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手のひらサイズの令嬢はお花の中におりました  作者: しろねこ。


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断罪の場所とは

あれから少し経ち、エリックとニコラはリンドールのとあるパーティ会場にいた。


会場を歩き、事件の発端となった男性を遠目から見つける。


ユミル=イースティ伯爵令息。


ミューズの婚約者候補として噂された。

その噂により、ユミルを慕っている令嬢達からの嫉妬で、ミューズは呪いをかけられるに至ってしまった。


金のような薄茶の髪に涼やかな青い瞳と、スラッとした体躯と甘いマスクをしている。

終始にこやかな笑顔だ。


周囲には件の令嬢達を侍らせていた。


「呑気なものだ、ミューズ嬢をあのような目に合わせて」


髪を茶色に染め、眼鏡を掛けたエリックはユミルとその取り巻きの令嬢を睨みつけている。

その服は従者服だ。


「そうですね、人を貶めておいて、あのように平気そうにしてるとは…まぁユミル様はある意味巻き込まれた側でしょうが」


逆にニコラは金髪にして、眼鏡を外していた。

エリックの今の服より高価な服を身に着けている。


「恋多き男は結構だが、それでミューズ嬢が実際に被害を被った。少しはなりを潜めてもらいたいものだ」


二人はリンドールの宰相、ディエスとの縁故でパーティに呼ばれたという設定にしている。

ディエスに無理を言ってでも、今回のパーティに潜り込む必要があったのだ。


今日のパーティでもミューズの話題はかなり上がっていた。


あの建国祝いのパーティより、ミューズの姿が見えない。

あれ以来誰もミューズの姿を見ていない事から、拐かされたのではないか、とか、男とパーティを抜け出した淫乱だとの噂も流れている。


なんとも邪推の好きな国だな、と思った。


「ユミル様と、何か話してきますか?」

ニコラの提案に、エリックは首を横に振る。


「いい。今のところ俺達はただの見届人だ」


まだ動く必要はない。


「リットン侯爵令嬢、ウェザー伯爵令嬢、エイリール伯爵令嬢、そしてイースティ伯爵令息。この者たちが呪い返しでどのように反応するか、見ものだな」





「ミューズ様のお姿、今日も見られませんでしたね」

そう言ったのは、イザベル=リットン侯爵令嬢。

ミューズの体に異変が起きてるのは重々承知しているのに、さらりとそういった。


「そうですわね。何でも男性と会場を離れたとか…あくまで噂ですけど」

アニス=ウェザー伯爵令嬢はクスリと笑う。

悪評を嬉々として話しているのはアニスなのに。


「あらそんな事言ってはだめよ。仮にもユミル様の婚約者候補だったのでしょ?」

過去形で話し、もう婚約者候補ではないと言外に言うのはイーノ=エイリール伯爵令嬢だ。


ユミルは苦笑する。


「そうだね。婚約者候補ではあったけど、まさかミューズ様がそんな女性だったとは思わなかった。誰にも言わずに姿を消した…ディエス様は体調不良だとおっしゃっているけれど、屋敷に医者を呼ぶ素振りもないらしいね」


ユミルは婚約者候補どころか、本当は婚約の打診をして断られている。


ミューズが噂の否定に積極的ではなかったため、噂を利用し、次期公爵を狙って婚約を申し出たが、断られてしまった。


しかし公爵になるのを諦める事が出来ず、パーティで会うたびに話しかけに行っていたのだ。


(宰相に溺愛されている一人娘…どう考えてもチャンスだったのに)


誰かに攫われるならば、ユミルは先に動けば良かったと思った。


既成事実さえあれば、何とでもなるし、ミューズもユミルを本当は好いてたはずだと思っている。


ユミルはため息をついた。


「そうですね、淑女らしからぬ女性だわ。それにしてもこんな風になってしまって、次期スフォリア公爵家はどうなるのかしら?」

イザベルは疑問を口に出す。


「あら、やはり従兄弟となるのでは?でも、ディエス様が望めば後継者としての養子縁組もありそうね。ユミル様みたいに優秀な人とか」

アニスはちらりとユミルを見た。


可能性の示唆にユミルは心弾む。


「からかわないでくれ、僕にそんな器はないよ」

そう言いながら、ユミルの心を打算が占める。


…ユミルが婚約を断られたのは、ミューズが決断出来なかったから、だと考えていた。

「ユミル殿の話は聞いている、優秀な者だと。私の娘が未熟な為に今回の婚約話はなかった事にしてほしい、残念だがな」

と、ディエスは言っていた。


それとなくディエスと話をしてみるのもいいかもしれない。

ダメで元々だ。




「そろそろダンスの時間だわ。今日は私から一緒に踊ってくれません?」

アニスはそう言ってユミルの手を引く。


「あら、ズルいわ。今回は私からでしょ?アニスは次よ」

イーノが反対の手を取る。


「ちょっと二人共。今回は私なの。この前一番頑張ったんだから」

そう言ってイザベルは二人の手を引き離そうとする。

ミューズのドレスの証拠隠滅をはかったのがイザベルだ。


「それなら私だって、例の物を手に入れるの大変だったのよ。出入りの商人を説得して手に入れたんだから」

アニスは、手を離したくないようだ。


「私だって勇気を出したのよ。一番頑張ったのは私なの」

イーノもユミルから手を離したくないらしい。


「皆、何の話なんだい?」

ユミル争奪戦をしながら交わされる会話に、キョトンとしてしまう。


三人の令嬢は視線を交わし、言った。


「乙女の秘密ですわ」



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