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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
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57,その後

 


 ――俺は今、あの懐かさが残る食堂でメイと向かい合って座っていた。




 遅れて来たことに何か小言を言われるかと身構えたが、特にそんな様子も無く。

 案の定、先に座っていたメイは何も言わずに視線だけをこちらに送ってきた。

 小さい机とその周りにある六つの椅子、この場所であまり記憶に残したくない出来事もあった。


 あの時は正しい座る場所が分からなくて、メイに怒られた。半分トラウマにもなりかけた。

 その直後は恐怖でしかなかったが、まあそれがきっかけで過去を思い出せた。だから、それはきっと良かったことなんだ。


 たとえ失敗があったとしても、それが結果的に自分にとってプラスになると思い込めば、それはトラウマではなくなるというものだ。



 俺に印象深く刻み込まれた記憶だ。さすがに過去と同じ轍は踏まない。

 だから俺はあの時メイに促された彼女のすぐ横の椅子に迷わず座ろうとした。


 だがメイは椅子に座って正面を向いたまま俺に言って来た。



「あたしの横にじゃなくて、正面に来るように座ってくれない?」


 先程も聞いたのだがメイその声は明らかに、再会した時の元気のある声ではなくなっていた。

 俺はその俺の意味をくみ取りかねて、彼女に質問した。


「――どうして?前にはここに座れって言われた気がするけど」


「…それは――」


 メイのその発言には一瞬の躊躇いがあった。しかし、特に深く考えるそぶりもせずに続けた。


「――横に座られるとあなたの顔がよく見えないから……」



 俺は、彼女のその意図を察っすることができない。顔が見えないから何だと言うのだ。


 正直言って今のメイの俺からの印象は良くも無く悪くも無く、いやどちらかと言えば悪いと言わざるを得ない。


 それも当たり前、フィアルたちを死から救ってくれた事には、感謝してもしきれない。

 しかしそれでも再会した時の無駄に元気な様子と言い、先程の病人を突き放すような物言いと言い、それらはあまり好印象にはなりえない。


 感謝はしているが、だからと言って印象が良いとか信用できる人とは限らない。



 ここまで言っといてなんだが一応俺は、いや俺たちは今この屋敷で滞在させてもらっている身だ。

 そのお願いも意図は不明だが、望まれているなら特に断る理由も無く俺はおとなしくそれに従った。


 机をぐるりと半周した俺は、メイの指示に従って向かいの席に座る。


 席に座ると正面に居るメイの顔が良く見えた。

 彼女は浮かない顔をしている。先程の言い合いが影響しているのか、どうにも心が沈んでいる気がする。

 少しばかり言い過ぎた気もするが、しかし躊躇していい相手でもない。


 この屋敷に滞在させられるのだから、彼女とは仲良くした方が良いという考えもあるだろう。

 しかし、だからと言ってフィアルたちの処遇についてのメイの対応は、こちらも納得できなかった。




 ……そしてここまできて冒頭の一文に至る。


 そしていつもならここでメイドたちが料理をすぐ持ってくるはずなのだが……

 …毎回思うのだが、先にテーブルに料理が用意されてあっても良いと思うのは俺だけか。

 いやでもそこはきっと、俺なんかが推し量れない貴族のしきたりがあるのだろう。



 そんなことを考えながら待っていたのだが、しかし待てども待てども料理どころかメイドすら来ない。



「――ちょっと待ってて」


 俺が不思議がっていると突然、メイがそう言い立ち上がって本来メイドたちが出てくるはずの扉に足早に入っていった。

 あまりに唐突過ぎて、俺はその一連の様子を唖然として見送るだけだった。


 しばらくすると、メイが奥の扉からワゴンを伴ってやってきた。ワゴンには、料理の皿が数枚乗っていた

 いつもメイドが持ってくるワゴンは、数えるのが面倒になるほど料理の皿が乗っているが、今回のそれは違った。



 メイはそれを食事机の隣に付けると、俺の席の前と彼女が座っていた席の前にそれぞれ点対称に置いた。


 これはいったいどういう事だろう。普段ならメイドがやるべき仕事をなぜメイが一人でこなしているのだろう。

 これがもし、普通の家庭ならこの光景は間違っていない。でも彼女は貴族なんだろう?

 実際初日にはメイドに運ばせていたじゃないか。それなのになぜ。


 思えば、屋敷の廊下を歩いていた時もメイドはほとんど見なかった。

 完全に居なかったわけではないが、それでも以前よりは全然見なかった。


 初めてて会った時、人手不足とか言っていたっけ。しかし、人員の補充をするとも言っていたのに、これではむしろ逆ではないか。



 いままでと違う点はもう一つある。出されている料理の内容だ。

 今まで出されたものの中で主だったのはしっかり調理されているどこか欧風な家庭料理だった。

 でも、今俺の目の前にあるのはなんというか、よく言えばお店の屋台で出されるようなものだ。


 小麦粉で焼いた生地に野菜や肉を包んだもののほかに、サラダやパンが丸ごと盛られている皿もあった。


 いや別に見た目が悪いとかそう言う訳ではないが、今までに無かった物だ。

 これも人手不足に準拠したものだろうか。



 配膳を終えるとメイは元居た自分の席に戻った。

 まあ、ともあれ食べられないものではないだろう。




 ――俺は、やっと夕食を食べ始めるのであった。


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