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手のひらサイズの令嬢はお花の中におりました  作者: しろねこ。


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すれ違う

コンコンと誰かがノックする音が聞こえた。

「ティタン様、開けますよ」

寝ていたティタンはゆっくりと目を開ける。

(もう朝か…寝た気がしないな)

マオの声にぼんやりとする頭を揺する。


昨夜遅くに寝たせいか、まだ頭が重い。

体を起こし、ベッドに腰掛けた。

深呼吸を一つし、声を掛けた。


「入れ」

マオと、そしてその腕に抱かれたミューズが入ってくる。


「もう起きていたか…」

ミューズも一緒だったとは思わなかった。

(キレイだな…)


ミューズを見て、声には出さないもののすっと褒め言葉が出てくる。

マオが仕立てたのか、薄紫のドレスを着て、全体的にもきちんと着飾られていた。

きれいな金髪にはドレスと同じ、薄紫色のの淡いリボンが編み込まれている。



「おはようございます、ティタン様」

ミューズは嬉しそうに笑顔を見せてくれる。


可愛らしい笑顔と姿、それを見てティタンの頬が緩む。


想い人がいるというのに、好意を向けてくる様子に勘違いしそうになる。


そしてきれいに着飾ったミューズとは対照的な自分の姿に、ちょっと照れ臭くなった。



「すまない、みっともない姿を見せたな」

ティタンはまだ寝間着のままで、髪もボサボサだ。




「ティタン様がまだ起きてないのは珍しいですね」

マオは起きてるものだと思って来たのだ。


いつものティタンなら朝の鍛錬のために起きてるはずの時間。


「色々考え事をしてたら、寝るのが遅くなってしまった。兄上は何を話したいんだか」


欠伸を噛み殺し、ティタンはクローゼットから自分で服を取り出す。


「マオ、私のことはいいから、ティタン様のお手伝いをしてほしいわ」

ミューズはマオに促す。


従者であるなら、普段手伝いをしてるはずだ。


それなのに今のマオはミューズに付きっきり、さすがに申し訳なく思う。


「気にするな。どちらにしろマオはそこまで手を出さない」

「自分の事は自分で、ですよ。ティタン様なら出来ます」


実際ティタンはある程度自分で出来る。


将来騎士として野営などに行く事を想定し、自分一人でひと通りは出来るように練習していた。

臣籍降下は決まっているし、いつまでもここにいるわけではないことも関係してる。


マオがサボるため言い出したのではない、と思いたい。


「とりあえず着替えたいから…ミューズ嬢すまない、後ろを向いていてもらえると助かるな」

ミューズを部屋から追い出すわけにはいかないし、ティタンが困ったようにそう言った。

「す、すみません!」


慌てて後ろを向き、目を押さえた。


「ミューズ嬢が謝ることはない。俺が起きるのが遅かったのが悪いんだ。それより朝食だな、こちらに持ってきてもらおうと思っている」

「そうですね、この姿ではあまり他の人に会わない方がいいでしょうし」




「僕が頼んで来るです。ミューズ様用のメニューも相談したいですし」

小さいミューズが食べやすいものメニューを作ってもらおうと、マオは部屋を出ていった。


マオが出ていった後、ティタンは着替えを始めた。

着替えが終わるまでとミューズは目を瞑り、じっとする。


同じ部屋に異性がいるなど、緊張感で心臓が爆発しそうだ。


ティタンは着替えが終わると髪に櫛を通す。


「ミューズ嬢、待たせたな」


その言葉にミューズは目を開き、振り返る。

ティタンは淡い水色のシャツと黒のズボンというシンプルな格好だった。


昨日とは違い、だいぶ簡素な格好だが、鍛えられた筋肉が見て取れる。




「その格好もとても、似合います」

「そうか?ありがとな」

ティタンから優しい笑顔を向けられ、思わずドキドキしてしまう。



普段見かけていたのはパーティや交流試合などの、他の人の目もある畏まった時だけだった。

それなのに今はこのようなプライベートな姿のティタンを見られるとは嬉しい。

表情も幾分かリラックスしているためか、険は全く感じられない。



婚約者になればこのように気を張らない普段のティタンが見られるのかと、嬉しさでミューズは顔を赤くしてしまった。

ミューズからの視線に居心地の悪さを感じる。


今の彼女は物珍しさでティタンを見ているだけだ、と自分に言い聞かせる。

他に想い人がいるのだから、そのような好意の目で惑わせないで欲しいと思っていた。


ティタンは想いを断ち切るように、話題に触れる。


「昨日話していた、君の想い人についてなんだが…」

「は、はい」


あまりにも見つめすぎて、ティタンだと知られてしまったかと、ミューズは緊張した。


「教えて貰えればすぐに、とはいかないが君と良い縁が繋げられるよう、出来る限り手助けをしようと思う。相手にも想い人がいるとは言っていたが、婚約を結んでいないなら、まだチャンスはあるはずだ」


ティタンは自分の事だと気づいていないようだ。


「その、想い人のことですが…マオに相談したら想い人はいないようなのです。でも…」


ティタンだとは言えず、どうしたものかと考える。

告白する勇気が出ない。



「そうか、ならば相手を教えてもらえれば力になれるかもしれないな。言いづらいだろうが、教えてもらえるか?」

「いえ、そんな、ティタン様には絶対に言えません!」

口が裂けても言えない。

「そうだな、大事な事だ。俺には言えないよな」

ティタンは内心がっかりしていた。


少し近づけたと思ったのだが、やはり自分ではミューズに信用されていないと感じたのだ。


「…ティタン様には見守ってもらえたら嬉しいです。いつかその人に好きって言ってもらえるよう頑張ります」


健気なミューズの想い人が羨ましくなってしまう。

応援してあげたい。


嫉妬が止まらない。


「わかった…応援しているよ」






朝食を終え、約束の時間までお茶を飲んだりして待っていた。

ティタンは少しだけ上の空だ。

そんな中でニコラが三人を呼びに、部屋に来た。


「謁見室で?兄上に会うだけではないのか?」

「えぇ、大事な話なので」


ニコラはティタンから、マオの腕の中にいるミューズへと視線を移す。


「はじめましてミューズ様。僕はアドガルム国の王太子エリック様の従者です。ニコラとお呼び下さい」


ニコラはミューズに向かい、恭しく頭を下げる。

栗色で若干ウエーブかかった髪をしており、黒い瞳は少し翳りを帯びていて、気弱そうな印象を受ける。


「では向かいましょう。皆様お待ちです」


ニコラはドアを開け、促す。


(皆様って、他に誰がいるのかしら?)


不安に思いながらもミューズはマオに抱えられて行く。


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