03:スパイスのお勉強
手作りスパイスをスペツィエ様に……とは決めたものの、生憎、私はスパイスの作り方など知らない。
あまり食べたこともないため、スパイス自体をよく知らないことに思い当たった。
「どうしましょう……?」
こうなったら、まずは一から勉強しなければならないだろう。
私はそう思い、厨房へ向かったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お嬢様、どうなさいました!?」
いきなり私が厨房に現れたものだから、メイドの少女――メアリーは驚いてしまっていた。
公爵令嬢である私が、基本的に厨房などに立ち寄ることはない。ここはいわばメイドたちの聖域のような場所であるのだが。
「お邪魔してしまってごめんなさい。少し、教えてほしいことがありまして」
「教えてほしいこと、でございますか?」
首を傾げるメアリーに、私は言った。
「私、一度スパイスを手作りしてみたいのです。けれどその方法がわからず……。メアリーなら何か知っているのではありませんか?」
メアリーはしばし思案顔になる。
いくら料理担当のメイドとはいえ、スパイスに詳しいかどうかといえば怪しいものだ。第一、うちではあまり使われないのだし。
けれど想像とは大きく違い、すぐさま彼女は元気よく頷いた。
「そういうことでございましたらこの私奴にお任せくださいませ。お嬢様の恋心のためなら私奴はなんだって致しますよ!」
ん?
私は妙な引っかかり――いや、完全なる違和感を覚えて固まった。
もしかして、こいつは私の声を盗み聞きしたのではなかろうか?
私がじろりと睨みつけると、メアリーはしまったとでも言いたげに肩をすくめて舌を出す。
あまりスペツィエ様への私の心は明かしていなかったのだけれど……いくら自室とはいえ拳を固めて宣言するのは、あまりにも迂闊だった。
私は彼女の立ち聞きを咎めようか迷い、結局、見逃すことにした。
「そこまで自信があるようで安心しました。メアリー、手伝ってくださいね」
「はいもちろんでございます!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「スパイスにはたくさんの種類がございます。
辛いものやほんのりと甘いもの、それから苦いものまで。
辛いものの代表といえば唐辛子や胡椒でしょうね。胡椒は、このお屋敷でもよく使わせていただいております。甘いものの代表といえば……シナモンでございますね。あれは、お紅茶などに入れると美味しいんですよ。苦いものは多々ありますが、この際は省くとします。
主にスパイスは植物の根や種を乾燥させ、粉末にしたりそのままの形であったりは様々ですが、料理に使うなどします。
スパイスというものは、陰で料理の味を高めるまさに隠し味なのでございます」
そう語ったメアリーに、私は目を丸くした。
だって、今まで自分が食べていた料理や紅茶にスパイスが入っていただなんて知らなかったのだから。
でも確かに言われてみればなんという名前かわからないものがたくさん入っていて、それが非常に香りと味わいが良かったように思う。あれがスパイスというものかと納得した。
「ありがとう。よくわかりました」
「えへへ。お役に立てたようで幸いでございます」
メアリーは立派なメイドだが、十六歳になる私と同い年くらい。
だから若干子供っぽいところも多い。が、こんなにスパイスのことを知っているなんて驚きだった。
「スパイスは数あるので選ぶのはそう簡単ではございませんが、お嬢様にピッタリなスパイスが一つございます」
少し悪戯っぽく笑うメアリー。
一体何をするつもりかしらと少しだけ身構えていると、
「ズバリ、胡荽でございます」
胡荽という謎の言葉に、私はまたも首を傾げたのである。