01:とある公爵令嬢の悩み
「ああ……、どうしたら良いのでしょう?」
私は呻くようにそう言って、頭を抱えていた。
ベッドに押しつけられた顔は涙でほんのり濡れている。こんなところ誰にも見せられないなと私は思った。
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私は絵に描いたような貴族令嬢だ。
金髪に青の瞳を持ち、すらりと背が高くて誰もが望むような美貌。
勉強も他の子息子女に決して劣ることなく、そして礼儀作法は完璧と言われている。
公爵の娘であり貴族としての地位も高く、婚約者はなんとこの国の第一王子。
そんな輝かしいほどの令嬢であるはずの私には、今、大きな悩みがあった。
それは他ならぬ婚約者、スペツィエ様について。
強く凛々しい方だから、たくさんの貴族令嬢から人気のある彼だが、婚約者であるはずの私に最近どこかよそよそしい態度を見せるのだ。
彼と初めて出会ったのはまだ幼少の頃であり、それから長年お付き合いしてきた。
なのにここ一ヶ月ほど、彼が全然私に顔を合わそうとしない。……どうして?
私、何か悪いことをしたかしら。
何度も考えてみたのだが、全然思い浮かぶことがない。
そんな時私は、嫌な噂を聞いてしまった。
スペツィエ様があろうことか、私より下級の子爵家の令嬢であるスター・アニス嬢と交流していらっしゃるというのだ。
「どうしたら……どうしたら彼を振り向かせることができるのでしょう?」
本来、婚約者を持つ者が、婚約者以外の屋敷へ足を運ぶなんてあるまじき行いなのに……。
きっとスペツィエ様は、なんらかのきっかけでスター・アニス嬢に惚れ込んでしまったに違いないわ。
まさか王族貴族たるもの、婚姻前にふしだらな行為はしないはず。
だから今ならまだ取り戻せるのかも知れないのだが、しかし私にはその方法が一向に思いつかない。
私は正直、スペツィエ様をお慕いしている。
初めて会った日から、ずっとずっと想い続けている。
そんなに想っているスペツィエ様を、子爵令嬢なんかに取られてたまるものですか! とは思うのだが……。
「非力な私では、どうしようもありません……」
貴族一の才女と呼ばれる私であるが、今まで手を尽くしても彼の気を惹きつけることは叶わなかった。
手紙を送ったり、夜会で熱い踊りを踊って見せたり……けれど私から顔を背けようとするスペツィエ様。
そして今日も、王城に行った際に挨拶をしたら、彼はなんだかドギマギなさっていた。
スペツィエ様はきっと、私に飽きてしまったのだろう。
私は、またスペツィエ様と前までのように話したいのに。
思い悩み、ただただベッドに顔を埋めて泣くことしかできないのであった。