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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
62/88

59,決意

 


 ――自分の体のはずなのに、俺自身でも何が起こったのか理解できなかった。



 寒気で体中の毛が逆立ったような…腕を見るとそこには一面鳥肌になっている。

 自分が自分ではなくなるような感覚に襲われる。

 全身から汗が噴き出て、鼓動が早くなる。呼吸も荒くなり、めまいすらしてきた。



「――何をした…!?答えて!!」


 整わない呼吸を無理やり合わせて、噎せ返りながらも掠れ掠れにそう言う。

 終いには、呼吸が苦しくなり、吐き気を催すほどの嫌悪感が残る。今までこんな状態には陥ったことは無い。


 ――なぜいきなり、こんなことになったのか。


 それはそう、十中八九、目の前のメイが何かしたに決まっている。

 このタイミングで起こったのだ。それ以外に理由が考えられないじゃないか!

 彼女を睨め付けながら俺は問いただした。



「――あたしが今何かした?手を掴んで、あなたに質問しただけよ?」


 メイは不思議がるように首を傾げるだけで、俺の問いには答えない。


 俺はメイとの問答を得て確信した。絶対に俺がこうなった理由はこいつ以外に無い。

 俺の尋常ならざる様子を見ても、心配すらしないのがその根拠だ。

 俺は動悸にまみれながらも怒りに浸り、目の前の彼女に感情をぶつける。



「それは嘘だ!絶対何か俺にしたんだ。じゃなかったら――」


「――嘘をついたのはあなたの方じゃない?」



 俺がそう言うと、メイは何の前触れもなく突然感情を無くした表情になり、見放すように鋭い目で俺を見つめながらメイはそう言い放った。


 はじめ俺は、彼女が何を言っているのか分からなかった。



「何言ってるの?俺は嘘なんてついて――」


「隠し事は無い、って言ったよね?それは心の底から、真実だって自信を持って言える?」



 そこから俺はしばらくの間、黙ることしかできなかった。

 なぜなら彼女のその言葉は、俺の図星の中心を射抜かれていたから。

 でも、それが俺のこの体の異常と一体何の関係があるというのだろう。



 しばらくの沈黙が流れる。俺たちはその間一切動かず、ただ見つめ合っている。




 ――やがてしばらくの静寂の後、俺から口を開いた。

 動悸ももう落ち着いてきている。


「たとえそれが真実じゃなかったとしても、メイには何も関係ないよね?」


 これは、ある程度うまい切り返しだと思った。彼女もこれ以上は言及できまい。



「そうね、あたしには全く、何も、関係ないわよね、でもいいの。これはただの“実験”だから」


 彼女は不自然な言葉の切り方をしながらただそう言い、俺の右手を開放した。

 俺は話された右手首をくまなく見回す。強く握られはしたが、何かされた形跡は残っていない。


 危うく話をそらされそうになったが、俺は再びメイに問い詰める。


「正直に言って!何か俺にしたんでしょ!?」


「何でそう思ったの?そうだとしてもあたしが何かしたって証拠でもあるの?」


 彼女は露骨に白けた様子で、目をそらしながらそう言い放つ。


 段々動機も落ち着きを取り戻して、冷静な判断が下せるようになってくる。


 確かに何か証拠があるわけではない。探したところで何も出てこないだろう。

 ただ、お前の態度が状況証拠に十二分になりうると言ってやりたかった。


 感情任せに掴みかかってやりたい気持ちもあったが、さすがにそれは野蛮というものだ。

 かといって、このまま理性的に問い詰めても、メイは適当に言い訳をして言い逃れされるのがオチだ。



 彼女の明け透けすぎる不誠実な態度に俺は嫌気がさした。



「――何もないわよね?」


 メイは俺に微笑みかけるように俺にそう言って来た。

 黙ったままでいる俺をあざ笑うかのように感じたのは俺のきのせいだろうか。


 一矢くらい報いてやりたかったが、今の俺には何か力があるわけでもなく、策があるわけでもなく。

 一方的にこちらに何かされているというのに、こちらからは弁論ですら反撃できない。




 俺が憎悪すら感じている最中、彼女は徐に両手をこちらに伸ばしてきた。



 ――いきなり俺の体を引き寄せられて、そのまま俺は抱きしめられた。


 態度をまたさせて、耳元で囁かれた――


「きっと何か怖い思いでもしたのね。でも大丈夫、あなたが嘘をつかない限り、絶対に私があらゆる恐怖から守ってあげるから。あなただけを――」



 俺はメイの抱擁の中で思考を巡らせる。


 ――もうメイの言動をいちいち真に受けるのは面倒になって来た。


 今まで、余裕すら持った態度だったのにも拘わらず、なんだこの猫なで声は、

 何が守ってあげる、だよ。白々しいにも程がある。

 だったらミーニャやフィアルは守ってくれないのか?


 いや疑問形ではなくそうなんだろう。実際メイは彼女らを殺しかけている。

 そうまでして、俺を手中に置くことに何の意味があると言うんだ。

 自身の私的な目的のために殺人すら平気で犯す輩――


 もう、だとしたら、こんな奴との約束なんてまともに守っている方が馬鹿らしくなってくる。

 フィアルたちを救ってもらった恩はあるが、だとしてもあのまま殺されたら、相殺しても恨みの方が強く残るだろう。


 約束を交わしたという事に後悔はしていない。それはフィアルたちを助けるために必要な事だったから。

 でもそれをこんな奴のために約束を遂行するのは、あまり気が進まないというものだ。


 そもそも俺はメイをある程度は信用できる人間だと思って、条件を呑んだ。

 それなのにこんな常識を逸脱した狂人紛いな相手と約束なんか律儀に守っていたら、自身の身も危ぶまれるというものだ。

 俺は、こんな奴のために、こんな場所に囚われておく理由はない。



 約束を反故にすることに前世から持ち合わせている良心が叱咤する。

 でもこれは、もうそんなことを言っていられる範疇ではない。彼女だって状況的に何もしないという約束を破ったのだ。



 ――出よう、この屋敷を――フィアルとミーニャと共に……




 ――俺はメイの抱擁の中で彼女との約束を破ることを決意した。


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