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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
55/88

52,不可解な事

 


 ――あの出来事の翌日、俺は屋敷の初めて目覚めたベットで目覚めた。

 あの鬱蒼と生い茂る森に囲まれたあまり良くない思い出のある屋敷。

 目覚めたと言ってもほとんど眠れたわけではなかったが……



 この薄青の部屋の装飾に馴染んでいない寝具も今は懐かしく感じた。


 そうあの場所から、メイたちが乗ってきた馬車に同行する形で俺たちは帰ってきた。いや帰ってきてしまった、の方が正しいのだろうか。


 あの俺たちが潜伏していた場所が、町から屋敷方面に寄っていたのが何より幸運だった。

 でも流石に馬車でどんなに急いだとしても、屋敷に戻るまでは丸一夜かかった。

 そこまで時間をかけると、さすがに患者の生命が危うくなっていく。だからこれはかなりの懸けだった。


 近くの町の医者へ連れていけないのかとメイに聞いたが、これが最善よ、とだけ言われ突っぱねられた。



 そういえば、最近は熱を出したり気絶したりで記憶はあいまいなのだが、不思議なことに馬車内では夜に眠たくなるような現象が起きなかった。

 別に寒気を感じるようなことも無い。


 それともう一つ不可解なのは馬車で帰路に就いた時、窓のから見える景色は真っ暗だった。だというのにどうして、馬車を全速力で動かせたのだろう。

 ミーニャと屋敷から脱出して町に向かっていたときも、急いでは居たのだがそれでも夜は星明りすら無く、暗すぎて移動を諦めたほどだ。


 何か目印があるのか、暗くても道がある程度わかっていたとか、それとも手綱を持つ人の技術が卓越したものだったのか……



 ――それともまだこの世界には、俺の知らない特異的な力があるのかもしれない。


 でも俺はそれらをもう探る資格ももう持ってない。


 メイとは、俺が屋敷に留まることを条件に、できる限りの治療を約束させた。

 然らば俺も約束は守らねばなるまい。


 彼女も鬼ではあるまい。お願いすれば少しくらい屋敷の外にも出してくれるはずだ。




 ――でそのメイなのだが……


 目覚めた時、俺の片方の手をメイに握られていた。

 彼女はベットの横に椅子を構え、その上に座って寝ていた。


 黙っていればメイは傾国の美女と言っても過言ではない。前には西洋絵画に出てきそうなどと例えたが、それは今でも変わっていない。


 でもそれは黙っていればという条件が付き纏う。

 なぜなら今の彼女は喋ると、随分と子供っぽい雰囲気を感じ取ってしまうからだ。



 馬車の中でメイにいくつかの質問をした。

 なぜ自分の居場所が分かったのか。あの黒ずくめの連中は何なのか。

 この二つに関しては何も答えてくれなかった。俺には知る必要無いことだとでも、思われているのだろうか。


 彼女はあの屋敷で、初めて会った時のことは覚えていた。だからおそらくメイ本人なのだろう。

 でも、だとしたら理解の及ばない部分がある。


 それは、ミーニャとフィアルの事を全く覚えていない点だ。

 ミーニャとメイはほとんど付き合いが無いからまだ理解はできるが、フィアルに関しては話が違う。

 メイとフィアルは、確か最低でも二年くらいは俺と共に一緒に居たとフィアルから聞いた。


 それを覚えていないとは、一体全体どういうことなのだろうか?

 うーん、考えれば考えるほど真実からは遠のいていく気がする。



 もしかしたらだが、俺の記憶喪失と関係あるのかもしれない。

 フィアルはメイが何か俺にしたのだと喚いていたが、メイは俺自身が記憶を消したと言った。


 この世界では、なにかしらの方法で自分の記憶を自由に消せるのかもしれない。

 でも、俺は過去の記憶が全くないのに対して、メイの記憶は部分的にだが残っている。

 そこら辺も自由に調整できるのかもしれないから、とりあえず置いておくとして…


 気になるのはどうやってではなく、なぜメイが記憶を消したかだ。目の前にいるのだから直接聞けばよかったのだろう。

 勿論馬車の中で聞いたのだが、肝心な当の本人は何も覚えていなかった。

 聞いたところで、何を言っているのか分からない、という顔をされた。



 疑問点はまだまだある。呪い子という単語だったり、ミーニャやフィアルの種族の事などだったり…

 あとそういや俺を追い出したオッサンも何だったのか……

 でも今はこれ以上の情報が無いから、考察しようがなかった。




 メイがここで呑気に寝ているという事は、毒に対する処置はできる限りしてくれたのだろう。


 それでも、時間がかなり立っているのだから生きているのかは分からないのだが……


 ――いやきっと大丈夫だろう。俺も最善を尽くした。少しくらい楽観してもいいだろう。




 ――俺は、その患者がいる部屋に行くため、掴まれているメイの手を払い除けて寝室を後にしたのだった。


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