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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
74/88

71,変哲

 


「………そう、あなたがそれを望むなら――」



 メイは俺の乱暴で拒絶するような言いぐさでも、動じることは無く素直に俺の指示通りに動き始める。

 正直言うと、てっきりまた脅されるのかと思っていた。


 彼女はそのままベッドを降りると俺の方に向かってきて、床の上で寝そべる俺の体を触ろうとしてきた。



「俺に触るな!さっさとどっか行けよ!」



 思わず勢いよくがなりたて、先の無い腕でメイの伸ばしてきた手を払い除ける。

 でも、何の前触れもなく俺に触ろうとしてきた彼女が悪い。



「………じゃあ、もうそうするわ。もしあたしの手助けが必要ならいつでもあたしの名を呼んで?すぐに来るから」


 またごねるのかとも思ったが、メイはそう言ってすぐに部屋を出て行った――

 俺が冷たく当たったというのに、彼女は何故か終始笑顔だった。


 誰がお前の手なんか借りるか――

 俺は心の中で悪態をつくのだった。




 ――その後、俺だけになった部屋


 どうしてだかは分からないが、この絶対的に常識ではありえない状態を、冷静に受け入れられている自分が居た。

 先程も、彼女の言葉を冷静に分析していられた事もそうだ。

 喚いたところで、どうにかなるものでもないが、それでも普通の人ならば自暴自棄になったり、発狂したりしてもおかしくない状況だというのに………


 とりあえず、ずっと硬い床の上にいると欠損部分が当たって痛いので、柔らかいベッドの上に移動しようとした。


 でも俺の体は、そんな簡単な事すら容易ではなかった。

 まず二本足で立てない。患部が何かに触れるだけで体全身に激痛が走るのに、体の全体重をそこに乗せたら痛みで悶絶しかしないだろう。


 もし、痛みを我慢できたとしても、バランスが悪くて支えなしにはどちらにせよ直立は不可能だ。

 椅子の脚が二本だったら安定して立たないのと同じだ。


 さらに言うと俺の手はもう何も掴めはしない。だから床に横たわっている状態でベッドの上に這い上がるには全身の力が必要だった。



 背筋や腹筋を駆使して床から何とか起き上がり、そのまま膝立ちの状態から体全体で勢いをつけてようやくベッドの上に這い上がれた。

 元々体の筋力が無いとはいえ、これだけの動きでごっそりと体力が持って行かれた。


 俺の思った通りに行動できないことに対して、苛立ちが募る。

 いつも以上に自分が惨めに思える。

 何で俺がこんな目に遭わないといけないのか。考えるだけ無駄だった。


 もしかして、メイがさっき俺の体に触れようとしてきたのは、ベッドの上に上げようとしてくれていたのだろうか。

 でも、こんなことで彼女の手なんか借りたくはない。



 ベッド上に何とか登れたまでは良かったものの、下着のままでは体が薄ら寒い。

 辺りを見回しても上に着られるようなものは無く、仕方なく掛け布団を体にかけようとした。


 しかしここでも、手が無い事に対する弊害があった。

 布の淵が掴めず、布団を引き寄せられない。

 何とか右腕と左腕の前腕部分で挟むようにしてどうにか引き寄せた。


 思わず、普段通りに普通に手で掴もうとしてしまったが、それができないことに気づき更に苛立ちが募る。


 でもやっと、落ち着ける体勢になった。




 俺はベッドの上で布団をかぶり、先程のメイの言葉を思い出していた。


 彼女はどういう訳か、おそらくあのメモの内容を知っていた。

 それは何故か。それが、さっき俺が考えていた悪夢のような可能性だ。



 それは、俺がメイに――嵌められたかもしれないという可能性だ。



 そもそも昨日メイは何故門に居たのか。

 あの時も言ったように、間違いなく屋敷内で誰かに見られたわけではないし、誰かに後を付けられていた様子はない。


 詰まる所、メイは後を付けていたのではなく、最初からあの場に居たのだ。

 では、なぜ彼女が居たのかと言うとそれが、メイがメモの内容を知っていた、というはじめのところに戻る。



 疑問はもう一つある。


 フィアルたちが、何故約束の場所に居なかったのか。



 俺の予想では、メイは俺より先にメモの存在に気づき、そして――そして………


 メイが、フィアルを………

 メイならやりかねない。俺の体を平気でこんなことができる奴なら………



 いや、彼女らは一朝一夕でどうにかなるほど軟じゃない。きっと大丈夫だ………きっと………


 でも、フィアルたちは現実に、メイが率いていた謎の黒ずくめの集団を前に膝を屈している。

 排除されたという可能性も完全に否定はできない………



 ……考えるだけ自分自身で不安を煽るで、何も解決はしない。

 もう何も考えないようにした方が良いのかもしれない。




 ――でも何かを考えていないと自分のこれからの事を無意識に考えてしまう。


 そうなると、もう終わりだ。

 不安が連鎖するように更に不安が押し寄せてくる。


 具体的に言うと死にたくなってくる。


 突然奪われた自由――もう何もできない。今ままでできたことが何もできない。この世界で俺は外をも満足に歩けもしない。

 せっかく転生できてこの世界を冒険したいと思っていたのに、それすら叶わない。


 こんな体で生きる意味があるのか?

 辛い。人生を何も楽しめない。そもそも生きていけない。


 こんな体の俺が、惨めで惨めで仕方ない。

 絶望して、理性を保てなくなりそうだ。


 前世で、日々感じていたものと同じ考えをこの世界で持つことになるなんて………

 人生というものが心底嫌になる。


 さらに言えばフィアルとミーニャが今の俺のこの体を見て、どう思うだろうか……

 想像するするだけで、気分が悪くなってくる。

 おそらくその通りにはなるだろうが、もはや完全に愛想尽かして、見捨ててくれた方が気持ちが楽だった。


 俺はもうこのまま死んだ方が良いのか?

 このまま惨めに生きていくくらいなら、ならばせめて人としての尊厳を保ったまま、死んだ方が良いのではないか?

 この体で生きていく価値がどうしても見出せない。


 生きるべきか、死ぬべきか、それは今は分からない。

 でも、死んだら、生きるという選択肢ができなくなるから、

 それに今は苦痛を伴っているわけじゃないから、それなら今はまだ生きていた方が良いのかもしれない。



 だから俺が先程から頭を巡らせているのは、一種の現実逃避だった。

 これを止めてしまったら、生きることに消極的になってしまうばかり。

 不安で自分の心が潰れてぐしゃぐしゃになって、二度と元に戻らないような気がした。


 でもそれ以外のことを思っていれば、現状の事を考えなくてすむ。



 でも考えたところで、別の不安が募るだけ。

 典型的なジレンマ状態だった。


 ――ああ、もう何も考えるな。頭を空っぽにしろ。

 だというのに、俺の使えない脳みそは思考することを止めようとしない。

 せいぜい、不安を煽らない思考をするしかないが、今の俺には気になることでいっぱいだった。



 ――では俺はどうすればいいのか。


 考えても考えなくても、不安に駆られるだけというのなら――



 ――もうこのまま眠ってしまおう。

 そうすれば、何も感じずに過ごせる。


 ずっとは無理だけど、それでもしばしこの時間を味わわなくて済む。

 俺は現実から目を背け続けられることを願った。

 でないと自分が壊れてしまいそうだから。



 ――だから俺は、眠くは無かったが、無理やりに眠ったのだった。


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