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手のひらサイズの令嬢はお花の中におりました  作者: しろねこ。


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呪術師の幸福

呪いという力を利用した令嬢達は皆、処刑されたらしい。


公爵令嬢である王族の婚約者を殺害しようとした事、並びに違法で危険性の高いものを購入し使用した事、世間を騒がせた事などを加味し、重い処罰となった。


その父親であった侯爵達は貴族籍を剥奪され、アドガルムへの賠償金を払うためと、娘達の罪を贖うため、強制労働となった。


領地はそのまま親類の誰かが継ぐことになったが、降爵になった。


ミューズの婚約者候補と噂されたユミルも、実際はミューズに付き纏いをしていたとされ、しかも他の女性を何人も誑かしていたとし、評判は一気に地に落ちた。


こちらは勘当され、リンドールにもいられず、どこかの国へと放逐されたそうだが、詳細はわかっていない。



また、ティタンがミューズを連れて行ったのは呪いにかかった彼女を助けるためだったと、訂正され、ティタンとミューズの信用が回復していった。


そしてずっと想い合っていたという話も回り、美談として噂が広まっていく。



後にアドガルムで開いた婚約パーティではまだ婚姻前にも関わらず、仲睦まじく寄り添う二人が見受けられた。


ディエスも祝福をし、娘の姿に人目を憚らず涙を流していた。


ティタンの嫉妬が激しく、男性はほぼ近づけなかったという。






「お手合わせ、願う!」

アドガルムの辺境伯領にて、大声が響く。


「少しは強くなったかな、ティタン殿」

剣を構えるはミューズの祖父、シグルドだ。

ミューズの従兄弟のキールもいる。


「ティタン様の次は俺との手合わせもお願いします、お祖父様」

「若いもんが年寄りをいじめるな。連戦など疲れるわ」


そう言いながらも拒むことはしない。



ミューズは祖母のサンドラと父親のディエスとお茶を飲みつつ、その様子を見ていた。


「飽きないものね、三人とも」

「あら、お祖母様。三人ではなく五人ですわ」


剣術の指南ということで、護衛騎士のルドとライカも志願した。

「皆凄い体力だな…到底真似できない」

「お父様はそういうタイプではないですものね」

根っからの文官であり、運動を得意とはしていない。


「でもディエス様は根性あるわよ。何度断られてもリリュシーヌとの婚姻を認めてもらうために、毎日シグルド様の所に通って頭を下げていたわ。剣の腕はなくとも、誠意だけは負けられないって」

慌ててディエスは止めに入る。

「お止めください、サンドラ様。ミューズにそのような話を聞かせるなんて」


初めて聞く話にミューズは目をキラキラとさせた。

「お父様とお母様の馴れ初めなんて、聞いたことなかったですわ。是非教えてくださいませ」

父と亡き母の恋バナに、ミューズは胸を踊らせる。


焦るディエスを尻目に、サンドラは楽しそうに当時の話を始めた。


マオは静かに控えているが、ミューズの楽しそうな様子に笑顔を浮かべている。

リンドールに帰ることなくこちらにいてくれた事も、マオにとっては喜ばしかった。


ミューズが目覚めて数日経った頃に、ミューズの親類も揃ってアドガルムへと来た。


辺境伯であった、ミューズの祖父、シグルドに至っては領地ごとアドガルムへと鞍替えしたのだ。


「孫娘の一大事に動かない国など、守る価値もない!」

と憤慨しており、リンドールが止める間もなくアドガルムと契約し、傘下に入った。


「アドガルムは身内を大事にする。シグルド殿に手を出せば、わかっておりますな?」

アルフレッドはリンドールの訴えを退け、シグルドを守ると決めていた。


力づくで止めようにも辺境伯領で実践にて鍛えられた兵と、王都にいて争いもなくぬくぬくと訓練していただけの兵では技量が違った。


戦争になってはいけないと抗議文を送るに留まってしまった。


その件も影響し、アドガルムとリンドールの国交は縮小されたが、アドガルムはあまり不自由はしていなかった。

軍事は強化され、民間の貿易は滞りなく行えているため、民への影響も少なかった。


ディエスの手腕で無駄も省かれ、支出も抑えられたり、資産も増えた。

隣国のアドガルムについてしっかりと学んでいたディエスは、即戦力として重宝された。


リンドール王家は貴重な人材の流出と、交易が落ち込み、そしてアドガルムへの賠償金により著しい資金難になってしまった。


領民の一部もリンドールの落ち込んだ財政による税の上昇から、安定しているアドガルムへの移住を希望する者が出たため、より一層税金による収入も低下してしまった。



他にもアドガルムに思わぬ収穫があった。


呪いを扱える呪術師が増えたので、サミュエルの負担が減ったのだ。


「面白い力だな」

キールの父親でミューズの叔父でもあるロキが、サミュエルに話を聞き、試しにその力を行使したところ、才能が開花したのだ。


その娘であるシフも試すと呪いを視ることが出来、今までサミュエルが行なっていた呪物の鑑定も分担出来て、休日も取れるようになってきた。


問題としては、サミュエルが突然出来た同僚に戸惑っていることだ。


「今まで同じ仕事をする人がいなくてずっと一人でしたが、急に賑やかになってしまって…」


ロキとシフは話し好きでよくサミュエルに話しかける。


二人は平民出であるサミュエルを偏見の目で見る事もなく、優しかった。


ミューズの叔父と従姉妹であるから、当然と言えば当然だが、サミュエルは嬉しかった。


「よし、今日も飲みに行くぞ!」

「ダメです、今日は私とご飯を食べにいくのですから。ねっ、サミュエル様」


誘われて外に出ることも多くなり、サミュエルは徐々に体力も付き、自然とフードを外すことが増えた。


少し距離のあった城内の者たちからも、話しかけられる事が増えた。


新たな人生が開け、相変わらず忙しそうだが、サミュエルは幸せそうだった。







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