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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
57/88

54,交渉

 


 ――眠っていた俺はふと目を開けると――目の前にはメイが腕を組んで真っ直ぐ立っていた。




 メイのその表情から察するにご機嫌斜めという具合だろうか。

 彼女は俺に対して不貞腐れた様子で言った。


「――なんであたしのもとじゃなくて、そいつらの傍に居るのよ――」


 メイのそれは、怒ってはいるが本当に表面上のものだけだった。

 ミーニャやフィアルが怒っている時は大体、その裏に黒い見えない感情が渦巻いているが、メイのそれは本当に目に映ったままの感情だった。


 そして、今のメイの性格は親しみやすいというか、ほっこりする。

 前に会った時は、人との間に壁を作りやすい物だったが……

 何が彼女の態度を軟化させたのだろうか。

 口調も若干だが変わっている。


 それにしても目彼女のその疑問は、如何なものか。

 俺は率直な意見を述べた。



「――だって、二人が心配だったから…」


 すると、予想はしていたがメイの機嫌はどんどん悪くなっていく。彼女の顔がそれを示していた。


「それは、あなたが気にすることじゃないわ!それに私の治療の腕が信用できないって言うの!?」


 理不尽な物言いに、俺もついカッとなってしまう。


「別にそんなこと言ってないし、心配くらいしてもいいでしょ!」


 メイの治療の腕がどんなものなのかは知らない。でも毒を作り出したり、それに対する薬を作り出していたりと、少なくとも素人でもなさそうだ。

 そういえば、他にも薬を作り出していたとか言っていたっけ。


「ならいいけど………もう、こいつらは命に別状はないわよ。だいぶギリギリだったけどね」


 俺が強く言い返すと、メイは急にしおらしくなってしまった。

 その言葉を聞けてやっと安心できた。だがメイは予期せぬこと事を言い出した。


「回復したら最低限の物資を与えてとっとと屋敷から追い出すから」


 メイは、何の感情も持たずにそう言った。

 その冷淡な言葉を聞いて俺は、複雑な気持ちになった。

 俺が決めたことではあるが、それはミーニャたちと実質的な今生の別れを意味している。



「…それは、あんまりじゃない?」


 思わず、口からこぼれてしまった。

 自分であの約束をしたにも拘らず、これはわがままだと思った。

 メイは俺の言葉に疑問を呈した。


「なんで?もしかしてこいつらを殺しかけたのに何の詫びもないことかしら?でもそれはほっといても良かったのにわざわざ命を助けてあげたんだから、補償としては十分すぎるでしょ?」


 そういう事ではない。確かにそれもあったが、彼女の弁がこの世界では正しいのだろう。でもそういう事ではない。


「いや、そうじゃなくて――」


「そういえば、そのあなたが着ている見慣れない服もそうだし……屋敷の外に居た時にお世話になったとか?だったら、その分の与える物資の中に金銭を多めに入れとけばいいでしょ?――」



 饒舌をふるわれ、俺の言葉は一切通らず、だから俺はメイの言葉を遮るように、意を決して彼女に嘆願した。


「彼女らともう会えないのは寂しいから、追い出すのはちょっとやめてほしいかなーなんて……」



「は?」


 メイは目を見開いて、そう言った。

 その返答に、俺は嫌な予感がした。何故かはわからない。でもまるで虎の尾を踏んでしまったかのような


 そして、案の定メイは癇癪を起こしたように声を荒げた。


「そんなの認められるわけないじゃない!少しでもあなたに危険があるなら、あたしはそれを許さない!」


 そのメイのその必死そうな顔は初めて見たかもしれない。

 あまりにも真剣な表情に俺は痛切に感じずにはいられないが、それでも俺は言葉を探す。



「それがミーニャたち追い出すのにどう関係するんだよ?」


「こいつらがあなたに危険にさらすかもしれないじゃない」


 彼女は興奮した様子から一転、急に落ち着いた様子だ。



「彼女らがそんな事を故意にするわけない!」


 俺は何とか自分の意見を述べるが――


「それはあなたがそう思っているだけかもしれない。それに少なくともあたしはこいつらを信用できない。だからすぐに追い出す」


 メイには聞き入れてもらえない。それでも俺は諦めない。



「――だったら二人が起きたら、そのまま少し様子を見てあげて!そうすればそんな人じゃないってすぐに分かるから」


 メイは一呼吸おいてから俺に答える。


「いいトピア、この人間社会では短期間で信用を得るなんて絶対不可能なの、それこそ長期間かけたとしても絶対的な信用というものを築くのはとても難しいわ。もしあなたが他人に良くされたとしても、それには必ず別の思惑があるわ」



「でも――!」


 俺はこれ以上何も言えなかった。これ以上話がこじれそうなことを言いたくないという事もあったが…



 何で俺はこんなにムキになっているのだろう。

 メイに自分の意見が通らないからだろうか。それとも――


 そして、俺は負け惜しみのように言った。しかし、それすら彼女の心を動かすことは叶わない。



「――だとしたらメイは俺目線では信用できる人間じゃない」


「そう、例えそうだとしても、それは今この場では関係無いわね」



「っ………」


「これ以上はいいわよね?」


 メイは一息つくと続けた。



「あたしがあなたをここに居させる理由はね、あたしの傍にずっといてほしいからなの。勝手にどこかに行ったりせずに、あたしの手の届くところに居るだけでいいの!それがあたしの望み」



 メイの行動の意図はなんとなく分かりはしたが、それでも俺は全て納得できたわけじゃない。




「――もう夕餉の時間だから、先に食堂で待ってるわ。流石にもう一人で来れるでしょ?」



 メイはそう言うと、一人で部屋から出て行った。


 そして、その声はどこか震えている気がした。

 どうせなら、一緒に行けばいいと思ったのだが……


 …病人の前で、あんな大きな声で言い争うなんかするべきじゃなかったなと、少し後悔していた。




 ――俺もしばらく時間が経ってから部屋を後にしたのだった。


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