ドレスアップ
「まぁ!この方がティタン様の婚約者様になる方なのですか?」
ミューズが部屋に入ると嬉しそうな侍女達の声がする。
「ええ、なので存分に腕を奮ってほしいのです。」
マオの頼みに、侍女達からは歓喜の声が上がった。
呪いが解けた後、マオに簡単な服を着せられてから、ミューズは侍女達が待機するこの部屋へと移らされた。
彼女たち達は呪いなどの話は何も知らないらしい。
「綺麗な髪と瞳ですね、肌もつやつや。ティタン様はミューズ様のような可愛らしい方が好みなのですね」
髪を梳かされ、オイルを揉み込まれる。
「あら、胸もなかなか…スタイルも良くて羨ましいです」
肌にもクリームを塗られていく。
「リラックスしてくださいね、体をほぐさないと。アナスタシア様やレナン様にもう〜んと綺麗にするよう、仰せつかっておりますから」
肌を褒められたり、体を整えられたりと、ミューズは忙しなく動かされる。
「ありがとう…」
肌を磨かれた後は、装飾をつけられたドレスを纏う。
淡い紫のドレスと沢山の宝石が散りばめられた服。
「ティタン様の髪色のドレスです」
マオが満足そうに見ていた。
「この後婚約の書類を書いて、国王様に承認を得るです。正式に婚約者となります、楽しみなのです」
マオの声は弾んでいる、早くそうなればと待ち遠しいのだ。
「ありがとね、マオ。ここまでしてくれて」
「いいのです、僕がしたくてしたのですから」
さらりと言うとマオは邪魔をしないように、壁際に寄った。
靴も色々と試したり、髪型をどうするかなど話しているようだ。
時間がなく既製品のドレスとなったので、体型に合わせて詰められる。
「こちらは滞りないですよ、そちらはどうですか?兄さん」
こっそりと通信石にてニコラとやり取りをする。
詳細を聞いたり、リンドールの様子はどうであったかなど聞いていく。
「ははっ、大変ですね。リンドールはこれをどう挽回するのか、楽しみです」
滞りなく呪い返しが終了したようだ。
マオは綺麗に磨かれていくミューズに更に機嫌が良くなった。
あの時一番に自分達が見つけて良かったと今でも思う。
何だかんだでマオにとって、ティタンは大事な主だ。
薄汚れた孤児であった自分達を受け入れ、大切にしてくれた。
蔑むことも虐めることもしない、実直な男だ。
思い込みが強く、時に間違った方向にいってしまった時は、家臣総出でティタンを止めようと誓いあっている。
ミューズとの婚約を拒否した時は辟易したが、アルフレッドが止めてくれて助かった。
ミューズもティタンの言葉を許してくれて、こうして婚約まで話が進んだのが救いだ。
あれで振られてしまっていたら、一生独身だったかもしれない。
「ミューズ様、綺麗です」
すっかり見違えたミューズにマオは膝をついた。
仕えるべき主に、改めて忠誠の意を込める。
今後も丁重に守っていかねばならない。
「マオ、嬉しいわ。元に戻れたのも、こんな素敵なドレスを着られるのも、あなたがたくさん力を貸してくれたからよ、本当にありがとう」
「お礼を言う必要はないですよ。ミューズ様の優しさが僕らを動かしたのですから。ミューズ様の力です」
ここにいる者、特に現在側近として仕えている者は、人として扱われなかったり、訳ありの者が多い。
それらの者を拾い集め、アドガルムの王族は、地位を与え、力を与えた。
王族の側近となった者たちは、他の者以上に、強い忠誠を誓った者たちが多いのはその為だ。
人として扱ってくれた事、人として認めてくれたのが大きかった。
だから、その配偶者にも同じくらい尽くすとするものが多い。
主が認めた者は、自分にとっても命を賭けるくらい大事な主人だ。
ミューズは特に優しくしてくれた。
心に傷を負うマオやサミュエルにとってもすぐに仕える存在となったのだ。
「優しい、かな?普通じゃないの?」
「普通じゃないですよ、寧ろ優しすぎるのです」
今後、その優しさにつけ込むものは自分が排除する役目だ。
マオの猫のような目が細くなった。
「さぁさ、ティタン様に見せに行くです。きっと顔を赤くしてカチンコチンに固まるはずですから」
マオの言葉通りの情景を容易に想像できてミューズは、くすっと笑う。
「こんなに綺麗にしてもらったんだもの、きちんと見てもらって、褒めて欲しいわ」
自信を持って、ミューズは部屋を出た。




