスベガスで。大丈夫か?」
「だ、大丈夫……多分……」
電話を切ったあと、思わず呟いてしまった。
「ダメだあの女。俺がいてやらないと!」
どっと、弁護士事務所の所内が大爆笑だ。
「早く結婚したほうがいい」
「お互い28でしょ? いい感じー」
「まだ告白もしてません!」
その流れで、セイジはカレンを中学のときから好きだったことを白状させられてしまった。
「もおおー! まだ本人にも告白できてないのに!」
青山カレンと藤原セイジは中学時代の同級生だ。
中学のとき、セイジがクラスメイトたちに苛められていたのを助けてくれて、しかもクラスの輪の中に馴染めるよう手助けしてくれた恩人でもある。
「地元の公立中だったから、先生もそんなに親身になってはくれなくて。体育の授業でペア演習するときなんか、おれ一人だけハブられるんですよね。そんなとき組んでくれたのがあいつなんですよ」
結局、中学のときは卒業するまでの間に告白などはできなかった。
まさか十年以上も経って、地元のスーパー銭湯で再会したときは本当に驚いた。
「そういう縁は大事にしたいよね。応援してるよ、頑張って」
所長からのありがたいお言葉である。
ラスベガスから帰ってきたらカレンは次の就職先が見つかるまで、最大半年間はこの事務所で事務バイトをすることになる。
「はは……こりゃプレッシャーかかるなあ」
何せ事務所の職員、全員にセイジの想いが知られてしまったわけで。
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