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うす皮  作者: 青山えむ
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6話 風向きが変わる

 行動を起こすと不思議と風向きが変わるというか、物事を運んでくるのだろうか。


 珍しいことがあった。同僚に合コンに誘われた。

 まぁ頭数合わせで誘われたとは思うけれども、心はうきうきしている。そのうきうきが、バレたら恥ずかしいので顔に出ないように仕事をした。

 

 私はドラッグストアで働いている。この会社では、新入社員はまず全員レジ業務に就く。

 特に女子社員はほぼレジ業務で定着する。私は入社後、数ヶ月レジを経験したあと事務職に変わった。

 もしかして優秀だからなのかなと、どきどきした。もちろんそんなことは他人には言わないけれど。

 あの当時ずっとレジ業務でよく不満を口にしていた同期はコスメカウンター配属になりどんどん綺麗になっていった。先輩・後輩とも積極的に関わりみんなと仲良くなっている。取引先の男性社員ともずいぶん親しいみたいだ。社会人に必要なスキルを着実に自分のものにしている。

 

 一方、事務職に配属された新入社員は私以降おらず、私は万年下っ端だった。

 事務職には一番ベテランのお局様と、私より十歳年上の女子社員がいた。お局様のご機嫌を伺い、やる気を見せつつも嫌な仕事には手を出さないようにしていた。

 

 自分では上手くやっているつもりだったけれども一度、見破られたことがあった。

 チラシの掲載内容に誤りがあり電話が鳴りまくった時のこと。私は書類仕事をやっているふりをして受話器を取らなかった。

 その電話はお局様が受話器を取った。お局様はベテランなので顔色一つ変えずに謝罪の言葉を述べてすぐに電話は終わった。


「私たちは電話越しで顔が見えないけれどレジの人たちは直接お客さんに怒られているのよ」


 誰に向けているか分からないように一言、お局様は言った。まぁ、確かにそうだろう。

 私は次から受話器を取った。今まで取らなかったのがバレるかと思ったけれどもこのまま受話器を取らないで直接攻撃されるよりはマシだと思った。


 合コンは金曜日の十九時時からだった。遅番の人は二十一時までだがシフト交換したりで上手くやりくりしたみたいだ。私は事務なので十八時で終わる。

 

 更衣室で着替える。合コンチームは煌びやかな私服を着ている。

 胸元の開いたノースリーブのトップスに柔らかい素材のカーディガン。白いミニ丈のワンピース。

 デートというほどではないけれども通勤着にしては着飾っている、そんな印象だった。平日仕事終わりの合コンの服装としては正解なのだろうと思った。


 私もワンピースだった。大きく果物の断面図がプリントされているロング丈のワンピース。

 地色は水色、足元はスニーカー。ファッション雑誌でも私の好きなブランドでも、ワンピースにスニーカーを合わせるのは定番だった。

 私は夏でも靴下を履いている。同僚は素足にサンダルとミュールだった。胡桃の家に行った時に格差を感じておいたせいか、ショックはなかった。

 私は靴下のバランスにも気は抜かない。ただ靴下を履いているわけではないのだ。長さと色も重視している。靴下もファッションの一部だと自負があった。


「あっ、今日でしょ、みんなオシャレだもんね」


 休憩のため更衣室に入ってきた遅番の古川(こがわ)さんは、最近彼氏が出来て合コンを卒業したらしい。多分私はこの人の代わりなんだと思った。


「まーね、こがっちの分も愉しんでくるよ」


 合コンチームの川崎さ(かわさき)んが笑顔で返し、化粧直しをしていた。

 目元にキラキラした粉を乗せて唇をてかてかに塗っている。

 それを見て私はアイシャドウパレットを買うことを忘れていたのを思い出した。化粧直しの習慣がないのでメイク道具も持っていなかった。

 唯一持っていたあぶらとり紙で顔のあぶらを取った。川崎さんは仕上げに香水を振りかけていた。


 女子全員で市内循環バスに乗り、合コン会場に向かった。十分待つと次のバスが来るので時刻表を気にする必要がなかった。

 駅近くのちょっとオシャレな居酒屋で個室を予約していた。

 店に到着すると、メンズたちは先に来て待っていた。合コンの主催者だと思われる男女が知り合いで挨拶をしていた。


「待たせちゃったね~」


 などと言いながら奥から順に座っていく女子軍。

 頭数合わせで呼ばれた私に主導権がないのは明白で、私は一番最後に座った。

 入口に一番近い席だった、下座になるはずなので相応の働きをしないといけないのだろうと悟った。


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