06
3話目です。
館の出口に向かうべく階段を降りていると、一階にいるアーリアを見つけた。彼女はこちらを見て、何もなかったことに安堵したようで、ゆっくりと歩いてきた。
「もう終わったのですか?」
「ああ、終わったよ」
そう答えると、彼女は肩の力を抜き、真面目モードは終わりとばかりに引き締めていた顔を崩した。
「子供たちは無事に館の外に逃がし、他の人たちに保護してもらったにゃ。ここに囚われている子供はもういないにゃ」
彼女の報告を聞きながら、館の外に出た。するとそこには、数名の騎士たちがこちらを警戒するかのように剣を持って構えていた。
魔王の力を使ったおかげで変装が解けている上に、暫く変装用の魔法が使えなくなっているハヤトは、黒目・黒髪の状態になっていた。そのためこの場から早く立ち去りたいと思っていると、騎士たちの中から一人の騎士が歩みだしこちらへ尋ねてきた。
「失礼。私はこの騎士団の団長だ。そこの少女が子供たちを連れてきてくれたのは皆が知っている。その子が隣にいるということは、子供は君が助けてくれたのかな?」
「まぁ」
会話を早く終わらすため、そっけない態度で返す。そんな様子に騎士たちは不快感を抱いたようだが、団長が手をあげて抑えるように促す。
「それで、館に捕まえられていたということは領主が犯人なのかな? 今領主はどこにいるんだい?」
「消した」
「? 消したとはどういう……」
団長がどういうことかと疑問を顔に浮かべていると、突然団員の一人から声が上がった。
「団長! こいつの顔を見たことがあります。手配書に載っていた顔です。確か国王を殺した大罪人と書かれていました」
やはり知っている者がいたか、と苦虫を噛み潰したような顔になりながら、すぐさまこの場を離れることを決めた。
「アーリア逃げるぞ!」
「わかったにゃ!」
館の前に陣取る騎士たちへ向かっていき、二人で大きく跳躍してその上を飛び越える。門の近くに着地すると、そのまま国の外へ逃げるべく駆けていった。その後ろでは、慌てた様子の騎士団が自分たちを捕まえるため、遅れて追ってきていた。
国の中を駆ける人物とそれを追う騎士団。その様子で一体何事かとこちらを見る人々を横目に、ハヤトたちは国を出るべく駆けていく。その途中で、知っている顔を見つけた。その人物は顔に涙を濡らし、嬉しそうな顔で少女と抱き合っていた。
「妹が戻ってきたんだな……。よかった……」
無事妹が帰ってきて、ハヤトはちゃんと恩を返せたことに安堵していた。
周囲が騒がしくなっていたため、青年はふと顔を上げると、道を駆けるハヤトと目が合った。もう二度と会えないと思っていた妹と再び会わせてくれた彼へ、静かに頭を下げて感謝の意を示した。
「ありがとう……」
消え入るような声で呟いた感謝の言葉は、辺りの喧騒に紛れて静かに消えていった。
国中を駆けていた二人は、ようやく国を出ることができた。
「アーリア」
「はいにゃー」
その呼びかけに応えるように、アーリアは赤い光を纏う。瞬く間に鳥の姿に戻ったアーリアの背に乗ると、彼女は大きな羽を羽ばたかせて、空に向かって飛び立った。
「あれは不死鳥……」
後を追ってきていた騎士団は、伝説と呼ばれる神聖な生き物が悠然と空を飛んでいるのを見て、呆然とした状態で立ち尽くしていた。
「ふぅ……。最後は逃げる形になってしまったけど、ちゃんと恩返し出来てよかったよ」
「妹さんと再会できてよかったにゃ」
きっかけは一泊の恩を返すためだったが、最後には再会することが出来てよかったと思った。大切な人と離れ離れになることは、とても辛いことだとわかっているから……。
「それにしても、これからあの国はどうなるのかにゃ?」
「領主は魔族だったわけだけど、見かけ上は国思いのいい領主だったからね」
恐らく魔族は自分の儀式のために、人がより国に集まるよう色々していたのだろう。
「あの時広場で見た人々には希望が満ち溢れていた。きっと領主がいなくなった程度では、そうそう変わったりはしないさ」
そうアーリアに告げた。
「さて。必要なものは既に確保したし、このまま次の国へと向かおうか」
「次はどこに向かうにゃ?」
「そうだなぁ。この国では色々調べる余裕はなかったし、次は図書館があるような大きな国へ行きたいな。確か東にも国があるって聞いたなぁ」
「なら東へ向かうにゃ。次の国へ、いざゆかん、にゃー」
東に進路を取り、二人は次の国へと向かうのだった。
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明日からは2話投稿になります。