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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
64/88

61,また目覚め

 


 ――またか、またなのか……



 思わず口から零れそうになるほど、この感覚は身に染みている。


 気が付くと俺はあの見覚えのある天井――

 この世界での起床の約半分ほどはこの天井を見ている。


 まるで寝落ちした翌朝かのような目覚め――

 俺は普段寝落ちしないはずなのだがこの世界では、これが俺の通常になりつつある。



 俺はまたベットから起き上がり、周辺をぼんやりと眺める。

 昨日と何もかも同じ、部屋の様子も窓から見える日の傾きも、そしてベッドの脇にメイが俺の手を握っていることも……



「――はぁー……」


 俺はメイへの呆れと、自分への不甲斐なさに大きなため息をついた。



 あの現象は本当に一体何なのだ。

 これは、この世界の日々の生活で致命的だ。


 発生する原因は分からない。だがなんとなく発生する時間帯は分かっているので、対策はできなくもないと思う…

 その時間帯というのは主に夜、それも食後すぐに来ることが多い。


 最近は熱を出したり腹を斬られて寝ていたりで、変則的な生活リズムを歩んでいたからかこの現象を忘れていた。

 そして、一昨日の夜はミーニャとフィアルが毒に倒れて夜に食事をしなかった。



 ――そう、ここまで整理できて気が付いたのだが、俺は“夜に食事をとる”ことで急激な眠気に襲われるのだ。



 この世界の就寝時間はかなり早い。

 なぜなら日が落ちると灯りが無く、寝ること以外何もできなくなるからだ。

 屋敷には火の灯りがあるが、それも光が小さく暗い上に屋敷の外の家屋では一切見なかった。


 食後は大体すぐにあたりが暗くなりそのまま寝ることが多いので、問題にはなりそうもない。

 しかし、そもそも起きていられないというのは、万が一何かあった時に命に関わるだろう。



 そういえばメイは薬の生成に長けているらしい。

 もしかして彼女ならこの現象を治療はできなくとも、何かしらの知識を持っているかもしれない。

 だが、これ以上彼女に関わりたくないという気持ちもある。これ以上貸しを作ってしまうようでなんだか気が引ける。




 とにかく、だ。まずはそれよりもすべきことがある。

 それはこの屋敷から脱出計画を練ることだった。


 思わぬ足止めで一日伸びてしまったが、今からでも遅くはない。

 早くフィアルと会って話し合わなければ…



 俺はベッドから起き上がり、そして手に握られているメイの手を昨日と同じように振り払おうとすると――


「トピアー?どこ行くのー?」



 俺は背筋が凍りそうになるほどの悍ましい声を聞いた。

 でも、昨日の異常な動悸ほどではない。


 まるで何か恐ろしい物を見るかのように、視線を繋がれている手の上の方にゆっくりあげる。


 ――そこには、今まで見たこともないようなメイの笑顔があった。


 いつ目を開けたのか、その顔は薄気味悪く微笑んだものでもなく、子どもの様に無邪気なわけでもなく。

 いや、今まで見たことないというのは嘘だ。初めの頃にこの笑顔を見たことがある。


 でもあの時、と全く同じ笑顔だというのに、その声だけは全くの別物だ。

 なぜその笑顔と全く相反した声が出せるのか、俺はそれが不思議で仕方が無かった。


 俺がその笑顔と声の差に慄いていると、メイが同じ質問を繰り返ししてきた。



「そういえば昨日も同じ質問をした気がするけど…トピア、あなた一体どこに行く気なのかしら?」


 またあの悍ましい声が、俺の耳から入ってくる。


 その声に俺は息をのんだ。

 ここで、なにか間違ったことを言うと、具体的に何がとは答えられないがとんでもない事になる気がした。


 でも、これは下手に嘘をつく必要もないだろう。

 だから俺はこう言った。


「フィアルとミーニャのお見舞いに行こうとしただけで……」


「――私の握っていた手を振り払ってまで?」


 メイがそう言った途端に彼女の表情からは笑顔が消え、俺の顔を疑いのような目を持って覗き込んできた。

 

 昨日はつい怒りで冷淡な態度をメイに取ったが、それは悪手だと気が付いた。

 メイとの約束を反故にすると決めたからには、露骨に敵を出すよりもあくまで従順を装った方がいろいろ動きやすい。

 俺は思わず嫌な表情をしそうになるも、何とか努めて半笑いを作る。


 俺はその顔を見て、何か理解した。

 メイは怒っている。何故かは分からない。何に対してかも分からない。

 でもこの声はミーニャやフィアルが怒りに震えている時と同じものを感じる。


 俺は収まりかけていた背筋の寒気が再び込み上げてきた。

 もしかしたら彼女は俺の目の前に居るのに、相手にされないことに怒っているのかもしれない。


 何とかメイを刺激せずに穏便にさせる返答を……

 とはいってもメイのこの圧力を前に気圧されてしまい、それ以前にどう返せばいいのか分からない。



「――なんで黙るの?」



 俺がどう答えようかと言い淀んでいると、メイは更に俺に追い打ちをかける。


 俺は悟った。これ以上黙っていても何もいい事はない。寧ろどんどん状況が悪化している。

 ここは下手に言葉を繕うより正直に自分の考えを述べた方が良いだろう。


「今はメイよりも彼女たちの方が心配だから」


 俺はこう言う他無かった。もっといい返答があったかもしれないが、少なくとも俺には思いつかない。


「ふーん………でもあなたがもうその事を心配する必要はないわ」



 不機嫌になるかと思われたが、メイは理由が分かってややすっきりした様子だった。

 でも彼女の口から出たその言葉は無視することはできない。


「心配する必要ないって……それはどういう意味?」


 何か嫌な予感しかしない。何かの勘違いか杞憂であってくれと願うも、俺のその願いは打ち砕かれた。



「――だってもう二人とも屋敷の外に出て行っちゃったから」


 メイは特に感情を込めずに俺にそう告げた。


 俺はその言葉を聞いて、また絶望しかける。

 もう自分の予想外の事でもそこまで驚かなくなってしまった自分がいる。

 それでも全く憤りが無いというわけではない。


 人生とはいつもそうだが、なんでいつもこんなに俺の思うとおりに行かないのだ。

 泣き言は言いたくないがそれでも言いそうになってしまう。

 しかし、まだ絶望するのは些か早計だ。




 ――とにかく、俺は脱出計画を練り直す必要があったが、その前にメイを問い詰めなければならない。


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