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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
66/88

63,思考整理

 


 ――最悪だ。結局メイにいろいろと問い詰めようと思っていたことが、あの現象のせいで全て無駄になってしまった。



 ベッドの中で横になり、天井をぼんやり眺めながら俺は頭の中を整理する。

 まだ完全に呼吸や心臓が落ち着いたわけではない。それでも、先程よりはだいぶましになっていた。


 二つの問題が同時に、しかも何の前触れもなく怒ってしまったせいで、頭が混乱している。

 他にもたくさんの事がありすぎて、一つ一つ確実に整理していくしかない。



 まずはあの動悸――


 二度と味わいたくないと思っていた矢先に、また襲われるとは……


 てっきり俺はメイが俺の体に触れて直接何かをしているのではと、憶測を立てていたわけだが…

 どうやらそうではないらしい。なぜならあの時メイは俺に触れていない。

 ただタイミングの問題だろうか、それとも何か他に要素があるのか……


 メイが去り際に放った一言、苦しみというのは俺のあの動悸の事なのだろうか。

 なら、嘘をつくなと言っていたが、それがどういう風にあの発作に繋がるのかよく分からない。


 ああ、これ以上考えても頭が破裂しそうなだけだ。

 また襲われることが無いように祈りつつ、今度こそ一旦置いておこう。




 それもそうだが今はフィアルたちの事も、気にしなければ…

 俺はメイに先程言われた言葉を思い出した。




 ――俺は彼女らと一緒に居たところでただの役立たずなのか…?


 ミーニャと一緒に数日間過ごしたフィアルに会うまでの時期も、

 それから会ってからの一日も、食事の用意すら俺はまともに何もやっていない。

 それどころか野営の準備も、町の宿も全部ミーニャに任せっきりだ。

 挙句に熱を出して更に迷惑をかける始末。


 結局、異世界に来て俺は、過去の憂いを断ち、気持ちを一新したところで俺自身何かが変わるわけでもなかったんだ。


 他人にばかり命を救われて、自分からは何も差し出せない。

 だから彼女らは愛想を尽かして、さっさと屋敷から出て行ってしまったのだろうか。

 他に俺にも告げずに、傍からいなくなる理由が思い付かない。


 …分からない。


 何でこんなに消極的な気分になってしまっているのだろう。

 先程、かつての嫌な記憶を思い出してしまったからであろうか。



 ともかく俺の屋敷の脱出計画が白紙になってしまった。


 いや、そもそもこの脱出計画というのも、二人の協力が前提の作戦だ。

 勝手に俺は彼女らが協力してくれるとばかり思って、当てにしているところもそうだろう。

 俺を助けたところで俺は彼女らに何も見返りが無い。メリットが一切無い。


 ミーニャは俺に裏切らないと言ってくれたが、そんなのは俺にとって一方的に都合のいい方便だ。

 俺がメイとの約束を反故にしようとしているのと同じような理由で、後から都合が悪くなったからなんていくらでも言い訳できる。


 全部俺の思い上がりだったんだ。




「はぁー……」


 俺は起きた直後と同じようなため息をつくと、全身の力を抜いた。


 これ以上はよそう。自分が惨めになってくる。

 俺はこれからどうしたら良いのだろうか。


 …そういえばまだ起きてから食事を取ってない。

 もう日は高く上っているが、何か体に摂取しなければ頭も回らない。


 食堂に行けば何か食事ができるかもしれない。

 そうでなくとも食堂の隣にある台所で食べ物を得られるかもしれない。



 俺はベッドの上から徐に立ち上がり、ゆっくり歩きながら部屋の外へ出る。


 動き始めて気が付いたのだが、俺の服はあの男の獣人に貰った白い民族的な服ではなかった。

 それはこの世界で初めて目覚めた時に来ていたものと、同じような服装だった。

 部屋を見回しても、あの服は見当たらない。どこへ行ったのだろうか。

 まあ、いまは後回しだ。



 部屋の外の通路はいつもと変わらず、見慣れた景色なはずだった。

 にも拘らず屋敷全体が暗い雰囲気のつつまれているように感じるのは、今の俺は気分が落ち込んでいるからだろうか。



 食堂に行く途中にあるフィアルたちが寝ていた部屋。

 もしかしたらと思って彼女たちがいた部屋を覗いてみた。

 一縷の望みをかけ、恐る恐る扉の取っ手に手を掛け、開けてみるも、部屋の中はもぬけの殻で人が居た形跡すら残っていない。

 メイがさすがにすぐわかるような嘘をつくはずが無かったのだ。


 俺はただでさえ重い足取りが更に重くなる。

 何とか食堂までたどり着いてゆっくりと扉を開ける。

 そこには、落ち込んだ気分の俺とは相反して、金髪を靡かせて優雅に座るメイがそこにいた。

 紅茶らしき飲みものを飲むその所作だけは貴族だと言われても頷ける。



「――来ると思っていたわよ。まあ、座りなさい」


 こちらを一瞥すると彼女は俺に着席を促した。

 メイがそう言うだけあって、俺の机の上には昨晩と同じような料理が並べられている。

 俺はメイに促されるままに彼女の正面の席に座る。


「どう?少しは落ち着いた?」


 俺が席に座るとそう目の前のメイがそう俺に話しかけてきた。

 彼女は既に朝食を取り終えたのか、目の前の机には何も料理の皿が乗ってない。


 正直なぜ二回も俺にあんな仕打ちをしておいて、平然とした様子で俺の前に座っていられるのか心底不思議だ。

 先程まで気分が落ちいたにも拘らず、メイの顔を見ると別の感情が込みあがってくる。



「もういいでしょ…もう散々だ!」


 俺は心からの怒りを顕在させた。


「…………」


 俺がその言葉を口にすると目の前の彼女は、持っていた飲み物のカップを机に置き真面目な表情をしたまま押し黙る。

 またとぼけられると思ったが、これはこれで好都合だ。


 聞き入れてもらえるとは思ってもいないが、これ以上黙っているのは我慢できない。

 俺はそのまま自分の中の疑問や怒りを更に吐き出す。



「俺にこんな苦しみを与えて、何がしたいんだよ!」


「…………」


 メイは俺の悲痛な叫びを聞いても未だ無言を貫いている。

 俺は構わず更に続ける。


「この屋敷に留めるのは俺の為とか言って、そういう割には俺に苦しませて、お前の目的は何なんだ!!?」



 思わずついお前などという言葉を言ってしまった。前世では絶対使わない言葉遣いに辟易する。

 その怒りの中には、フィアルたちが傍から離れて行ってしまったことのによる八つ当たりも、入っていたかもしれない。


 正直言うとただの愚痴のつもりだった。

 だってこんなこと言ったって、現状が何か変わるわけではないと思ったから。

 でもメイはようやく口を開くと――



「――そこまで言うならあたしがあなたにした事を教えてあげる。あなたが昨日から味わっている苦しみの事を……」




 ――そうしてメイは語りだした。


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