表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
61/88

58,変わった食事

 


 ――俺はテーブルの上に食事を匙と突き匙を使って食べた。



 うん、普通においしい。

 簡易的な調理だが、いい意味で野性味があるようなそんな触感と味。

 どちらかと言えば、凝っている料理よりこっちの方が俺は好みともいえるだろう。


 屋敷の外で食べるミーニャが出してきた食事は、まあなんというか野性味があり過ぎる。

 肉を細かく切ってくれるまではいいのだが、それをただ焼いただけであまり調味というものをしない。

 素材そのものの味の良さを引き出しているとも言えなくはないだろうが、それはそれで味に飽きる。


 その点この料理はサラダにはドレッシングのようなものがかけられているし、その他の料理にもしっかり味が付けられている。



「――どう…?おいしい?変な味とかしない?」


 目の前にいるメイが唐突に不安そうな顔でそう聞いてきた。

 いつもと違う料理だから気を使っているのだろうか。

 これは特に勘ぐりするような言葉ではないので、俺は素直に思ったことを口にした。


「味は特に……、普通においしい」


「そう、なら良かったわ」


 俺があまり感情をこめずにそう言うとメイはやや顔をほころばせ再び食事に戻るのであった。

 そのあまりに普通過ぎる会話で、俺は逆に何かあるのではと邪推してしまう。


 それにしてもメイが食事中に喋るとは少々意外だった。

 前回一緒に食事をしたときは、会話というものが無さ過ぎて居心地が悪かった覚えがある。



 ひと時の会話はあった。しかしその後は、全く会話のために口を開かず時間が過ぎていった。

 やはりこの時間は気まずい。唯一の救いはいつもより量が少なかったことと、手軽に食べられる物ばかりだったから長い時間ではなかったことだ。


 ミーニャたちといた時は食事中によく会話をした。しかも大体ミーニャから話を振ってきてくれる。

 食事が俺一人の時は、そもそも会話する必要なんてない。


 会話をした方が良いのだろうか…



 ――そうこうしているうちに、その後は結局一言も話すことが無かった。



 二人とも皿の上の料理を全て平らげたら、メイが再び立ち上がって皿をワゴンに移していく。

 その間に、食事中にどうするのが正解だったか俺が頭の片隅で悩んでいた。

 するとメイが椅子に座った状態の俺の横で、ややかしこまって俺に話しかけてきた。



「――何も言わずにあたしの手を握って」


 そう言うと、彼女は俺の目の前に右手を差し出してきた。


 今まで言動がいまいち掴めないメイだったが、これはいよいよ理解が全く及ばない。

 なぜこのタイミングで手を握らなければならないのだ。そもそもわざわざ手を握らせる意味とは。

 まさか、食後に軽い手品でも見せて、場を和ませようとしている訳もあるまい。


「何で?理由は?」


 頭が混乱しかけた俺はただその二言だけを発した。


「ちょっとした実験よ、特に何もしないから、いいから握って!」


 ますます意味が分からない。手を握る実験なんて聞いたことが無い。

 いや、中学の教科書で見たな、人体の反応速度を診る実験だったな。

 でも、それをこんなところでやるはずもないだろう。


「よく分からないけど、怖いから嫌――」


 握るだけとはいえ、あまりに唐突過ぎて何かあるのではと疑ってしまう。



「絶対何もしない!もししたら屋敷から出て行っても構わないから!」


 彼女は語気を強めて、俺に迫るように言って来た。

 その言葉は勢い任せだが、それゆえに妙な説得力があった。

 もし、何かしたら外に出られるというのも、条件としては悪くない気がする。

 でも、だからと言って実験と言われ本当に何もないとすぐ信じられるわけではない。



「でもやっぱり怖いからちょっと……」


「もういい!」


 そう言うと彼女は諦めてくれるのかと思いきや、彼女の左手で俺の右手を掴むとそのまま彼女の右手が俺の右手を掴んできた。

 一瞬の隙を突かれ、まんまと彼女の望み通りになってしまった。



「――ほら!なんもないでしょう!」


 俺が嫌がっているというのに彼女は悪びれもせず、得意げな顔で俺に言ってくる。

 いや、もしかしたらこの後に何かしてくるのかもしれない。

 掴まれた右手を瞬時に身構えるも特に痛みがはしるわけでもない。


 俺は黙ってメイが何をしようとしているのか見ていた。

 しかし、彼女は動作をするのではなく、口を動かした。



「――ひとつ、一つだけ質問させて、――私に何か隠し事は無い?」


 メイは目を見開き、俺の目をじっと見つめてそう言った。

 その目は深々と奥に吸い込まれそうな、惹きつけられそうな何かがあった。


 決してあの時のフィアルのように輝いている目ではない。

 かといって淀み切っているものでもないが、まるで何か心の奥底を除かれているかのような。

 また、こちら側から深淵を覗くかのような形容しがたい悍ましさがあった。



 その質問はあまりに抽象的で、何に対して向けられたものなのか分からなかった。

 そりゃまあ、隠し事と言えばそれはもうかなりある。主に前世の記憶の事やミーニャやフィアルの件もある。


 でもそれらは、メイに話していないだけで隠し事とまでは言えないと思う。

 でも話さなくていい、というのならできれば口を閉ざしたい。



「隠している事は無い。何も――」




 ――そう言った瞬間――俺の体に異変が生じた。やはり彼女の望み通りになってはならなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ