04
本日も3話投稿します。
「追ってきている奴はいるか?」
女の子を抱えている男が走りながらそう聞く。
もう一人の男は足を止めないようにしてあたりを見回すと、誰もいないことを確認する。
「いや、誰もいねぇ」
「じゃあ、ひとまずここでいいか」
男二人はそう言って足を止めた。そして袋を取り出すと、連れていた女の子を二人がかりで袋に詰めだした。
そんな様子をハヤトとアーリアの二人は静かに見ていた。
「あの子は助けないのですか?」
アーリアが冷静な口調で話しかけてきた。
「殺されそうになれば助けようと思っていたけど、あの様子だと大丈夫そうだ。恐らく黒幕のいる所に連れていかれると思うし、場所を特定するためにもあの子にはそれまで我慢してもらうしかないかな」
そう冷酷な判断を下したが、アーリアもあの子に何の感傷も持っていないようで、特に不満は出なかった。
「わかりました。主様の判断に従います」
アーリアもハヤトと同じように傍観していた。
「やっと終わったか。手こずらせやがって」
「人に気づかれる前にさっさとずらかるぞ」
暴れる少女をようやく袋に詰め終えると、男たちは懐から金属製の小さな物体を懐から取り出した。すると、突如男二人の姿が消え始めた。
「なるほど。魔道具で姿を消していたのか。道理で見つからないはずだ」
「感心してて大丈夫なのですか、主様? 結局私たちも見えなくなってしまいましたけど……」
「問題ないよ。姿は見えなくても、魔道具の魔力は感じ取れるから。もし距離が離れて魔力が感じ取れなくなっても、探知魔法を使えば位置はすぐにわかるさ」
アーリアに説明しながら、逃げていく男二人の姿を見ていた。
「さて、本拠地まで案内してもらおうかな」
ハヤトたちは、再び男二人の後を追い始めた。
男たちの後を追っていくと国の中心部から外れていき、辺りに緑が溢れる場所に到着した。そこにはただ一つ、周りを塀で囲まれた立派な館があった。
「他の建物と比べても、やたら立派だね。もしかしてこれが領主の館かな?」
「ここへ来る途中にあった看板を見るに、恐らくそうだと思います」
「となると、この事件は領主も絡んでいるのか……」
この事件を領主が主導で行っているのなら、かなり面倒ではあるな……。
「主様。館の門は閉まっておりますけど、どうやって入りましょうか?」
「そうだなぁ……。領主が黒幕なら門を壊しての正面突破でもいいけど……。もし違ったらかわいそうだし、おとなしく塀を乗り越えて入ろうか」
そう提案するとアーリアは頷いた。
そして、二人は塀を飛び越え、館の敷地内へと侵入した。
「探知魔法で探ったけど、あの男たちはどうやら館の中にいるようだ」
「館にいるということは、やはり領主が黒幕でしょうか?」
「その可能性は高そうだね。領主主導の誘拐なんて、この国はどうなってるんだろうか……」
ハヤトはさらに詳細な位置を調べる。
「さっきの魔力は下の方から感じられる……。ということは、もしかして地下室でもあるのかな? まぁ、とりあえず中に入ってみようか」
館に入るハヤトと、その後ろに続くアーリア。地下への階段を探すべく館内を歩き回るが、妙であることに気付く。
「周囲に魔力反応がない」
「人がいないということですよね?」
「そうだね」
廊下を進む二人だが、周りに部屋があるにもかかわらず、誰もいないことに違和感を感じていた。
「もしかして罠ですかね?」
「……かもしれない。だけど罠なら罠で、それごと捻りつぶすまでさ」
暫く歩き回っていると、ようやく地下への階段を発見した。
「この下でしょうか?」
「ああ、恐らく。この先から魔力反応があるからね」
ハヤトは階段をゆっくりと降りていく。そして、アーリアも少し遅れて後をついて行った。
階段を下りると、そこには扉があった。取っ手をゆっくり回してみたが、鍵はかかっていないようだ。
「鍵はかかってなさそうだね」
「こちらにとっては都合がいいですが……かなり不用心ですね……」
「誰もここまで来るとは思ってないからじゃないかな」
声を潜めて会話しつつ、気付かれないように音を殺して、扉をゆっくりと開ける。中を見れば、さらに奥へと続く道があった。
「行こう」
二人はさらに奥へと進む。突き当たりまで来ると、道が横に折れ曲がっていたので、角から先の様子を窺う。するとそこには、先ほどの男たちが女の子を袋から出して、丁度牢屋へ入れようとしているところだった。
ハヤトはアーリアに待っているよう告げ、すぐさま二人の男に向かって駆けていった。隠蔽魔法を使っているため、男たちの背後に近づいたが全くこちらに気付く気配はない。そのまま背後から首元に手刀を落とし、男たちの意識を奪いとる。
女の子からすれば、牢屋に入れようとしていた男たちが、何もないところでいきなり倒れたように見えるので、安心させるためにも自身にかかっていた魔法を解いた。
「君、大丈夫かい?」
女の子は、目の前にいきなり現れた青年にどうしたいいか戸惑っているようだった。
「攫われてるのを見つけたから助けに来たんだ。だから、もう大丈夫だよ」
優しくそう言うと、女の子は緊張の糸が緩んだのか、目から涙を流して泣き出してしまった。頭を撫でながら宥めていると、次第に女の子は落ち着いていった。
「もう大丈夫のようですね」
「ああ。この子も落ち着いたようだ」
角から様子を眺めていたアーリアが、こちらへと来ていた。
「それにしても……」
男たちを無力化し改めて牢屋の方を見れば、何人もの子供たちが体を寄せ合っていた。中にはやせ細っていたり、地面に横たわっていたりと一目見て健康的な状態ではない子供もいた。
「子供たちをこんなに集めて、領主は一体何を考えているのでしょうか?」
「…………」
「主様?」
「ああごめん。少し考え事をしていてね」
先ほど館全体を探知したところ、二階から一つ気になる反応が感じられた。領主の館であるため恐らく領主の反応とは思われるが、ハヤトは違和感を感じていた。
「ここにはもう脅威が無いから、アーリアに子供たちの解放をお願いしたいんだけど、いいかな?」
「それは問題ないですが……。主様はどうされるのでしょうか?」
「ちょっと領主様の所にね」