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7/10

07:心を込めたスパイスを

 水やりなどはもちろんのこと、剪定を頻繁に行い、肥料を撒いたり病害虫を徹底的に駆除したり……。

 公爵令嬢らしからぬ農作業に明け暮れる日々。まるで農民になった気分だったが、悪い気はしなかった。


 愛情を込めて育てた胡荽はすくすくと成長し、蒼く美しい葉を茂らせていた。


「おおー、すごく綺麗でございますね。さすがお嬢様!」


「メアリーのおかげです。なかなかに時間はかかっていますが、それだけ美味しいスパイスになるはずですもの」


 そんなことを言いながら、畑を見回っている時だった。

 私は、今まで見たことのない『それ』を発見し、思わず声を上げた。


「メアリー、メアリー。これ、何でしょう?」


「何でございますか?」メアリーが駆け寄ってきて、私と同じものを見て叫んだ。「あっ!」


 それは、緑の中に埋もれるようにして咲く白い花だった。


「これが胡荽の花? ――綺麗」


 小さく可愛らしい花は、よく見ると他にもチラホラあった。

 この花が終わり、種となったら……と想像し、私は胸を躍らせた。


「お嬢様、乙女のお顔をしていらっしゃいます」


「ええ。貴族一の才女と言われる私であっても、恋心は普通の女子と変わらないのです」


 くすくすと肩を震わせて笑うメアリーに釣られ、私も思わず微笑を漏らした。

 そっと胡荽の花を撫でる。どうか、たくさんの種をつけてくれますよう……。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 花はやがて畑を覆い尽くすほどになり、日が経つとともにふっくらと膨らんで、青い実となっていく。

 それが変色していき、収穫時期になるまではそう時間がかからなかった。


 二人でせっせと種を集め、風に晒して乾燥させる。


 その間私は、待ち遠しくて仕方なく、何も手につかなかった。ああ、ああ。今すぐにでも乾かないかしら。

 そして数日後、やっと薄茶色の種が乾き切った。


 それを思い切り叩き割り、あとは粉状にするだけ。すると――。


「できました。見てくださいメアリー」


「はいはい。いやあ、よくできましたね。私奴もこれには感心」


 ……胡荽の粉末が完成した。

 三ヶ月以上――管理を入念にしたおかげか普通よりは早かったらしい――もの間、心血を注いだ結果が、今この手にあるのだ。


 思った以上に時間はかかったし、手間暇もかかったけれど。

 これでお手製の、私だけのスパイスができあがった。


 達成感に頬を緩ませるとともに、私にはまだやらなければいけないことがあるのを思い出す。

 肝心要のスペツィエ様に、この胡荽をお渡しし、ハートを鷲掴みにしなければならない。


「お嬢様、どうやってお渡しになるのでございますか? お料理などに入れるという方法もありますが」


「そうですね。でも私はこのままでお渡ししたいと考えております。袋に詰めて行きましょう」


 私は王城へこれを持っていくつもりだ。

 さすがに警戒はされるだろうけれど……でもきっと大丈夫だ。


 袋詰め作業も自分でやって、それから私は綺麗なドレスに着替えた。

 これからが私の本番の勝負。そう思うと、身が引き締まる。


「絶対に彼を振り向かせてやりますから。……では、行って参ります」


 私は覚悟を決め、胡荽の袋を片手に屋敷を後にした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 風に美しく揺れる金髪を眺め、少女は静かに笑う。

 まったく、なんて健気な人なんだろう。そう思いながら呟いた。


「お嬢様、どーんとやって来い!」


「殿下に告っちゃえばいいのでございますよ。向こうがどんな顔をするか、ちょっと楽しみかも。真っ赤になるのでございましょうか、それとも顔面蒼白でぶっ倒れるのでしょうか?」


「どちらにせよ大丈夫ですよ、あの人は。心を込めて作った胡荽……いいえ、『――――』は、きっと気に入ってもらえます。……本当にお互い、素直じゃないんですから。見てて痛々しいくらい」


「お嬢様! 私奴、応援しておりますからね!」

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― 新着の感想 ―
[一言] おや? 何か秘密があるのかな(゜Д゜;)
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