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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
80/88

77,決戦

 


 一瞬メイが目の前に居た気がした。



 ――しかし、次の瞬間には俺の視界が鈍い赤一色に染まった。



 そして、体に力強く残る衝撃――






 ――でも、体に痛みがあるわけでもない。


 そして俺の背中には、人肌に温かい液体が大量に背中にかかっていた。



 その液体が何なのか、そして視界いっぱいに広がる赤い物が何なのか。

 その正体を理解するのに時間はそう掛からなかった。



 それは、人に流れている血だった。

 メイはその血液を一身に受け、全身を赤黒い色に染めていた。



 そして、地面に座っていた俺はそのままメイに抱きしめられた。


 何が起こったことは分かった。でも何故この状況が起こっているのかは理解できない。


 抱きしめられたまま、俺の後ろを振り返る。


 そこにいたのは――



 前にフィアルとミーニャが小屋での戦いで膝を屈した――黒ずくめの連中が道脇の茂みの中に倒れていた。

 そしてその手には、短刀が握られている。



 メイが俺を抱きしめたまま、話しかけてくる。



「もう、あなたが誰かに取られるなんて、考えられない。でも――」


 状況が理解できぬまま、ただ黙ってその言葉を聞き入れる。

 そもそも、何か言葉を返す必要があるのかも分からない。



「あなた死んじゃって、二度と会えなくなるのは本末転倒なの。

 私は負けるつもりはない。でも万が一の時、あなたが少しでも生きられるようにこれを渡しておくね……」


 その言葉には、裏表ない吐露のように思えた。

 そしてメイはそう言うと、俺の服の懐に何かを忍ばせた。

 俺の手では取り出せないため、それが何なのかは確認できない。

 でも、硬い小石のようなものが二つあるのは、感覚的に分かった。

 そして彼女は続けた。


「完璧なものではないけど、今はこれしか手持ちが無いの。どうか許して………」



 俺にその言葉の真意も、意味すらはかり知ることは叶わない。

 ただ俺のために、何かを施してくれたということは分かる。




 そして俺は、その言葉を聞きつつも――



 後ろから退路を断つように迫りくる二人を、見ていた。



 まず初めにミーニャのナイフが迫りきた。


 そしてメイは完全に意識をこちらに向けている。



 呆気なく終わる――はずもなかった。



 メイは手に持つ剣を横にして自身の頭の上に持ってくる。


 するとなんという事だろう。


 ちょうどその剣に、ミーニャのナイフの軌道がぶつかり、結果的に攻撃を防いだ。



 メイは背中に目でもついているのだろうか。

 明らかに人間技とは思えなかった。

 その動きにミーニャは逆に不意を突かれ、間の抜けた顔をしていた。


 だが攻撃はまだ止まない。

 続いてフィアルの剣が突きを入れてくる。

 だがしかし、メイは素早く後ろに振り返り、剣を振り上げてフィアルの剣を弾いた。


 単に剣を弾く。

 簡単な事のように言っているが、メイはそれらを目にもたまらぬ速さで成していた。

 俺が見たのは剣を振り上げた状態のメイと、後ろに一歩下がり怯んでいるフィアルだ。

 俺はその光景を見て、彼女らの動きを予想したに過ぎない。


 あまりに素早く、そして常軌を逸した動きにミーニャ、フィアル両名は一旦引き下がった。


 そして――



 ――二人で口喧嘩を始めた。



「ミーニャ!何でアルから離れたの!?危険な目に遭ってるじゃない!」


「私はトピア様に言われたんです!あなたがずっとどんくさい戦いを続けているから助けてあげてほしいって!」


「そんな言い訳して、それでアルが殺されてても同じことが言えるの!?」


「そもそも、あの時さっさと撤退していればあんなことになってなかったんですよ!責任転嫁しないでください!」



 ……その口論は、間違いなく今すべきものではないはずだろうに……


 だが、なぜ今ここで場を乱すような行動を取り始めたのか。

 その理由はなんとなく分かる気がした。



 メイは返り血を浴びて真っ赤に染まりながらも、俺を守るかのように立ちはだかり、二人してその会話をどこか冷めた様子で見ていた。



 運の悪い事に、彼女らの状況はさらに悪化の一途を辿っているようだった。

 ミーニャがその事を続けて言った。



「ほら!もたもたしてたから、新手が来てますよ!しかも数が………あれ…?」


「何よ新手って!しかも何なの!?」



 それはミーニャが獣人としての身体能力で何かを感じ取ったようだった。

 そして、顔が青く染まり、ひどく慌てだした。



「…はわわ!!…かなりやばいです……!まだ距離はありますが、大量の足音が!しかもかなりの速度で近づいてきます!」


「……このタイミングで私たちの味方な訳がないわよね……私らは、あいつにまんまと時間を稼がれたってわけね………」



 俺は二人の会話から、その状況の一端を察するのみだ。

 しかし、彼女らにとって何か良くないことだという事だけは分かった。



「この数はさすがに二人じゃ無理です!どうするつもりですか!?このままじゃ……」


「簡単な事よ。二人であの女を今すぐ殺してアルを取り戻せば良いだけよ………」



「もう……!結局そうなるんですか……!」


「でもミーニャ、目的を忘れないで」


「無論です…!」



 二人の目は、死に物狂いで得物を狩るようなものに変わった。




 ――そして、二人は武器を構え、こちらに向き終わると――二人同時にメイに攻めてきた。



 ……しかし、先程とは構図が逆転しているようだった


 メイは先程の感情的な攻撃とは一変して、冷静に防御に徹している。

 まるで、人が変わったかのように寡黙で、ただ二人の攻撃を剣一本で捌いている。


 なぜ、こんなに動きを切り替えたのか。

 それはおそらく彼女の元に俺が居るからだろう。


 そして、先程冷静に行動できていたミーニャとフィアルが、感情を乱して敵前にも拘わらず口論を始めた。

 それはおそらく俺が彼女らの手元から、離れてしまったからであろう。


 理屈はなんとなく分かるが、俺ごときの有無でここまで変化が起こるのが、奇妙かつ心底不思議だった。



 それでも彼女らはただ自身の目的のために必死に行動している。


 しかし俺はと言うと……俺は何もできていない。

 この体では仕方のないことかもしれないが、五体満足であったとしてもきっと何もできないのだろう。


 これは俺の偏った考えかもしれないが、戦いとは本来男性がすべきものだと思う。 

 それは男女の差別などではなく、生物としての本能と言った方が近い。

 もちろんそれが逆転していたとしても別に何も問題は無いだろう。

 だが、この場で一人だけの男である俺が何もできないというのは、自身の気持ち的になんとも歯がゆいものがあった。



 そして俺の感情なんかどうでもいいとばかりに、二対一の戦闘は続いている。

 先程は押されていたメイだが、防御に徹しているせいか、一切押されることは無い。

 技量はどうやらメイの方が一枚上手のようだった。


 途中、ミーニャが四足獣のような体勢で高速で後方に回り、隙をついて俺を奪還しようとしてきた。

 しかし、それもメイの剣によって阻まれる。


 迫りくるミーニャの顔は、悍ましき猛獣の如きであった。

 しかし、ミーニャでもメイには敵わない。



 そして、膠着した状況は続き――


 ――そして、とうとう、制限時間が迫って来る。




 ――門の方から大量に土を蹴る音が、俺の耳にも聞こえて来た。


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